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4章 お爺ちゃんと生配信
264.お爺ちゃんと寄せ集め連合②
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今回挑戦するのは鉱脈都市フォークロアの地下に広がるダンジョンの隠し通路の奥から始まる。
ファイべリオンが海上都市なのに対しフォークロアは山を削り出した鉱脈の中に町がある。
まっすぐに進むとファイべリオンに続く道へ着き、階段を降りるとダンジョンという変わった立地だ。
ジャスミン氏曰く、今回の探索での肝はダンジョン内ではなく、ギルドの常駐クエストからの派生らしい。
つまりはファストリアと同じギミックが眠っているのだろう。
敵の勢力の一部を捕獲し、動力の一部として作動、弱体化させるギミックが。
「やはりチェーンクエストでしたか?」
「ええ。時間効率と報酬の採算が合わないクエストはチェーンクエストの可能性大ですね。フレンドが以前アキカゼさんの手記を手に入れる機会がありまして。それを特別に閲覧する機会に恵まれたんです。当時の私は夢中になって読みましたね。そこで他の街でもこういう落とし穴がないかと思って探してましたら……」
「それをフォークロアで見つけた?」
「はい」
ジャスミン氏は確信を持って応えた。
「こちらです」
そこはどうみても通常の入り口ではない。
壁に落書きのような文字が描かれており、ドアノブらしきものがついていた。そこを捻ると普通の扉のように開いてしまう。
きっとこれは特定のフレーバーを集めたものにのみ許される恩恵だろう。私では無理と分かっていながら尋ねてみる。
「ここは?」
「ノッカーの通用路。フレーバーを手にした者のみが開くことができるそうです。ただ開けるだけで、何人でも通れるので別にわざわざパーティを組む必要はないみたいです」
手招きに応じて私が先に入り込み、最後にジャスミン氏が扉を閉めると扉が壁と一体化したように反応しなくなった。
「中は意外と明るいんですね」
「天然の光苔をノッカー達が運用しているらしくて。光源は安定してます。こちらです」
ジャスミンさんの足取りは何度もここに通っているのだろう、淀みなく特定のルートへと辿り着く。
何度も隠し通路を通って。
「ジャスミンさん、あなたのナビゲートフェアリーはもしかして?」
「ああ、はい。最大値が見える奴ですよ。私の役割はこれと戦闘ぐらいでして」
「あるとないとでは大きく差が出ますもんね」
「ええ。それと夜目も利くのでハーフビーストでも探索はできるのだなと最近になって知りました。と、ここを右です」
何もない広大な空間。
ジャスミンさんは突然そんなことを言って何かを探すように周囲を見回し、それを辿って足を早める。
ここまで私は一切役に立ってない。
流石は独力で解決した人たちだ。
「さてこの階段を上り切るととある山の頂上に出ます。そして見下ろした先にあるのが……」
「イベントトリガーだったと?」
「はい」
「ジャスミンさん達は発掘しただけですか? 挑戦は?」
「流石に多くのプレイヤーを巻き込んでまで開始はできませんよ。古代獣討伐令は幸にしてイベントトリガーの発掘だけで挑戦権が得られます。それだけでも十分です」
そう言いながらも何処か悔しそうに俯いている。
きっかけが欲しいのだ。
あと一歩踏み出すきっかけが。
イベントを発動した後に被害を少なく済ませられる程の確定的な何かが。
それを見つけてから挑戦したって遅くないとその目が物語っている。
「うん、分かった。じゃあ私は君たちに少しアドバイスを与えよう。行動指針を左右するものではないけど、そうだなぁ。君達がより前向きになれる言葉だ」
村正君を除く全員が息を飲む。彼女は黙して語らず……胸の前で腕を組み、鼻ちょうちんを膨らませて寝ていた。
……自由だなぁ。けどその豪胆さは見習えるものだ。
「今君たちの目の前にある暗闇は誰の手も届いてない未知の情報媒体だ。それを解析し、改名する権利は君たちの手にかかっている。君達に足りてないのは探検する心構えでも、戦闘力でもない。ただ一つ。気持ちだ。謎を解明してやろうと言う意欲が不安を消し、一歩前に出る力になる。誰だって最初の一歩はすごく不安だ。私だって例外じゃない。踏み出すまでが長く、しかし踏み出して仕舞えば後に引けないと気持ちが体を前に推し進める。ほら、不思議と不安が消えてきただろう? 未知と言うのは知らないからこその不安。失敗してしまうかもと言う恐れを内包している。しかし失敗は恥じゃないと自分に言い聞かせればそれはなんの枷でもなくなる。他の誰かが君たちの行動を無駄だと言っても、君たちはその言葉に惑わされてはいけないよ。だってもう歩み始めてしまったんだから。途中で放り投げてしまうのはとても簡単だ。しかし気になって気になってしょうがなくなる。寝ても覚めてもあの時こうしていればと常日頃考えてしまうようになる。私がそうだったように、今の君たちにも似たような状態に陥っている事だろう。さて……君達はどうする?」
「前に進む。何度も壁にぶつかりながら試行錯誤し、それでも手がかりを一つづつ集める。その先に何もなくても、誰のためにならなくても、やり切ったと言う達成感のために動く。そう言う事なんですね?」
「そうだね。社会に出ると仕事の延長に結果が付き纏う。しかし探索において結果は常について回るものではない。私はそうだね、運が良かった。それだけさ」
「強運も悪運もひっくるめて呼び込んでいる気がしますけどね?」
「これは一本取られたな。周りから理解されない。時間を無駄にしている。なんの意味もない。趣味ってそう言うものでしょ? そこに打ち込める何かがあったら前のめりになっちゃう。探索も同じだよ。私は特にこれといったこだわりはないけどね」
「勉強になります。私達もないない尽くしでお手上げだった事なんてしょっちゅうで」
「そう言う時に励ましてくれたのが村正なんだよな」
「ハッ、寝てなどおらんぞ!!!!」
「寝てたよね? ガッツリ」
「貴様!! 武士がいつどこから敵が襲ってくるかわからぬ場所で寝るわけがなかろう!! そっ首切り落としてくれるわ!!」
「ちなみにこれが照れ隠しです」
「照れてなどおらんわ」
この空気を読まない個性の強さがあらゆる不安を吹き飛ばしてくれたのだろう。ジャスミンさんやモーバ君も彼女の自由な行動力を前に自然と笑顔になっていた。
こんな寄せ集めで協調性も皆無だからこそ、生まれる輪もあるんだなと教わった気がした。
「さて諸君。ここまでの通り道、怪しいと思ったところは全て探し尽くしたと確信を持って言えるかな?」
私は手を叩いて彼らの意識をこちらに集中させると、本題に切り替えた。
「怪しい場所ですか? 調べられる範囲は全て調べましたが」
「本当でしょうか? あまりにも暗すぎてそこは探すだけ無駄だと意識的に見落としてる場所がないでしょうか?」
「場所? ……暗い……あ! 天井?」
「ビンゴです。私は道中で誰も天井を見上げてないのが不思議で仕方ありませんでした。どうして? 何故? 光源があったのにも関わらず天井は闇に覆われていたのでしょうか?」
「言いたいことはわかります。しかし光苔の光源で映し出せる範囲には限界が……」
「そうです。限界があります。ではその限界が意図的に作られていたとしたら?」
「……そう言うことか! つまりこの光苔そのものが意識を誘導させるものだった。完全に意識から抜け落ちていたな。オメガキャノン! 天井に光源を作れるか?」
「一応フラッシュバンのスクロールはありますよ」
「ならばそれをぶっ放せ」
「オーケーボス」
私達は気を逸らせるように階段を降り、そして闇に閉ざされた天井を自称生産職のオメガキャノン氏の大砲でぶっ放した。
天井に向かって放たれる光は極光となり、何かを強く反射させる。そこにあったのが──
「ジャスミンさん!」
「ああ、捉えた。村正、今だ。でかいのをお見舞いしてやれ」
天井には何かのスイッチと思しきものがあった。
しかし空を飛ばねば届かぬ距離。
私が行けば簡単だが、それでは何の経験にはならない。
しかしジャスミンさんの指示は迅速で、すでに行動に出ている村正君も流石だった。
「委細承知。唸れ剣閃! 新陰流二の型、カマイタチ!!」
ギリギリと弓を引き絞る様に体を捻り、左手に添えた鞘から刀を引き抜く村正君。その神速の抜刀から真空刃が飛び出し、天井にあるスイッチを台座もろとも粉砕した!!
「我が新陰流は最強無敵!! あの様なスイッチなどひとたまりもないわ!!」
「バカ!! 押すだけで良かったんだ。壊してどうする!!」
ワーッハッハッハッハと大声で喜びをあらわにする村正くんの頭頂部にジャスミンさんのゲンコツが落っこちた。
「ボス、何処かから地響きが聞こえてきませんか?」
大砲生産職のオメガキャノン氏が耳に手を当てて呼び止める。
確かにゴゴゴゴゴ……と言う音が聞こえてきた様な。
「あ、天井こっちに落ちてきてますね。逃げましょう」
のんびりとした声で、目元をピカッと光らせた自称魔法特化の陸ルート氏がボソボソと小声で喋った。
「だーーーーっ、もっと大声で喋れよお前!! オラ逃げんぞ撤収!!!!」
モーバ君が舵取りし、大声で笑いながらも頭にたんこぶを作って半泣きしてる村正君を抱えて撤収を開始する。
いつもこうなのだろう様子がありありと思い浮かんだ。
先頭はジャスミンさん。後に続いてモーバ君、オメガキャノン氏、陸ルート氏、そして今の今までずっと無口だった眼鏡キャラのパスカル氏が私と一緒に例のイベントトリガーを見下ろす形で発見する頂上への階段を駆け上がる。
天井が崩れ落ちる崩壊の波は下の階段を崩し始め、私たちに迫ってきた。
ドミノ板が崩れる様に階段の支柱が折れ、私達は命からがら頂上へと辿り着く。
その先には、例の卵ともう一つ、また違う景色が映り込んでいた。
先程のスイッチがこの景色を作り出した要因だとするならば……
「アレが新しい探索場所ですかね?」
「でしょうね。ちょうどここから降りられるようです」
崩れた瓦礫が降り階段の様に下に向かって伸びている。
天井が崩れた後に広がっていたのは落ち窪んだ山。
しかしその奥には明らかに人の手が入った様な形跡があった。
古代遺跡。どの陣営が絡んでいるかはわからないけど、ノッカーの築き上げたものとは程遠い、科学技術が施されている。
本当の仕掛けはこの先にあると本能が告げていた。
お陰でコメント欄はやけに騒がしい。
また私が関与してフラグ立てたなどの憶測が飛び交うが、実際私はヒントを与えただけだ。
それに気づき実行したのはジャスミンさんとその仲間たち。
私はそれを配信を通して視聴者に伝えていただけに過ぎない。
でも視聴者達は私をいつもの癖でついついヨイショしてしまう。そういう流れが出来てしまっているのは事実だけど、少し面映い。
この場面が今見れているのは紛れもなく彼らの実力あってのものなのにね。
ファイべリオンが海上都市なのに対しフォークロアは山を削り出した鉱脈の中に町がある。
まっすぐに進むとファイべリオンに続く道へ着き、階段を降りるとダンジョンという変わった立地だ。
ジャスミン氏曰く、今回の探索での肝はダンジョン内ではなく、ギルドの常駐クエストからの派生らしい。
つまりはファストリアと同じギミックが眠っているのだろう。
敵の勢力の一部を捕獲し、動力の一部として作動、弱体化させるギミックが。
「やはりチェーンクエストでしたか?」
「ええ。時間効率と報酬の採算が合わないクエストはチェーンクエストの可能性大ですね。フレンドが以前アキカゼさんの手記を手に入れる機会がありまして。それを特別に閲覧する機会に恵まれたんです。当時の私は夢中になって読みましたね。そこで他の街でもこういう落とし穴がないかと思って探してましたら……」
「それをフォークロアで見つけた?」
「はい」
ジャスミン氏は確信を持って応えた。
「こちらです」
そこはどうみても通常の入り口ではない。
壁に落書きのような文字が描かれており、ドアノブらしきものがついていた。そこを捻ると普通の扉のように開いてしまう。
きっとこれは特定のフレーバーを集めたものにのみ許される恩恵だろう。私では無理と分かっていながら尋ねてみる。
「ここは?」
「ノッカーの通用路。フレーバーを手にした者のみが開くことができるそうです。ただ開けるだけで、何人でも通れるので別にわざわざパーティを組む必要はないみたいです」
手招きに応じて私が先に入り込み、最後にジャスミン氏が扉を閉めると扉が壁と一体化したように反応しなくなった。
「中は意外と明るいんですね」
「天然の光苔をノッカー達が運用しているらしくて。光源は安定してます。こちらです」
ジャスミンさんの足取りは何度もここに通っているのだろう、淀みなく特定のルートへと辿り着く。
何度も隠し通路を通って。
「ジャスミンさん、あなたのナビゲートフェアリーはもしかして?」
「ああ、はい。最大値が見える奴ですよ。私の役割はこれと戦闘ぐらいでして」
「あるとないとでは大きく差が出ますもんね」
「ええ。それと夜目も利くのでハーフビーストでも探索はできるのだなと最近になって知りました。と、ここを右です」
何もない広大な空間。
ジャスミンさんは突然そんなことを言って何かを探すように周囲を見回し、それを辿って足を早める。
ここまで私は一切役に立ってない。
流石は独力で解決した人たちだ。
「さてこの階段を上り切るととある山の頂上に出ます。そして見下ろした先にあるのが……」
「イベントトリガーだったと?」
「はい」
「ジャスミンさん達は発掘しただけですか? 挑戦は?」
「流石に多くのプレイヤーを巻き込んでまで開始はできませんよ。古代獣討伐令は幸にしてイベントトリガーの発掘だけで挑戦権が得られます。それだけでも十分です」
そう言いながらも何処か悔しそうに俯いている。
きっかけが欲しいのだ。
あと一歩踏み出すきっかけが。
イベントを発動した後に被害を少なく済ませられる程の確定的な何かが。
それを見つけてから挑戦したって遅くないとその目が物語っている。
「うん、分かった。じゃあ私は君たちに少しアドバイスを与えよう。行動指針を左右するものではないけど、そうだなぁ。君達がより前向きになれる言葉だ」
村正君を除く全員が息を飲む。彼女は黙して語らず……胸の前で腕を組み、鼻ちょうちんを膨らませて寝ていた。
……自由だなぁ。けどその豪胆さは見習えるものだ。
「今君たちの目の前にある暗闇は誰の手も届いてない未知の情報媒体だ。それを解析し、改名する権利は君たちの手にかかっている。君達に足りてないのは探検する心構えでも、戦闘力でもない。ただ一つ。気持ちだ。謎を解明してやろうと言う意欲が不安を消し、一歩前に出る力になる。誰だって最初の一歩はすごく不安だ。私だって例外じゃない。踏み出すまでが長く、しかし踏み出して仕舞えば後に引けないと気持ちが体を前に推し進める。ほら、不思議と不安が消えてきただろう? 未知と言うのは知らないからこその不安。失敗してしまうかもと言う恐れを内包している。しかし失敗は恥じゃないと自分に言い聞かせればそれはなんの枷でもなくなる。他の誰かが君たちの行動を無駄だと言っても、君たちはその言葉に惑わされてはいけないよ。だってもう歩み始めてしまったんだから。途中で放り投げてしまうのはとても簡単だ。しかし気になって気になってしょうがなくなる。寝ても覚めてもあの時こうしていればと常日頃考えてしまうようになる。私がそうだったように、今の君たちにも似たような状態に陥っている事だろう。さて……君達はどうする?」
「前に進む。何度も壁にぶつかりながら試行錯誤し、それでも手がかりを一つづつ集める。その先に何もなくても、誰のためにならなくても、やり切ったと言う達成感のために動く。そう言う事なんですね?」
「そうだね。社会に出ると仕事の延長に結果が付き纏う。しかし探索において結果は常について回るものではない。私はそうだね、運が良かった。それだけさ」
「強運も悪運もひっくるめて呼び込んでいる気がしますけどね?」
「これは一本取られたな。周りから理解されない。時間を無駄にしている。なんの意味もない。趣味ってそう言うものでしょ? そこに打ち込める何かがあったら前のめりになっちゃう。探索も同じだよ。私は特にこれといったこだわりはないけどね」
「勉強になります。私達もないない尽くしでお手上げだった事なんてしょっちゅうで」
「そう言う時に励ましてくれたのが村正なんだよな」
「ハッ、寝てなどおらんぞ!!!!」
「寝てたよね? ガッツリ」
「貴様!! 武士がいつどこから敵が襲ってくるかわからぬ場所で寝るわけがなかろう!! そっ首切り落としてくれるわ!!」
「ちなみにこれが照れ隠しです」
「照れてなどおらんわ」
この空気を読まない個性の強さがあらゆる不安を吹き飛ばしてくれたのだろう。ジャスミンさんやモーバ君も彼女の自由な行動力を前に自然と笑顔になっていた。
こんな寄せ集めで協調性も皆無だからこそ、生まれる輪もあるんだなと教わった気がした。
「さて諸君。ここまでの通り道、怪しいと思ったところは全て探し尽くしたと確信を持って言えるかな?」
私は手を叩いて彼らの意識をこちらに集中させると、本題に切り替えた。
「怪しい場所ですか? 調べられる範囲は全て調べましたが」
「本当でしょうか? あまりにも暗すぎてそこは探すだけ無駄だと意識的に見落としてる場所がないでしょうか?」
「場所? ……暗い……あ! 天井?」
「ビンゴです。私は道中で誰も天井を見上げてないのが不思議で仕方ありませんでした。どうして? 何故? 光源があったのにも関わらず天井は闇に覆われていたのでしょうか?」
「言いたいことはわかります。しかし光苔の光源で映し出せる範囲には限界が……」
「そうです。限界があります。ではその限界が意図的に作られていたとしたら?」
「……そう言うことか! つまりこの光苔そのものが意識を誘導させるものだった。完全に意識から抜け落ちていたな。オメガキャノン! 天井に光源を作れるか?」
「一応フラッシュバンのスクロールはありますよ」
「ならばそれをぶっ放せ」
「オーケーボス」
私達は気を逸らせるように階段を降り、そして闇に閉ざされた天井を自称生産職のオメガキャノン氏の大砲でぶっ放した。
天井に向かって放たれる光は極光となり、何かを強く反射させる。そこにあったのが──
「ジャスミンさん!」
「ああ、捉えた。村正、今だ。でかいのをお見舞いしてやれ」
天井には何かのスイッチと思しきものがあった。
しかし空を飛ばねば届かぬ距離。
私が行けば簡単だが、それでは何の経験にはならない。
しかしジャスミンさんの指示は迅速で、すでに行動に出ている村正君も流石だった。
「委細承知。唸れ剣閃! 新陰流二の型、カマイタチ!!」
ギリギリと弓を引き絞る様に体を捻り、左手に添えた鞘から刀を引き抜く村正君。その神速の抜刀から真空刃が飛び出し、天井にあるスイッチを台座もろとも粉砕した!!
「我が新陰流は最強無敵!! あの様なスイッチなどひとたまりもないわ!!」
「バカ!! 押すだけで良かったんだ。壊してどうする!!」
ワーッハッハッハッハと大声で喜びをあらわにする村正くんの頭頂部にジャスミンさんのゲンコツが落っこちた。
「ボス、何処かから地響きが聞こえてきませんか?」
大砲生産職のオメガキャノン氏が耳に手を当てて呼び止める。
確かにゴゴゴゴゴ……と言う音が聞こえてきた様な。
「あ、天井こっちに落ちてきてますね。逃げましょう」
のんびりとした声で、目元をピカッと光らせた自称魔法特化の陸ルート氏がボソボソと小声で喋った。
「だーーーーっ、もっと大声で喋れよお前!! オラ逃げんぞ撤収!!!!」
モーバ君が舵取りし、大声で笑いながらも頭にたんこぶを作って半泣きしてる村正君を抱えて撤収を開始する。
いつもこうなのだろう様子がありありと思い浮かんだ。
先頭はジャスミンさん。後に続いてモーバ君、オメガキャノン氏、陸ルート氏、そして今の今までずっと無口だった眼鏡キャラのパスカル氏が私と一緒に例のイベントトリガーを見下ろす形で発見する頂上への階段を駆け上がる。
天井が崩れ落ちる崩壊の波は下の階段を崩し始め、私たちに迫ってきた。
ドミノ板が崩れる様に階段の支柱が折れ、私達は命からがら頂上へと辿り着く。
その先には、例の卵ともう一つ、また違う景色が映り込んでいた。
先程のスイッチがこの景色を作り出した要因だとするならば……
「アレが新しい探索場所ですかね?」
「でしょうね。ちょうどここから降りられるようです」
崩れた瓦礫が降り階段の様に下に向かって伸びている。
天井が崩れた後に広がっていたのは落ち窪んだ山。
しかしその奥には明らかに人の手が入った様な形跡があった。
古代遺跡。どの陣営が絡んでいるかはわからないけど、ノッカーの築き上げたものとは程遠い、科学技術が施されている。
本当の仕掛けはこの先にあると本能が告げていた。
お陰でコメント欄はやけに騒がしい。
また私が関与してフラグ立てたなどの憶測が飛び交うが、実際私はヒントを与えただけだ。
それに気づき実行したのはジャスミンさんとその仲間たち。
私はそれを配信を通して視聴者に伝えていただけに過ぎない。
でも視聴者達は私をいつもの癖でついついヨイショしてしまう。そういう流れが出来てしまっているのは事実だけど、少し面映い。
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