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4章 お爺ちゃんと生配信
225.お爺ちゃんと配信⑦
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「彼女達はなんだって?」
サラダのトマトにフォークを突き刺しながら、探偵さんが尋ねてくる。
「ここは任せて欲しいそうです。たまには見せ場を譲りましょう。ついでに情報分析もしておきますか。どざえもんさんもそれでいいですか?」
「構わんが、別にここで食事を取らなくてもいいんじゃないか?」
「君は周囲の目を気にしすぎだよ。僕と少年はアトランティス陣営だからね。エネミーとは敵対しないのさ」
「それ、俺は襲われるって意味じゃないか」
呆れた、とばかりにどざえもんさんは嘆息する。
【たまには通常戦闘でも見て気持ちを落ち着かせようぜ】
【銀姫ちゃんたちの戦闘を見てるとホッとするよな】
【あの中でなら俺も上手く立ち回れそう】
「君達は私達をどんな目で見てるんだろうね。言っちゃなんだけどただの年寄りだよ? ちょっとロマンを追い求めてるだけの老ぼれさ」
【老ぼれって自分で言うんだ?】
【他人に言われたらキレる奴でしょ】
「そりゃそうでしょ。気持ちだけは若くありたいもんです。ね、探偵さん?」
「そこらへんは負ける自信ないよ。それに年食ってるのは事実だし。僕たちはそれを認めたくないだけなのさ」
【そりゃメカニックになってまで乗り物作る人には負けるわ】
【しかもその乗り物、合体パーツなんだぜ?】
【ドリルがあるってことは地底も想定してるんですか?】
「そこは企業秘密だ。出番を楽しみにしておいてくれたまえ」
【あっ、これ絶対作ってるな】
【メカニックの人はその手の情報持ってないの?】
【合体した状態で出撃してるからどれがどれかわからん】
【胴体、頭、右腕、左腕、右足、左足が別物なんだろ?】
【カラーリングで判別できない?】
「私は合体してる方を見たことないんだけどね」
「ストライケンだよ。合体構造は」
「えっ。アレを作ったの?」
私はびっくりしながら探偵さんに向き直る。
ジキンさんの犬型ロボもそうだけど、この人もアレに挑むあたり物好きだね。
【ストライケンって何?】
【分からん】
【でもアキカゼさんには通じてるぞ?】
【それって学生時代に流行ってたアニメとかじゃねーの】
【ありうる】
「正解だよ。15体合体ストライケンていうのが昔あってね」
【15www】
【ランクⅥで15もセーブデータねーだろ!!】
「そこは骨格や筋肉、関節までを多種のパーツを合わせて造形してるからね。合体にすごい手間がかかる。だから乗り物は右腕だけで三つ出来上がる仕組みだよ」
「当時も変身バンクだけで7分は使ってたもんね。懐かしぃなぁ」
【おい、それだけあれば見せ場の一つもあっただろ】
【変身バンクだけで七分は笑う】
「そうだね。変身バンクが使われてたのは初合体時と、最終回くらいだよ。今や隙だらけでいつでも攻撃してくださいと言わんばかりの骨董品だ」
【合体理念からして俺らと違うのは恐れ入った】
【じゃあ乗り物単体じゃ、あまり攻撃力はないんだ?】
「そこは企業秘密さ」
【孫達が頑張ってる横で、この人たちは何を歓談してるんだろう】
【ま、それをいうのは今更だろう】
【話に乗っかった俺らも同罪】
「むしろ聞いてきたのは君たちだけどね?」
脇道に逸れてた話を孫達の戦闘に戻し、コメント欄にレスバしながら戦況を見守る。
彼女たちの戦闘は傍目から見れば泥試合。
しかし暗闇の中で手探りをしながらギミックを解きほぐそうとしているのは非常に関心が持てた。
当時の彼女たちを知ってる私から見たら、大いなる進歩を感じたのだ。
【アレって本体煙なの?】
【っぽい】
【そもそもこれってフィールド戦闘か?】
【らしいな】
【近場にいなかったアキカゼさんたちとも合流してるし】
そこなんだよね。
あのエネミーはこのダンジョン特有のものなのは明らか。
倒すだけで終わりではない。
どの様に維持させてるか、どうすればその体を維持できない様にしてやるのか。
そこから考えなければいけないのだ。
リザルトなき戦闘。
答えは案外近くに転がってると思うんだけどね。
「探偵さんはどう見る?」
「あのエネミー? 案外煙の出元を塞げばなんとでもなりそうだと思うけど」
【言うのは簡単だけど、ああも攻撃パターンが多いとまともに思考も出来なくない?】
【戦闘スタイルからして違うからな、この人達】
【銀姫ちゃんほど動き回らないから】
【言うてアキカゼさん、たまに配信用のカメラ置き去りにするし】
【アキカゼさんはショートワープしまくるからね。最近スキルだって判明した】
「とは言え火のないところに煙は立たずって言うでしょ? 暑い原因はどこにある? それを考えればわかりそうなものじゃない?」
【あ、これアレだ。体験談として仕入れた知識と、検索に特化した俺らとの違いだ】
【それか。気になったら意味を調べるだけの俺らと違って、知識として脳に刻み込まれてるから引き出しが多いんだ】
【そりゃ勝てんわ】
【検索の速さは第三世代の特権だし】
「うーん、でも私たちの記憶も結構偏ってるよ? 間違えて覚えてる事だってあるし」
【多分羨ましいのは記憶容量だと思う】
【第三世代は覚えておける容量が少ないんですよ】
「へぇ、だから行動に一貫性がないんだ?」
「それは君もでしょ。撮影そっちのけで探索勢になってるじゃない。当初の目的はどこに行ったの?」
【草】
【言われてますよ、アキカゼさん】
【行動に対しては世代は特に関係なかった】
【その時歴史が動いた】
【微動だにしてないぞ?】
「君には言われたくないなー。ロボットに夢中になってロールプレイ忘れてるじゃない。布教するんじゃなかったの?」
「何言ってるの。布教ならもうこれ以上ないほどの広告ポストがあるじゃない」
「えっいつの間に?」
私は知らないよ。
そんな風に狼狽える私に、心底呆れる様なジェスチャーを送る探偵さん。
「君の配信は一体何人の視聴者が見てると思ってるの?」
「あっ。そういう事」
なに人のチャンネル使って勝手に宣伝しているのやら。
とは言え余裕ができてメカに手をかけられたからこそ今の企画が通る。
そう思えば彼なりに私の役に立とうと思ってくれるのかも。
……企画を持ってきたのはあっちだけど。
「おっ、決着がつきそうだぞ」
「ふむ、スピードで掻き乱す作戦できたか」
「煙は風に弱いですもんね。でも弱点は水だったのでは?」
「それは本体へ与えるダメージじゃなく、場を冷やし続ける事で肉体を維持させられなくなる意味での弱点だと思うよ? この戦いの目的を考えるとさ」
「ああ、露払い的な意味で?」
【そっちだけ理解してないでもっとこっちに説明して】
【配信の意味とは……】
「俺も若干置いてかれてるんだけどな」
【草】
【精霊使いさんはもっと頑張って】
「俺は第二世代だぞ? その中でもロマン派であることは認めるが、もっと効率を求めるよ。この人達みたいに話が整理されないまま会話を続ける胆力はない」
「だって、探偵さん」
「まぁ僕たちはノリで会話してる節があるからね。そう捉えられても仕方ないでしょ」
【むしろ第一世代がVRしてるイメージがないわ】
【してる人はしてるだろう】
【そういう人たちは第二世代寄りだから】
【ある意味では生粋の第一世代って貴重なのか?】
「基本的にフィールドワークがリアルにあるからね、僕達は。孫や息子から誘われたりしなければ興味はわかないよ。ちなみにVRそのものは活用してるよ。こういったゲームには出没しないだけで」
「俺も親父がVRで旅行に行ってるの見たことあるぞ。なんだかんだと適応してるよ」
「いまだに掲示板の速度は慣れないけどね」
「だから君はブログを選んだんだものね」
【配信コメントだって似た様なもんだろwww】
【特に第三世代は思考垂れ流しで打ち込むから加速が酷い】
「私の配信はコメント再打ち込みに30秒のクールタイムを用いているのでなんとか目で追うことが出来るんだよ」
【通りで他の配信に比べて緩やかだと思った】
【そんな仕掛けがあるんだ】
コメントで言い合いをしていると、一仕事終えたマリン達がやってくる。
探偵さんが気を利かせてテーブルとチェアを追加した。
「お爺ちゃん! 見ててくれた?」
「うんうん。随分と自分で考えられる様になったじゃないか。えらいぞ。それとルリもみんなにうまく声かけができていたよ」
「えへへ」
「良かったね、ルリちゃん」
「うん」
【デレッデレやん】
【ええな、ワイもこんな素直な子供欲しい】
【まずは実績を立てんとな】
【現実を見ろ】
【グワーッ】
「それとケンタ君も攻撃に防御によく動き回れていたぞ」
「そりゃ、この中で男は俺だけだし。親父は女を守ってやるのが男の仕事だっていってた。でも俺は守られてばかりだった」
「それは違うぞ、少年。一方的に守るだけでは意味がない。今日の様にお互いを意識しあって協力し合えるのが本当にいいチームなんだ。そういう意味では大健闘していたぞ」
「探偵の爺ちゃん」
「ハッハッハ。この姿の時は少年探偵と呼びたまえ」
びっくりした。確かにケンタ君は少年だけど、一瞬私に向けて語り出したのかと思ったじゃない。
危うく反応するところだったよ。
そんなこんなで再度どざえもんさんの一の焔を展開する。
現れるエネミーに身構える孫達。
「今回は場所を特定するためにも僕がやる。君たちは退がっていなさい」
探偵さんは初手水操作★から氷作成に移行する。
その流れる様な鮮やかな手つきに、孫達やどざえもんさん、視聴者も驚きでびっくりしていた。
出来上がったのは氷の棺桶である。
周囲一帯の空気を凍らせ、煙をその中に閉じ込めたのだ。
その上で周囲に水を被せて二重、三重構造へと強化。
逃げ道を完全に塞いだ。
【やべー!】
【アレが熟練の水操作か】
【アキカゼさんがベタ褒めする意味がわかった】
【これは職人芸ですわ】
【ほんと多芸だなこの人】
「だから言ったじゃない。この人に任せれば一瞬だって。この人太陽光を集めるレンズを氷で作り出す人だよ? それも何個も」
【氷作成ってそんなことまでできるの?】
【分からん。けど実際やれてる人がいるんだからそうなんだろ】
【その内風操作でかまいたちとか作り出しそう】
【むしろ俺らもワンチャン?】
【もうこれ擬似魔法だろ】
【わざわざスキル取った人が可哀想になるな】
【スキルみたいに簡単には扱えないからスキルの方が有用まであるぞ?】
【そりゃそうだ】
「さて僕の氷作成で盛り上がっているところ悪いけど、妖精誘引を行うよ。少年は周囲の変化を確認して」
「わかりました」
「おう!」
少年という言葉がけに、私とケンタ君が反応する。
顔を見合わせ、恥ずかしげに笑いあう。
「あれ? 俺じゃなかった?」
「いいや、一緒にやろう」
「分かった!」
探偵さんの妖精誘引は長い間続く。
まだかまだかと待ちくたびれるほどの時間を経て、ようやく背景が変わる。
それはまるで八の試練の様に、遺跡の上からダンジョンを被せた様なフェイク。
案の定、ここは古代遺跡の一部だった様だ。
「少年……ここってなんの遺跡だと思う?」
「さぁ? アトランティスともレムリアとも違う」
「ムーだな」
探偵さんと私で意見を交換しあってるところへ。どざえもんさんが割って入る。
「見かけたことがあるんですか?」
「実際にはない。しかし過程に精霊術や契りが不可欠な時点でムーの何かが眠ってると見て間違いない」
「ああ、確かに」
【つまりどういう事だってばよ】
【俺達はAWOの新たな謎の発見に居合わせているということになるわけだ】
【うぉお!】
【知ってるか、これただの雑談枠なんだぜ?】
【しかも手垢のつきまくったファイべリオンの海底ダンジョンの】
【過去のデータなんてアテにならないってことがこの人達の手によって証明されたな】
【陣営ってつまりは、この世界をより深く探究出来るためのものか?】
【ぶっちゃけ情報なんてもう残ってないと思ってたんだが、実はまだ未発見のものがあるのか?】
「そうだねぇ、こんなものが見つけられてしまう時点でそう思った方がいいよ。私はファストリアとセカンドルナ、あとはファイべリオンでしか見つけてない。意味はわかるね?」
私の情報開示でコメント欄が湧く。
その一方でムーの遺跡を前に息を呑む孫達に、私は先に進もうかと促した。
サラダのトマトにフォークを突き刺しながら、探偵さんが尋ねてくる。
「ここは任せて欲しいそうです。たまには見せ場を譲りましょう。ついでに情報分析もしておきますか。どざえもんさんもそれでいいですか?」
「構わんが、別にここで食事を取らなくてもいいんじゃないか?」
「君は周囲の目を気にしすぎだよ。僕と少年はアトランティス陣営だからね。エネミーとは敵対しないのさ」
「それ、俺は襲われるって意味じゃないか」
呆れた、とばかりにどざえもんさんは嘆息する。
【たまには通常戦闘でも見て気持ちを落ち着かせようぜ】
【銀姫ちゃんたちの戦闘を見てるとホッとするよな】
【あの中でなら俺も上手く立ち回れそう】
「君達は私達をどんな目で見てるんだろうね。言っちゃなんだけどただの年寄りだよ? ちょっとロマンを追い求めてるだけの老ぼれさ」
【老ぼれって自分で言うんだ?】
【他人に言われたらキレる奴でしょ】
「そりゃそうでしょ。気持ちだけは若くありたいもんです。ね、探偵さん?」
「そこらへんは負ける自信ないよ。それに年食ってるのは事実だし。僕たちはそれを認めたくないだけなのさ」
【そりゃメカニックになってまで乗り物作る人には負けるわ】
【しかもその乗り物、合体パーツなんだぜ?】
【ドリルがあるってことは地底も想定してるんですか?】
「そこは企業秘密だ。出番を楽しみにしておいてくれたまえ」
【あっ、これ絶対作ってるな】
【メカニックの人はその手の情報持ってないの?】
【合体した状態で出撃してるからどれがどれかわからん】
【胴体、頭、右腕、左腕、右足、左足が別物なんだろ?】
【カラーリングで判別できない?】
「私は合体してる方を見たことないんだけどね」
「ストライケンだよ。合体構造は」
「えっ。アレを作ったの?」
私はびっくりしながら探偵さんに向き直る。
ジキンさんの犬型ロボもそうだけど、この人もアレに挑むあたり物好きだね。
【ストライケンって何?】
【分からん】
【でもアキカゼさんには通じてるぞ?】
【それって学生時代に流行ってたアニメとかじゃねーの】
【ありうる】
「正解だよ。15体合体ストライケンていうのが昔あってね」
【15www】
【ランクⅥで15もセーブデータねーだろ!!】
「そこは骨格や筋肉、関節までを多種のパーツを合わせて造形してるからね。合体にすごい手間がかかる。だから乗り物は右腕だけで三つ出来上がる仕組みだよ」
「当時も変身バンクだけで7分は使ってたもんね。懐かしぃなぁ」
【おい、それだけあれば見せ場の一つもあっただろ】
【変身バンクだけで七分は笑う】
「そうだね。変身バンクが使われてたのは初合体時と、最終回くらいだよ。今や隙だらけでいつでも攻撃してくださいと言わんばかりの骨董品だ」
【合体理念からして俺らと違うのは恐れ入った】
【じゃあ乗り物単体じゃ、あまり攻撃力はないんだ?】
「そこは企業秘密さ」
【孫達が頑張ってる横で、この人たちは何を歓談してるんだろう】
【ま、それをいうのは今更だろう】
【話に乗っかった俺らも同罪】
「むしろ聞いてきたのは君たちだけどね?」
脇道に逸れてた話を孫達の戦闘に戻し、コメント欄にレスバしながら戦況を見守る。
彼女たちの戦闘は傍目から見れば泥試合。
しかし暗闇の中で手探りをしながらギミックを解きほぐそうとしているのは非常に関心が持てた。
当時の彼女たちを知ってる私から見たら、大いなる進歩を感じたのだ。
【アレって本体煙なの?】
【っぽい】
【そもそもこれってフィールド戦闘か?】
【らしいな】
【近場にいなかったアキカゼさんたちとも合流してるし】
そこなんだよね。
あのエネミーはこのダンジョン特有のものなのは明らか。
倒すだけで終わりではない。
どの様に維持させてるか、どうすればその体を維持できない様にしてやるのか。
そこから考えなければいけないのだ。
リザルトなき戦闘。
答えは案外近くに転がってると思うんだけどね。
「探偵さんはどう見る?」
「あのエネミー? 案外煙の出元を塞げばなんとでもなりそうだと思うけど」
【言うのは簡単だけど、ああも攻撃パターンが多いとまともに思考も出来なくない?】
【戦闘スタイルからして違うからな、この人達】
【銀姫ちゃんほど動き回らないから】
【言うてアキカゼさん、たまに配信用のカメラ置き去りにするし】
【アキカゼさんはショートワープしまくるからね。最近スキルだって判明した】
「とは言え火のないところに煙は立たずって言うでしょ? 暑い原因はどこにある? それを考えればわかりそうなものじゃない?」
【あ、これアレだ。体験談として仕入れた知識と、検索に特化した俺らとの違いだ】
【それか。気になったら意味を調べるだけの俺らと違って、知識として脳に刻み込まれてるから引き出しが多いんだ】
【そりゃ勝てんわ】
【検索の速さは第三世代の特権だし】
「うーん、でも私たちの記憶も結構偏ってるよ? 間違えて覚えてる事だってあるし」
【多分羨ましいのは記憶容量だと思う】
【第三世代は覚えておける容量が少ないんですよ】
「へぇ、だから行動に一貫性がないんだ?」
「それは君もでしょ。撮影そっちのけで探索勢になってるじゃない。当初の目的はどこに行ったの?」
【草】
【言われてますよ、アキカゼさん】
【行動に対しては世代は特に関係なかった】
【その時歴史が動いた】
【微動だにしてないぞ?】
「君には言われたくないなー。ロボットに夢中になってロールプレイ忘れてるじゃない。布教するんじゃなかったの?」
「何言ってるの。布教ならもうこれ以上ないほどの広告ポストがあるじゃない」
「えっいつの間に?」
私は知らないよ。
そんな風に狼狽える私に、心底呆れる様なジェスチャーを送る探偵さん。
「君の配信は一体何人の視聴者が見てると思ってるの?」
「あっ。そういう事」
なに人のチャンネル使って勝手に宣伝しているのやら。
とは言え余裕ができてメカに手をかけられたからこそ今の企画が通る。
そう思えば彼なりに私の役に立とうと思ってくれるのかも。
……企画を持ってきたのはあっちだけど。
「おっ、決着がつきそうだぞ」
「ふむ、スピードで掻き乱す作戦できたか」
「煙は風に弱いですもんね。でも弱点は水だったのでは?」
「それは本体へ与えるダメージじゃなく、場を冷やし続ける事で肉体を維持させられなくなる意味での弱点だと思うよ? この戦いの目的を考えるとさ」
「ああ、露払い的な意味で?」
【そっちだけ理解してないでもっとこっちに説明して】
【配信の意味とは……】
「俺も若干置いてかれてるんだけどな」
【草】
【精霊使いさんはもっと頑張って】
「俺は第二世代だぞ? その中でもロマン派であることは認めるが、もっと効率を求めるよ。この人達みたいに話が整理されないまま会話を続ける胆力はない」
「だって、探偵さん」
「まぁ僕たちはノリで会話してる節があるからね。そう捉えられても仕方ないでしょ」
【むしろ第一世代がVRしてるイメージがないわ】
【してる人はしてるだろう】
【そういう人たちは第二世代寄りだから】
【ある意味では生粋の第一世代って貴重なのか?】
「基本的にフィールドワークがリアルにあるからね、僕達は。孫や息子から誘われたりしなければ興味はわかないよ。ちなみにVRそのものは活用してるよ。こういったゲームには出没しないだけで」
「俺も親父がVRで旅行に行ってるの見たことあるぞ。なんだかんだと適応してるよ」
「いまだに掲示板の速度は慣れないけどね」
「だから君はブログを選んだんだものね」
【配信コメントだって似た様なもんだろwww】
【特に第三世代は思考垂れ流しで打ち込むから加速が酷い】
「私の配信はコメント再打ち込みに30秒のクールタイムを用いているのでなんとか目で追うことが出来るんだよ」
【通りで他の配信に比べて緩やかだと思った】
【そんな仕掛けがあるんだ】
コメントで言い合いをしていると、一仕事終えたマリン達がやってくる。
探偵さんが気を利かせてテーブルとチェアを追加した。
「お爺ちゃん! 見ててくれた?」
「うんうん。随分と自分で考えられる様になったじゃないか。えらいぞ。それとルリもみんなにうまく声かけができていたよ」
「えへへ」
「良かったね、ルリちゃん」
「うん」
【デレッデレやん】
【ええな、ワイもこんな素直な子供欲しい】
【まずは実績を立てんとな】
【現実を見ろ】
【グワーッ】
「それとケンタ君も攻撃に防御によく動き回れていたぞ」
「そりゃ、この中で男は俺だけだし。親父は女を守ってやるのが男の仕事だっていってた。でも俺は守られてばかりだった」
「それは違うぞ、少年。一方的に守るだけでは意味がない。今日の様にお互いを意識しあって協力し合えるのが本当にいいチームなんだ。そういう意味では大健闘していたぞ」
「探偵の爺ちゃん」
「ハッハッハ。この姿の時は少年探偵と呼びたまえ」
びっくりした。確かにケンタ君は少年だけど、一瞬私に向けて語り出したのかと思ったじゃない。
危うく反応するところだったよ。
そんなこんなで再度どざえもんさんの一の焔を展開する。
現れるエネミーに身構える孫達。
「今回は場所を特定するためにも僕がやる。君たちは退がっていなさい」
探偵さんは初手水操作★から氷作成に移行する。
その流れる様な鮮やかな手つきに、孫達やどざえもんさん、視聴者も驚きでびっくりしていた。
出来上がったのは氷の棺桶である。
周囲一帯の空気を凍らせ、煙をその中に閉じ込めたのだ。
その上で周囲に水を被せて二重、三重構造へと強化。
逃げ道を完全に塞いだ。
【やべー!】
【アレが熟練の水操作か】
【アキカゼさんがベタ褒めする意味がわかった】
【これは職人芸ですわ】
【ほんと多芸だなこの人】
「だから言ったじゃない。この人に任せれば一瞬だって。この人太陽光を集めるレンズを氷で作り出す人だよ? それも何個も」
【氷作成ってそんなことまでできるの?】
【分からん。けど実際やれてる人がいるんだからそうなんだろ】
【その内風操作でかまいたちとか作り出しそう】
【むしろ俺らもワンチャン?】
【もうこれ擬似魔法だろ】
【わざわざスキル取った人が可哀想になるな】
【スキルみたいに簡単には扱えないからスキルの方が有用まであるぞ?】
【そりゃそうだ】
「さて僕の氷作成で盛り上がっているところ悪いけど、妖精誘引を行うよ。少年は周囲の変化を確認して」
「わかりました」
「おう!」
少年という言葉がけに、私とケンタ君が反応する。
顔を見合わせ、恥ずかしげに笑いあう。
「あれ? 俺じゃなかった?」
「いいや、一緒にやろう」
「分かった!」
探偵さんの妖精誘引は長い間続く。
まだかまだかと待ちくたびれるほどの時間を経て、ようやく背景が変わる。
それはまるで八の試練の様に、遺跡の上からダンジョンを被せた様なフェイク。
案の定、ここは古代遺跡の一部だった様だ。
「少年……ここってなんの遺跡だと思う?」
「さぁ? アトランティスともレムリアとも違う」
「ムーだな」
探偵さんと私で意見を交換しあってるところへ。どざえもんさんが割って入る。
「見かけたことがあるんですか?」
「実際にはない。しかし過程に精霊術や契りが不可欠な時点でムーの何かが眠ってると見て間違いない」
「ああ、確かに」
【つまりどういう事だってばよ】
【俺達はAWOの新たな謎の発見に居合わせているということになるわけだ】
【うぉお!】
【知ってるか、これただの雑談枠なんだぜ?】
【しかも手垢のつきまくったファイべリオンの海底ダンジョンの】
【過去のデータなんてアテにならないってことがこの人達の手によって証明されたな】
【陣営ってつまりは、この世界をより深く探究出来るためのものか?】
【ぶっちゃけ情報なんてもう残ってないと思ってたんだが、実はまだ未発見のものがあるのか?】
「そうだねぇ、こんなものが見つけられてしまう時点でそう思った方がいいよ。私はファストリアとセカンドルナ、あとはファイべリオンでしか見つけてない。意味はわかるね?」
私の情報開示でコメント欄が湧く。
その一方でムーの遺跡を前に息を呑む孫達に、私は先に進もうかと促した。
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べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!
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