上 下
320 / 497
4章 お爺ちゃんと生配信

281.お爺ちゃんと図書館巡りツアー②

しおりを挟む
 さて次の場所に移ろうか。
 そんな会話をアンブロシウス氏として居ると、何やら見慣れたコメントが打ち込まれた。


【|◉〻◉)せっかくファストリアまで来たのに、水路の奥の書庫には向かわないんです?】


 この変な顔文字はスズキさんだな。
 書庫。そうか、古代遺跡に縁がある場所で本もある。
 その場所は思いつかなかった。いや、単純に選択肢から外していた。ナイスだよスズキさん。


「そうだ、アンブロシウス氏。私の行きつけの場所があったんだ。そこには小さな書斎があってね。一応分類上は古代遺跡に関係している。行ってみるかい?」

「調べ尽くしたがここの他にも遺跡があるとは知らなかったな。どこにあるのか聞いても?」

「用水路の奥。つまりは水の底に沈んでいるんだ。一つ確認するけど、水泳に関するスキルは持っていますか?」

「問題ない。体力には自信がある、それにスキルは持ってなくても行動に応じて生えるだろう?」

「セラエ君はどうだろう?」

「問題ありません。今更人と違う事を論ずることは意味のないことだと思っていますので」

 
 だろうね。一応人間扱いしてあげることで彼女に気を遣ったつもりだけど、余計なお世話だったらしい。

 一応は会話が通じているけど、彼女にとっての理解者はアンブロシウス氏ただ一人。それ以外は有象無象といった感じであまり関心がないようだ。

 今回話を聞いてもらえているのは私が翻訳者だからなのと、それにまつわる系譜だからだろう。

 そして他の子の持ち主たり得る素質を持つこと。
 ここら辺が彼女に『興味』を持たせたぐらいだろうか。


「良かった。それじゃあ私はクリアしてるので直通のパスが出てる。パーティーを組めばその権利が君たちにも与えられるだろうから、一時パーティーのリーダー権を回してくれないかな?」

「それくらいは問題ない。だからそう拗ねるなドーター」

「ですがプロフェッサー。私の所有権を他の誰かに渡すというのは……」

「理解はしている。しかし彼のおかげでショートカットができる。そう思えば一時的に目を瞑ることはできないか?」

「イエス、マスター。プロフェッサーの御心のままに」

「良い子だ……済まないね、待たせたかな? この子は殊更所有権に関して厳しいもので」

「まだ出会って数時間ですからね。警戒されていても仕方ありません。それに彼女が意識している部分はそこではないでしょう?」

「お察しいただきありがとうございます」

「そこを鑑みればクエストからお誘いするのですが……」

「そうですね。そうしてもらったほうがよかったかも知れません。しかしクエスト内容は何かをお伺いしても?」

「どぶさらいです」

「服を着たままですか?」

「それに匂いもキツイ。私としましても彼女は普通ではないと理解している。しかし見た目は年頃のお嬢さんだ。そんな方にそのクエストをお勧めするのは勇気が要る。どうか私の気遣いを汲んでいただければと思います」

「お心遣い感謝します、アキカゼさん。彼女は少しも気にしないだろうが、私だったら嫌だなと強く共感しました」

「それは良かった。知らずに汚れるのと、汚れると知っててお誘いするのは違いますからね」

「その通りだ」

「???」


 知らぬは本人ばかりなり。
 セラエ君は私たちの会話にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げていた。
 そしてアンブロシウス氏も相当な親バカだと理解する。
 誰だって愛でてる相手を意図的に汚したいなんて思わないからね。私で言えば妻や娘、孫娘にクエストをお勧めする様なものだ。
 どんなに興味深い報酬を載せても絶対に首を縦に振ってくれない自信がある。それ以前に汚れる彼女達をみたいわけではないからね。

 ファン心理で言えば推しが汚されて喜べるかだ。
 中にはアイドルにそういう汚れた感情をぶつける人もいるけど、大多数は嫌うはずだ。

 そんなわけで私達は転送装置を使って黄金宮殿前へと転送された。


「あ、海中でも会話はできますので。息苦しく感じる場合は耐性系のパッシヴが不足してる場合ですね。どこかで休憩を入れたいなら一言おっしゃってください」

「問題ない。ドーターの前で不甲斐ない格好は見せられんからな」

「プロフェッサーが無理をして居られるのを見て見ぬふりはできません。アキカゼさんの寛大な処置に感謝を」


 この二人はいちいち大袈裟なんだから。

 地上からいきなり深海は流石にアンブロシウス氏にとっても初めてだろう。だと言うのにセラエ君は元気そのものだ。
 タコの様な触腕から察するに水棲系なのかな?
 そうだと決めつけるのは早計か。


≪待ってました≫


 私達が黄金宮殿にたどり着くと、そこにはさっきコメントを送ってくれたスズキさんが居た。
 あれ、身重なのにこんなところにいて良いの?
 この人、私のことを言えないくらいお節介焼きですよね。
 よく考えたら妊婦さんなのに体を踏ませようとしたり、意地の悪い悪戯ばかりしてくるんですよね。


≪スズキさん、一応自己紹介しておこうか?≫

≪はーい!≫


 かくかくしかじか。
 一応自己紹介を済ませておく。
 まぁお互いに配信越しに知っているんだろうけどね。
 あ、私は意味ないけど鰓呼吸にしたよ。なんとなくね。


≪というわけで、僕は用水路でハヤテさんと運命的な出会いを果たしたんです≫

「まぁ! それでそれで?」


 何故かスズキさんの口から私たちの馴れ初めが語られ、その話に食いつくセラエ君。
 絶妙なトークでコロコロと場面が変わり、聞き手に飽きさせない心遣いが見え隠れしている。

 いつの間にかラブロマンスに脚色されており、何故か二人して熱っぽい視線を送ってきた。

 ちょっとそこ、勝手に盛り上がらないんでほしいんですけど。


≪なんだかすいません。ウチのクラメンさんが≫

「クランメンバーか。だが彼女からはドーターと同じ気配がする」

≪はい?≫

「彼女、スズキ氏は本当に我々と同じプレイヤーなのか?」


 何を言ってるんでしょうか、この人は。
 彼女はマリンの小学生時代の担任で、今は産休中でクラン活動をお休みしてるだけだ。
 それ以上でもそれ以外でもない。
 ないよね?


≪あまり憶測でものを語らないでほしい。私にとって彼女は家族も同然だ≫

「済まないね。人にしては深淵の気配を纏いすぎていると思って」

≪単純に称号に<深きもの>を持ってるからとかじゃないからですか?≫

「そうかも知れない」

≪それか条件分岐でハイドラになれる可能性を秘めてるとかもありますよ?≫

「ふむ。そこまで否定するなら私もこれ以上は言わないよ。ただし以降どう転ぶか次第ではアキカゼさんの身に降りかかる事だ。覚悟だけはしておいてくれ」

≪考えすぎだと思いますけどね≫


 そのあと黄金宮殿に案内し、そこでは特に彼女が欲しがる書籍は見つからなかった。
 しかしスズキさんが私を呼び、この本が気になると言って一つの書物を差し出した。
 そこには……


<ルルイエ異本の断片を獲得しました>

<条件を達成しました>

<ルルイエ異本の幻影が構築されます>


 スズキさんの手によって導かれたその本で、私の中に蓄積されたフレーバーが何かの地雷を踏んでしまった様だ。
 偶然にしては出来すぎている。
 私は一体何を踏んでしまったのだろうか?


≪お初にお目にかかります、マスター≫


 それはスズキさんがもし人型だったら、こうなるだろうなと想像させる鮮烈なまでに赤い髪と瞳をした少女で。
 そして彼女はこう切り出した。


≪ずっとお側で拝見しておりました。もう依代を頼らずともこうして御身の前に姿を晒すことが出来るのはなんと至福なことでしょうか?≫


 彼女が指を弾くと同時にスズキさんのアバターが消える。
 あれはスズキさんじゃなかった?
 本当のスズキさんは?

 頭が理解を拒む。
 嘘であってくれと心のどこかで叫んでいた。
 しかし現実は残酷に真実を打ち明ける。


≪わたくしの事はどうぞリリーとお呼びくださいませ≫

 鈴蘭を洋名で呼べばリリーか。
 奇しくもスズキさんと『鈴』の字がかぶるのは偶然なのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...