上 下
195 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き

169.お爺ちゃん達と[七の試練]①

しおりを挟む
 
 一つの謎解きが終われば意識は自ずと空へと向かう。
 リーガル氏に言われたが、どうも私の攻略速度は早いらしい。
 とは言え、攻略というほど私は攻略をしてない。
 クラントップ層である彼らはまず自分たちの中で優位性を示し、そこから後続プレイヤーに向けて再現できるレベルで完全攻略する。
 それに比べたら私の攻略は常に行き当たりばったりだ。
 偶然の連続で運良く当たりを掴んだにすぎない。


「なに考え込んでるんです?」


 ジキンさんが待ち合わせ場所にやってくるなり開口一番訝しげな表情でたずねてくる。まるでその仕草が似合わないと言われた様で釈然としない。


「ひどいな。出会い頭になに?」

「どうせまた下らないことでも考えてたんでしょう」

「下らない事だなんて。ただ私と周囲の攻略に対する考え方というのがズレてると思ってね。最近携わった件で考えさせられたんだ」

「最近携わった……どれです?」

「リーガル氏の案件だよ。ほら、影の巨人が居たじゃない?」

「ああ、あの大陸。もしかしてもう攻略したんですか?」

「うん、すごく優秀だよね、彼ら」

「そりゃ優秀でしょうよ。ランキングで上から数えた方が早いんですよ?」

「そうなんですけどね。やっぱりクランメンバー全員で情報を共有できるデータベースを見せられたときはすごいなって思いました」

「あれは確かクラン機能でしたよね? マスターのランクが問われるので無理強いはしませんが欲しいならがんばらないとですよ?」

「そこなんだよね」

「何の話?」


 そこでちょうど合流した探偵さんが話に加わってきた。


「ああ、探偵さん。丁度いいところに」


 片手を上げながら挨拶をしあい、情報通の彼に詳しく話題を振る事にした。
 ジキンさんと同じ様に最近攻略したお話と、トップ層のクランの報連相の充実具合を順に話した。
 しかし探偵さんは私の話を聞くなりしかめ面で私を睨んでくる。


「って言うか君、僕たちに黙って勝手に攻略したの? 誘ってよ。水臭いじゃない」

「いやいや、下見で言っただけなんですよ。偶然見つけちゃってね。でも私一人じゃ攻略は無理だったよ?」

「とか言ってますけど、どう思いますか? ジキンさん」

「疑わしいですね。ですがこの人に限っては今までのやらかしを全て偶然で片付けている。今回もまた……と言うやつです」

「成る程なぁ。つまりこの先もやると?」

「まず間違いないでしょう」


 うんうんと頷き合う二人を横目にスズキさんが元気に挨拶をしてくる。何かあったんですかと私に聞いてくるので、いつもの嫉妬だよと言うと納得していた。
 それで納得できちゃうんだ。


「さてみんな。次はいよいよ七の試練だよ。気合は充分かな?」


 手を叩いて全員の注意を引き、私は話を変えた。
 ただこのメンツに気合や根性論を解いても何も返ってこない。
 ニヤニヤした顔を向けてくるばかりだ。
 それぞれの思惑を達成するためなら何でもする彼らは私にとって非常に頼りになるメンバーである。
 トップ層のクラン程ではないとしても、手の届く範囲で助け合えれる。そんな頼れるメンバーだ。


「どのみち行き当たりばったり。手探での探索だ。何回でもやり直せる僕たちがそんな気負っても仕方ないでしょ?」


 探偵さんが肩の力を抜きなよと私の背を叩く。


「秋風君の言う通りです。僕たちには僕たちなりのやり方で十分だ。それに今までの攻略で肩肘張って上手く行ったことありました? ここはもっと柔軟な思考を持っていきましょうよ」

「いつも通りですね。なら僕も気が楽です。なんだかんだあの空気が好きなので。ガチ過ぎず、それなりに知恵を出し合って乗り越えていく感じが好きですねー」


 ジキンさんとスズキさんが探偵さんに続き、私は溜息をついた。


「結局聞くだけ無駄でしたね。じゃあいつも通りに気楽に行きましょうか。メインは素材で攻略は二の次かな?」

「ですね。ウチの奥さんの調理の為にもそれは確実に」

「結局六の試練は採取どころじゃなかったですもんね」

「まるでテーマパークでしたよね。あれはあれで楽しかったですけど、二度と行きたくないですね。もし見つかっても素材は後続に任せましょう」

「賛成です。僕もこのメンツ以外で行きたくないですね」


 駄弁りながら飛空挺に乗り込み一度赤の禁忌に戻り、そのまま七の試練へ。妻と合流して賑わう赤の禁忌を見回した。


「なんかずいぶん賑わってるね。イベント?」

「精錬の騎士でイベントを仕掛けたらしいわ。今は素材ブームでしょ? ここで一気に素材入手場所を広めて一気に手に入れるつもりよ」


 成る程。彼も動き出したな。
 人の興味が向く物事への嗅覚が相変わらず高い。


「それはこっちにも分前あるの?」

「家族割引で売ってくれるそうよ」

「成る程、しっかりしてるね。それで服の売り上げはどう?」


 妻は店番をしながら商品をいくつか手にとって説明してくれた。商品棚にはいつのまにか新商品も増えていた。


「好調よ。今までは色違いでごまかしてたけど、最近小物も増やしたのよ。こっちは趣味だけど、天空人からも直接購入頂いてるわ」

「へぇ。あの人達お金持ってるんだ」

「お金がなくてもこのゲームは価値が合えば物々交換でトレード出来るのよ。知らなかった?」

「そう言えばそうだった。なまじゲーム内通貨を持ってるもんだから忘れてたよ。パープルに聞いてたのになぁ、うっかりうっかり」


 後頭部を掻き毟り、妻との会話を打ち切る。
 そこで七の試練へ着いたらしい。
 オババ様がこちらへ挨拶しにきてくれた。
 相変わらずランダさんの周りで出来上がった調理アイテムを頬張ってるあたり、威厳は何処かに行ってしまっている。
 プレイヤーからも偉い人だなんて思われてないかもね。

 そして私達の都合で赤の禁忌を借りている時、他の試練に素材採取に行きたい面々は貸し出ししてるウチの飛空挺でそれぞれの試練に向かう。ちなみに各駅停車なので時間を合わせないと生きて帰れても自分な時間待ちぼうけを喰らう仕掛けだ。
 我慢できないならぜひ自分用に作ってくれとしか言えないが、それでも運用者は後を経たない。

 そして七の試練は今までと打って変わってクイズ形式。
 右か左か選んで、部屋を間違えたらエネミーがうじゃうじゃ出てくる仕掛けだった。


[七の試練:虚実]


 四の試練と似た様な問いかけ。ただ一つでも間違えると延々と戦い続けて消耗させられる。
 ちなみに正解しても戦闘があったりと、当たったのか外れたのかもわからない。
 不安になりながら足を進め続ける私達の前に、また出題の板が現れた。


[ここは虚にして実。正解とハズレは紙一重。ハズレの中の正解を。あたりの中のハズレを見つけて突き進め]


「これ、何回目だっけ?」

「メモを見る限る8回目だね」


 探偵さんがボケ防止で始めたメモを見て唸る。うっすら額から汗を流し、表情は口惜しげだ。


「もしかしてスタート地点に戻されてます?」

「まず間違いなく」

「しかし素材は意外とありますよね、ここ」


 焦る私達を横目にウハウハ気分なのはジキンさんだ。
 スクリーンショットを撮って、今までの素材と違うと確信しながらウキウキスマイルでアイテムバックに詰め込んでいる。


「お土産も大事ですけど謎解きにも参加してくださいよ。完全に迷ってますよ、私達」

「戦闘には参加してるじゃないですか」


 嫌だなぁ、と犬の人は呆れ返る。


「って言うか、犬のじぃじが素材を取って門を潜ると確実にここにきますよね」


 何かに気がついたスズキさんが、ジキンさんをじっと見た。


「な、なんですか? 僕が悪いと言うんですか?」

「ジキンさんと言うか素材がですね。一度それをバッグから出して通ってみましょうよ」

「嫌だ。これは僕が見つけたんです!」


 逆に言えばジキンさん程度に簡単に見つけられた素材だ。
 私に限らずウチのメンバーは薬物や鉱物への知識が浅い。
 見つけてすぐに素材とは判別できない。
 現にウチの妻やランダさんが居なかったら素材どころでは無いのだ。一度現物を見て、ようやく認識できる。それを初見で見つけた辺りで怪しいとは思っていた。


「手放しませんよ、これは奥さんのお土産に持って帰るんです!」
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...