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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

360.お爺ちゃんと聖魔大戦5

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「領域展開──〝ルルイエ〟」


 神格召喚をするよりも前に、ここを神殿にする為の儀式を行う。ハーフマリナーの増加によって増えた侵蝕領域で、可能になった。
 村全体に海の気配が強くなる。
 一見して変化は見えないが、領域に行き来するときに肌にまとわりつくような感覚がある。


「おじさん、これは?」


 やはり一番早く変化に気がついたのはウィルバー君だ。
 私は振り返り、にこりと微笑んだ。


「この村を聖域化させたのさ。以前と比べて海の気配が強くなったろう?」

「よくわからない。けど、息が詰まるような感じはなくなった」

「うんうん。そうだろうねぇ。私の眷属は特にそう思う筈だ。ルリーエ、彼らにも海霧纏は扱えるのかな?」

『可能です。プレイヤー限りの能力ではありませんので』

「うむ、結構」

「一体何のお話をしていたんです?」


 私のそばで佇むルリーエは、私以外とは一切会話をしたがらない。念話のみが私に聞こえてくる形だ。
 私が頷くことにより、何か会話がなされていたことを読み取ったウィルバー君。
 

「これから君たちの生活がより良くなる為のお話だよ。例えばそうだね、この領域内では全ての眷属が空を飛べるようになるんだ」

「え、本当!? でも僕は……」

「敬う神様が違っていようと、試さずに諦めるのは早いと思うよ? 君のお父さんはもっと凄いんだ。私の敬う神様にだって負けない。そうだろう?」

「それは、うん! やってみる!」


 彼の中ではまだヨグ=ソトースの影響が強いのだろう。
 懸命に自分の中の可能性を探しているようだ。
 5日前、一緒に空を飛んで雲を掴んだ感覚を思い出したのだろう、その時の感覚のまま、空を掴んで泳ぐように空へと身を滑らせる。


「わぁ! 出来た! 僕にもできる! 凄い!」

『はしゃいじゃって、可愛いものですね』

『本当にね。でもこれって肉体はハーフマリナーになってるってことだよね?』

『それは勿論。ですが……精神性までは覆せませんでしたね』

『落し子という特異性が彼をとどめているのだろうか?』

『どちらにせよ、恩を売ることには成功したようで良かったんじゃないですか?』

『そうだね。弟君の方は?』

『あちらは完全に我らの眷属ですね』

『ふむ。眷属同士での共食いは?』

『させたくないのであればそのようにご命令ください』

『スズキさんに任せようか』

『|ー〻ー)僕にお願い事ですか?』

『そうだね。頼める?』

『|◉〻◉)任された!』


 突然出てきては、居なくなったスズキさんは弟君の飼い主の如く頑張ってくれるようだ。
 取り急ぎ神殿としての様相は保てたかな?
 が、同時に脳内にアナウンスが流れる。




<ワールドアナウンス:魔導書プレイヤーが初めて拠点を獲得しました>

<初めて拠点を獲得したことにより、陣営掲示板が両陣営の聖魔大戦専用システムに設置されました>

<初めて拠点を取得したプレイヤーには割り振りポイントが10ポイント贈呈されます>

<引き続き聖魔大戦をお楽しみください>



 おやおや、タイミングが良すぎるね。
 もしかしなくても、私が原因かな、これ?
 ウィルバー君は空を飛ぶのに夢中みたいだし、私は早速陣営掲示板を覗いてみる。





【( ͡° ͜ʖ ͡°)早速】魔導書連絡板#001【やらかしか?】
0001.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)早速建てたぜ
 忌憚ない意見を出してくれ
 ぶっちゃけお前ら何処飛んだ?
 俺はレン高原だ
 やってらんねーぜ


0002.ただの【ネクロノミコン】所持者
 くまー
 ここが何処だかよくわかってないくま
 もう拠点を獲得したプレイヤーはすごいくまね
 誰くま?


0003.ただの【セラエノ断章】所持者
 やはりアキカゼ氏の可能性が一番高いようだ
 あの御仁ならやりかねないとは思っていた
 しかし拠点とは、どのようなものを指す?


0004.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)それがわかれば苦労しねーぜ
 おたくは何処に飛ばされた?
 つってここが何処と近いかはさっぱりわからないんだが


0005.ただの【セラエノ断章】所持者
 うむ
 シャンと呼ばれる蟲型生物が住まう星というのは確認できている
 うちのドーターが交渉をしてようやくこちらの言い分が通った。二、三仕事をして次の場所に送り届けてもらう手筈になっている
 だというのにこの騒ぎだろう?


0006.ただの【無銘祭祀書】所持者
 あれ、お義父さんはまだきてないみたいですね
 拠点の場所を聞こうと思ってたのに


0007.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)どうせ忙しいんだろ
 なんせ五日しか経ってないんだぜ?


0008.ただの【ルルイエ異本】所持者
 なんだか既に皆さんお揃いのようで


0009.ただの【ネクロノミコン】所持者
 くまー、ご本人登場くま!


0010.ただの【ルルイエ異本】所持者
 ご本人というか、やっぱり拠点作ったのって私だったんですか?


0011.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)この自覚の無さ……
 まず間違いなく爺さんだと思うぜ?
 俺はまだムーンビーストとバチバチにやり合ってるからな


0012.ただの【無銘祭祀書】所持者
 ムーンビーストとかすごいね
 僕のところはまだなんの生物も見てないよ
 くま君も同じ感じかな?


0013.ただの【ネクロノミコン】所持者
 くまー あたり一面樹海くま
 薄気味悪い以外は特に変化ないまま迷子くまね


0014.ただの【セラエノ断章】所持者
 私もシャンと取引を結んだところだ
 アキカゼ氏は?


0015.ただの【ルルイエ異本】所持者
 私?
 ダン・ウィッチ村に滞在しながら地道にハーフマリナーの薬を売り歩いてようやく村一つを領域展開したところさ


0016.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)あん?
 待て待て待て
 ダン・ウィッチ村?
 ヨグ=ソトースの落し子がいる場所じゃねーか!


0017.ただの【ルルイエ異本】の幻影
 |◉〻◉)ちなみにその落し子、眷属化しちゃってるんだぜー☆


0018.ただの【無銘祭祀書】所持者
 相変わらずこちらの斜め上を駆け上がっていきますね
 あ、ルリーエさんお久しぶり
 それともスズキさんの方かな?


0019.ただの【ルルイエ異本】の幻影
 |◉〻◉)僕はスズキの方だねー
 ヤディスちゃんは元気ー?


0020.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)ここの幻影は色んなところに出張ってくるから普通にプレイヤーだと思っちまうが、やっぱ世界をとると変わってくるのか?


0021.ただの【ルルイエ異本】所持者
 さぁ?
 この人出会った時からこうだったしやる気の問題じゃない?


0022.ただの【無銘祭祀書】所持者
 ヤディスは元気だよ
 ルリーエさんによろしく言っといてだって


0023.ただの【ルルイエ異本】の幻影
 |◉〻<)オッケー! お姉ちゃんに伝えとく!


0024.ただの【セラエノ断章】所持者
 よもや始まりの地を丸ごと支配下に置くとは……
 私もまだまだ認識が甘いな
 シャンにも目を向けるべきか?


0025.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)俺は無理だな、あいつらに顔覚えられちまったし
 正攻法がねぇ


0026.ただの【無銘祭祀書】所持者
 シャンもムーンビーストもナイアルラトテップの奉仕種族だものね
 君達かの大将に無意識に喧嘩売ってたんじゃない?


0027.ただの【ネクロノミコン】所持者
 くまー、アールがナイアルラトテップの名前を聞いて機嫌を損ねたくま
 ちょっとあやしてくるくまね


0028.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)なんか知らねーがあの大将のヘイトを誰かが奪ったのは間違いねーな
 

0029.ただの【ルルイエ異本】所持者
 本当に参っちゃうよね
 でもみんなも結構手痛い目に遭ってると分かってホッとしたよ
 私だけやたら殺意高くて本当にドキドキしたんだよ?
 普通に考えて身元不詳の旅人とか生贄ルートじゃない?


0030.ただの【無銘祭祀書】所持者
 ほんと、よく無事でしたね
 あの人間嫌いなウェイトリー老を丸め込めたものです


0031.ただの【ルルイエ異本】所持者
 そこはお母さんのラヴィニアさんに接触して不安解消にハーフマリナーのお薬を渡して親子間の齟齬をなくしたのが大きいかな?
 ほら、私の眷属になれば、触手生命体は可愛く見えるし
 息子が気持ち悪く見えたのも気のせいってことで仲良し家族の出来上がりさ


0032.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)ひどいゴリ押しを見た
 手札持ってるやつはそこがつえーな
 やはり大会前にどれだけ領土広げたかで差が出るか


0033.ただの【セラエノ断章】所持者
 そればかりはアキカゼ氏の人脈の広さを羨ましく思うな
 ウチのセラエは人見知りが激しくていかん


0034.ただの【無銘祭祀書】所持者
 ウチのヤディスもそうでしたけど、ルリーエさんに声をかけてもらってから開花しましたよ
 領土拡大まではいきませんでしたが、お陰で信仰は稼がせていただきました


0035.ただの【ルルイエ異本】所持者
 取り敢えずここで情報出し合いながら合流の方向でいいかな?
 私は取り敢えず拠点を中心に領域を広げていくから、なんか潮の匂いがしたら案外近いかもね


0036.ただの【エイボンの書】所持者
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)そりゃわかりやすくていいな
 

0037.ただの【ネクロノミコン】所持者
 くまー お魚沢山いるくま?


0038.ただの【セラエノ断章】所持者
 うむ、シャンとの取引次第それを頼りにさせてもらおう
 地図などが入手できれば良いのだがな


0039.ただの【無銘祭祀書】所持者
 了解です
 それでは僕達もお義父さんに負けっぱなしにならないように頑張りましょうか



 システムを閉じて一心地つく。
 うむ、何かを成し遂げていくごとに何かが開放されていくようだ。今回は私が一番早かっただけだが、他の魔導書所持者も曲者揃い。そのうち何かしらやらかしてくれるだろう。


 私が掲示板に夢中になってるうちに、ウェイバー君はすっかり空を堪能したようでこちらに降りてくるところだった。
 後で弟を連れてもう一度空を飛ぶんだと言っていた。

 空を飛べるのは領域以内だから気をつけてねと言ったが、あれは聞いてないな?
 彼らが年齢通りに遊べるように私は拠点を拡大して行かなくてはな。

 しかしアーカムには高確率で聖典プレイヤーが居るだろう。
 なんせ彼らは人類の守護者だ。
 人の営みが壊れることを嫌うから、こっちにくる可能性が一番高いんだよね。

 私がアーカムシティに情報が流れるのを恐れてる理由はそこにある。

 割り振れるポイント次第では劣勢を強いられるシステムの出番はまだきてないとはいえ、危険はなるべく犯したくないと言うのが私の行動理念である。

 さて、行動を察知される前に、どこまで領域を拡大させることができるか……もはやチキンレースだな。
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