171 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き
148.お爺ちゃん達と[四の試練]④
しおりを挟む四の試練に赴き、私達はボートを二台用意して連結させて足場を強固にしながら水操作で少しづつ前進した。
各自で空を飛んだり浮いたりした方が良いのだろうけど、コスト的な意味合いでは移動で一人、トラップ対応に三人に動いてもらった方がお得なのだ。
ジキンさんは借りパクした探偵七つ道具のおもちゃの銃を右腰に装備し、反対側には弾丸替わりの巻き物を装備している。戦闘ではなくトラップ対処なのにこの人ったらそんな銃で何するつもりなんだろう。そう言えば、ここに来る時にオクト君のところで何か買い込んでいたみたいだけど。
「さて、少年、そろそろ氷の壁だ。水操作の勢を弱めてくれ」
「分かりました」
「壁を落とすのは僕の水操作で行いますね」
「なら氷が張り直さないように囲うのは僕がやろう!」
私がボートを停止する様に水操作の速度を緩めると、スズキさんが氷の床を一旦割って下へ次々と氷の壁を落としていく。
再度貼り直す氷の壁に先立って、探偵さんの操る水操作がボート二台分の通路を確保した。
これぞ連携プレイと言うやつですね。
危なげなく渡りきり、スズキさんと探偵さんが再びフリーになる。
次のトラップは氷でできた鎌が交差する場所。当たれば勿論ダメージは免れないが、それ以前にその勢いにぶつかればコントロールを失ってしまうだろう。
「前回はすんなり渡れたんですか?」
「すんなりではないですね」
「ミラージュ鬼ごっこですよ。残機減らしながらダッシュです」
「うわぁ」
無茶苦茶やるな、この人達。でもそれってつまり当たったら即死って事ですね? ほんと仕掛けがえぐいなぁ。
「それよりあの氷の鎌、何を力点にして交差してるんでしょう?」
そこでジキンさんが別の論点を上げた。
「あ、そう言えばそうですね。渡ることに精一杯すぎて忘れてました」
「さっきの氷の壁だって、きっと正しい方法じゃなかったはずです。もしかしたら上の方にも氷の天井があるかもしれませんよ?」
それは確かに、と思う。
「じゃあ確かめてみますか!」
スズキさんが真上に向けて水操作を放ち、しばらくするとカシャン! と音がして交差していた鎌が仕掛けごと落下した。
ついでに床も抜けてトラップは地上に落ちていく。あーあ。
大丈夫だよね? 下に街とかないよね?
「ビンゴですね。さ、マスター前進ですよ」
「はいはい。前進しますよー」
第二の関門もジキンさんの思いつきですんなり進行。
もしかしなくても、一見屈強な作りのトラップでも、床同様に支えてる起点は弱いものだったりするのだろうか?
そんなふうに考える私達の前に現れたトラップは狭い通路に、氷の丸のこが縦横無尽に走るものだった。
さて、ここはどう進むのかと思えばジキンさんが勝手に号令を出す。
「はい、足場破壊」
「えいや!」
阿吽の呼吸でスズキさんが水操作で床を割る。
パキン、と弱々しい音を立ててトラップが土台ごと真下に落下していく。あーあ。ズルイんだ。絶対これ制作者今頃青筋たててますよ。
しーらない。とどこ吹く風で前進。
しかしそんなズルは通じないぞと次の仕掛けは意思を持っていた。
氷のゴーレムと言ってしまえばいいのか、それらは個を認識して左右の壁を自由に移動する。残念なことに上の天井を壊そうにも分厚い氷の壁が邪魔をして簡単に割ることは出来そうにない。
「困りましたね」
「天井吊り下げ式なのは分かってるんですか、肝心なことに床にはくっついてないんですよねー」
「じゃあ水操作でくっつけたらどうかな?」
「それって水のゴーレムが床にまで来ません? 移動範囲増やしてどうすんですか!」
「いや、どうだろう。ゴーレムって重いよね? 床に乗ったら流石に床は抜けないだろうか?」
「そうですね、じゃあやってみましょう。えいっ」
だからスズキさん、早いって!
こっちがまだ決定する前に動かないで!
スズキさんの放った水操作が氷の壁に触れると、徐々に触れた場所から凍っていく。そして氷のゴーレム真っ直ぐにこちらに向かってきて、三体床に乗ったところで床が崩れ落ちた。
目の前には本来もっと苦戦するはずだった氷のエリアにゴーレム不在の行き止まりもある普通の通路が残るばかりである。
「あっぶな、これ、ゴーレム落ちてなかったら私達残機減らしてましたよ?」
「成功してよかったですね!」
「成功したからよかったものの、スズキ君はもっと慎重に動こうよ?」
「てへぺろー」
「魚人のテヘペロ初めて見たけどなかなか様になってるね。練習した?」
「はい!」
探偵さんの質問にスズキさんはハキハキ答える。
仲がいいね、君たち。こっちはいまだにドキドキしてると言うのに。
「これ、案外ゴリ押しで進めるんじゃないですかね?」
「だったらいいんですが、少し休憩入れながら進みましょうか」
「ですね。次に進む前にランチにしましょう」
「もう夕方ですけど?」
そうだった。時間的ロスは少ないとは言え、寄り道してるからね。そそくさと調理アイテムを消費して私達は進む。
結局人間は目の前の事がより脅威と思うかどうかで逃げる事を優先する事をその日学ぶことになる。
目の前には下り坂。坂のてっぺんにはボール状の氷塊がエントリーしており、それが自重で坂を転がり落ちて私たちに迫った時、やっぱりその場から逃げ出す事を選択してしまった。
で、見事氷塊に押しつぶされてボート毎落ちた。
落ちた場所が丁度街だったから良かったものの、あの場所はボートをしててでも残機を減らして行くべきだったと反省した。
うん、まあ人は予測できない事が目の前には現れると冷静で居られなくなると言ういい教材だな。
◇
翌日、再度挑戦しようと足を向ける私達の前にはやり切った顔の師父氏が居た。みやれば四の試練クリア者に師父氏と門下生の名が連ねられていた。
初めて同じタイミングで競って出し抜かれた瞬間だった。
勝ち負けではないけど、やっぱり悔しいなぁ。
でも、同時に誘って良かったと思う。
私達なんかに負けっぱなしじゃ誘った意味がないもの。
「次は僕達の名前をそこに刻めばいいんですよ」
「ええ。次こそはクリアしてみせますよ!」
同じ思いを抱いたのか、私の肩を叩きながらジキンさんがワンワンと吠える。探偵さんもスズキさんもやる気を漲らせていた。
0
お気に入りに追加
1,984
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる