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4章 お爺ちゃんと生配信
273.お爺ちゃんと釣り人の集い⑤
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スズキさんが門の向こう側に入ったきり、30分の時間が経つ。彼女のことだから今頃真摯に向き直って根本的な解決をしているのだろう。
そんな彼女の身を案じつつ、コメントを拾いながら雑談を続けること数分。
マグロマーマンのジーク氏がやってきて部屋に入ってヨシとの許可をくれた。
そろりと内側へ入り込むと、そこでは仲良さげに語り合うスズキさんと乙姫様と思しき方が談笑していた。
≪あ、ハヤテさん。乙姫さん、僕の幼馴染でした≫
「それは何ともすごい偶然ですね」
≪お初にお目にかかります、地上の方。妾を見てどう思われますでしょうか?≫
それはとてもストレートな質問。
人間的に見れば確かに悍ましい、受け入れられない部分はある。
しかしそれは人間の価値観を押し付けた場合だ。
上半身は人魚のように人でありながら、下半身は海の生き物を彷彿とさせる。
海月? いや、あの絡め取ってきそうな触腕は蛸そのものだ。
烏賊の様なスマートさより、蛸の持つ獰猛そうな金の瞳が特徴的。
瘤の様に突き出た蛸の頭部からは女性のラインが見えないふわりとしたスカートを穿いている。
そのオシャレへの気遣いは女性特有のものだ。
スズキさんはもっと見習った方がいいんじゃないかなと思ったのは秘密だ。
「そうですね、乙姫様が悩んだ末に今の形に落ち着かれたのでしたら私からは特に言うことはありません」
≪ね、ハヤテさんて僕のこの見た目でも全然平気なの≫
≪本当に奇特なお方。改めましてご挨拶いたします。妾は乙姫。オツヒメと読みます≫
「オツヒメさんと言うのですね? 私はアキカゼ・ハヤテ。スズキさんとはゲームを始めた当初、色々良くしてもらいました。ここに来たのは全くに偶然でしたが、この出会いに感謝します。そしてペットの亀吉君をお返ししに来ました」
≪ジークさんから伺っております。あの子ったら人里まで登っていってしまったのね。困った子だわ≫
「きっと自分の目で見て確かめたいと思われたのでしょうね。私にも三人の娘がいるので同じことで苦労したものです。子供とは親の願った通りに動かず、興味ある方へとズンズン進んでいってしまうもの」
≪ハヤテさんはね、僕たちより一つ上の世代の人なんだ≫
≪そう、ですのね。妾は父親を知らずに育ったので男性に対して恐怖しか抱かなかったのですが。アキカゼさんには失っていた父親像を抱かずにはいられません≫
「え、ではジーク氏は?」
≪彼女は女性ですよ。舐められない様にと随分と見た目を変えたそうですが。気がつきませんでした?≫
「女性でもマーマンになれるのですね。てっきり男がマーマンで女性がマーメイドかと」
≪そちらが主流なのは確かです。現に妾はマーメイドを選びましたから。結果進化の先にこの種族がありましたの。それにスズちゃんも女性なのにコレでしょう? このゲームでは男女の性差は微々たるものなのです≫
【魚の人ー、身内からコレ扱いされてるじゃん】
≪ふひひ≫
【あ、だめだ。この人反応を聞いて面白がってる】
【愉悦勢かな?】
【オツヒメさん普通に可愛いけどなぁ】
【可愛いと言うより可憐】
【分かる】
【可愛いだけじゃ女の競争に勝てないんやで】
【世知辛いなぁ】
≪配信と聞いて少し身を固くしておりましたが、温かいコメントが多くて少し困惑をしております。世界は妾が思っているよりもずっと暖かいのですね≫
≪いや、もっとドロドロしてるよ≫
≪そうなの?≫
≪そうそう。用水路のヘドロみたいにへばりついてくるの≫
≪それは嫌ですわ≫
【ほらー、オツヒメちゃん怖がっちゃったじゃん】
【魚の人サイテー】
「スズキさん、何も自ら泥を被らなくてもいいんですよ? 視聴者さんはスズキさんの言動に惑わされない様に。多分全部茶番です」
【なにーー】
【ひどいわ、弄んでいたのね!】
≪ふひひ、サーモン≫
「さて、冗談はさておき、ルアーさん、渡せるかどうかわかりませんが彼女にお返ししてください」
「おう」
今まで無言を貫いていたルアーさんとカイゼルさんが一歩前に歩く様に泳ぎ、詫びを入れる様に差し出した。
「すまねぇ、あんたのペットだと知らずに釣り上げた。でも釣るまでのバトルでこいつの生まれてきた環境、そして想いを竿を通して受け取ったつもりだ。こいつは強かったよ。なんとしても地上を見たいって気持ちが強かった。それを知りつつも俺は釣り上げちまった。本当にすまないことをしたと思ってる」
≪良いのです。地上の方。生きている限り生存競争の荒波に揉まれることもある。それはこの大海原でも共通のルール。むしろあなたの様な心清き方に釣り上げていただいてこの子も浮かばれることでしょう≫
あ、ルアーさんが近づいて、オツヒメさんがそれを受け取って理解した。
オツヒメさんのサイズ比がものすごくおかしい事になってる。
スズキさんはずっとこちら側にいたのだ。
なのにその場違いなスケールからオツヒメさんの近くにいるのだと錯覚してしまっていた。
オツヒメさんの差し伸べた指はルアーさんをつまむほどに大きかった。
恐怖に飲まれる様に顔面蒼白にするルアーさん。
それと同様に息を呑むカイゼルさん。
一瞬戦う想像でも思い浮かべたのか、しかしすぐに手は奥の方へと下がっていき、事なきを得る。
≪今、確かに亀吉の心に触れることができました。ありがとう、地上の方。慎ましやかで申し訳ありませんが宴を開きましょう。妾も久し振りに地上の話が聞きたいわ≫
≪じゃあ僕がハヤテさんについていって空に浮かぶ島々に行った時の話でもしようか≫
≪聞かせて聞かせて≫
【あれ、おかしいな目の錯覚かな?】
【一瞬オツヒメちゃんのスケールがおかしくなかったか?】
【ムーの巨人から見れば可愛いレベル】
【でもムーって海にもいたっけ?】
【大きくてもオツヒメちゃんは可愛い】
【可愛いは正義】
【可愛いは正義!】
【大きい乙姫様は解釈違いです】
【可愛い(ストロングスタイル)】
なんだかんだとコメント欄は盛り上がっている。
引きこもりというのだからどんな子なのかと思ったら、いい子じゃないか。
でもスズキさんの言葉を鵜呑みにしちゃう推しの弱さは、確かに強く出てくる人に場を譲ってしまう儚さがあった。
社会に出れば競争はつきものだ。
そこで彼女は挫折してしまったのだろう。
どんな経緯であれ、一度対人恐怖症に陥った彼女が心の拠り所を求めてゲームに引き篭もるのは致し方ない事なのかもね。
「少しハプニングは起きてしまいましたが、無事一件落着ですね」
「まだだ。まだシークレットクエストが終わってねぇ。今1/2から2/2にならず2/3になった。つまり別ルートに分岐した」
「判るんですか?」
「釣り一本で多くのシークレットを抜いた男だぜ、俺はよ。こういう変化をするときはとんでもない目玉クエストが潜んでる」
「それか何かの新情報ですかね」
「敵対か和解……和解ルートに進んだと思いたいですね」
「俺だってそう思いてーよ。だが寧ろここからが正念場だと思った方がいい。気ぃ張ってけよ、サブ、アキカゼさん」
「脅かさないでくださいよ。オツヒメさんは良い人ですよ」
「そう思ってない人が他にいる可能性は? 自閉症ってやつは自分で敵を作りあげると聞く。オツヒメ様の問題が解決してる様に見えて、一方で誰かの平穏が壊されて居たらどうだ?」
「あ、ジーク氏?」
ルアーさんは無言で頷いた。
考えすぎとも言い切れない。
引きこもりは共通の仲間を求めたがる。
そして同じ種族での仲間意識は殊更強い。
もしオツヒメさんを地上に連れ帰ったら?
彼女は一人ぼっちになる。
望んでいた環境とは大きく違う。
本当の意味での一人ぼっちに彼女の精神が耐え切れるかどうかか……確かにルアーさんの懸念も良くわかる。
「ジーク氏を探しましょう」
「そうした方がいい」
「俺が何か?」
探しに行こうとした矢先、マグロ頭のジーク氏が食事の皿を持って私達のもとにやってきて居た。
どうやら彼女は特に一人で行動して居たわけでもなく、食事の配膳のお手伝いをして居た様だ。
まさか本人に何か企んでますかと聞くわけにもいかず私達は不思議な色合いの飲み物を受け取った。
海の様に青い酒で乾杯し、私達はそれを飲み込んだ。
……飲み込んでしまった。
≪ふふふ。今日は三人も新しい仲間が増えてくれました。なんて良き日でしょう≫
<強制種族進化が発動しました>
<アキカゼ・ハヤテの種族が人間からマーマン/シーラカンスに変化しました>
<ルアーの種族が人間からマーマン/チョウチンアンコウに変化しました>
<カイゼルの種族が人間からマーマン/リュウグウノツカイに変化しました>
※強制種族進化はゲーム内時間で10日後に自動解除されます。
【ふぁーwww】
【玉手箱じゃ無いんだ】
【草】
【宴と称した仲間取り込みじゃねーか!】
【コレはひどい罠】
【やるなぁ、オツヒメちゃん】
≪ドッキリ大成功!!≫
【コレ仕込くさいなぁ】
【魚の人の仕業だな】
【コレは愉悦勢ですわ】
≪あの、ごめんなさい。本当はこの様な騙し討ちをするつもりはなくてですね……スズちゃんがどうしてもって言って聞かなくて≫
慌てふためくオツヒメさんのすぐ横でスズキさんのドヤ顔が炸裂する。
ずっとこのままだったらどうしようかと思ったけど、時間経過で治るんならまぁいいか。
むしろ魚人を楽しむいい機会だと思っておこうか。
≪まぁ、コレはコレでいい機会じゃないでしょうか?≫
≪だな。魚の気持ちを知るには実際に魚になった方が早い≫
≪どうして二人はそんなに立ち直り早いんですか?≫
≪なってしまったものは仕方ないよ。諦めよう、カイゼルさん。さてオツヒメさん、まさか宴は私達を水棲種族にしておしまいでは有りませんよね?≫
≪ええ、人間のままでは味わえないフルコースをご馳走してあげますよ≫
【ごめん、今なんて?】
【冒涜的な匂いがする】
【待って、待って。情報が追いつかない】
【ねぇ、オツヒメちゃんの種族ってもしかしなくても?】
≪ハイドラですけど?≫
【やばい】
【やばい】
【黄金都市が浮上するぞ!】
【ああ、窓に! 窓に!】
≪キャッキャ≫
【魚の人は元気だなぁ】
【実際幼馴染とノリノリでバカやれる機会はそうそう無い】
【圧倒的にやばいネタ言ってるけど、コレ例の神様が復活したとして勝てるの?】
【陣営に与してりゃ勝てるっしょー】
【古代獣がやばいのしかいないからあの神話の落とし児達が霞むんだよな】
【普通にあの神様達は真正面からは挑むもんじゃないんだけど】
【まぁ世界観違いますし】
【今更アトランティス大陸浮かんでもはいはい超技術すごいですねで片付ける俺たちがいる】
【あんまり脱線するなー】
【してるのは俺たちなんだよなー】
【余計な忖度は控えよう】
【いやぁ考察が捗る捗る】
【考察というより妄想では?】
【そうともいう】
そんな彼女の身を案じつつ、コメントを拾いながら雑談を続けること数分。
マグロマーマンのジーク氏がやってきて部屋に入ってヨシとの許可をくれた。
そろりと内側へ入り込むと、そこでは仲良さげに語り合うスズキさんと乙姫様と思しき方が談笑していた。
≪あ、ハヤテさん。乙姫さん、僕の幼馴染でした≫
「それは何ともすごい偶然ですね」
≪お初にお目にかかります、地上の方。妾を見てどう思われますでしょうか?≫
それはとてもストレートな質問。
人間的に見れば確かに悍ましい、受け入れられない部分はある。
しかしそれは人間の価値観を押し付けた場合だ。
上半身は人魚のように人でありながら、下半身は海の生き物を彷彿とさせる。
海月? いや、あの絡め取ってきそうな触腕は蛸そのものだ。
烏賊の様なスマートさより、蛸の持つ獰猛そうな金の瞳が特徴的。
瘤の様に突き出た蛸の頭部からは女性のラインが見えないふわりとしたスカートを穿いている。
そのオシャレへの気遣いは女性特有のものだ。
スズキさんはもっと見習った方がいいんじゃないかなと思ったのは秘密だ。
「そうですね、乙姫様が悩んだ末に今の形に落ち着かれたのでしたら私からは特に言うことはありません」
≪ね、ハヤテさんて僕のこの見た目でも全然平気なの≫
≪本当に奇特なお方。改めましてご挨拶いたします。妾は乙姫。オツヒメと読みます≫
「オツヒメさんと言うのですね? 私はアキカゼ・ハヤテ。スズキさんとはゲームを始めた当初、色々良くしてもらいました。ここに来たのは全くに偶然でしたが、この出会いに感謝します。そしてペットの亀吉君をお返ししに来ました」
≪ジークさんから伺っております。あの子ったら人里まで登っていってしまったのね。困った子だわ≫
「きっと自分の目で見て確かめたいと思われたのでしょうね。私にも三人の娘がいるので同じことで苦労したものです。子供とは親の願った通りに動かず、興味ある方へとズンズン進んでいってしまうもの」
≪ハヤテさんはね、僕たちより一つ上の世代の人なんだ≫
≪そう、ですのね。妾は父親を知らずに育ったので男性に対して恐怖しか抱かなかったのですが。アキカゼさんには失っていた父親像を抱かずにはいられません≫
「え、ではジーク氏は?」
≪彼女は女性ですよ。舐められない様にと随分と見た目を変えたそうですが。気がつきませんでした?≫
「女性でもマーマンになれるのですね。てっきり男がマーマンで女性がマーメイドかと」
≪そちらが主流なのは確かです。現に妾はマーメイドを選びましたから。結果進化の先にこの種族がありましたの。それにスズちゃんも女性なのにコレでしょう? このゲームでは男女の性差は微々たるものなのです≫
【魚の人ー、身内からコレ扱いされてるじゃん】
≪ふひひ≫
【あ、だめだ。この人反応を聞いて面白がってる】
【愉悦勢かな?】
【オツヒメさん普通に可愛いけどなぁ】
【可愛いと言うより可憐】
【分かる】
【可愛いだけじゃ女の競争に勝てないんやで】
【世知辛いなぁ】
≪配信と聞いて少し身を固くしておりましたが、温かいコメントが多くて少し困惑をしております。世界は妾が思っているよりもずっと暖かいのですね≫
≪いや、もっとドロドロしてるよ≫
≪そうなの?≫
≪そうそう。用水路のヘドロみたいにへばりついてくるの≫
≪それは嫌ですわ≫
【ほらー、オツヒメちゃん怖がっちゃったじゃん】
【魚の人サイテー】
「スズキさん、何も自ら泥を被らなくてもいいんですよ? 視聴者さんはスズキさんの言動に惑わされない様に。多分全部茶番です」
【なにーー】
【ひどいわ、弄んでいたのね!】
≪ふひひ、サーモン≫
「さて、冗談はさておき、ルアーさん、渡せるかどうかわかりませんが彼女にお返ししてください」
「おう」
今まで無言を貫いていたルアーさんとカイゼルさんが一歩前に歩く様に泳ぎ、詫びを入れる様に差し出した。
「すまねぇ、あんたのペットだと知らずに釣り上げた。でも釣るまでのバトルでこいつの生まれてきた環境、そして想いを竿を通して受け取ったつもりだ。こいつは強かったよ。なんとしても地上を見たいって気持ちが強かった。それを知りつつも俺は釣り上げちまった。本当にすまないことをしたと思ってる」
≪良いのです。地上の方。生きている限り生存競争の荒波に揉まれることもある。それはこの大海原でも共通のルール。むしろあなたの様な心清き方に釣り上げていただいてこの子も浮かばれることでしょう≫
あ、ルアーさんが近づいて、オツヒメさんがそれを受け取って理解した。
オツヒメさんのサイズ比がものすごくおかしい事になってる。
スズキさんはずっとこちら側にいたのだ。
なのにその場違いなスケールからオツヒメさんの近くにいるのだと錯覚してしまっていた。
オツヒメさんの差し伸べた指はルアーさんをつまむほどに大きかった。
恐怖に飲まれる様に顔面蒼白にするルアーさん。
それと同様に息を呑むカイゼルさん。
一瞬戦う想像でも思い浮かべたのか、しかしすぐに手は奥の方へと下がっていき、事なきを得る。
≪今、確かに亀吉の心に触れることができました。ありがとう、地上の方。慎ましやかで申し訳ありませんが宴を開きましょう。妾も久し振りに地上の話が聞きたいわ≫
≪じゃあ僕がハヤテさんについていって空に浮かぶ島々に行った時の話でもしようか≫
≪聞かせて聞かせて≫
【あれ、おかしいな目の錯覚かな?】
【一瞬オツヒメちゃんのスケールがおかしくなかったか?】
【ムーの巨人から見れば可愛いレベル】
【でもムーって海にもいたっけ?】
【大きくてもオツヒメちゃんは可愛い】
【可愛いは正義】
【可愛いは正義!】
【大きい乙姫様は解釈違いです】
【可愛い(ストロングスタイル)】
なんだかんだとコメント欄は盛り上がっている。
引きこもりというのだからどんな子なのかと思ったら、いい子じゃないか。
でもスズキさんの言葉を鵜呑みにしちゃう推しの弱さは、確かに強く出てくる人に場を譲ってしまう儚さがあった。
社会に出れば競争はつきものだ。
そこで彼女は挫折してしまったのだろう。
どんな経緯であれ、一度対人恐怖症に陥った彼女が心の拠り所を求めてゲームに引き篭もるのは致し方ない事なのかもね。
「少しハプニングは起きてしまいましたが、無事一件落着ですね」
「まだだ。まだシークレットクエストが終わってねぇ。今1/2から2/2にならず2/3になった。つまり別ルートに分岐した」
「判るんですか?」
「釣り一本で多くのシークレットを抜いた男だぜ、俺はよ。こういう変化をするときはとんでもない目玉クエストが潜んでる」
「それか何かの新情報ですかね」
「敵対か和解……和解ルートに進んだと思いたいですね」
「俺だってそう思いてーよ。だが寧ろここからが正念場だと思った方がいい。気ぃ張ってけよ、サブ、アキカゼさん」
「脅かさないでくださいよ。オツヒメさんは良い人ですよ」
「そう思ってない人が他にいる可能性は? 自閉症ってやつは自分で敵を作りあげると聞く。オツヒメ様の問題が解決してる様に見えて、一方で誰かの平穏が壊されて居たらどうだ?」
「あ、ジーク氏?」
ルアーさんは無言で頷いた。
考えすぎとも言い切れない。
引きこもりは共通の仲間を求めたがる。
そして同じ種族での仲間意識は殊更強い。
もしオツヒメさんを地上に連れ帰ったら?
彼女は一人ぼっちになる。
望んでいた環境とは大きく違う。
本当の意味での一人ぼっちに彼女の精神が耐え切れるかどうかか……確かにルアーさんの懸念も良くわかる。
「ジーク氏を探しましょう」
「そうした方がいい」
「俺が何か?」
探しに行こうとした矢先、マグロ頭のジーク氏が食事の皿を持って私達のもとにやってきて居た。
どうやら彼女は特に一人で行動して居たわけでもなく、食事の配膳のお手伝いをして居た様だ。
まさか本人に何か企んでますかと聞くわけにもいかず私達は不思議な色合いの飲み物を受け取った。
海の様に青い酒で乾杯し、私達はそれを飲み込んだ。
……飲み込んでしまった。
≪ふふふ。今日は三人も新しい仲間が増えてくれました。なんて良き日でしょう≫
<強制種族進化が発動しました>
<アキカゼ・ハヤテの種族が人間からマーマン/シーラカンスに変化しました>
<ルアーの種族が人間からマーマン/チョウチンアンコウに変化しました>
<カイゼルの種族が人間からマーマン/リュウグウノツカイに変化しました>
※強制種族進化はゲーム内時間で10日後に自動解除されます。
【ふぁーwww】
【玉手箱じゃ無いんだ】
【草】
【宴と称した仲間取り込みじゃねーか!】
【コレはひどい罠】
【やるなぁ、オツヒメちゃん】
≪ドッキリ大成功!!≫
【コレ仕込くさいなぁ】
【魚の人の仕業だな】
【コレは愉悦勢ですわ】
≪あの、ごめんなさい。本当はこの様な騙し討ちをするつもりはなくてですね……スズちゃんがどうしてもって言って聞かなくて≫
慌てふためくオツヒメさんのすぐ横でスズキさんのドヤ顔が炸裂する。
ずっとこのままだったらどうしようかと思ったけど、時間経過で治るんならまぁいいか。
むしろ魚人を楽しむいい機会だと思っておこうか。
≪まぁ、コレはコレでいい機会じゃないでしょうか?≫
≪だな。魚の気持ちを知るには実際に魚になった方が早い≫
≪どうして二人はそんなに立ち直り早いんですか?≫
≪なってしまったものは仕方ないよ。諦めよう、カイゼルさん。さてオツヒメさん、まさか宴は私達を水棲種族にしておしまいでは有りませんよね?≫
≪ええ、人間のままでは味わえないフルコースをご馳走してあげますよ≫
【ごめん、今なんて?】
【冒涜的な匂いがする】
【待って、待って。情報が追いつかない】
【ねぇ、オツヒメちゃんの種族ってもしかしなくても?】
≪ハイドラですけど?≫
【やばい】
【やばい】
【黄金都市が浮上するぞ!】
【ああ、窓に! 窓に!】
≪キャッキャ≫
【魚の人は元気だなぁ】
【実際幼馴染とノリノリでバカやれる機会はそうそう無い】
【圧倒的にやばいネタ言ってるけど、コレ例の神様が復活したとして勝てるの?】
【陣営に与してりゃ勝てるっしょー】
【古代獣がやばいのしかいないからあの神話の落とし児達が霞むんだよな】
【普通にあの神様達は真正面からは挑むもんじゃないんだけど】
【まぁ世界観違いますし】
【今更アトランティス大陸浮かんでもはいはい超技術すごいですねで片付ける俺たちがいる】
【あんまり脱線するなー】
【してるのは俺たちなんだよなー】
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