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4章 お爺ちゃんと生配信

286.お爺ちゃんと新星アイドル爆誕①

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「こんにちは、アキカゼです」

「助手の魚の人だよ!」


 私の背後から、ばぁと顔を出して視聴者達を驚かせるスズキさん、もといリリー。
 頼んでおいてなんだけど、今回のこれはなんの打ち合わせもなくやってのけたので、本質がそれなんだろう。
 もはや言い聞かせた所で辞めないだろうし、私としても気が楽なので放っておく。


【乙】
【始まった】
【魚の人、正式採用されたんだ】
【おめでとう】
【おめでとう?】
【実際この魚類熱いとこ以外ならどこにでも行けるし】
【つよい】

「前回はトラブルの多い回だったので、今回はそんなことが起きないように安全策を打ちました」

「安全策ってどんなのですか?」

【前回はアクシデント続きだからしょうがない】
【正気度が5回は持ってかれたぜ】
【魔導書のマスターにはなりたくないよな】
【あれはアクシデントなのか?】
【一部視聴者が不定の狂気に陥ったアレか】
【アキカゼさん、そう言うのに好かれてるんじゃない?】

「私はごめん被りたいのだけどね、向こうから来てしまうから悩ましいところだよ」

【そう言いつつ、ゲストの影が見えないんやけど】
【アイドルと聞いてやってきました】
【背景には海】
【青い空、白い雲】
【カモメが飛んでますねー】
【つまり?】

「ゲストさんは海の底に居ますね。今回は新規アイドル発掘事業に取り組みたいと思ってます」

「どんな子か楽しみ~」


 期待に胸を膨らませる様なジェスチャーで、ノリノリのスズキさん。
 言ってないけど君、アイドルのセンターやるんだよ?
 いつまで他人事で居られるか見ものだね。


【おい!】
【そのアイドル、魚の鱗とか生えてません?】
【ひどいやらせを見た】
【呼び寄せるどころか自ら赴いてるんだよなぁ】
【俺たちは一体何を見せられるんだ?】
【分からん】
【正気度ロールを振らせにくることは確定してる】

「竜宮城の皆さんは悪い人じゃないですよ。みんなおいでよ竜宮城! 従業員一同お待ちしておりまーす」

「どんどん、ぱふぱふー」

【従業員てwww アキカゼさんいつからオーナーになったの?】
【冒涜的な観光スポットだなぁ】
【ま、悪い子は居ないんやろうけど】
【ほぼ見た目で毛嫌いしてただけだし】
【魚の人で見慣れたってのはあるな】
【乙姫さんだってサイズを気にしなければ可愛いだろ!?】
【そのサイズが問題なんだよなぁ】
【まずはアキカゼさんの手腕に期待だ】


 口ではなんだかんだ言いながら、視聴者数はそこまで減ってないのがまた面白い。
 ゲームはゲームと割り切ってるプレイヤーが多いのだろうね。
 そしてまたそこに突っ込むのだろうと期待しての視聴か。
 こちらとしてはありがたい限りだ。


≪はい、竜宮城前まで着きました≫

【実際早い】
【ショートワープ使いました?】
【まるで位置を把握してる早さだ】
【そう言えば深きものの称号持ちだったっけ?】
【それも関係ありそう】

≪早速第一村人にインタビューしてみましょう。すみませーん≫

≪ああ、あなたはこの前の≫

【村人どころか門番なんだよなぁ】
【顔覚えられてるやん】
【魚人て人間の顔って判別つくんだ?】
【そういやそうだ】

≪早速ですけどアイドルになって見る気はありませんか?≫

≪はい?≫

【草】
【開口一番それかよ】
【アドリブ下手かな?】

≪冗談ですよ。実は今回、竜宮城の方々がアイドルデビューしたいと言うのでプロデュースを手がけることになったんです≫

≪ははぁ、そう言うことでしたか。突然のことに身を固くしてしまい申し訳ありません≫

≪実はちょっと自分はいけるかもって思ってたりしてません?≫

≪あと10年若かったら考えてましたね。乙姫様からお話は伺ってます。どうぞお通りください≫


 スズキさんのツッコミに門番さんは照れながら答えた。
 アイドルという言葉が竜宮城に伝わってるとは思えない。
 これはリリーが何かしたな?
 しかし欲しいコメントはもらえたので良しとする。

 竜宮城は相変わらず賑やかだ。
 鯛やヒラメが華麗に踊っている……なんてことはなく、普通に生活していた。


≪あ、あの子とかどうでしょう?≫


 スズキさんが一人の人魚を指さした。
 例に漏れずプレイヤーかもしれない人だ。
 スズキさんの素性がわかった今、どこまで信じていいのか分からない。確かミレディさんだったか?
 スズキさんが突撃したので私も後を追う。


≪あら、あなたはこの前の。そうですか、また来たのですね。竜宮城へは観光に?≫


 少しだけぎこちない表情で、ミレディさんは無理をしていますと表情で訴えてくる。


≪実は乙姫様からオファーが来まして≫

≪あら、そうなのね。それは大変光栄なことよ。粗相のない様にね≫

≪それはもちろん心がけてますが、私一人だけですと心許ないので、ミレディさんにも協力して欲しいのです≫

≪私? 私なんかで協力出来ることかしら?≫

≪僕からもお願いします! ミレディさん! 一緒に竜宮城の危機を救ってください!≫

≪危機ってなんの話!? いきなり大きな話が飛んできてびっくりするんだけど?≫


 それはそうだ。スズキさんの事だから騙してでも連れてこうと思ってるんだろうけど、無理矢理は良くないな。


≪スズキさん、無理強いしてはいけないよ。実はかくかくしかじかでね。竜宮城の知名度が低すぎて神への信仰度が足りなくなってきてるんだ。そこで乙姫様は考えたんだ≫

≪その考えとは?≫

≪今はまだ言えないよ。協力してくれるというのならお話しするけど。スズキさんもそれでいいよね?≫

≪ハヤテさんがそう言うなら仕方ないですね≫

【草】
【さっきまでの雑なやりとりから一転】
【これは詐欺師のやり口ですわ】
【内容を一切説明せずに協力させるとかどこの犯罪者ですか?】
【この人本当にカタギだったの?】

≪……何やら騙されてる気がしてなりませんけど?≫

≪流れるコメントは気にしないで。私たちの崇高な使命を邪推して適当言ってるだけだから≫

≪はぁ……≫


 ミレディ君は陥落した。
 あとはもう一人誘うつもりだ。


≪そこの者、止まれ! ここから先は乙姫様の領域である。許可なく入ることを許さん≫

≪丁度よかった、ジーク氏≫

≪む、貴殿は……これはこれは失礼しました! 乙姫様から話は聞いてます。どうぞお通りを≫

≪いや、私達はぜひジーク氏にも参加して欲しいと思ってるんだ≫

≪はい?≫

≪お願いします。竜宮城の危機なんです!≫

≪危機とあらば騎士として矢面に立つ必要があるか。このジーク・ジョン、力となりましょう≫

≪ありがとう、すごく助かるよ≫


 これでおおよそのメンツは揃った。
 あとは乙姫様に最後通告をしておしまいだ。
 え、話を通してないのかって?

 そこはスズキさんに任せたのに、彼女ったら忘れてたらしいんだよね。だから彼女の参戦はその罰だ。


≪お久しぶりです地上の方。本日は竜宮城の危機をお救いなされる為に赴いたと聞きました。この乙姫の力でそれが叶うのなら、なんでもしてみましょう≫


 乙姫様は胸の前に手を置いて、真摯に胸の内を語った。
 付き従った兵士と住民の人魚が重圧に押し潰されるのを堪える様に私を見た。
 そして私はこう切り出した。


≪じゃあこの四人でアイドルグループとして売り出そうか。ファンがつけば信仰も爆上がり間違いなし。どうだろうか?≫

≪はい?≫

≪アイドル!?≫

≪騎士にそんな軟弱な思想を押し付けると言うのか!?≫

≪えっと、四人ですか? あと一人足りないみたいですけど?≫


 三人は一斉に否定的な意見を述べる。
 一人いまだによくわかってない人が居るので指摘してやる。
 完全に自分は部外者だと思ってるらしい。


≪何言ってんの? スズキさんもやるんだよ。責任者でしょ≫

≪うえ!? 僕助手だって話しか聞いてないです!≫

≪あとポジションはセンターね≫

≪もうポジションまで決まってる!?≫

≪はい、時間押してるよー。衣装は用意してるから着替えて着替えて~≫


 私は手を打って新人アイドル達を促した。
 渡された衣装は着る人のサイズに自動で合う様に作られてるので、乙姫様が来ても問題ない。
 若干照れた様に衣装が似合うか心配してる人が二名。
 袖を通したくない、どうにかして鎧の上から着れないか試みるものが一名。
 明らかに人型前提のドレスを手渡された一名は私をじっと見ていた。


『恨みます、マスター』

『なんでもやるって言ったよね? 君のやり方では手ぬるい。人と共存したいんならまず人のルールに入り込まなきゃ。これはいい機会だよ。覚悟を決めなさい』

『どうなっても知りませんからね』

『責任は私が持つさ』


 こうして新生アイドルユニット『RU☆RU☆I☆E』が爆誕した。しかしまだまだスタートラインを切ったばかり。
 信仰度を稼ぐには人並み以上の努力をする必要があった。
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