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3章 お爺ちゃんと古代の導き

168.お爺ちゃんと影の大地③

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 リーガル氏と合流した私はデータを送ってそれぞれの影の箱の前に人員を配置し、そこで倒した巨人に対応してどこの影の箱が反応するか調べることにした。

 現在この場所に来てるメンバーは30名+私。
 6名を影の箱にそれぞれ配置し、一斉に中央に手をつけてもらうと影の巨人が同時に現れ、それをタイミングを合わせて同時に撃破することに成功した。すると影の充満していた箱に光が宿っていた。


「ナビゲートフェアリーに反応はあります?」

「無いな。他に何かトリガーがあるのかもしれん」

「ならば私が行きます。皆さんはその場所で影が復活しないか見守っててもらって良いですか?」

「ああ、構わん。そのかわり入手した情報はデータベースに送ってもらえると嬉しい」

「もちろんです」


 リーガル氏とのコールを切り、光の箱によって焼失したと思われる壁を乗り越えて中央へ。
 そこは一寸先も見通せぬ闇が広がっていた。
 ダークマターを食べて陽光操作★で体全体を光らせる。
 極光に満たされた空間は小さな小部屋になっているらしい。

 スクリーンショットを傾けて、ナビゲートフェアリーをON。
 しかし精霊の反応はない。
 だが代わりに古代文字が浮かび上がる。


[ここは封印の地、この地を暴く者には死を]


 浮かび上がった文字をスクリーンショットで切り出し、同時に向かってくる大きな影でできた手を掻い潜る。
 ついでにスクリーンショットに収めてデータ解析も忘れない。

[クリティカル!]
[シャドウ型/憎悪の手]
 耐久:5000/5000
 手段:LP_SP_ST吸収攻撃
 弱点:太陽光
 特攻:なし

 ああ、こんなところでも太陽光か。
 しかし攻撃手段を見るからにあれに捕まったら終わりだな。
 私は重力操作で重力を0に戻すと影を踏んでふわりと距離を取る。


「さて、どう料理してやろうかな?」


 取り合えず状況証拠をデータベースに送りつつ、制限時間がないかを検証する。
 探偵さんが教えてくれたのだけど、明らかに敵の攻撃が強すぎる場合は耐久ボスの可能性が高いのだとかなんとか。
 ちなみに私の体から発する光では耐久が削れてる気がしない。
 もしかしてこれはスキルで作る太陽じゃダメなのかもしれない。
 すぐさまリーガル氏と連絡をつけ、どこかに遺跡の天井と繋がる場所はないかと相談に乗ってもらう。
 しかしこの大陸そのものが影に覆われているため、何処かで太陽を照らさないと拉致が開かないのだろうと推測する。
 

「これ、単純に出力不足かな? 人数不足だとすれば、やっぱあの三人を呼ぶしかないか。どちらにせよ巻き込んでいるので今更ともいえるが──おっと危ない」


 影の手が一際開くと私目掛けて覆いかぶさってくる。
 その手の中に文字が浮かぶ。


[答えは影の中、箱の上]


 なる程。この影の手はまさかのメッセンジャーだったか。
 耐久の線は消して、いろんな角度から文字が浮き出ないかチェックしていく。

 よし、大体揃ったかな?

 手を広げた時の掌に[答えは影の中、箱の上]

 ピースサインで凸攻撃時手の甲に[宝はここに無い]

 握り込んで叩く時、押しつぶす面に[天井を調べろ]

 親指と爪先指を弾く様にした時、爪先に[影絵]
 と出てきた。

 私は小部屋から出て行き、リーガル氏に出迎えられた。
 集めた情報をデータベースに送り、リーガル氏からクランメンバーに一斉に通達。
 情報を出し合って話をまとめていく。


「ほんと、美味しいところを全て持ってく人だ」


 開口一番項垂れるようにリーガル氏。


「まだ謎は全て解けてませんよ?」

「それでもだよ。アキカゼさんが来てから一気に進んだ。アキカゼさんのいう通り、見ているところが違うのかもな」

「着眼点で言えば君たちの世代だって凄いだろう?」

「どうかな。俺は腕に自信はあるが知恵はそこまででもない」

「みんなを引っ張っていけるカリスマがある。頭が良くてもそれが無い人だって居るんだ。謙遜はよくないよ。ついてきてくれてるクランメンバーさんに悪いだろう?」

「なんだかアキカゼさんと話してると亡くなった親父を思い出す。性格とか全然違うのにな」

「おや、気になるねぇ」


 雑談を脱線させながら話は少しずつ遺跡に戻り、ついには箱の下から光を当てると天井に影の絵が現れるところに行き着いた。
 しかし天井が遠く、闇に包まれていることから私自らが照明になる事で各班で合わせた光が言葉を作り上げる。

 普通に見ればただの絵は古代文字だったのだ。
 読み上げると今この場所にいるプレイヤー全員に通達が入る。

<プレイヤーの手によって眠っていた古代遺跡が攻略されました>


「ワールドメッセージ?」

「いや、拠点にいるメンバーには聞こえてない」

「じゃあ私達だけですか?」

「多分な。アキカゼさんは引き続き翻訳を頼む」

「分かりました」


 曰く、この大陸そのものが魔力によって浮き上がった船であり、プレイヤーの手によって移動できる街なのだそうだ。
 ただし空まで上がる出力はなく、海を渡るのが精々だそうだ。

 なんかぱっとしないなという顔の私に、リーガル氏は十分に大発見だと言っていた。
 今まで喉から手が出るほど欲していた大人数を運ぶ移動手段を獲得したのだと。
 その上、赤の禁忌と違って自分の意思で行き先を決められるというのが大きいそうだ。


「取り敢えずはおめでとうかな?」

「この規模の発見をしておいて不本意そうな顔をしているのはきっとこのゲームの中でもアキカゼさんぐらいじゃないか?」

「いやー、どうでしょうか。別に言うほどすごくもないネタですよね?」


 私がブログに載せる基準は満たしてないよと溢せば、その場にいた全員がいやいやいやと被りを振った。


「確かに天空ルート発掘や飛空挺の建造に比べれば霞んで見えますけどね? 千人規模で運べる乗り物って史上初ですから!」

「取り合えずこの島は君たちが自由に使いなさい」

「は、え? ちょっと待ってくれ。確かにネタが貰ったが、ほとんど一人で解決しておいて、全部こっちに寄越してくれると言うのか? 俺は今からどれくらい金を積もうか考え込んでいたと言うのに、本当にあなたと言う人は」

「だって私が持ってても使わないしねぇ。あ、そうだ。もし使い道に迷ったらうちの娘を手助けしてくれないかな?」

「娘さんですか? 確か遠い親戚のオクトの奥さんが娘さんだと」

「他に二人いてね。いい子なんだよ。二人ともクランに与していてね。ちょうど今連絡が取れたから、サードウィルで落ち合おう。一応オクト君とかも呼ぶからぜひ顔合わせだけでもしてってくれよ。私から頼みごとがあるとすればそれくらいかなぁ」

「その程度でこの島が手に入るんならお安い御用だ」



 と、威勢の良いことを言っていたリーガル氏だったが、長女に出会った瞬間に眉間の皺を揉み込んで、苦しそうな顔をしていた。まるでこうきたかーといわんばかりだ。


「父さん、この人が?」

「うん、リーガル氏と言ってね」

「知ってる。トップクランの一人じゃない。まさか父さんと知り合いだなんて思わなかったけど」


 そこまで興味なさそうに言わなくても良いじゃないの。


「ちなみにパープルの旦那さんの従兄弟だから親戚だよ。仲良くしてあげてくれ」

「そうやって親戚だから甘い顔するのって非効率的なのよね。でも父さんには貸りがあるから従ってあげるわ。リーガルさん、よろしく頼むわね」

「ああ、まさかアキカゼさんの娘さんがあのシェリルだなんて思いもしなかったが」

「まぁ、父さんはいつまで経っても父さんだもの。貴方も付き合ってたんならよく理解したんじゃない?」

「ああ、アキカゼさんの様な人は見たことがない。さて、うちのクランは今大人数を運べる足を入手してね」

「聞いたわ。父さんつながりでしょ?」

「その通り。そしてそちらも大きな仕事に関わっていると聞く。物資の調達と搬入はこっちに任せて貰えればある程度融通を利かせられるが?」

「そうね。物資は自作するので場所だけかして頂戴」

「さて、そこらへんの詳しい話はここじゃアレだ。他のプレイヤーに聞かれてもまずい」

「そうね。賢い人で助かるわ。父さんと違って」

「シェリルはいちいち私に辛辣だねぇ?」

「お姉ちゃんはいつもこんなよ?」

「それに慣れてしまってるパープルもなんだかなぁ」


 取り合えず協力体制を敷いてくれた様で何よりだよと遠くから遠い親戚と娘のやりとりを見守った。
 ちなみにパープルはアルバイト中なのでついでに調理アイテムを注文して腹も満たした。
 街も変わればグレードも変わり、お値段は全部で30万ぐらいしたけど、空の上の料理に比べると安く感じるのは私の金銭感覚が麻痺してるんだろうか?
 うーむと思い悩む。夕暮れのひと時であった。


 



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