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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

353.お爺ちゃんvs精巧超人①

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 くま君達と別れ、古代獣九尾の領域へと赴くと、そこは戦闘中だった。
 LPゲージはギリギリで、第九段階まで追い込まれている。

 ログを見るに戦闘開始からわずか30分でこの有様だ。
 まず間違いなく相手は精巧超人だろう。

 6ch連合であればもっと時間をかける筈だ。あのクランは基本的にダメージソースが少ないので決め手にかけるのだ。
 その結果が油断したところへ袋叩きという非常に絵面が悪いことになる。配信には向かない野蛮さである。

 けど後続に向けてわかりやすさを重視してこのタイムを出すなら精巧超人……それもシェリルの率いた一軍だろう。
 だからこそ私はこの勝負に介入させていただく。


<<warning! 九尾へ上位存在からの介入がありました。顕現します。挑戦者は離れてください>>


 アラートがけたたましく領域内へと響き渡り、何もないところから私が現れる。
 目の前にはレムリアの外装を纏う6人の戦士が訝しげに私へと視線を集めた。


『父さん? あと少しでベストタイムが出るところだったのに邪魔をするの?』


 やはりシェリルだったようだ。


「やぁこんにちわ諸君。いつも娘が世話になってるね。しかし飼い主が不在の隙にこのような仕打ちをされてはたまったものではないな。もう少し礼節を弁えて欲しいものだけど?」

『急に出てきてお説教? 確かにコレは父さんの紐付きだったかもしれないけど、レイドボスには誰にだって挑戦権があるのよ? それを私物のように扱う父さんが間違っていると思うのだけど?』


 他のチームメンバーもそうだそうだと頷いている。


「それでも贔屓にしている眷属が虐められてたら手を差し伸べるのが私という存在だよ。それにね、世界を支配しても眷属下に置ける古代獣はたったの一匹。私はそれを大事にしていきたい。勿体無い精神と言うやつだ」

『貴重な情報をどうも。でもね、こっちは良いところを邪魔された形なの。父さんには責任を取ってもらうから』

「おや、それは参った。交渉決裂というやつかな?」


 口調はのんびりと、だが互いに引けぬ尊重を掲げ、視線を切り結ぶ。同時に紡いだワードは変身。
 ここに再び魔導書vs聖典のライダーの試合が相成った。


『さて、一度は支配し、二割ダウンしたこの力。君はどう相対する?』

『乗るなシェリル! 義父さんが神格召喚したら俺たちは終わる!』


 ここでヒャッコ君の登場だ。
 レムリアのボディスーツは統一されてるのでどれがどれだかわかりやしない。しかし私を義父さんと呼ぶのはヒャッコ君をおいて他になし。さて彼はどのような答えを出すか。
 ここで引いてくれるならありがたいが……無理かな?
 彼がシェリルのイエスマンである根本は変わらないからね。

 でもワンマンだったシェリルが彼の言い分を聞く余裕が出来たのは良い傾向だと思う。
 ここは私が悪者になってでも夫婦仲を良くして行ってやろう。
 それが親の勤めでもあるし、お節介でもある。

 娘からしたら良い迷惑かもしれないが。
 二人が個人チャットによるやり取りを終えるのを待ち、再び話しかける。私は変身中と会話中に攻撃をしない待てるラスボスだからね。


『話はついたかな?』

『ええ。私達はチーム全員で父さんを討つことに決めたわ』

『そうか、それは残念だ』


 ──いあ いあ くとぅるー
 ──神格召喚・シヴァ


 言葉は同時に、神が肉体へと宿る。
 そして眷属化した九尾君が私へと平伏した。


[おお、貴方様は。助けに来てくれたのですか]


 私をクトゥルフさんと同一視してるのか、やたら口調が恭しい。絆値が低いとプレイヤーへの口調も変わるものだからね。忙しくて来てあげられなくてごめんという意味で頷いてやると、さらに地面にめり込むぐらいまで頭をこすりつけた。

 当時の私はクトゥルフさんが封印状態だったものなぁ。
 今や世界の支配者だ。たった7割と言えど、神格が起きてる状態では影響力も違うのかもしれない。
 もしかして眷属化するのに信仰度の高さも影響あったりして。
 今となってはわからないが。


『君の力を少し借りるよ。掌握領域──九尾』

『な!? なんで掌握領域を扱えるんですか!』


 ヒャッコ君が驚くのも無理はないだろう。
 彼とのPVPでは、わざわざ領域を展開したが今回はしてないのだから。彼の考えとしてはどうにかして私へ領域展開をさせないように隙を与えないと言う考えのものだったかもしれない。でもね、考えてみてよ。


『おかしなことを言うね。この世界の7割は我が神の支配下だよ? 大気中に漂うこの磯の香りこそが領域内の証。ならばそれを我が手足として扱えるのは当然、だろう?』


 九尾君が私の影に飲まれて一つになる。
 以前は我が身に宿したが、あれは失敗だった。
 私の当たり判定が大きくなればなるほど、小回りが効くレムリアが有利になる。だから私は自分の影に潜ませて彼の消費したLPを回復させてやろうと言う魂胆だ。
 ならばそれを加速させてやっても良いだろう。

『召喚、シャドウ強化型/タワー……掌握領域──〝タワー+九尾〟。さぁ、君に我が配下の能力を分け与えてあげよう。隙を見て攻撃してあげなさい』

[なんと慈悲深い。この力で必ずや怨敵に一矢報いて見せましょうぞ!]


 どこの時代の人? と言うくらいに時代錯誤な語り口でやる気を見せる九尾君。そう言えば昔からそうだったな、と思い出す。
 会話をしている最中も私へとレーザー攻撃が飛んでくるが、それらは掌握領域で全て手中に収めて溜め込んでいる。
 後でまとめてお返ししてやろう。
 どうやってレーザーの雨霰を掻い潜っているかの答え合わせをすぐにしてやるのは愚の骨頂だ。
 彼女達は特に考察のエキスパートだからね。
 その上連携も完璧で会話も少なめ。こちらに回ってくる情報が少ないのだ。

 まさにレムリアの如く。
 行動に一切の隙がない。
 その上でシェリルはシヴァを纏って光の速さで私や九尾君を翻弄する。わざと囮となってチームメンバーの攻撃する隙を作ろうと言うのだ。

 ヒャッコ君から出した攻撃は全て奪われると聞いたのだろう。
 前回のブラフと違い、今回は霊装含めて一切出してこないのはなんとも悲しいね。
 でも君たち、私にはSTゲージがないと言う事実を忘れていないだろうか?

 APを消費する天空の試練の称号スキルや、ABPを消費する古代獣ゲージですら掌握領域で取り込むこともできるんだ。
 なのに時間ばかり消費して、私の何が尽きることを待っているのだろう?

 今や食事さえも懐から取り出して掌で平らげるだけで目下の問題点のEPでさえ回復可能。
 だと言うのに……いや違うな?

 私は酷い思い違いをしていた。
 彼らは私の隙を窺っていたのではない。
 向こうの大技を繰り出すための時間を稼いでいたのだ。

 チームメンバーのレーザー攻撃が激しくなる一方で、シヴァからの攻撃が一切止んだ点で気付くべきだった。
 なのに私は余裕ぶってそれらを見落としていた。
 なんたる失態。すっかり格上という存在になりきってしまったと言うのか? 一切戦えないくせして思い上がりもいいところだ。


[風格が出たと思えば良いのではないか?]


 クトゥルフさんはそう言うけど、いつまでも挑戦者の気分でいたいんですよ私は。
 一度失ってしまうと取り返すのが難しいと知っているからこそ忘れたくない。
 だからこそ向こうへこちらも本邦初公開の力を使う。


『ロイガーよ、その力の一端を示せ。全力投擲!』

[いっそ取り込んでから投擲すれば良かったのではないか?]

『それやっちゃうと向こうが撤退しちゃうじゃないですか』

[それが目的だからな。だが貴殿は違うらしい]


 ふむ、面白いと何やら考察に入るクトゥルフさん。
 戦闘経験もちゃっかり積んでるんだよなぁこの人。
 きっと彼からしたら非常につまらないことで悩んでると思うけど、私は相手の反応が欲しいのだ。

 九尾のフィールド上に突如現れた突風がシェリル達を襲う。
 アンブロシウスさんのツァールとの合体攻撃ほどの威力は見込めないが、ほとんどのメンバーは撃破出来たらしい。

 でもそれでも生き残りがいる。
 落とせたのはせいぜい3人。
 残った三人には未だ無傷のシェリル、ヒャッコ君。

 もう一人は瀕死だが、身を挺して二人を守ったのだろう。
 と言うか、彼女達はもしかしてこの試合撮影中だったりしてるんだろうか?
 そう言えばタイムアタック中だと言っていたな。
 生放送でないことを祈ろう。


『まだ、隠し球があったのね』


 底冷えするような声色でシェリルが私を睨む。
 向こうから私の眼前へと一瞬でワープしてくる。
 銀姫の礼装……ではない。ではシヴァの能力か?
 向こうがそれを教えてくれるとは思わないが用心だけはしておこう。


[今だ! LP吸収鞭を喰らえ!]


 私の影からシェリルに向けて伸びた鞭が見えない壁に阻まれて鞭が無惨にも弾けた。


[ぐわーー]


 九尾君、君さ……今迄逃げ回ってたこの子がなんの用心もせずに接敵してくると思ったの? 思ってたから攻撃に出たんだろうけどさ。
 絆値が低いからあの時の成長がリセットされたのはわかるけど、あまりに馬鹿すぎる。だから容易く瀕死になっていたのだろうね。これは鍛え直さなくちゃいけないなぁ。


『あいにくと今のでネタ切れでね。だって君たちが全然技を使ってくれないんだもん。奪う機会が巡ってこない』

『奪って使うつもりだったのね。世間ではそれは泥棒と言うのよ?』

『そういう能力を任せてくる神様だから仕方がない』

[それにこの世界の支配者は余である。余がそうだと認めればそれが世界のルールである。木端にどうこう言われたくないわ]

『仕方ないで済めば警察はいらないのよ?』


 はいはい。クトゥルフさんからしてみればそうだよね。
 でも今親子の会話中だから少し黙っててね。
 シェリルとしてはこちらの心を動かす言葉を紡いでいるのだろう。しかし私は一切動じない。
 だって彼女が隙を窺ってるのが見え見えだもの。
 ヒャッコ君の動きも気になるしね。


『ならば君が警察の真似でもして私を捕らえてみるか?』

『捕らえさせてくれるの?』

『勿論、全力で抗わせて頂くさ』

『でしょうね!』


 その場からシヴァを纏ったシェリルが消える。
 と、同時にヒャッコ君が眼前へと現れた。

 口に当たる部分に人差し指を当てている。
 どうやら私たちが出会っていることはずっと隠し通していて欲しいらしい。

 いや、バレてると思うよ? 向こうから聞いてきたし。

 そんな思考でのやり取りも一瞬。
 すぐさまムカデの如く横一閃に振り払われた一撃が私の横腹に巻きつくように勢いをつける。

 既にビームと融合化済みの合体攻撃か。確かそれは以前にも見たよ。直撃してやるわけにはいかないな。

 軌道を逸らして真上にショートワープ。
 が、直後に後頭部へ衝撃が走る。

『行動を読まれた、か』

『読みやすい動きをするのが悪いんじゃない』


 つまりヒャッコ君は囮と言うわけだな?
 あそこまで接敵されると視覚外の武器の全貌が掴みにくい。

 彼はきっと私の攻略法を至近距離に置ける死角からの強襲が一番有効なのだとあの試合で学んだのだろうね。
 その場合の私の逃げ道は自ずと真上になる。

 そこをシェリルに狙われたのだ。
 いや、逃げ場を塞がれた形だ。
 さすがトップ攻略班。私とは見ている次元が違うと言うことを嫌でも思い知る。
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