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4章 お爺ちゃんと生配信

223.お爺ちゃんと配信⑤

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 探偵さんの誘いに乗って乗り込んだは良いものの、椅子に座るまでは良かったが、どこかよそよそしい面々。
 私を通じてマイクロバスの雰囲気が配信され、ここにきて探偵さんの謎のこだわりが露呈する。


「なんでダイヤグラムまで実装してるの? 回る場所なんてないじゃないの」

「ダイヤグラムってなに?」

「ああ、どこの場所に行きますよーとかの順路表だね。それがくっついてるから不思議に思って」


 そこで不意にピンポーンという電子音が鳴る。
 振り向くとケンタ君がすぐ横にあるボタンを押していた。
 すると「次は桜町四丁目~桜町四丁目。バスが止まってからお立ち上がりください」とアナウンスが走る。


「な、なんだこれ?」

「ハッハッハ。ちょっとした遊び心さ。君達の世代はバスという乗り物を知らないだろう? それを疑似体験する為に備えたんだ。因みに乗り込む時にチケットが出るからそれを受け取り、降りる時にチケットを手渡すと値段が請求される仕組みだ」

「それを今の子に伝えたって理解できないでしょうに」

「まぁお遊びにね。次のイベントにこんな遊びがあってもいいと思うじゃない? 区間ごとのレートが一律じゃあ、一の試練に行くのと九の試練に行くのとで同じ値段を頂くことになる。短い距離で降りた人は不満が出るんじゃないかな?」

【なんの話だ?】
【イベント? さっきアキカゼさんがうっかりでボロを出したアレか?】
【つまり機関車の人は乗り物担当であると?】


 数名勘の良いコメントが見受けられるが、それに応える必要はないとしてスルーする。

 走行するうちに目的の場所へ辿り着く。
 そのポイントは近くまでは分からなかったが、近づいた瞬間何かに囚われるように周囲に闇が広がった。
 まるでその場所だけ何かによってぽっかり穴が開けられたように。


【なんだこの場所?】
【過去の情報でこんな場所あったか?】
【出てないぞ】
【ファイべリオンの深海ダンジョンを踏破したプレイヤーだって知らないと思う】
【知ってたらもっと騒いでるはずだ】
【じゃあなんで今になって現れたんだ?】

「これはもしかして地下関連かもしれないね。探偵さん、妖精誘引を頼むよ」

「オーケー。場所はこの漆黒で良いのかな?」

「これほど怪しい場所もないでしょう」

「確かにね」


 ──キィイイン。
 風の精霊による術式のような高音がダンジョン内に響いて広がった。そしてナビゲートフェアリーを通じて移す出される風景。
 漆黒に吸い込まれるようにして妖精達が身を投げ出し、ぽっかり空いた穴を修復するように飛び込んでいく。

 時間にそれ数分。
 周囲一帯の騒がしかった妖精がその場所に飛び込む事でようやく穴が塞がった。
 
 それを合図にするように地響きが天井から響き渡る。


「何かの仕掛けが開示された?」

「B2に戻ってみよう!」


 行きと同じようにマイクロバスに乗り込み、私達は地下二階へと赴く。
 するとその階は先ほどとは違う一面を見せていた。


「なんだ? これは水?」

「いや、海水だろうね。このダンジョンは海底神殿だ。どこからか漏れ出したか?」

「どざえもんさん、精霊の反応は?」

「風の精霊は役目を終えたとばかりに帰ったよ。ここは水の精霊を呼び出す条件が揃ってる。問いかけてみよう」

「頼みます」

【オイオイオイ】
【検証班! ここは手垢のつきまくったダンジョンじゃなかったのか? 目の前に新事実が広がってるんですが!】
【これがアキカゼさんの探索力か!】
【実際言う方も言う方だけど、実行できるメンツが揃った時の突破力がすごいよな】

「間違いなくきっかけはさっきの妖精誘引だよね」

「シグレ君、メモは?」

「バッチリです。マップの緯度も含めて書き込んでいます。お爺ちゃんの契りは風の6段階目でしたよね?」

「確かそうだったと思う」

「でもこれ、条件が精霊使いのスキルじゃないと見つけられない場合全部無駄になるんですよね」

「そこら辺の検証は他の人に任せれば良いよ。今は目の前のことを書き込むことに集中して」

「なんだかなぁ。うちのマスターは辺なところで無欲なんだから」

【普通は秘匿してもおかしくない情報を丸投げしていくスタイル】
【そこに痺れる憧れるぅ!】
【いや、憧れはしないな。クラン的には価値のある情報をドブに捨てる行為だし】
【俺ら的には検証の価値があって嬉しいけど】
【シグレちゃん的には複雑よなぁ】

「水の精霊は協力的だ。むしろ先ほどまで何故水の力を感じ取れなかったのか不思議がっていたぞ?」

【どゆこと?】
【アキカゼさん、説明よろしく】

「私だって分からないよ。でも入り口からB3まで一切妖精が騒がなかったのも不思議だったんだよね。ギミックが妖精誘引だった場合、これらは下に行けばいくほど強く現れる気がするなぁ。ところでこのダンジョン、何階層まであるんだっけ?」

「地下9階ですね」

「じゃあこんなのが最低あと二回あるな」

【なんでわかるの?】
【さっき三の倍数でどうとか言ってたしそれじゃね?】
【なるほど】
【どこからどこまで雑談なのか分からんな】


 どざえもんさんの『水の精霊術 流の二〝海流光路〟』にて私達はその場所まで水面に浮き上がった光の道で導かれた。
 移動手段はもちろん。


「一つクルージングと行こうじゃないか」


 探偵さんの乗り物の一つ『モーターボート』である。
 免許とか必要ないのだろうか?
 オートパイロットモードがあるのかもしれないが、孫達はこんなに楽して良いのかと顔を見合わせていた。


【メカニックってそんなに何個もセーブデータ持てるの?】
【すげー無駄遣いしてるのは確か】
【俺メカニックだけど、確実にランク高いぞこの人】
【ランクいくつか気になるなー】

「僕はランクⅥだよ」

【は?】
【ひ?】
【ふ?】
【へ?】
【はぁあ?】
【↑ギルティ】
【コメント欄で遊ぶな】
【いや、なんで乗り物しかないのにランクⅥ行けてんの?】

「それは企業秘密だ。因みにランクⅢからアトランティスのNPCを相手に闘技場で勝ち抜きをしなくてはいけないので同業者が羨ましがってるのはそこだろうね」

【草】
【乗り物勢に負けてるメカニックは今どんな気持ち?】
【めちゃくちゃ悔しいです!】
【俺ランクⅣだけどⅤに上げるのにどんな工夫したとかありますか?】

「うーん、ネタバレはしたくない主義だけどヒントだけなら……ビーム兵器はエネルギーをバカ喰いするとだけ。責めるのも守るのも動くのもエネルギーを必要とする。時には実弾兵器が切り札になる時もある。覚えておくと良い。ドリルとかね」

【乗り物勢……ドリル……もしかして合体勢の人かな?】
【特定されてて草】
【乗り物が合体して大型ロボットになるのはロマンだよな】
【ただし相手は合体時間を律儀に待っててくれない】

「それは作り込みが甘いからだよ。ディティールに拘り、細部まで細かく設計すれば合体時にバリアを貼るのも出来なくはない」

【参考になりまーす】
【めっちゃ参考にされてて草】

「君、やたら拘るもんね。さっきのバスとか私達が中学に通う時に使ってたやつと同じでびっくりしたよ」

「知ってる人には懐かしい仕掛けを施すのは基本だからね」

「そうなのお爺ちゃん?」

「きっとダグラスさんやうちの妻なんかは懐かしさに込み上げてくるものがあるんじゃない?」

「へぇ、イベントではそんな乗り物に乗れるようになるんですね」

【つまりそれらが合身して巨大ロボットになる訳か】
【思い出が合体するとか胸熱】

「明らかに記憶にないボートとかもあるけどね」


 今乗り込んでるボートに人差し指を向けて苦笑する。


【草】
【ドリルが出てくる時点で身に覚えがあるわけがないんだよなぁ】
【そりゃそうよ】

「イベント期間中は胴体が機関車からモノレールになるからお楽しみに」

【またコアな乗り物出してきたな】
【それがイベントエリアを周回してくれるのか】
【実にテーマパーク化してきたな】


 雑談しているうちに光の道が途切れる。
 いや、下へ下へと潜り込んでいた。


「さてどうしようか?」

「このまま行こう」

「どうやって?」

「そりゃもちろん、潜水艦に乗り換えるのさ」

「君のポケットなんでも入ってるね?」

「僕は少年探偵ではあるけど助手の彼も模倣してるからね。こんな事もあろうかと、と言うやつだよ」

【用意周到すぎてビビるわ】
【この人と探索したら楽しそう】
【気がついたら主導権握られてそうだけどな】
【わかる】
【癖が強すぎるもんね】

「もし俺のところに来てくれたのが精巧超人じゃなくてこの人だったらと思う時はある」

「そうしたらなんの役にも立てずに頭を抱えていただろうね。今の僕があるのは少年と一緒に冒険した実績があるからだよ。彼と一緒に行動してるとね、何より無駄に目立たなくて良いんだ」

【風除け扱いで草】
【確かにこの人目立つ活躍してるんだよな】
【でも全てアキカゼさんの存在に隠れちゃってる】
【銀姫ちゃんやダグラスさんの存在が消えるクランマスターが居るからな】
【なにそれ怖い】
【俺だったら存在忘れ去られそう】
【あり得る】
【否定してよ!】


 雑談は脱線し続け、レスバをしながら移動中は飽きずに進行することが出来た。
 配信中の場合、放送事故になりかねない移動風景はノリの良い探偵さんの受け答えでうまく繋げることが出来ていた。

 そして目的地は何処かに繋がっていて、その場は眩暈がするほどの妖精達が騒がしくなっていた。


「お爺ちゃん!?」

「大丈夫、この感覚は覚えがある。ここはB6か?」

「けど過去のデータと一致しない風景です」


 妖精の騒がしさは同じ。しかしマップの風景は該当なし。


「どざえもんさん、ナビゲートフェアリーは一旦切ったほうが良さそうです」

「ああ、俺も切った。精霊達は平気そうだが人間にはきついもんがある」


 どざえもんさんもB3よりもひどい目眩を覚えたようで、即座にOFFにしたようだ。


【つまり?】
【別ルートから降りる必要があるわけか!】
【これ、運良くギミック見つけられてもここまで来れる自信ねーわ】
【本当に運や技能が絡んでくるな】
【だがスキルじゃなくてジョブで進行できるのは朗報だぞ?】
【だな。あとは陣営にたどり着けるかだが】

「ファストリアも海底神殿絡みだったけど、こっちもとなると潜んでるイベントはシークレット関連かな?」

【クッソ重要な情報が聞こえたんだが?】
【アキカゼさんの何気ないつぶやきが怖いんだが】

「少年は適当なこと言って、後々こじつけてそれっぽく言い直す癖があるよ。真面目に聞いてると損をするよ」

【ひでー】
【クラメンからこの言われよう】

「探偵さんは虚言癖があるから信用しないように。バカを見るよ?」

【ボロクソに言い合ってるwww】
【ある意味気安い関係なんだろ】
【こういう関係は羨ましいな】
【クラン内で重要な情報を取り扱うと心に余裕なくなってギスギスしがちだけど、ここはそんなことなさそうだから見てて安心だわ】
【それな】

「さて、やたら気温が高いけどここは……」

「火の精霊を呼び出す条件が揃ってる。海の底だと言うのに不思議なことにな」

「なんだか俺らお荷物じゃね?」

「ケンタ君、お爺ちゃん達が前に出ると私達の存在は消えちゃうんだよ。知らなかった?」

「身をもって実感してるよ」


 前を行く私とどざえもんさんに探偵さん。
 すぐ後ろにはシグレ君に孫達。
 火の精霊を降ろして進む私たちの前に現れたのは……陽炎のように蠢く闇そのものだった。
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