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3章 お爺ちゃんと古代の導き

145.お爺ちゃん、トップクランとの邂逅

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 無念のログアウトを経て翌朝。昨晩寝る前に悶々と考えていたことを浮かべながら朝食をいただく。朝食後に孫の美咲が戯れてきた。それを相手しながらポツポツと近況をこぼしていく。


「お爺ちゃん、お空の攻略は進んでるー?」

「ボチボチと言ったところかな? なにぶんフィールドが一筋縄じゃいかなくてね。パーティーを組んだみんなで頭を悩ませてるよ」

「そっかー。でもお爺ちゃんならきっと大丈夫かな?」

「美咲に認めてもらえるように頑張るさ」

「ほらほら美咲、学校の時間間に合うの?」

「間に合わせる!」


 食パンをムグムグと頬張る美咲には悪いが、時間とは待ってくれない物だ。
 VR中学生と当時の中学生では生活リズムが大きく違う。
 娘の由香里からしても今の子は通学しなくていいから楽よねと全てを物語っていた。
 ちなみに孫が自室にこもった時間は8時45分。
 普通なら校門が閉まって予鈴が鳴らされてる頃だろう時間だ。
 それまで何をしていたのやら。どうせゲームだろうなと自分の事を棚上げしながら考察した。


「おはよう御座います、お義父さん」

「おはよう秋人君」


 秋人君が余裕を持って自室から姿を表す。彼の姿を見るにはいつも遅い時間だ。彼が食事を終わらせるまで待ち、話すを切り出す。


「そう言えば君、AWOのトップに詳しいの?」

「なんですか藪から棒に」

「いやね、こちらでは抱えきれない案件が浮上したからもし協力してくれるならその道のプロフェッショナルに頼もうと思って」

「空関連ですか?」


 秋人君の目が鋭く光った。興味を示した時、彼は前傾姿勢でがぶり寄る。


「そうとも言えるし違うとも言える。空は深く関わってないが、現状未到達地域だとは思うよ」

「はっきりしませんね。どんな情報なんです?」


 仕方がないので永井君と寺井さんに許可をとった上で情報の開示をした。それを精査し、秋人君は数回うなずいた後に唸った。


「こんなの毎回どこから見つけてくるんですか?」

「偶然の産物だよ」

「お義父さんと出会ってからその言葉は信用できなくなりました。少なくとも僕の辞書に示されてる偶然という文字とは全く違う別物ということだけなのは分かります」


 秋人君がジトリと目を半眼にさせる。信用ないんだ。


「ですがそうですね、僕のところで情報を流して食いつくかどうかだけ調べておきます。開示されたモンスター情報だけでも食いつくプレイヤーは多いですからね。特に前線は戦いに飢えてる人達ばかりだ。耐久10000を超えるモブはなかなか出会えません。そしてそんなのがうじゃうじゃしている場所に好き好んでいく人種はあらかた決まってます。面識はありませんが有名どころはいくつか食いつくでしょう。近いうちに情報回しますね」

「頼りにしてるよ」

「それってうちじゃ引き受けられない類なの?」


 悪い顔で微笑む秋人君に、娘の由香里が訪ねてくる。


「もしこれが地上の一件で、さらに天空とは全く別にルートだった場合、僕たちが関わるべきじゃないことだけは確かだよ。お義父さんの事だから天空ルートでもファストリのような目に合うことは予測して置いていいと思う」

「そうね。ではクランの方針は変えないのね?」

「うん。今まで通り飛行部への融資を続けて先着購入権を獲得することに意識を向けてて。今後僕たちも空に乗り出す必要があると思うから」

「わかったわ」

「さて、それじゃあ私はそろそろログインしてこようかな」

「土産話を期待しておきますね」

「流石にそんなにポンポンは出てこないよ」


 はっはっは、と人笑いしてからログイン。
 スズキさんと待ち合わせしてサードウィルへ。飛空挺に乗り込んで赤の禁忌を目指した。
 そこでスズキさんに今朝の顛末を話した。

 見つけたはいいけど、現状手に余るフィールドの取り扱いについて。それを聞いた後、彼女は少し考えるそぶりをしてから口を開いた。


「まぁ僕としては別にトップ層にこだわる必要はないんじゃないかなって思うんですよ」

「それはまたどうして?」


 私の疑問にジキンさんが言葉を繋げる。


「多分ですが今のトップ勢の民度の低さを懸念してるのではないかと思います」

「民度、そんなに低いのですか?」

「ハッキリ言って低いですね。自分達さえ良ければそれでいい人達が多くを占めます」

「それは酷い。なのにトップ張れてる理由は?」

「単純に人数が多いからですよ。何せクランのランクを上げるのはクランマスターだけでいいですからね。クランのメンバー一人一人が強いクランなんてそこまで居ませんよ」

「そうなんですね、ちょっと想像していたトップ層と違ってびっくりしてます」

「少年、だがこれは容易に想像できる事だったよ?」


 探偵さんがしたり顔で私の言葉を否定した。


「と、いいますと?」

「曰く、トップを張れる人種にまともな人間はいないという事だ」

「それは極論ではないですか?」

「いや、そこの少年探偵の言ってることはもっともだと思うよ。何せ皆んなより強いと言うことは強くなる事に置いて時間を有効的に、効率的に使うことができる人だからだ。その上で若いと言ったらどんな人物が思い浮かぶ?」

「そこでなんで若さが出てくるかわかりませんが、時間が多く取れると言うことは基本的に私達老人と同じくらい時間を持て余してる人ってことになりますよね?」

「はい。その上でお金にも余裕がある人ですね」

「何故お金が出てくるんです? 課金したって強さには結びつかないでしょう?」


 やれやれとばかりにジキンさんがため息を吐く。


「何も実際にゲームの中で使うわけではありませんよ。例えば一日最長12時間しかログイン出来ないことはゲーマーにとって非常に不利です」

「でも条件は皆同じでしょう?」

「ひとつだけ24時間潜り続けて情報を拾う手段があります」

「それって……」

「単純にアカウントを家族名義で二つ作って自分で活用する事ですね」

「えー、馬鹿じゃないの? ログインしたいが為に寝台型のVR機ごと買い揃えるなんて」

「トップ勢はそれで情報が入るなら資金の出し惜しみをしない人が多いですよ。その上で自分だけでは拾えない情報を人を使って集めさせてたりする人とかもいますし」

「なんだか急に会うのが怖くなってきましたよ。話し合うかなぁ?」

「ゲームの攻略に妥協しないってだけで、誠実な人は多いですよ。ただしそれについていけないクランメンバーは烏合の衆になりやすいってだけで」

「ああ、そこで民度が出てくるわけか」


 目視で赤の禁忌を捉えた頃、オクト君から連絡をもらう。


「お義父さん、三つのクランが引っかかりましたよ。どこで落ち合います? 一応無理強いしないように金狼さんにお話は通すつもりですけど」

「わかった。こちらでもジキンさんを通して従うように圧をかけてもらうよ」

「助かります」


 コールを切り、重い腰を上げる。


「皆さん、ちょっと予定を変更して行きたいところがあるんですけど大丈夫ですか?」

「さっきの今でもうですか? 優秀すぎるのも困りものだな」


 ジキンさんが何かを察したように顔を顰めた。


「金狼氏にも手伝ってもらうように父の威厳をひとつよろしくお願いしますよ」

「僕の威厳はそんな安くありませんよ?」

「はいはい、貸しを一つあげますよ」

「それならばいいでしょう」


 途中でオクト君を拾い、私達は集合場所のナインテイルへと向かった。

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