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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

324.お爺ちゃんののんびり撮影旅行⑧

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 マナの大木から地上に降りる最中、茶色い毛皮のくま君を発見し、私たちはその場の急行した。


「あれ、アキカゼさんくま。また会ったくまね」

「くま君さっきぶり。君の目的は達成出来たのかな?」

「まだくまー。今日はレッドネームが少ないくま。まだ二人しか成敗できてないくまよ」


 それだけ成敗できてれば十分じゃないのかな?
 それよりも気になるのはその行動だ。
 左前足で壺を小脇に抱え、右前足をその壺の中に漬け込んでは口元に運んでいる。お食事中だったかな?


「甘い匂いがするね。それは樹液だろうか?」

「そうくま。くまはハチミツよりメープルシロップ派くま。ここの樹木から取れるシロップは最高くま!」


 普段よりニコニコとした印象のくまくん。
 あの体格で食事がそれだけで足りるのだろうか?
 少し心配になる。


「君の体格で食事がそれだけとは思えないけどね。お肉とか食べないの?」

「この中にお肉を漬け込んでから焼くととっても美味しくなるくま!」

「へぇ、ただの甘味というよりは臭み消しも兼ねてるのか。実に興味深い。その工程を見せてもらっても?」

「いいくまよ」


 探偵さんも気になったのだろう。
 私も気になる。その小手先が器用とは思えない前足で火を起こして焼くと言われたら誰だって気になると思うのは当たり前だ。
 だがそんな予感は前触れなしに現れた言葉によって遮られてしまう。


「見つけたぜぇ、くま公! 今日が年貢の納め時だぜぇええええ!」


 現れたのは真っ赤なマスクに全身タイツを来ている変態……ではなく個性的な集団だった。その姿はまさに悪の手先にふさわしい。と言うか、何かの撮影?
 いつの間にか私達はその撮影に巻き込まれてしまっていたのだろうか?

 口は悪いが、見た目のインパクトでは6ch連合よりいくらか抑えられている。
 要はそこまで悪目立ちしないのだ。
 しかしこんな場面はそうそう見れないので私は興味深い状況をカメラに納めようと場所取りを開始する。

 彼らは無防備のくま君に近寄ると、私達の存在を無視して飛びかかった!
 そんな隙だらけな彼らに足払いを仕掛ける探偵さん。
 何してんの? いや、君ならそうするだろうと思ってたけどさ。


「よっと」

「うわ、なんだ!?」

「おいどうした。何もないところで転んで?」

「わかんねぇ、くま公の卑劣な罠かもしれん。気をつけろ!」


 何もない? おかしいな、彼らには私達が見えていないのだろうか? 
 すぐ横では見えてないのをいい事に探偵さんがいたずら心をくすぐられたようだ。
 とても悪い顔をしている。

 背後に回って膝かっくん、脇腹をくすぐるなどをやって見せより状況を悪くしていた。

 その間にくま君は食事を終えて、臨戦態勢に入っていた。
 探偵さんはそのための時間稼ぎをしていたとばかりにくま君にウィンクしてみせた。
 くま君もそれに応えるように両前足を大きく構えて赤いマスクを被った集団に立ち向かう。

 どう見ても熊型モンスターに対峙するプレイヤーにしか見えないけど、一応被害者は熊君の筈だが?
 状況を冷静に観察しながらシャッターを切っていく。
 まるで特撮ヒーローショウでも見ているようだ。


「ジャスティスくまパーンチ!」


 ただの前足を振りおろしただけである。
 パンチでもなんでもないが、それを突っ込むのは野暮だろう。


「ジャスティスくまキーック!」


 その場で軽く飛んで、ヒップアタックをして大勢を巻き込んだ。
 後ろ足、短いものね。
 本人的には蹴りを放ちたかったのだろうけど、後ろ足は空を切って空振りし、勢い余ってヒップアタックをかましてしまう。
 せっかく格好をつけたのに、全てが台無しな様子は見ていて面白い。
 非常に滑稽であるのだが、変に愛嬌があるのは彼なりの所作故か。

 
「トドメくま! ジャスティスくまハンマー!」


 ここで唯一、職業【グラップラー】の見せ所。
 手を巨大化、任意に伸ばして組んだ腕で赤いマスクの変態たちを一網打尽にした。
 それ、さっきのキックにも使えばよかったんじゃない?
 絵面は面白くなるけど。撮れ高は良さそうだ。
 後でリクエストしてみよう。


「今日はひとまず撤退だ! 覚えてろ、くま公! 絶対にネクロノミコンは取り返してやるからな!」

「くまー、何回でも追い払ってやるくま!」


 ようやく、そこまで聞いて私と探偵さんは合点が言ったように納得した。もしかしなくても、これらは魔導書関連の襲撃イベントではないだろうか?


「くま君、もしかして君の持ってる断片て?」

「くま? アル・アジフと呼ばれてるくまね」

「で、さっきの奴らは?」

「よくわからないけどプレイヤーくまよ。持ってる断片、若しくはその情報を差し出せって襲ってきたくま」


 え、あれプレイヤーだったの?
 でも私達を認知してなかったけど。


「頭に赤い文字が入ってるのはプレイヤーくま。NPCでそんな奴ら見た事ないくま。そもそもNPCを外で見た事ないくまね」


 確かにNPCは別の次元に居るとスズキさんも言っていた。
 でもだからって、町に滞在できない野生種の彼がそれを決めつける理由は?
 考えなくてもわかるか。彼の所属しているクラン。
 金狼君やギン君、ロウガ君なんかも居るし兄弟仲はいいほうだと聞く。彼らに聞いた結果がこれなのだとすれば納得がいった。


「でもあの人達、僕達を認知できてないっぽいよ?」


 そこで探偵さんが右手をあげる。


「ほんとくま? プレイヤーがプレイヤーを認知できないなんて聞いた事ないくまけど……」

「もしかしてそれは一連のイベントかもしれないよ? 良かったら私達に君の邂逅したイベントの概要を教えてもらえないかな?」

「くまもあんまり覚えてないくまけど、頑張って思い出してみるくま」


 交渉成立。
 そして彼は途切れ途切れにだが語ってくれた。
 場所はまったく持って思い出せないらしい。
 ただ、どうやっても名前が思い出せない人から本を預かったそうだ。それがネクロノミコンという本で、ページを捲っても何が書いてあるかちんぷんかんぷんだったという。
 気がつけばベルトが巻きつけてあり、例の聖魔大戦用のステータスが反映されていた。
 そして断片にはアル・アジフと書かれていたらしい。
 くま君はそっちの知識に疎いのか、何が何だかわからないようだ。

 その本をくれた人とはしょっちゅう森の中で出会ったらしい。
 くま君は種族特性で町に入れないらしいので無理もないが、こんな野生動物に本を手渡そうという人間がいる事がまずあり得ない。

 私は何かの実験ではないかと勘操った。
 アトランティスの穏健派である某GMも実験好きと聞く。
 そっち繋がりだろうと考えをまとめる。
 しかし探偵さんは何かを悟ったように違う質問をしていた。


「くま君、もしかしたら君は地雷を踏んだかもね」

「地雷くま? もしかしてくま何かやっちゃったくま?」

「多分、その名前を思い出せない御仁は同一人物だ。そしてその人の狙いは、君の生態が面白かったから、より面白くなるようにお節介したと言ったところか。君、野生種なんて取ってるくせに人間の味方をしてるでしょ? 悪い事をした人間を処理して回ってる。きっとそれが彼、若しくは彼女のお眼鏡にかなったんだ」

「その相手は何者くま?」

「表立って行動はしない暗躍タイプの旧支配者。十中八九、ナイアールラトテップその人だと思う」

「話を聞く限りではまるでジキンさんみたいですね、その人」

「ハッハッハ。確かにそうだ。サブマスターと似たところがあるよね、くま君もその名前を思い出せない人との語らいはどうだった? 正直に腹の内を見せてくれるような相手だったかな?」

「わからないくま。どんな事を話していたかも思い出せないくま。でも、このベルトを持ってレッドネームをやっつけてればヒーローになれるって言ってたくま。人間に認められなくてもいいくま。自分の信じた道を貫きたい意思が大事だと言ってたような気がするくま」

「ああ、その真意を悟らせないトーク。まず間違いなく彼だろうね。君は彼の干渉するにふさわしい観賞動物に任命されたと言うわけだ」

「モルモットくま? 気分が悪いくまー」

「彼にとって人類は取るに足らない存在さ。プレイヤーも然り。古代獣クラスをアリか何かと認識してる存在だ。そんな彼らがたかだかプレイヤーに興味を持つ事自体が珍しいんだよ。そして誉れ高い事だ。十中八九相手の想定通りに動くという意味でね」

「それは寝覚めが悪いくまね」

「だからその敷かれたレールを自ら打ち破ることが大切なのさ」

「破れるくま?」

「ここに人の話を聞かない見本市のような人が居るだろう?」


 ねぇ! 探偵さんはなんでそこで私を見るの?
 くま君も納得しないでよ!


「何言ってるんですか。私程模範的なプレイヤーも居ないですよ?」

「その模範顔等は古代人準拠だ。一般人に当てはめちゃいけないよ?」

「くまー。一般プレイヤーからは逸脱しすぎてるくまー」

「私はただ写真を撮って家族にドヤりたいだけの年寄りだよ?」

「大丈夫、もう誰も君をそうだと思ってる人は君の視聴者の中には誰も居ないから」

「ぐぬぬ……」


 何かにつけて私を悪者に仕立て上げるのはこの人の悪い癖だ。


「それはともかくとして、同じベルト所持者として何か協力できることがあれば聞くよ? 僕たちもちょうど君を探していたんだ。神話武器の取得には多くの仲間ぎせいが必要だからね。良ければ一緒に行動しないかなって」

「今仲間というフレーズに良からぬ副音声が入らなかったくま?」

「気のせいだよ。ね、少年?」

「うん。本当に一緒にいろんなところを見て回るだけだし。君の手助けもできると思うんだ。どうかな?」

「それじゃあお世話になるくま。アキカゼさん達なら頼れそうくまね」

「よし、じゃあパーティを組もうか。リーダーはくま君で良いかな?」

「どうしてくま?」

「多分リーダーである条件がイベント発生のキーだとこの人は言いたいのさ。メンバーなら認知出来るかもだしね?」

「そういう事なら任せるくま!」


 探偵さんはしてやったりという顔をしていた。

 ナイアールラトテップよりタチが悪いよこの人。
 こっちの都合を一切喋らず仲間に入れちゃったし嘘もついてない。
 この人の方がナイアールラトテップじゃないの? と疑うのは決して私だけじゃないはずだ。
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