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3章 お爺ちゃんと古代の導き

154.お爺ちゃん達と[五の試練]③

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 予想どおり。いや、予想以上にプレイヤーが空に上がった。
 資金と情報を投げ打った甲斐がある。
 あとは仲間が独断で動いた結果が赤の禁忌に集中した。
 これといって特産品がないのにも関わらず、だ。

 それらの殆どが素材狙い。わざわざ地上から天空に足を運んで資金を獲得しにきているのが面白い。この情報の開示者はオクト君だな?
 他人の欲しがってる情報を実しやかに囁いて行動させた。その手腕たるや抜け目がない。

 対して試練の攻略者は一向に増えない。
 今までは観光が80%を締めていたが、そこに素材回収班が半分加わった形だ。
 マナの大木を乗り越えてすらいないプレイヤーにとって、オクト君のアイテムはまさに命綱。そのアイテムを普及すべき動き出したと言うことか。

 だが、これだけ着てくれたのなら私達も動き出すべきだろう。
 企画運営者としてはクランメンバーに世話をかけてしまうが、それはある意味普段どおりだからね。
 私の我儘を通させてもらおうじゃないか。


「いらっしゃいマスター。今日は何の調理アイテムをお求めで?」


 サブマスター権限で開いてるショップに赴くと、そこではやけにエプロン姿が様になったジキンさんが接客をしていた。
 ショーケースには相変わらず食べ物の見た目をしてないダークマターと、見た目はパンなのに食べるとうどんの味とのどごしのあるホットドック、その他にはオクト君が置いていったポーション類が置かれている。


「取り敢えずダークマターを15個に、うどんパンを10個ください」

「毎度あり。合計でアベレージ1,007,500相当になります」


 相変わらず高いね。
 しかし私はここで伝家の宝刀を切る。


「ツケで」

「またですかー? いい加減に払ってくださいよ」


 ぶちぶち言いながらも商品を包んだ紙袋を渡してくれる。
 ちなみに貴方もツケでクランのお金使ってるの知ってますからね? 
 まるで私だけ悪人みたいに攻めるけど、この人だって結構裏ではあれこれお金動かしてるんですよね。


「クランのお金は私のお金です。それと、そろそろ攻略もしませんと人の興味が素材にしか向いてません」


 それでは本末転倒だ。もっと攻略に興味を示して、称号がプレイヤーに行き渡らないと人を天空に上げた意味がない。


「確かにお客さんのほとんどは販売目的。けど需要に対して供給過多になって買取額も日に日に下がってきています。それでもまだ地上での買取よりは高いから売りに来てくれるけど。販売に関しては乱気流様々ですよ。あそこのクランメンバーがうちの売り上げの実に90%を占めている」

「凄いね。どこにそんなお金あるんだろう?」

「それは向こうも同じことを思ってますよ。うちみたいな弱小クランのどこに飛空挺を五隻も揃える資金なんてあるんだって」

「確かにね。それで残りの10%は?」


 ビシッと指をさされた。成る程、私か。そんなに買ってる覚えはないんだけど、まぁ先行投資と思えば。


「まぁいいです。僕が離れたら奥さん一人じゃ店を開けれません。一度店を畳むので裏で休憩中の奥さんに話通してきますね。オクト君のところへ厄介になりましょう」

「すまないね。じゃあそれまでそこら辺でぶらぶらしてる探偵さんとスズキさんにこっちにきてもらうように連絡入れとくから」

「頼みます」


 ジキンさんが奥に引っ込んだのを見送り、コールで二人に呼びかける。二人が合流する頃にはジキンさんも合流して、みんなで一緒にランダさんをオクト君のショップへと送っていった。


「それではお義父さんお気をつけて。ランダさんとその商品は僕が責任持って預かりますので」

「頼んだよ」

「任されました」

「あんた、新素材もよろしくね!」

「了解!」


 そんなやりとりに周囲がザワザワと騒ぎ出す。
 何やら新素材というワードが引っかかったようだ。
 みんなが血眼になって探してる天空由来の素材は、非常に入手に困難を極めている。
 まず雲の上に自力で乗れないことには探索どころではないからね。そこでふらふらとした足取りでこちらへ近づいてくるプレイヤーがいた。がっしりとした体格の好青年だ。私と同じく人間で、身体中につけられた見慣れない装備に何かに精通してる様子が見て取れた。


「今、新素材と聞こえたが?」

「試練に挑むついでにもし見つけたら持って帰ってきてくれって頼まれただけですよ」

「成る程、そういう意味か。いや、すまない過剰に反応してしまって」


 何やら随分と逼迫している様子だね。ピリピリしてるというか、挙動不審気味で俯いてはブツブツ独り言を言っていた。


「何かお困りのようですね。何かあったのですか?」

「ああ、いえお気遣いなく。うちのクランマスターの人使いが荒くてですね、売れる素材を集めてこいと無茶振りを言い出しまして」

「成る程。私達は丁度試練に赴く所なのですが、一緒に行きますか? 生憎とパーティーは組めませんが一人くらいなら連れて行けますよ。素材採取に関してはお手伝いできませんがそれで良ければ」

「良いんですか!? それならば是非!」

「そうですか。私はアキカゼ・ハヤテと言います」

「えっ、アキカゼ・ハヤテってあのアキカゼ・ハヤテ?」

「どのアキカゼ・ハヤテかは知りませんが、この天空ルートを開拓した、という意味でのアキカゼ・ハヤテという意味なら私ですね」

「あ、すいません。こんなところで著名人に会えるとは知らずに失礼を。私はもりもりハンバーグって言います。普段はトレジャーハンターなどをしてまして」

「はい、もりもりハンバーグさんですね。今日はよろしくお願いします」

「あの、変な名前だって笑わないんですか?」

「名前は個性ですから。それに私のネームもコミックの主人公の名前だ。メンバーに同姓同名も居るし、名前程度では笑わないよ」

「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」

「うん、では行こうか」


 ふわりとその場で浮き出す私達に、もりもりハンバーグ氏はポーションと巻き物をその場で使って付いてくる。
 確かこれはオクト君の商品だね。彼はあのお店の顧客か。
 結構良い値段だったし、ならば少しサービスしてあげようか。

 五の試練に降り立つと同時に、私はもりもりハンバーグ氏に移送のスキルを付与した。
 前回同様急下降するフィールドにもりもりハンバーグ氏は気を動転させる。


「なんか高度下がってません?」

「そうだね。下げてますから」

「なんでこんなことを!?」

「そうしないとこのフィールド全部溶けちゃうんですよね。苦肉の策なんです。さて、みんなこれ以上落とすとヤバい。重力操作で軽くして」


 はーいと気軽い返事がメンバーから聞こえ、フィールドが徐々に浮き上がっていく。


「これくらいかな?」


 見上げた先には分厚い雲が灼熱の太陽を遮っていた。


「じゃあ私達は探索をするから、もりもりハンバーグさんも素材集めを頑張ってください。一応私からあまり離れないでくれるとありがたいです」

「分かりました」


 足場は氷でできているので、気を抜けばすってんころりんと滑ってしまう。
 彼はそんな場所にも慣れているのか、姿勢を屈め、周囲を見渡して目を細めた。


「少し向こう側に行きたいです。大丈夫ですか?」

「ご一緒しよう」


 もりもりハンバーグ氏の洞察力は凄まじいものだった。
 程なくして凍りついた草花を探し当てていた。
 まずはスクリーンショットで撮影し、過去のデータと見比べている様だった。
 該当する素材に一致しない事を確認した、ナイフで凍った草花を傷つけない様に慎重に周囲を削って掘り起こした。


「どうでした?」

「はい、今まで見たこともない素材でした。ありがとうございます」

「良かったですね。次見つけたらこちらにも分けて貰って良いですか?」

「勿論です。私一人じゃここをゆっくり巡れませんでしたでしょうし」

「それは助かります。私のクランメンバーが新素材に目がない人達で」

「ははは、何処も同じですね」

「嫌になってしまいますよね」

「でもその素材が違う形で私達に新しい力をくれる糧になれば、この素材も浮かばれるというものです」

「うん、そういう考え方は好きだよ」


 素材にしか目がない人かと思ったら、彼はどうもクランの意向に従って動いてるだけの人のようだ。
 素材を集めて売るのが目的と言うよりも、彼からは未知への探究心の高さが見て取れた。

 あちこち見て回った結果、私達は五の試練で3つの新素材を手に入れることに成功していた。
 単独だったらきっと見逃してしまう様な場所に生えてたのもあり、今回は色々と勉強になった。
 だから彼にはもっとその経験を役立ててほしいと思ったから、私はこっちはどうですかと誘うように中堅地点まで案内させて頂いた。


「これ……試練クリア? 私は何もしてないのに、申し訳ないです」

「おめでとうございますもりもりハンバーグさん。この場所への案内は私からのプレゼントです」


 呆然とするもりもりハンバーグ氏に私は笑いかける。


「アキカゼさんからそこまで認めてもらえてるとは思いませんでした。どちらかと言えば私の行いは寄生に近いものです。貶されこそすれ褒められたものじゃないんです」

「受け取り方は人それぞれです。私だってスキル骨子に戦闘関連は入れてません。言ってしまえば寄生となんら変わりありません。でもね、それでも自分を信じて歩んできたからこうやって天空ルートへの開拓ができた。もりもりハンバーグさんの力もそういうものだ。新しい素材の発掘する力は、後に続くもの達に力を与えるものだと私はそう思うよ?」

「そこまで言われてしまったならばありがたく受け取っておきます。そして、今後ともこの力で素材の提供を行なっていくと誓います」

「頼りにしてますよ」


 差し出した片手をが尻と組み合わせ、顔を見合わせる。
 そこでジキンさんが慌てた様にこちらへ駆け寄ってきた。どうやら新しい発見があった様だ。


「行ってみようか?」

「私もご一緒して良いんですか?」

「私が連れて行きたいんだ。来てくれませんか?」

「それでしたら拒否できません。よろしくお願いします」


 ジキンさんがまた知らない人と仲良くなってると言いたげに肩を竦めている。
 向かった先では探偵さんとスズキさんが何やら作業をしていた。

 そこにあったのは、奇妙な見たこともない球体だった。
 それは地球儀の様に何かの大陸が浮き出し、中心部には赤い点が浮き出ていた。また、私がいないところで面白い発見してるんですからー。
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