【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
307 / 497
4章 お爺ちゃんと生配信

269.お爺ちゃんと釣り人の集い①

しおりを挟む
「こんにちは、アキカゼです」

【お、来た来た】
【配信お疲れ様です】
【タイトルで釣りと見えたので寄りました】
【釣りwww】
【何を釣り上げるんでしょうね?】
【今からワクワクが止まらないぜ】


 場所はファイべリオンの灯台近く。
 ここで今回お尋ねするプレイヤーと落ち合う約束をしていました。前方には数人で海に向かって竿を振る人達。
 共通して人間のプレイヤーさんです。
 装備からグッズまで相当拘りが見えますね。
 リアルの釣り人と遜色ない装いです。
 近づき、声をかける。ここまでが事前打ち合わせしていた前振りだったりする。


「こんにちわ、釣れますか?」

「そうだねぇ」


 カメラをバケツに向けると、中には小魚が数匹映っている。
 お世辞にも大漁とは言い難い。
 のんびりとした空気が、青い空、白い雲と釣りを嗜むプレイヤーさんをたっぷりと映し込んでから茶番を終了させる。



「はい、と言うわけで今回一緒に遊んでくれるのはこちらの釣り人の集いの皆さんです。皆さんと言ってもまだ二人しかいないんですけど、私が入れば三人目ですね」

【草】
【アキカゼさん釣りもするのか】

「した事はないですけど面白そうですよね」

【ないのかよ!】
【何故選んだしwww】

「一応発起人のルアーだ。基本的には沖釣りをメインにしてるが川も船もやってる」

「実はルアーさんとは以前からお付き合いしてまして」

「その言い方は語弊があるぜアキカゼさん。単にアキカゼさんが俺のブログのファンだってだけだよな?」

「そうなんですよ。私がブログを書く前から一定数のプレイヤーから評価を得ていたブログが彼のだったんです。当時はROM専で読むだけだったんですが、まるで一緒に釣りしてる気分になりまして、いつの間にかコメントを送ってた次第です」

「俺としても驚いてるのよ。昔からのファンがあの有名人だと知った時は目ん玉が飛び出るかと思ったぜ。んまぁ、人柄は知ってたし、今回の配信企画もおもしれぇと洒落で応募したがまさかの当選だ。なぁ、サブ?」

「ルアーさん、俺はサブじゃないって何度言えばわかってくれるんです?」

「良いじゃねぇかよ。俺とお前しかいねぇんだ。呼ばれてるのが誰だかわかれば問題ねぇよ」

【草】
【また濃い人が出てきたなー】
【その道じゃ有名人だよ、ルアーさん】
【そうなの?】
【魚系の素材はほとんどこの人が釣りあげて提供してる】
【その情報で儲けたりは?】
【特にしてないよ】

「アホか、俺は稼ぎたくて釣りをしてるんじゃねぇ! そこにどんなものが潜んでるのか知りたくて竿を垂らすのよ。そん為の努力は惜しまねー人間だぜ? 俺はよ」

「そのくせ俺に仕事押し付けるじゃないですか」

「ばっか、オメー。俺とお前しか居ねーんだから仕事は協力してやるもんだろ? 分担作業ってやつだよ!」

「ものは言い様ですね」

「まぁまぁ、カイゼルさんもその辺で」

「うぅ、ようやくまともに名前を呼んでくれる人が来てくれたぁ!」

【? ……カイゼル!? なんでこの人釣りしてるんだ!?】

「趣味だぞ?」

【誰? 有名な人?】
【クラン迫真武侠のクラマス】
【おい、シェリルとタメ張る上位クランじゃねーか!】
【そういやサブマスばっかり目立っててマスター見ないなと思ってた。ほんと何してんだこの人www】

「元々俺はソロだったんだけどさ、フレンドが集まるためにクランつくろうって話になって、その時一番派生数が多くてランクの高い俺が抜擢されたわけだ。ぶっちゃけサブマスがマスターみたいなもんだぞ、と」


 カイゼルさんは引いていた糸を少しずつリールで巻いて、魚との駆け引きを楽しんでいる。
 釣りの楽しさはどの程度攻め込むか、魚を疲れさせるかにある。弱ったところを一気に攻めるのが常套手段ではあるが、あえて魚を自由にさせるのも駆け引きの一つだったりする。
 数分の間の攻防を制したのはカイゼルさんだった。
 ルアーさんより一回り大きな魚を釣り上げて定規を添える。
 どうやら大きさを測ってるらしい。


「21センチか。記録更新とは行かずだな」

「離してしまうんですか?」

「ああ、別に食うわけじゃないし。ルアーさんも釣りそのものを楽しんでるからボウズでも問題ないんだ。その点は気が楽だよ」

「あったりめぇよ。釣りってのは魚と人間の魂のぶつかり合いなんでぇ。真剣勝負の後は次はもっと腕を磨いてこいよと離してやる。俺ぁ別にそいつらを絶滅させたいわけじゃあねぇからよ」

【時間の無駄遣い過ぎない?】
【得られるものが何もないのは流石に】
【せめて釣ったものは食べようぜ】

「食う分は残しとくぞ。サブが釣ったのは身が細くて食い出がねぇやつだな。それと骨が硬くて喉に刺さる。どの道食うのに向いてねぇのよ」

「だからサブじゃないですって」

「それでルアーさん。私用の竿を用意してくれるとのことでしたが」

「ああ、ちょいと待ってな。いくつか出す。竿そのものは自作でな。そもそも投網漁が盛んな場所で釣りそのものが流行ってなくてよ。俺の背丈に合わせたものしか置いてねぇ。軽く降って自分に合うのを見つけてくれ」

「分かりました。釣った魚はどうしましょう?」

「釣りはそう甘くねぇぜ? もし釣れたんなら俺のバケツを貸してやらぁ」

「では早速餌を」

「餌なんかねぇぞ?」

「あれ? じゃあ何に食いつくんですか?」

「こいつよ」


 そう言って手渡されたのがルアーだった。
 初心者が初っ端からルアーとはこれまた敷居が高い。
 それともオキアミの様な虫が存在してないから餌を作り様がなかったりするんだろうか?
 全てが謎である。


「まぁ頑張んな。そいつを生きてる様に動かしてようやく一丁前だからな」

「はい」

【ふぁーwww】
【初心者になんつう無理強いをwww】
【そもそも好き好んで釣りしにくる時点で同類だろ?】
【それはそう】
【それでもアキカゼさんなら釣ってくれると信じてる】



 それから10分が経過した。
 相変わらず糸が引く反応が見られない。
 その横でひょいひょい魚を釣り上げていく二人組。
 さすがこの道のベテランなだけある。
 沈黙が非常に気まずい。


「どうも場所が悪い様だ」

「そう言う時もあらぁ。気が済むまで場所を変えて竿を垂らす。誰もが通る道だな」

「精進します」


 それから十数分。
 誰も何も喋らない時間が続く。
 そこでふと見たことのある顔と目があった。

 あれ?
 なんでこの人ここにいるんだろう?


「スズキさんですよね? なんでそこに居るんです? 気が散るので浮いたり沈んだりするのやめてください」


 しかも微妙に糸の届かない距離に居る。


【草】
【ほんとだ、魚の人居た】
【見るに見かねて釣られにきたのかな?】
【釣り上げられるか? 2mはあるぞ?】
【真っ赤だからすっげー目立つwww】

「なんだ、アキカゼさんの知り合いか。見ない種類だから久々に血が騒いだが」

「クラメンさんなんですよ。不定期ログイン中でして。まだ安定期だと聞かないのに何しにきたんだろう」

「見学しに。特等席ですよ」

「いや、真正面から恥ずかしい場面見られるのは耐えられないのでやめてくださいよ」

「そうですか? じゃあ」


 どっこいしょ、と言いながら防波堤に登ってくる。


「お邪魔します。横で見るなら良いですよね?」

【何事もなく肺呼吸するな】
【ほんと謎の生態系してるよな】
【知らなかった、サハギンて正座できるのな】

「できるでしょ、スズキさんは背泳ぎも得意だよ。ね?」

「はい。久しぶりに見せましょうか?」

「お、視聴者のみなさん、スクリーンショットのチャンスですよ? あいにくと私はルアーを動かすのに忙しいので後は貴方たちに任せます」


 スズキさんが水泳選手の様にざぶんと海の中に飛び込み、カメラの左側に浮き出ると、器用に背泳ぎし出してコメントを稼いでいた。やはり彼女の存在は貴重だな。
 こうやって体を張った芸風で私を影から助けてくれる。
 本当、無理しないでよ?
 もう君だけの体じゃないんだから。

 それでもその気持ちが嬉しかった。
 私はクラメンさんに恵まれたな。彼女のためにもヒットさせて見せなければ、ね。
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...