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4章 お爺ちゃんと生配信

210.お爺ちゃんと陣営散歩③

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 青の禁忌を降りて数分。
 赤の禁忌の門番が船を通じて降りてくる。


「やや、これは巫女様もおいでとは」

「うむ。たまには姉上の顔を見たくなってな」

「そうでしたか。後ろの方達は?」

「新しく天空に来た者たちよ。失礼のないようにな?」

「ハハッ。天使様の御心のままに」

【やっぱり巫女様はお偉いさんか】
【しかし目的は全く別にある模様】
【まだわかんねぇだろ。本当に用があるかもだし】

「ないよ。この人普段から暇してるから」

【ちょっwww】
【至近距離でこの人ぶっ込んできたぞ】

「何か言ったか?」


 コメントに返事をしていると、天使様は表情をキリッとさせながら語気を強めた。
 どうやら今の発言にお怒りのようだ。


【ほらー、睨まれちゃってるじゃんw】
【怒ってる天使様も可愛い】

「いえ、何も?」

【ここでスルーするあたりいい性格してるよな】
【元々この人こういう人だぞ。普段のやり取り見てればわかる】
【無意識の煽り芸に定評のある人だからな】
【ある意味関わりのある人は全員被害者とも言える】

「ならば良い。船が来るまでゆるりと待て」

【アキカゼさん、的確にツッコミ入れてくな】
【天使様は意外と地獄耳】
【天使なのにな】

「翼をもって生まれただけっぽいんだよねぇ、設定から察するに」

【設定言うな!】
【NPC扱いもあれだけどな】
【こんなふうにはっきり受け答えするNPCも稀だけどな】
【街の住民達は話しかけても反応ないしな】
【それ】


 あれこれ雑談に花を咲かせていると、赤の禁忌行きの船が降りてくる。私も一緒に乗ったり乗らなかったりしながら一行は赤の禁忌へと辿り着いた。


「では私は姉上の所へ用向きがあるのでな」

「はい。妻のところへは帰りにでも寄ってあげてください」

「うむ」

【天使様の表情が明らかに柔らかくなってるんだよな】
【っていうか、天空人って結構オシャレだよな】
【それな。アクセサリーとか独特で無駄がない】

「ちなみに全部妻の手製だよ」

【ちょっwww】
【歴史的価値を壊していくな!】
【えー、幻滅です】

「いやいや、オババ様から直接頼まれたんだよ。ちなみに天空人用の服はウチのクランのショップで販売もされてる。すごくよく再現されてるともっぱらの評判だよ」

【再現は草】
【作り手が同じなら品質は損なわない件】
【しかも販売してる辺り商売上手だな】

「でも素材は天空の試練や遺跡からだったり、無理のない、それでいて彼女たちの好みを聞いて仕上げてるんだ。背中の翼は彼女たちに取ってのアイデンティティだ。退化して飛べないとしても、それは天空人の誇りだからね。目立たせつつ、それでいて機能性も重視させているんだよ」

【アキカゼさんの奥様って何者?】
【ずっと気になってる】

「ただの主婦だよ。最近はいろんな趣味を多くもってるね。ランダさんとも婦人会の繋がりで出会ったんだ」

【ただの主婦のレベルじゃないんだよなぁ】
【ああ、子供から手が離れたから趣味が増えた感じか】
【料理もプロ級でデザインも出来るってやばくね?】

「ランダさんと比べたらいつも彼女は二番手だと嘆いているよ」

【ランダさんも才能ありすぎるんだよな】
【婦人会のレベルが高かったり?】

「どうだろうね? さぁオババ様のところへ行くよ」


 少し雑談が脇道に逸れ始めたので修正していく。
 赤の禁忌は雑多にプレイヤーが歩いており、今じゃ主要都市の一つになっている。
 ギン君は見慣れたものだが、初めてきたプレイヤーは珍しいものが多いのか周囲の出店に忙しなく注目を向けていた。


「居た、あそこでランダさんと一緒に鍋を突いているのがオババ様だ」

【鍋www】
【天空で鍋とは斬新な】
【あれ、オババ様のところへ天使様がおる】
【って言うかオババ様若くね?】

「そりゃオババ様は天使様のお姉さんだからね」

【ああ、天空人て長命種なのか】
【なるほど、エルフみたいに見た目が若いままで止まる系か】
【あの見た目でオババ様は可哀想】

「それでも今居る天空人の中でも最高齢だからね」

【だからオババ様なのね、納得】

「オババ様!」

「ほう、お主は確か」

「うぬ、わざわざこちらに来たのか?」


 私の呼びかけにオババ様どころか天使様も食いついた。


「私たちの目的は初めからオババ様でしたからね。それで天使様の御用向きは?」

「あ、ああ。うん、ちょうど終わったところだ」

【天使様めっちゃキョドってる】
【嘘ついたのを必死に隠してるの可愛いよね】
【やめろよ、ああ見えてご年配なんだから】

「なんじゃ、我に2人して用か。天使様直々とは恐れ多いの。それなりの用ならば事前に通信を入れてくれれば良いものを」

「ん゛っ!? んぅ。なんでもない。ただ久しぶりに姉上の顔を見たくなってな」

「双子で生まれて我の顔を見たくなったと言われてもの。水鏡を見れば良いであろう? そっくりな顔が浮かび上がるだろうな」

「う、むぅうう」

【オババ様、それ以上いけない!】
【オババ様と天使様は双子なんだ】
【助かる】
【やばい、この人アキカゼさんと同じタイプだ】
【これ、訳知ってて正論で追い詰めてるだけじゃね?】
【上位NPCってそこまでAI強いの?】

「天使様は感情が顔に出るからね。オババ様は人をまとめる手前、言葉遊びは百戦錬磨だよ」

【あ、やっぱそうなのね】
【オババ様つえー】
【アキカゼさん助け舟出してあげて。見てらんない】


 いい加減これ以上引き伸ばすのは視聴者的にも見ていられないようだ。話を進めるためにも私から動いたほうが良さそうだ。


「実は私がお誘いしたんです」

「ほぅ、ならばそう言えば良いではないか」

「彼女にも職務上の立場というものがありますからね。ここは一つオババ様の顔を立ててもらえないでしょうか?」

「あい分かった。お主には古代ムー人の謎を解いてもらった恩がある故。今回の件は預かっておこう」

「助かります。天使様も、良かったですね」

「そもそもお主が服を直接献上すれば良かったのではないか?」


 天使様が腰に手を当てて膨れ面で見下ろしてくる。
 彼女は怒りの矛先を私に絞って狙いをつけてきた。


「生憎と私には寄る場所がありましたので。連絡は受けつつも、物を取りに行く余裕はなかったのですよ」

「ならば仕方ないか。では私は帰るついでに服屋へ寄る。お主の頼みを断りきれぬ故な」

「はい、お願いします」

【アキカゼさんナイスフォロー】
【しかしああもするすると口から出まかせがよく出てくるよな】
【コミュ強なのは確かだよ】
【あやかりたいわー】


「して、我に用とは最奥への誘いか?」


 オババ様が居住まいを正して尋ねてくる。


「ええ、新たに証を持つ五人を連れてきました。食事が終わったら案内お願いしますね」

「ふむ、良かろう。お主には街の復興に文化の作り方と色々世話になっておる。食の文化も空に根付いて来た。もうこれ無しでは我らは満足できぬようになってしまったわ」

「そのお礼は私ではなく料理長のランダさんに言ってください」

「その者を連れて来たのはお主じゃろ? 彼女には何度も頭を下げておる。お主がこうして我らの元に来なければ、我らは滅びていたかもしれんところじゃったからの。改めて礼を言う。よくぞ天空へ来てくれた」

【オババ様にここまで言わせるってアキカゼさん何やったの?】

「何をしたかと言われてもね。普通にここにやって来て、シークレットクエストをやりつつ、イベントを起こして人を呼んで、文化を作って、イベントを起こして素材の使い道を探ったりしたぐらいだよ」

【滅茶苦茶手間をかけてるやん】
【よく考えたら飛空挺もここにくるための手段だったもんな】
【え、アキカゼさん居なかったらここはどうなってたの?】

「一応30人くらい天空人は居たよ。特に何もしてなかったけど」

【つまりここに人を呼ぶ流れ作ったのはアキカゼさんだってことか】
【さっきからそう言ってんじゃん】
【いや、そうだけど寂れた寒村、限界集落といって差し支えない場所に人呼ぶって大変だぜ?】
【言われてみれば確かに。30人とか村としても少ないもんな】

「ちなみに特産品とかなんにもないよ。だからうちの妻とかランダさんの頑張りが今の赤の禁忌を作っているんだ」

【じゃあ洋服のデザインとか地味に人を呼ぶのに貢献してるんだな】
【お義父さんは素材の販売をウチのクランに一任してくれたのもあって、それで情報共有で素材の利用価値をばら撒いてたりしてたよね】

「おや、オクト君。君も配信見てたんだ。勤務時間じゃないっけ?」

【昼休みです】
【あ、精錬の騎士さんチーッス】
【昼休みにログインする奴】
【つって俺らもだけどな】
【配信はゲームにインしてないと見れない件】
【ゲームにインせずともロビーからでも見れるけどな】
【どっちみちVRに意識繋いでないと見れないだろ!】
【今時実生活重視してる奴なんていないだろ】
【それもそうか】


 なんだか色々ヒートアップしているね。
 そう言えば彼も仕事中にしょっちゅうログインしていた気もする。


「まぁそれはそれとして、みんなも何か食べていきなさい。空特有の食材を使ってるから面白い見た目をしてるのが多いよ」


 オババ様がまだ食事を止める気配を見せないので、提案して食事をさせた。ちなみにここでの支払いは全部うちのクラン持ちだ。
 元々素材はウチ持ちで、ランダさんには自由に研究していいから試食を天空人に振る舞ってあげてほしいと提案していた。

 何度か口にさせて好みの味を作り上げてそれを製品として売り出すのだ。
 空の民は彼女の作った食事ならなんでもありがたがるから試食のしがいがないとも言ってるけど、まぁそれは別にいい。
 実際にオババ様が釣れた功績は大きい。

 彼女は普段奥に引っ込んでいるからね。
 こうして賄いを振る舞ってるだけでアポイントメントが取りやすくなったのは有り難かった。


「さて、腹ごなしに運動でもしようかの。着いて来たくばついてこい」

「さ、私たちも行くよ。陣営選択の用意はいいかい?」


 それぞれの瞳が決意を宿し、それぞれの目的を持って歩みを始める。
 ちなみにいつし選択すれば、いつでも陣営には入れる。
 クランハウスよりも大きい都市が陣営というポジションだ。


 五人のプレイヤーを見送り、私もアトランティス陣営のエントランスへとやってくる。


「こっちに来たのはランディス君とハーノス君か。引き続きよろしくね」

「はい、まだ迷ってますが説明を聞いた限りだとエネミーを無力化出来るジョブがあると聞いてこちらに」

「無力化以前に通常マップで出会うエネミーはアトランティスが作り上げた使役ロボットだけどね」

「えっ」

【は?】
【は?】
【は?】
【はぁああああ!?】
【ちょっと待って、今なんて?】

「おっと、これ以上はネタバレになるのでお口チャックだ。それ以上を知りたければアトランティス陣営に来たまえ。ハーノス君は驚かないあたり知っていたね?」

「はい。うちのクランは情報共有が徹底化してますので」

「うんうん。まぁそれはどうでもいいんだけど」

【いや、どうでもよくねーわ】
【この人なぁなぁで煙に巻こうとしてるぞ】
【さすがアキカゼさんだわ。うっかりで出すボロが機密すぎる】

「配信はここからが本番だよ。まさか話を脱線させて配信停止する事を望んでないよね?」

【問題ないでーす】
【そのまま続けてください】
【あー、俺もアキカゼさんに牽引されてーわ】

「流石に毎日は嫌だよ? 週一回くらいなら考えるけど」

【おっ】
【ダメ元で言ってみるもんだ】


 その時は2パーティー同時に行けるかチャレンジしてみるのもいいね。ちょうどうまい具合にみんな勘違いしてくれるだろう。
 ただその場合、身内を優先するけどね。


「付き合いがいいですね」

「もともと面倒ごと以外はこんなものだよ。シークレットクエスト中はそっちを優先させてただけさ。それとそっちのクランももうそろそろ発表できる頃でしょ?」

「その時はこちらで発表しますのでどうかご内密に」


 ハーノス君は口元に人差し指を添えてこれ以上の情報漏洩はやめてほしいとジェスチャーしてくる。


【お、なんの話?】
【気になる】

「なんでもないよ。近々何かワールドアナウンスがなると思うから楽しみにしておこう。それよりも散歩、行くだろう? ランディス君はどうする?」

「ぜひご一緒させてください」

「うん、それじゃあついて来なさい」
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