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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
328.お爺ちゃんののんびり時間旅行④
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ここに本人vs本人の戦闘が開始した。
流石に全盛期というだけあって相手のクトゥルフの猛攻が凄い。重鈍な動きでありながら、無造作に放たれた動作でこちらを屠ってくる一撃を見舞ってくる。
だが相手をするのは未来のクトゥルフ。
その上依代が私なので同じ能力を有しながらショートワープとビーム兵器を駆使し、互角に戦えていた。
サイズ差はあれど、向こうの考えなどお見通しであるクトゥルフさんが推しているように思える。
だがこの戦闘は向こうを納得させるためだけに行われたもの。
始末する意図はないので有効打を与えすぎるわけにもいかない。命の危機を覚えたら向こうも本気を出してくるからだ。
[どうした、兄弟。そんなものか?]
[ぐぅう、ちょこまかとうるさい奴め]
ここで呪文でもあるクトゥルフの鷲掴みがクトゥルフさんに直撃する。
が、
[言っただろう、私は君だと。私の力を私に振るったとて効果はない。少しくすぐったい程度だ]
[ぬぅううううう!]
触腕の一つからビームソードを現出させ、舞うようにその腕を引きちぎった。しかしクトゥルフの触腕もすぐに再生する。
ダメージを与えた様子はない。
[本当に貴様は我なのか?]
だが、相手を確実に屠って来た必殺の一撃すら振り払われて考えを改めたクトゥルフ。
やはり未来のクトゥルフさんの方が一歩リードしていた様だ。
そのちょっとした小競り合いで周囲が瓦礫溶かすのはご愛嬌。
数名、巻き込まれた同胞達もいるが。仕方のない犠牲として気に求めないのは如何とも思うが。
場を仕切り直し、会談を始める。
要約すれば未来の自分が何をしに来たのかという事だ。
[そう身構えるな兄弟。これはほんの事故だ。我らは望まずここに来た。だが私はこれが都合の良いことのように思えて仕方がない]
[何が言いたい。簡潔に述べよ]
[手を組まないか? 君には意見を述べる参謀役が必要だ]
[我に意見をすると?]
[過去の私、つまり君は傲慢だった。故に足を救われて今に至る。未来においての君は眠りっぱなしで、眷属はその地位をどんどんと落としていった。仮に目覚めたとしても眷属達はついてくるだろうが、今の時代ほどは居ない。両手で掬えるのがギリギリと言ったところだろう]
[減ったら増やせば良いだけだ。違うか?]
[そうだな。だが増やせぬ事情もある]
[原因はなんだ?]
漸くクトゥルフさんの言葉に興味を示した全盛期のクトゥルフ。眷属は勝手に増えるものだと勘違いしていたようだ。
だからここまで傲慢に振る舞える。
だからクトゥルフさんは煽る様に言葉を発した。
[未来世界は強力なライバルがたくさん居るのさ。もう君だけの庭ではないんだ、クトゥルフ。今でこそ支配者としての顔を持つ君だが、未来世界では旧支配者と呼ばれている。意味は分かるか? 新たな支配者が君臨しているのだよ。嘆かわしいことだ。たった数億年のうちに、君が眠っているうちに、小賢しい奴らが台登して来た。君が起きてさえ居てくれればそんな奴らなど一網打尽にできたのに。眷属程度では歯が立たない。ああ、一番許せないのは自分にだとも。何故自分と同じレベルの存在がこの星に降りてこないと思い込んだのか。それが、その慢心が一番許せない。だから、今起きてる君にだから未来を知る私は良い参謀役になれると思うんだ。どうだ?]
その言葉は流暢だったが、次第に怒りとともに激情を持って放たれる。純粋な怒りだ。身のうちに潜めて来た殺意。
かつてな傲慢な自分を取り戻すかの様な物言いに謎の説得力が籠る。
紳士然としていた彼の見せる激情は、かつての自分に向けられていた。
[誰が降りて来た?]
[私の知りうる限りでは、ハスター、ツァトゥグァ、ニャルラトホテプまで揃っている。それ以外にも力を持つ神格がわんさかと居る。今更私に従ってくれるもの達など魚類くらいだ。海は、母なる海は少しづつ減少傾向にある。君がどんなに声を張り上げても傘下に加わりたいと思う奴らは居らんな。すでに誰かの手下よ]
[そうか、ハスターか。あやつが]
ハスターさんは同じ両親から生まれた血を分けた兄弟だもんね。ツァトゥグァさんは親戚筋に当たるし、世間は狭い。
親類同士のいがみ合いと考えると微笑ましいのだけど、規模が桁違いなので諍いを起こせば星がひどい目に遭う。
そういう規模の戦いなのだ。
[どうやら我々のやり方に疑問を持っている様だぞ? どうにも敵対的だ。我らの眷属が犠牲になっている。ただでさえ少ない我らの眷属がだ。どう思う?]
[許せぬな、あの小童め。我が見過ごしていればつけ上がりおって]
[だが今手を出すのは些か不用心だ。今現在においてハスターはまだこちらと敵対関係にはない。いずれ牙を剥くのを見据えて私を雇う気はあるか?]
[それを信じるかどうかはまだ決めぬ]
[疑り深いね。だがそうでなくては]
クトゥルフさんも自分の手法に丸め込まれる様では先が思いやられると思った様だ。
でも参謀役になると言うことはここに残ると言うことだよね?
リンクは切れてしまうのだろうか?
『その事だが、多分切れない』
私の考えを読み取ったクトゥルフさんから回答が来る。
『考えてもみ給え、私とほとんど同じ思考を持つ君が、侵食率を限界突破した君が、今更赤の他人になれるわけがないだろう?』
全くもってその通りすぎて私はさっきまでの自分を恥ずかしく思う。
『なに、ひとときの別れだ。我らにとって数億年など一瞬よ。すぐに戻る。それに……』
少し間を置き、沈黙を破る様にクトゥルフさんが語った。
『君との冒険に心躍る私がいる。役目を終えたら再び連れて行ってくれないか?』
ずっと支配者として振る舞っていた彼から漏れ出た本心に「ええこちらこそよろしくお願いします」と答えを出す。
そしてルリーエ、スズキさんも一緒に残ってクトゥルフさんを支える様だ。もうあのふざけた彼女に出会えないと思うと寂しい。
肉体の権利を返してもらい、どこか心にぽっかりと穴が空いてしまった気分に陥る。
今まで共にいた半身がいなくなってしまったのだ。
しかし聖魔大戦用のステータスは確かにそこにクトゥルフとある。断片もルリーエとして存在している。
ベルトも装着したままだった。
◇
クトゥルフさんの件が片付き、囚われていた探偵さんとくま君が釈放される。
「助けに来るの遅いよ、少年。危うく海の藻屑になるところだったじゃないの」
「くまは泳げないからそのまま溺死するかと思ったくま」
「すいません、これでも最速で動いたんですけど。でもよく無事でしたね?」
「もちろん最後の切り札を使ったのさ」
探偵さんはしたり顔でそう述べる。
最後の切り札っていうと変形ロボットかな?
機関車はその一部だと聞いている。
「すごかったくま! 列車が分裂して合体したくま!」
分裂!? 合体までは想定してたけど分裂までするんだ、その機関車。
「おっと、機密をばらさないでくれよ」
「ごめんくま」
何はともあれ無事で何よりだ。
「じゃあ無事に釈放されたし、帰ろうか」
「ですねー」
そんな風に思って列車に乗り込むと、
[正史ニ影響アル過去改変ヲ確認、処理行動ヲ開始スル]
レムリア言語を操る骨の様な犬っぽい何かが私たちの前に躍り出た。
「やはり来たか、ティンダロスの猟犬! って言うか、僕たちの知らないところでなにして来たの? こいつが出て来た時点で嫌な予感しかしないんだけど、さ!」
探偵さんが飛びかかって来たワンちゃんを体捌きで避ける。
そのまま列車の角に頭をぶつけると思っていたところで、スゥと姿をかき消してしまう。
「消えた!?」
「うわ、こっち来たくま!」
「こいつは角のある場所なら移動できる! 断片の持つ影移動と同じと見て良い」
「そもそもこのワンちゃん何者なの?」
「未来に影響ある過去改変を許せないお仕置きエネミーだね。いや、ワンちゃんて。確かに犬っぽいけどさ」
「私はレムリア人ですら人として扱う紳士ですからね、見た目が犬っぽいならワンちゃんです」
「サブマスターは?」
「番犬?」
「とーちゃん言われっぱなしくま!?」
「ハハハ、君のお父さんは僕たちの中に入ればそんな扱いさ。しかしこいつをどうやって振り切る?」
「レムリア言語を操ってるので、多分これが効くと思いますが」
私はレムリアの器を懐から取り出した。
ワンちゃんは思考停止する様にピタリと黙り込む。
[上位権限者ヲ確認。行動ヲ終了スル]
それだけ言って角から消えた。
「やはり、これは彼らに通用するアーティファクトだった」
「酷い仕掛けだ。普通神話生物に出会ったらSAN値を減少させるか逃げ惑うしかないのに。ギリ撃退できるかもだけど、そんな裏技があったなんて」
「イス人でさえこれを祖先の器と解釈したからね。きっとまだ何か秘密があると思ってた」
「ごめん、今なんて?」
探偵さんは目を見開きながら食いつく様に聞き返して来た。
「イス人。イスの偉大なる種族。どうも彼ら、レムリアの末裔らしいよ」
「どこでそんな情報手に入れて来たのさ」
「何処って、マナの大木だよ? くま君には見えなかったらしいけど私は彼とちょっとした立ち話をしてたのさ」
「君、合間合間でとんでもない地雷を踏むよね? 二時間もなにしてるかと思ってたら、イスの民と一緒にいたとか……不意打ちで聞かされるこっちの身にもなってよ」
「知りませんよ。聞かれたから答えただけです。秘密主義者のあなたと違って私の口のチャックは壊れてますからね」
「絶対にそれ、ブログに書いちゃダメなやつだからね?」
「ちぇー」
「あ、だめだ。この人書く気満々だ。僕が口止めしてなかったら書くつもりだったでしょ?」
その時丁度掛け時計がボーン、ボーンと鳴り響く。
丁度夜八時を知らせる時刻だった。
「森に戻って来たくま!?」
そこには夕暮れの森の風景が写っていて……
「待って、ゲーム内時間の変動がない!?」
「昔の映画みたいに、過去にタイムスリップした直後の時間に戻って来たとか?」
「あり得るけど、ティンダロスの猟犬が出て来た時点で嫌な予感しかしません街に戻ってみましょう」
探偵さんに促されるまま、セカンドルナに戻って来た私たちは、
「「「は!?」」」
声をハモらせて周囲を見た。
人間種族、または獣人が蔓延るのが当たり前だったその場所には、今まで見る影のない魚人の姿がたくさん映っていたからだ。
街の中に縦横無尽に広がる水路からは、キャッキャと魚人プレイヤーがはしゃいでいた。
流石に全盛期というだけあって相手のクトゥルフの猛攻が凄い。重鈍な動きでありながら、無造作に放たれた動作でこちらを屠ってくる一撃を見舞ってくる。
だが相手をするのは未来のクトゥルフ。
その上依代が私なので同じ能力を有しながらショートワープとビーム兵器を駆使し、互角に戦えていた。
サイズ差はあれど、向こうの考えなどお見通しであるクトゥルフさんが推しているように思える。
だがこの戦闘は向こうを納得させるためだけに行われたもの。
始末する意図はないので有効打を与えすぎるわけにもいかない。命の危機を覚えたら向こうも本気を出してくるからだ。
[どうした、兄弟。そんなものか?]
[ぐぅう、ちょこまかとうるさい奴め]
ここで呪文でもあるクトゥルフの鷲掴みがクトゥルフさんに直撃する。
が、
[言っただろう、私は君だと。私の力を私に振るったとて効果はない。少しくすぐったい程度だ]
[ぬぅううううう!]
触腕の一つからビームソードを現出させ、舞うようにその腕を引きちぎった。しかしクトゥルフの触腕もすぐに再生する。
ダメージを与えた様子はない。
[本当に貴様は我なのか?]
だが、相手を確実に屠って来た必殺の一撃すら振り払われて考えを改めたクトゥルフ。
やはり未来のクトゥルフさんの方が一歩リードしていた様だ。
そのちょっとした小競り合いで周囲が瓦礫溶かすのはご愛嬌。
数名、巻き込まれた同胞達もいるが。仕方のない犠牲として気に求めないのは如何とも思うが。
場を仕切り直し、会談を始める。
要約すれば未来の自分が何をしに来たのかという事だ。
[そう身構えるな兄弟。これはほんの事故だ。我らは望まずここに来た。だが私はこれが都合の良いことのように思えて仕方がない]
[何が言いたい。簡潔に述べよ]
[手を組まないか? 君には意見を述べる参謀役が必要だ]
[我に意見をすると?]
[過去の私、つまり君は傲慢だった。故に足を救われて今に至る。未来においての君は眠りっぱなしで、眷属はその地位をどんどんと落としていった。仮に目覚めたとしても眷属達はついてくるだろうが、今の時代ほどは居ない。両手で掬えるのがギリギリと言ったところだろう]
[減ったら増やせば良いだけだ。違うか?]
[そうだな。だが増やせぬ事情もある]
[原因はなんだ?]
漸くクトゥルフさんの言葉に興味を示した全盛期のクトゥルフ。眷属は勝手に増えるものだと勘違いしていたようだ。
だからここまで傲慢に振る舞える。
だからクトゥルフさんは煽る様に言葉を発した。
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その言葉は流暢だったが、次第に怒りとともに激情を持って放たれる。純粋な怒りだ。身のうちに潜めて来た殺意。
かつてな傲慢な自分を取り戻すかの様な物言いに謎の説得力が籠る。
紳士然としていた彼の見せる激情は、かつての自分に向けられていた。
[誰が降りて来た?]
[私の知りうる限りでは、ハスター、ツァトゥグァ、ニャルラトホテプまで揃っている。それ以外にも力を持つ神格がわんさかと居る。今更私に従ってくれるもの達など魚類くらいだ。海は、母なる海は少しづつ減少傾向にある。君がどんなに声を張り上げても傘下に加わりたいと思う奴らは居らんな。すでに誰かの手下よ]
[そうか、ハスターか。あやつが]
ハスターさんは同じ両親から生まれた血を分けた兄弟だもんね。ツァトゥグァさんは親戚筋に当たるし、世間は狭い。
親類同士のいがみ合いと考えると微笑ましいのだけど、規模が桁違いなので諍いを起こせば星がひどい目に遭う。
そういう規模の戦いなのだ。
[どうやら我々のやり方に疑問を持っている様だぞ? どうにも敵対的だ。我らの眷属が犠牲になっている。ただでさえ少ない我らの眷属がだ。どう思う?]
[許せぬな、あの小童め。我が見過ごしていればつけ上がりおって]
[だが今手を出すのは些か不用心だ。今現在においてハスターはまだこちらと敵対関係にはない。いずれ牙を剥くのを見据えて私を雇う気はあるか?]
[それを信じるかどうかはまだ決めぬ]
[疑り深いね。だがそうでなくては]
クトゥルフさんも自分の手法に丸め込まれる様では先が思いやられると思った様だ。
でも参謀役になると言うことはここに残ると言うことだよね?
リンクは切れてしまうのだろうか?
『その事だが、多分切れない』
私の考えを読み取ったクトゥルフさんから回答が来る。
『考えてもみ給え、私とほとんど同じ思考を持つ君が、侵食率を限界突破した君が、今更赤の他人になれるわけがないだろう?』
全くもってその通りすぎて私はさっきまでの自分を恥ずかしく思う。
『なに、ひとときの別れだ。我らにとって数億年など一瞬よ。すぐに戻る。それに……』
少し間を置き、沈黙を破る様にクトゥルフさんが語った。
『君との冒険に心躍る私がいる。役目を終えたら再び連れて行ってくれないか?』
ずっと支配者として振る舞っていた彼から漏れ出た本心に「ええこちらこそよろしくお願いします」と答えを出す。
そしてルリーエ、スズキさんも一緒に残ってクトゥルフさんを支える様だ。もうあのふざけた彼女に出会えないと思うと寂しい。
肉体の権利を返してもらい、どこか心にぽっかりと穴が空いてしまった気分に陥る。
今まで共にいた半身がいなくなってしまったのだ。
しかし聖魔大戦用のステータスは確かにそこにクトゥルフとある。断片もルリーエとして存在している。
ベルトも装着したままだった。
◇
クトゥルフさんの件が片付き、囚われていた探偵さんとくま君が釈放される。
「助けに来るの遅いよ、少年。危うく海の藻屑になるところだったじゃないの」
「くまは泳げないからそのまま溺死するかと思ったくま」
「すいません、これでも最速で動いたんですけど。でもよく無事でしたね?」
「もちろん最後の切り札を使ったのさ」
探偵さんはしたり顔でそう述べる。
最後の切り札っていうと変形ロボットかな?
機関車はその一部だと聞いている。
「すごかったくま! 列車が分裂して合体したくま!」
分裂!? 合体までは想定してたけど分裂までするんだ、その機関車。
「おっと、機密をばらさないでくれよ」
「ごめんくま」
何はともあれ無事で何よりだ。
「じゃあ無事に釈放されたし、帰ろうか」
「ですねー」
そんな風に思って列車に乗り込むと、
[正史ニ影響アル過去改変ヲ確認、処理行動ヲ開始スル]
レムリア言語を操る骨の様な犬っぽい何かが私たちの前に躍り出た。
「やはり来たか、ティンダロスの猟犬! って言うか、僕たちの知らないところでなにして来たの? こいつが出て来た時点で嫌な予感しかしないんだけど、さ!」
探偵さんが飛びかかって来たワンちゃんを体捌きで避ける。
そのまま列車の角に頭をぶつけると思っていたところで、スゥと姿をかき消してしまう。
「消えた!?」
「うわ、こっち来たくま!」
「こいつは角のある場所なら移動できる! 断片の持つ影移動と同じと見て良い」
「そもそもこのワンちゃん何者なの?」
「未来に影響ある過去改変を許せないお仕置きエネミーだね。いや、ワンちゃんて。確かに犬っぽいけどさ」
「私はレムリア人ですら人として扱う紳士ですからね、見た目が犬っぽいならワンちゃんです」
「サブマスターは?」
「番犬?」
「とーちゃん言われっぱなしくま!?」
「ハハハ、君のお父さんは僕たちの中に入ればそんな扱いさ。しかしこいつをどうやって振り切る?」
「レムリア言語を操ってるので、多分これが効くと思いますが」
私はレムリアの器を懐から取り出した。
ワンちゃんは思考停止する様にピタリと黙り込む。
[上位権限者ヲ確認。行動ヲ終了スル]
それだけ言って角から消えた。
「やはり、これは彼らに通用するアーティファクトだった」
「酷い仕掛けだ。普通神話生物に出会ったらSAN値を減少させるか逃げ惑うしかないのに。ギリ撃退できるかもだけど、そんな裏技があったなんて」
「イス人でさえこれを祖先の器と解釈したからね。きっとまだ何か秘密があると思ってた」
「ごめん、今なんて?」
探偵さんは目を見開きながら食いつく様に聞き返して来た。
「イス人。イスの偉大なる種族。どうも彼ら、レムリアの末裔らしいよ」
「どこでそんな情報手に入れて来たのさ」
「何処って、マナの大木だよ? くま君には見えなかったらしいけど私は彼とちょっとした立ち話をしてたのさ」
「君、合間合間でとんでもない地雷を踏むよね? 二時間もなにしてるかと思ってたら、イスの民と一緒にいたとか……不意打ちで聞かされるこっちの身にもなってよ」
「知りませんよ。聞かれたから答えただけです。秘密主義者のあなたと違って私の口のチャックは壊れてますからね」
「絶対にそれ、ブログに書いちゃダメなやつだからね?」
「ちぇー」
「あ、だめだ。この人書く気満々だ。僕が口止めしてなかったら書くつもりだったでしょ?」
その時丁度掛け時計がボーン、ボーンと鳴り響く。
丁度夜八時を知らせる時刻だった。
「森に戻って来たくま!?」
そこには夕暮れの森の風景が写っていて……
「待って、ゲーム内時間の変動がない!?」
「昔の映画みたいに、過去にタイムスリップした直後の時間に戻って来たとか?」
「あり得るけど、ティンダロスの猟犬が出て来た時点で嫌な予感しかしません街に戻ってみましょう」
探偵さんに促されるまま、セカンドルナに戻って来た私たちは、
「「「は!?」」」
声をハモらせて周囲を見た。
人間種族、または獣人が蔓延るのが当たり前だったその場所には、今まで見る影のない魚人の姿がたくさん映っていたからだ。
街の中に縦横無尽に広がる水路からは、キャッキャと魚人プレイヤーがはしゃいでいた。
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