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3章 お爺ちゃんと古代の導き

170.お爺ちゃん達と[七の試練]②

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「取り敢えずその素材の名前ってなんて言うんです」

「名前ですか? それくらいなら教えてあげてもいいですよ」


 精一杯感謝してくださいねと言わんばかりの口調でジキンさんは口を開いた。


「マヨイ草にモドル鉱です」


 うん、間違いなく原因はそれだ。私以外の二人も勘づいたのでしょう、困った様に笑いながらサブマスターの説得にかかった。


「まず間違いなく私達が迷ってる原因はそれですね。で、一旦素材を持ち帰るとして。脱出スポットを探しませんと」

「スタート地点に戻ったんなら階段上がって直ぐでしょう?」


 ジキンさんが「なんだそんなことか」と元来た道を振り返り、すぐに私に向き直った。


「階段は?」

「見当たらないんですよ。だから特定素材を持ってると帰れないんじゃないかって不安でして。一回マヨイ草を足元に置いてみて貰えませんか? なんだったら紐にくくりつけて紐に触れてても良いので」

「そんな都合のいいアイテム持ってるわけないでしょ。分かりました。置きますよ」


 少し拗ねた様な口調で足元に素材を置く。
 足でちょっと素材に触れてるのは最後の抵抗か。
 無論、その間階段は見えない。


「ちょっとその足上げてもらって良いですか?」

「嫌です」

「探偵さん、お願いします」

「ちょっと、嫌だって言ってるでしょう」

「検証です、検証。もう一つの素材を持ち帰るための重要なチェックですから」


 言い含めながら羽交い締めにし、素材から引き離すと……


「ほら、階段出たじゃない」

「結果論ですね。でも僕はこれを持って帰りますから」

「手で触れる、または一定以上近寄った状態だとアウト。どうやって持って帰るんです?」


 正論に正論を重ねると、探偵さんが良い案があるよと水操作を複合させて扱った。
 その動作の正確さに息を飲む。


「ほら、こんな感じに水で素材を包んで、氷結させる。あとは水操作で素材を浮かせて距離を離して持って帰るだけだ」

「素晴らしい!」

「この技術は僕たちが六の試練を乗り越えた結果だよ。どんどん使っていこう。下手をするとここの試練はそれありきの難易度かもね」


 取り敢えずジキンさんがその操作を扱えるかは別として、探偵さんが素材を無事に持ち帰ることで機嫌を損ねることなく妻達のもとへ。


「へぇ、七の試練はそんなところなんだ。ならアキ、アタシらもお邪魔しに行くかい? 旦那を信じるわけじゃないけど、素人でも見つけられる素材と、隠されてる素材の発見。それはアタシら向きだ」

「そうね、赤の禁忌も人が増えてきて店も出てきたわ。盛り上げるのは一時休止して久しぶりに羽を伸ばそうかしら」

「そうこなくっちゃ!」

「それよりもあなた、その試練では足場はちゃんとあるの? また雲の上とか嫌よ?」


 やはり女性陣の気になるところはそこだよね。


「大丈夫、ちゃんと足場はあるから。でも一応『輸送』で雲の上に乗れる様にしておくから安心して」

「そうね。そうしてくれると安心だわ」

「それに私以外の三人も同じ称号スキルが扱えるから、三の試練に赴いた時より心強いよ」

「ですって、ランダさん」

「頼りにしてるよ、アンタ!」

「任せてくれ!」


 ドンと胸を張るジキンさんを微笑ましそうに見つつ、妻達が持ち場を離れる胸をオクト君に案内しつつ素材の提供を行った。
 今はイベント中らしいからね。ただ素材を安く仕入れている手前、今更参加して良いものか。それも含めて聞いて見ることにした。


「早速素材の持ち入れありがとうございます」

「探したのはジキンさんだけどね。それと身内だけどイベントのポイントは付くのかな?」

「開催クラン側としては、参加してくれない方が管理は楽ですね。お義父さん達が参加した途端にやる気をなくす人が一定数居ますので」

「誰だい、その人達は」

「フィールさんですよ。取り分が減るとの事です。絶対にお義父さんを参加させないでとものすごい剣幕でしたよ」


 笑いながら答えるオクト君に、ああ、あの子なら言いそうだと苦笑する。優秀なくせに変にガメツイんだよね、あの子。
 でもそうか。フィールがね、私の事をそこまで意識してくれたとは。


「ならば特別参加枠でどうかな?」

「つまり?」

「なに、素材を集めるにしたって指標が要るだろう? 私がそこに至れるってわけではないけど、イベントを盛り上げるための特別枠。つまりポイント計算はしてもらうけど、イベントの商品は受け取らない枠だ。参加させてもらうだけで良いんだ。それならどうかな?」

「ウチとしては多方面に良い顔できるので大助かりですけど」

「ならば決まったな。今度の試練は素材の有無で攻略できるか出来ないかが非常に大きな要素を含む場所でね? このマヨイ草を持ってるか一定距離保ってないと、なんと入り口の階段が消える仕組みなんだ」

「えっ、じゃあどうやって持って帰ってきたんですか?」

「そこは探偵さんのアイディアでね。私やジキンさんは指を咥えて見ていただけさ。アイディア次第でどうとでもなるんだと気付かされたよ。それこそスキル複合を使う前提ではあるけどね」

「成る程、肝に銘じておきます。ちなみにこの情報、どの程度のランクの人に売れますかね?」

「二の試練をパスした人になら売れるかもね」

「参考にさせていただきます」

「じゃあ、行ってくるね」

「お土産期待してます」


 正直な感想を述べるオクト君に見送られて私達は再び七の試練に挑む。久方ぶりのフルパーティだ。
 やや緊張しながらの足取り。急に足元が消えても対処できる様に『移送』を同時に使って妻とランダさんの重力を0にする。
 普段通りに『輸送』を使おうか迷ったけど、パーティメンバー全員にかける分離れすぎると落ちてしまう『輸送』より、個人単位にかけられる『移送』の方が各々が自由に動きやすいメリットがあった。
 

「本当に足場があるのね」

「それでこれが件のマヨイ草かい。確かに入り口が消えてるね。これを素材にアイテムを作ると……見えた」


 妻が足場の確認をしている横で、ランダさんが錬金術でアイテム合成を始めた。
 結果は失敗だったらしいけど、素材そのものが消えたことにより持ってないとカウントされた様だ。
 ちなみにランダさんは調理器具まで持ってきているらしく、火や水道の代わりはウチの妻が魔法で行うらしい。
 これでいつでも美味しい料理が食べられるぞと私達は両手を上げて進軍した。


[問一.目には見えず。されどそこにあるもの]


 早速目の前にお題が提示される。
 それを横目にジキンさんがせっせと素材集めをしていた。
 早速『モドリ鉱』を手に入れてるあたり、抜け目がない。
 それを使ってランダさんが錬金術で一つのアイテムを作り上げた。
 難易度は170と非常に高く、されど効果は破格。
 それはつまり、空間転移の巻き物である。
 よくあるダンジョンの入り口にパーティメンバーごと戻るアイテムだけど、意外とこのゲームには実装されてないらしい。
 つまりそれが世に出回れば?
 間違いなく私達の様な命知らずの探索者が世に溢れるだろう。
 そういう意味ではまず間違いなくオクト君が欲しがるな。
 そう言えば領主邸でも言ってたもんね。
 プレイヤーは街と認識した場所まで発見した素材を持ち帰らないと権利を得ないって。つまり発見しても持ち帰れずに何度も涙を飲んだ人たちがいるって事だ。


「んま、一発目にしては良い出来だね。ほら、これはアンタが持ってな」

「良いのかい?」

「発見者はアンタなんだろう? その代わりまた新しいのを見つけたらよろしくね?」

「ふふふ、ドンと任せてくれ」


 ドヤ顔で言ってのけるジキンさんを横目に、私達は妻の振る舞ってくれた『マヨイ草』の天婦羅を食べて空腹を落ち着けた。
 効果はともかく非常に腹持ちは良く、味はなぜか白身魚を彷彿とさせた。
 蕎麦もついてきて、非常によく合う。
 ただし食後一時間くらい、入り口が消えたままというのだけが残念で仕方ない。
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