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3章 お爺ちゃんと古代の導き
191.お爺ちゃん達と[八の試練]⑥
しおりを挟む私たちの視界に突如現れた古代遺跡。
「どことなくレムリアの遺跡と酷似してるねぇ」
探偵さんが遺跡の材質を確かめて七の試練の時のメモやスクリーンショットと比較して口を開いた。
「確かに似ているね。あの特徴的なレムリア人は見かけない様だ」
ジキンさんの言うとおりに周囲に人影はなく、その代わりに申し訳程度のギャラリーとして『ボール型/触手』が徘徊していたくらいか。
リザルト画面は出ておらず、まだエネミーのお腹の中なのだろう。
「各自注意をしながら進もう。サブマスターは拾い食いに気をつけて」
「ちょっと、僕は血統書付きですよ!? 拾い食いなんて行儀の悪いことはしませんよ!」
犬であることは認めるんだ?
ジトリとした生ぬるい視線が周囲から飛び交い、私達はほのぼのとしたまま歩み進めた。
「しっかし、こう何もないとワクワク感が削がれるねぇ。古代文字のヒントひとつ見つかりやしない」
不満そうに愚痴をこぼすと、周囲から何を言ってるのか理解できないと言う視線をいただいた。
「なに?」
「呆れてるだけですよ。マスターは物珍しいものを見すぎて価値観がおかしくなってしまったんだ。これをカネミツ君に見せれば飛んで喜ぶよ?」
「ハッハッハ。君達は僕の息子を過労死させたいのかな? その喜び方はきっとそんなに喜んでないぞ」
ジキンさんの指摘に探偵さんが引き攣った笑みを浮かべた。
「冗談はさて置き」
どこまでが冗談か判別つかないから困るよね、という探偵さんの指摘をまるっと無視して、本題に入る。
「サブマスター、周囲にここ掘れワンワンポイントは有りますか?」
「言・い・方」
「アハハハハ」
こういうなんのヒントもないところでは野生の直感というべきか、獣人の嗅覚が非常に役に立つ。
そしてジキンさんの目が据わり、スズキさんが爆笑した。
「僕よりもダグラスさん連れてきた方がいいんじゃないですか? あの人石の気持ち分かるでしょう?」
「ああ、そういえばそうでした。でもあの人今忙しいし」
「どこの誰が大量に仕事を手配したんでしょうね?」
「忙しいのはあの人が変に拘りすぎるからですよ。天鋼シルファーのインゴット化に関しては、仕事量は並でしょ? 半分以上自業自得なんですから私はそこまで責任持ちたくないです」
「まぁそうなんですけどね。あの人が忙しいのって8割飛空挺関連ですし」
この人は分かっているのに私の責任にするのが上手だ。
そういうところだよ?
「それはさて置き、ここ掘れワンワンポイントは見つかりました?」
「マスター的にはこの見るからに怪しい扉はスルーですか?」
ジキンさんは壁が少し凹んだ場所を叩いてこちらを呆れた様な口調を添えて訪ねて来る。
「開かないならフレーバー的なものでしょう? ジキンさんの嗅覚も私の古代語も反応しない。天鋼シルファーのリングも効果がないときてる」
そこでジキンさんは概念武装を取り出して、
「僕はこれが怪しいと思うんですよね」
言いながら壁に光線を放射した。
特に反応がないまま数分が過ぎる。
「何かわかりました?」
「ええ、いくつかネタっぽいのは仕入れましたよ」
ほぅ。いつになく自信満々ですね。
「でもマスターからしたら大したこともない情報なのかもなので伏せますね」
そう言って私以外に情報を公開して、わいのわいのと騒いでいる。酷いんだ。そうやってすぐ私を仲間外れにするんだから!
悔しいので私もレムリアの器を使って壁や天井に向かって光線を流していく。
どうやらここでのヒントは、この光線を使う以外では出てこないらしいことがわかった。
それさえわかればあれよあれよと探索は進む。
「つくづく便利だよねぇ、この武器」
「レムリアの民がこの試練を見越して持たせてくれたかもしれませんね」
「ああ、それは一理あるな。もし仲違いルートを選んでたら進めない可能性すらあった」
これの使い方は基本的に照射するだけでいい。
光線に感応して扉が横にスライドするシステムだ。
一度光線を認識させれば、あとは持ってるだけで自動で開くのも面白い。顔認証ならぬ銃認証システムなのだろう。
「しかし椅子やテーブルはあれど、生活感はまるでないね」
探偵さんの気づきはいつも深いところを突いてくる。
確かに部屋にこれといった生活感がない。
どの様に暮らしていたか想像できない。
目を奪われる様な発達した景観は独自のものだが、彼らが何を考え、なにに思いを馳せたのかまでは部屋を見ただけでは判別できないでいた。
「食事をしない人たちなのかもしれませんよ?」
「それか僕たちと違う食事を食べてたり、ってのはありきたりだね」
「案外この光線に秘密があったりして……」
スズキさんの言葉に探偵さんが反応して、そしてジキンさんのボケが炸裂した。あーんと口を開いて、光線を口に照射。
少ししてもぐもぐとよく噛んでから、何かを飲み込んでいる。
そんな彼に近づいて、私は背中を摩りながら介抱した。
「ほらお爺ちゃん、それは食べ物じゃないですよ。ペッてしなさい。バッチィですからね?」
「じぃじ、頭まで犬になっちゃったの?」
「……二人揃って失礼ですね。普通に思った食事が光線銃に乗って来たんですよ。だから僕はレムリア人は光線を食べて生きてたんじゃないかって意見を推察します」
「ちなみに何を食べたんだい?」
「うどん」
「光線なのに汁物を想像するなんて強者ですね」
「ちゃんと汁の味もしますよ」
「あ、ホントだ。ちょうど鯛のあら汁が飲みたかったんですけど、ちゃんと味が再現されててびっくりです!」
「身を斬っていくねぇ」
「褒め言葉ですか?」
「呆れているんだよ」
スズキさんは口の中に鯛のあら汁を打ち込んだようだ。
探偵さんの皮肉もジョークとして受け取っているあたり、彼女が鯛を選んだ理由って普通に好物だからでは?
まあ真相を追求したところでこちらに利益はないので無駄話はここまでにしておいて。
「でもこれ味と歯応えだけですね。ENは回復しない様だ」
「でも付与という意味では味気ないクッキーに染み込ませてお手軽に食べることもできますし、レムリア人もそうして工夫して食事していたんじゃないですか?」
流石に調理アイテムの様な効果は乗らないか。
そこまで便利すぎない仕掛けにがっくりしながらも、牡蠣フライ風味のクッキーを口に運ぶ妻たちの語らいで場が和む。
結局チャレンジャーなジキンさんの評価は落ちて、妻たちの食べ方が一般的だろうと言う見解で落ち着いた。
口に直接銃打つのって一見して危ない人ですもんね。
スズキさんはジキンさんに触発されてだから今回はお咎めなしとなる。
ジキンさんは不満そうにしていたけど、血統書付きと誇っていた割には拾い食いよりお粗末な結果が待ってましたね。
そんなアクシデントもしつつ、レムリアの器を使って当時の映像がいくつか出て来る。
言語翻訳は、かつてのリングを使えば可能であると気が付き、それらを所持して鑑賞会を始める。
最初こそは出会いと別れを描いたラブロマンス。
肉体構造が人間と近いけど、見た目がちょっとグロテスクだったので指の隙間からチラ見しつつ、エンディングまで見通した。
結局何を伝えたいのか分からなかったけど、仲間にアトランティス人と思われる風貌の人物を見つけた。
古代遺跡で出ていたシルエットに類似しているだけで、それがアトランティス人とも限らないけど。
ムー人には毛嫌いされてるから、アトランティス人だと解釈して進めるよ。
「どこかの国と戦争していたんでしょうか?」
「一種のプロバガンダですかね?」
「プロバガンダに濡れ場を入れる意味とは一体……」
「それでやる気が上がるんだろう、知らないけど」
スズキさん、私、ジキンさん、ランダさんが適当な言葉を並べて相槌を打つ。
要領は得ないけど、何かを伝えたい気持ちだけは伝わった。
私達はそれを知るためにもこの遺跡のコントロールルームに向かった。
三つ目の映画ではその場所に巣食うエネミーがチラッとだけ映されて、映像が途切れたからだ。
きっとこれはどの場所に行けばいいのか教えてくれるための映像だったのだろう。
なんともいえない雰囲気の中、私達はついにコントロールルームに足を運ぶ。
そこで私達を待っていたのは……
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