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3章 お爺ちゃんと古代の導き

140.お爺ちゃん達と[三の試練]⑧

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 <称号:陽炎の支配者を獲得しました>

 <特殊スキル:ミラージュ★を獲得しました>


 ミラージュ★
 ゲーム内時間で1日に3回まで即死ダメージを回避する。


 おやおや、これは。


「なんか珍しいのを入手出来ましたね?」


 キョトンとしながらスズキさんが目をパチクリする。


「僕には嬉しい能力ですよ?」

「ジキンさんは動き回らないですからね。ライフのゲージが4本に増えたと考えれば有能そうですが」


 ジキンさんの素直な意見に探偵さんが淡々と答える。
 LPが4本。そう考えれば確かに美味しいのかもしれない。
 でも現状は使わないよなぁ、と思うのがジキンさんを除く私たちの意見である。

 じゃあどう使うか?
 ここから先にはそれを使う前提の場所があるのだと思えばしっくりくる。


「ひとまず一旦足場のあるところに戻りましょう」


 もぐもぐとダークマターを食しながらスズキさんが意見した。
 玉の浮いていた場所にも雲はない。
 道はあれど足場がない、なんともいやらしい作りの仕掛けである。


「はぁ、しんど。今の往復でAP減り始めて焦りましたよ」

「まさか道中に一切足場のない道だなんて想定外です」

「私もだよ。なまじ左右に雲が盛り沢山だったからね」

「さて、他に行く場所は?」

「スキルも暗号も手に入れたので今は特に」

「じゃあ素材集めにでも行きませんか?」


 ジキンさんはニコニコとしながらシャベルを人数分手渡してくる。暇だと言った手前でなんとも断りづらい雰囲気。
 いつも通り太陽をいっぱい浴びた空色の実に、雲で覆った妙に黒い実、さらには氷で光を乱反射させた七色の実を持って赤の禁忌へと帰ったよ。

 ランダさんは人目見てジキンさんに良い仕事してきたねと肩を叩き、本人は任せてくれた前と胸を張った。
 あなたはアイディアを出しただけで雲で太陽を覆ったのは私だし、水操作のコンビネーションで光を乱反射させたのは探偵さんとスズキさんのコンビだ。
 

「しかしあの称号……使い所によっては有用だよね?」


 思わせぶりな言葉で語る探偵さん。


「ですねぇ、もし次がトラップありきのダンジョンだった場合、回避できる事になるんでしょうか?」

「そんなにうまく行くとも思えませんが?」

「ちなみに帰りにエネミーと追いかけっこした時に、僕蛇に噛みつかれちゃったんですけど」


 何やってんのスズキさん!?


「本当は即死してたんでしょうねー。強制ログアウトみたいにブツンと切れずに、一瞬フワッと体が浮いたんです。きっと霊体になってこの場に残ってた様な感じです。それで数秒後に霊体の方に体が復元されました」


 ええーっ。それって体を置き去りにして霊体で距離取った分、再復活するって事!?
 そう言う系の無効化なの?
 ミラージュって言うより幽体離脱じゃないの、それ?


「あっはっは。僕に内緒で面白い検証してるねぇ」

「なら今度一緒にやりませんか? ミラージュ鬼ごっこ」

「良いねぇ、乗った」

「僕はやりませんからね? そんな危ないこと」


 三人でノリノリな所に一人不貞腐れた声が届く。


「どうしたんですか、ノリ悪いですよ?」

「僕なりに力不足を感じてきてる所ですよ」

「この人はこんなところまで来て何を今更ぼやいているんでしょうね。力不足と言いますが、まずそれ以前の問題としてこの中に一人でも貴方より力で優れてる人っているんですか?」


 私の質問にジキンさんは一瞬考え込み、すぐに納得した様に答える。


「居ないね……なんで僕はこのメンツに劣等感を抱いたんだろう」

「でしょう? ここに居るのはどちらかと言えば非力で、でも状況を楽しめる人達です。能力に差があるかなんて現実で生きてれば誰だってぶつかる壁です。そういう生き方を選んだんだから今更嘆いたってどうしようもないんですよ」

「それはそれで極論だけどね。どうもジキンさんはリアルの優秀な自分を基準に物事を考えてしまいがちだ。それって実はものすごくもったいないことなんだ」

「僕はこの扱いづらいアバターにしてから色々考えさせられてますよ。でも、普段通りの自分じゃ絶対に出せない本音も出せてます。きっとね、普段リアルで抱え込んでる悩みをこっちで発散してる人って多いんですよ。だから犬のじいじももっとゲームを楽しみましょうよ。だって、こんなにも楽しいプレイヤーに出会えたんですから」

「全く、悩んでたのがバカらしくなるほどの素敵な言葉をありがとうございます。そうですね、もっと普段の僕では出せない一面を出すべきだった。どうもリアルに引っ張られがちで遠慮してしまいがちでしたが、これからは今まで以上に遠慮なくビシバシ行きますよ」

「ビシバシはしなくて良いです」

「ダメです、します」


 ありゃ、ちょっとやる気を取り戻してもらおうと焚きつけたら変なスイッチが入っちゃった。困ったなぁ。これ以上ネチネチされたら私でなくても痺れを


「さて、次の試練はどうします?」

「もちろん、このまま乗り込みますよ」

「あ、僕はランダさんのところでアイテムの補充をしてからですね」

「なら僕もおかわりをして来ようかな

「なら私は少し広場で鍋でもつつきに行ってきます」


 さっきまで次の試練に乗り込む雰囲気だったのに、スズキさんの言葉を皮切りに全員が休息モードに入った時は流石にジキンさんも困惑しただろう。


「じゃ、じゃあ僕も休憩しようかな」


 そんな風に乗っかってきた時は三人同時にどうぞどうぞと口を合わせて送り出そうとした時のジキンさんの顔は忘れられなかった。結局特に休憩もすることなく乗り込むぞー、となったのだけど、結局オババ様に移動の件を相談したり、その間の待ち時間を潰したりで休憩する羽目になった。



 
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