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3章 お爺ちゃんと古代の導き

173.お爺ちゃんと家族会議

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 オリハルコンのレシピを見つけてそれから。
 私達は一度探索を取りやめて一度ログアウトする事にした。
 どうも発見したレシピで一悶着ありそうだと言うこともあり、それと同時に準備が足りないのを察して巻物で入り口まで帰ってそのまま赤の禁忌へと戻り、家族会議をするべく責任者にメールでその旨を送った。

 翌日の事である。
 場所はVR井戸端会議内。その街の住人に紹介さえして貰えれば参加可能なので、参加者には事前に登録してもらった限りである。


「まだこの街並み残ってたのね」

「そうだねぇ。住んでた頃はなんとも思わなかったけど、離れたら離れたでやけに懐かしく感じるものだよ」

「父さんは出張が多かったものね。家にいない方がほとんどだったわ」

「それを指摘されると痛いな」


 久方ぶりに真希と亜耶をリアルアバター越しに見た。
 ゲーム内と違って華美に装飾されてないあの子達は少し歳は取ったが当時の面影を残していてくれた。由香里が変わらなすぎると言うのもあるのだけど、知ってる顔が見えて嬉しく思った。


「俺までお邪魔してよかったのか?」

「お義父さんから頼まれたので。さ、こっちです」

「あ、あぁ」


 後から少し躊躇うようにこちらにやってきたのはリーガル氏かな? 秋人君に連れられて足踏みしていた。


「ようこそ、よく来てくれたね」

「こちらこそお呼びいただきありがとうございます。リーガルこと新城です」

「あ、これはどうも笹井です。今日は殆ど身内の会議ですけどゆっくりしてってください。ただ今回見つけた私達の発見で一悶着起きそうな予感がしそうなのでそちらで口裏合わせをお願いしたくてですね」

「もう最初から嫌な予感しかしないが覚悟しておく」

「大丈夫ですよ。お義父さんは悪いことに巻き込みません」

「秋人君の言う通りだ。まずは由香里、以前送った画像データの配布をお願いするね」

「はーい」


 由香里がまとめてくれたデータを各自の端末に一斉送信した。
 各々がその着信を受け取った直後、一斉に席を立ってコッチを見ていた。
 まず最初に声をあげたのが亜耶。今では空の素材取得を一手に担うクランのマスターを務めている。


「父さん、またとんでもないの発掘してる!」

「偶然だよ」

「何回その偶然を聞けば良いのよー」

「私からも質問。これはどこかで情報を提供するの?」


 続いて真希がトーンを変えずに聞いてくる。


「提供するつもりでいる。けど誰にでもするなと母さんから釘を刺されていてね」

「ちなみに僕は挑戦して無理でしたね」

「ふーん。精錬の騎士のマスターでも無理となると……」

「まぁうちのダグラスさん辺りが一番望みは高いでしょう」

「なるほど。それで発表を渋っているわけね」


 実現不可能な難易度。
 それが表に出せないオリハルコンの取り扱いにより拍車をかけている。なまじ一度出回った品であるからこそ、それがプレイヤーの手で作り上げられるそのレシピ。
 当然欲しがる手はある。そしていろんな手段を使ってでも入手先を限定して張り付くだろう。


「つまりその入手ルートの安全性の確保を私達に頼みたいと言うことね。それくらい構わないけど、安くないわよ?」

「どう受け取ってくれるかはそちらにお任せするよ。そしてその情報をどう活かすかも君たち次第だ。どうかな?」


 私の答えはよほど意外だったのだろう。
 真希、亜耶、新城氏は目を丸くして驚いていた。
 きっと私がこんな風に情報の丸投げをしてくるとは思ってなかったのだろう。


「あのね、父さん。無関心にも程があるわよ? 亜耶からも何か言ってやって」

「無理よ姉さん。思えば父さんは昔からこんな感じだったわ。うちの人なんてありがたい称号スキル貰って一生頭が上がらないみたいに言ってるのに。半ばわかってたこととは言え、このレベルの情報でもポンと渡してくるのは流石に予想外だったけどさー」

「甘いわね、お姉ちゃん達。お父さんはレイド討伐イベントすら丸投げしてくるのよ? あれをちょうど良いタイミングとはいえ、渡された私達の気持ちがわかる?」


 驚いた。確かに成り行きとはいえ任せてくれと言って引き受けてくれた彼女が、こんな風に思っていたなんて。


「見てみなさいよ、由香里。この顔はきっとあなたの苦労なんて知ったこっちゃないって顔よ」

「え、そうなのお父さん?」


 亜耶の指摘に由香里が私に縋ってくる。
 こう言う時って渇いた笑いしか出ないんだよね。
 そこで満を侍して新城氏が挙手をした。


「仲睦まじいところすまない。部外者の身で悪いが、つまりそれは情報そのものはこちらでどのように扱っても構わないと、そう言うことかな?」

「それで合ってますよ。お義父さんは懐が深いので。ただ最終的にはお義父さんに泣きつくことになると思うので、どう動くかは慎重に行った方がいいと思います」

「精錬でのインゴット化……以前に鉱石の融点の見極めは確かにドワーフの管轄か。うちの人材も優秀だが、ドワーフのトップレベルに張り合えるかと言われたら痛いな。どの道アキカゼさんに頼りになるのか」

「ウチは一応チャレンジしてみるわ。うちの職人は基本的に素材に飢えてる人たちしかいないから。あと父さんのクランで発見した素材もいくつかこっちに流通してもらいたいのだけど?」

「空の素材ならうちで取りに行くわ」

「あら、じゃあ亜耶に頼もうかしら」

「毎度あり。父さんが素材の情報をくれるからうちの運営は右肩上がりよ。ありがとね、父さん」

「君達が喜んでくれるなら発表してよかったよ。あとダグラスさんについては一応ここに呼んでるから頼むなら直接取り付けてくれ。彼、今超忙しいから」

「だーれが原因でそうなったんだろうねぇ?」


 振り返れば神保さんがにこやかに笑みを称えて片手を上げていた。ただし目の奥は一切笑ってないが。


「噂をすればなんとやら。遅いですよ、神保さん。私が娘達の返答に困窮するところじゃないですか」

「まったく、悪びれなく言われる人の身にもなってくれ。飛空挺の次はオリハルコンの精錬だって? やっぱり君のクランに入って正解だったな。面白いことが勝手にやってくる」


 そのまま席に座り、話に参加した。
 私の知り合いは初手で私を貶さないといけない人が多すぎると思うんだ。


「さて、うちのクランマスターが随分と世話をかけたの。まぁそれがわかってて厄介になってるので今更どうでも良いか。お初の方は男性陣くらいか? 神保だ。向こうじゃダグラスと名乗ってるが、ただの鉄を触ってるのが好きなジジイよ」

「お久しぶりです、神保さん。その節はわざわざありがとうございました」

「僕、亜耶ちゃんに何かしたっけ?」

「やだなぁ、忘れちゃったんですか? 健介君に頼んで、サイン書いて貰ったじゃないですか。おじさんが人間国宝に認定された折に」

「ああ、あれね」


 亜耶の言葉に新城氏が目を見開いて神保さんを見ていた。
 まぁ人間国宝とか言われたらびっくりするよね。


「偶然、僕以外に居なかったら取れただけだよ。そのおかげで近所では変に騒がれてね。身に覚えのない親戚が増えて大変だったなぁ」

「この人もなんだかんだで父さんと似てるのよね。凄いことをさもどうでも良いことのように偶然の一言で片付けるの」


 真希が嘆息しながら私と神保さんを括った。
 えー、それってどう言う意味?
 結局似たもの同士と言いたいのだろうけど、私と神保さんは同時に否定した。
 揚げ足を取り合って悪態をつく様まで見てそっくりだなんて笑われる。

 一度笑い合ったことですっかり緊張もほぐれたようだ。
 結局私と神保さんは一括りにされたまま話が締めくくられたのだけは納得いかなかったけど、これからを担う若者達が楽しく手を取り合ってる姿を見られただけで今日はこの場を設けてよかったなと思えた。


「それはそれとして父さん、地下のルートの情報は私の方で管理しちゃって良いの?」

「ん~? そこはどざえもんさんに一任してるからね」

「なになに、なんの話?」


 一人だけ話のわからない亜耶が真希の話に食いついてくる。
 一瞬気を抜いたかと表情を顰める真希だったが、ピラニアのように吸い付いたら離さない亜耶の態度に折れたのか、真希は観念したように両手をあげて答えた。


「ワールドクエストが進行したわ」


 その言葉には私以外の全員が驚きの声を上げることになった。
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