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3章 お爺ちゃんと古代の導き
137.お爺ちゃんと飛空挺④
しおりを挟む結論から言えば、山本氏の読みは当たっていた。
ただね、ひとつだけ予測を外していたと言えば……
『ようこそ地上の客人、空の移動要塞へ』
別ルート認定か何か知らないけど、物々しい場所へと通されたことくらいかな?
端的に言ってしまえば、私達は鯨君に敵対はされなかったが、そのまま捕食された。食糧か何かと誤認されてしまったんだろうかと一時はロストする事を覚悟したんだよ。
でも、格納庫みたいな形で何時でも出航可能な形式があって、頭に疑問符を浮かべながら通された先でオババ様と遭遇した。
「やぁ、オババ様」
「むぅ、お主であったか。紛らわしい現れ方をしおって」
物々しい雰囲気は一転。私が名乗りあげると以降、砕けた雰囲気でのやり取りとなる。
本来であれば別ルートの入場は固く禁止されているのだが、ここで小型機の認識章をいただくクエストをこなせば以降乗り降り自由だと許可されるようだ。
こちらの難易度は非常にゆるく、地上の物資を一定量持ち運んでくる事が条件になっている。すっかり地上の食にどハマりしてしまったのだろうね。大体はランダさんのせいか。あの人はそれで食べてないから研究と称して気軽に物を作りすぎる。その上採算をぶっちぎる職人気質なので素材がいくらあっても足りないのだ。故に物資の調達してくれたら出入りしてもいいぞとお許しをいただく。
今回は私とジキンさんの顔に免じて特別に許可してくれたらしい。と、言うよりは奥さんの功績なのだけどね?
最も近しい存在として、そこそこ認識されてるらしかった。
口の中の格納庫からは昇降口を通じて移動する。
一見してただの風景に見えた岩戸が左右にスライドし、そこが出口となった。
「こんな所に出るんだね。いや、驚いた」
「俺も乗り込むのは初めてだ。ムササビはこんな風景を見ていたのだな」
「ムササビさんと言うのが?」
「おう、うちの偵察隊のメンバーだ。野生のムササビなのに飛行機が大好きなやつでな、自力で飛べるだろうに変わった奴だよ」
「いやいや、拘りがある事はいい事ですよ。是非仲良くしたいですね」
「そうか。あいつもそう言ってもらえりゃ、喜ぶと思うぜ?」
山本氏はくつくつと肩を揺らして笑う。
その苦笑は誰に向けたものか?
どうも山本氏とムササビさんとの関係性が見えてこない。
偵察隊と言っておきながら、もっと身近な関係のように思えて仕方がなかった。
「で、マスター。これからのことですけど」
ジキンさんが、どうします? と目で訴えてくる。
どうしますも何も妻達のところへ帰るよ。
そう言いかけた所で思い出す。
私達が三の試練で何もなし得ていなかったことを。
なんならドジって墜落したのだ。無事帰還できたとは言え、ミスはミスである。そのあとの光景がありありと思い浮かぶ。
私の方はともかく、ジキンさんの方はあまりにも居た堪れない。
「あ、あー……うん。ジキンさんの言いたい事は理解した。流石に手ぶらで帰宅ってわけにもいかないよね。少しはお土産を摘んでいこう」
「つー事は、ここで一時解散か」
「その様です。取り敢えず山本氏、このまま進めていただいて結構」
「つまり融資は打ち切られると?」
「何をおっしゃいます。未だ攻略がされてない天空ルート。ただの移動であなたの野望は潰えると自らが認めてしまうのですか?」
「クソジジイめ。まだ俺達を働かせるつもりか」
「はっはっは! なんとでも言ってください。要は受け取り方次第ですよ。その時その時で着想は変わるものです。今後も期待してますよ。では、私達はこれで。あ、そうそうダグラスさんはそっちに居残りでお手伝いしてあげてください」
「そいつは構わんが、いいのか?」
「店でぼんやりしてるより良いでしょう。その代わり技術を盗んできて今後に生かしてくださいね」
「おい、本人の目の前で技術パクるとか太え野郎だ」
「事前に一言いってくだされば、いつでもダグラスさんを撤退させる事はできますが、山本氏はそれでも良いのですか?」
「痛ぇ所を突いてきやがる。確かに俺らだけじゃやってけねぇのも事実。仕方ねぇ、今回は目を瞑ってやる」
観念したのか山本氏は肩を竦ませて片頬を持ち上げた。
「お互い仲良くしていきましょうよ。こっちだって大手と喧嘩したくありませんし」
「よくも抜け抜けとそんな事が言えるな」
「マスター、堂々と喧嘩しといて自分のことは棚上げとか流石に擁護出来ませんよ?」
「いやはやサブマスターにお叱りの声を頂いてしまいました」
「ジキンさん、あんた結構苦労してるだろう?」
「そうなんですよ。この人、放っておくとあらゆるトラブル持ってきて僕達を困らせるんです。ほんと、ほんっとうに苦労の連続で」
「わかるぜぇ、上司が自由すぎると部下が苦労する。俺もそうだからよ」
わかってくれますか! とジキンさんと山本氏は一気に距離を縮めて盛り上がっている。
はいはい、どうせ私は自由人ですよー。
「嫌われてしまったねぇ、少年」
「なかなか理解してもらえないものですね、お互い」
「はっはっは。なんのことかな?」
探偵さんは僕は嫌われてませんけど? と笑ってごまかしている。そう言えばスズキさんはどこ行ったんだろうか?
こういう時に同調出来る相手だけに、視線を泳がせて相手を探すが、どこにも見当たらない。
居心地の悪い場所を抜け出して格納庫へ。
「ここに居たんですか。探しましたよ」
「ああ、ハヤテさん。ごめんなさい、ぼーっとしてまして」
いつになく傷心気味な彼女の態度にどこか落ち着かない。
「どうしたんですか? 貴女らしくもない」
「ああ、いえ。まさか要望がすんなり通るとは思わなかったもので。僕、嫌われてなかったんだなって」
ああ、彼女なりに私との距離感が開きすぎてたことを気にして居たんですか。何を馬鹿なことを言ってるんだろうね。この人は。フレンドになった人を嫌いになるなんてあるわけないじゃないの。
「嫌うはず無いじゃないですか。私が貴女にフレンド申請した頃を覚えてますか?」
「はい……見てくれの悪い僕についてきてくれて、そして一緒に行動してくれて。あの時は本当に変わった人がいるんだなと強い戸惑いを感じて居たのを覚えてます」
「ならば私が貴女を嫌う理由なんてないと分かる筈だ」
「ですね。僕は何を思い違いしてたんでしょうか。お恥ずかしい限りです」
「貴女はもっと自信を持って良い。それが素の貴女だとしても、無理してキャラを作る必要はないと思いますよ? もちろん、今のままでも十分に魅力たっぷりですが」
「な、ななな……何を。僕を揶揄ってるんですか?」
「いいえ。ただスズキさんが辛い時は本音で語ってください。うちのクラメンは私含む全員が曲者揃いですが、他人を蹴落とす事だけは絶対にしない人達です。全員が前向きに懸命に頑張れる人たちだ。そこは唯一誇れる所だよ。当然、貴女もそれが出来ると信じている」
「うぅう、ハヤテさんはそうやってすぐに僕を惑わすんだ。でも、恋愛感情を抜きにしてそう言ってくれる人は僕の周りには居ませんでした」
「少しセリフ回しが臭かったかな? 私は本心を伝えているだけなんだけどね」
「臭すぎですよー」
「今度から気をつけるよ。それで、これからまた[三の試練]で素材集めをしようと思うんだけど手伝って貰えるかな?」
「良いですよ。荷物持ちでも何でもします」
「それは心強い。これからもよろしく頼むよ?」
「ドンと任せてくださいよ」
「うん、任せた」
スズキさんはどうも落ち込みやすい性格をしている様だ。
だから普段はあんなに必死にキャラを作っているんだろうな。
私と一緒にいた時の知的な彼女は普段見せないのが気になって居たんだ。
でもそれは杞憂だった。
彼女の素を私が見てなかっただけなのかもしれない。
それだけなんだ。
「あ、マスター。どこ行ってたんですか? ほら、早くいきますよ」
「ちょっとスズキさんを探しに」
「すみません、迷子になっちゃって」
「まぁまぁジキンさん、そう目くじら建てずに。これから僕たちはあなたのための尻拭いをする人材だ。不用意にヘイト買ってどうするんですか」
「言 い 方。そういえばこの人もハヤテさんと同類だった」
「褒め言葉と受け取っておきましょう。さぁ、少年。一応リーダーは君だ。先導を頼むよ」
「はいはい。全くみんなわがままなんだから」
ジキンさん以外が含み笑いを浮かべてる中、私達のパーティは素材採取にのみ特化して探索し、新素材までは見つからないものの……渡された画像通りの素材を手に入れ妻達と無事に合流した。
「ずいぶん遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ?」
「いやぁ、少し大冒険をしていてね。その詫びと言っては何だが、数は確保してきたよ」
「まぁ、それでも十分ありがたいんだけどね。新作の試食ができてるから食べてきな」
「へぇ、今度はどんな味だろう」
奥様とのやり取りに一喜一憂するジキンさん。
終始尻尾を振ってる様は見てて面白かったです。
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