上 下
159 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き

137.お爺ちゃんと飛空挺④

しおりを挟む

 結論から言えば、山本氏の読みは当たっていた。
 ただね、ひとつだけ予測を外していたと言えば……


『ようこそ地上の客人、空の移動要塞へ』


 別ルート認定か何か知らないけど、物々しい場所へと通されたことくらいかな?
 端的に言ってしまえば、私達は鯨君に敵対はされなかったが、そのまま捕食された。食糧か何かと誤認されてしまったんだろうかと一時はロストする事を覚悟したんだよ。
 でも、格納庫みたいな形で何時でも出航可能な形式があって、頭に疑問符を浮かべながら通された先でオババ様と遭遇した。


「やぁ、オババ様」

「むぅ、お主であったか。紛らわしい現れ方をしおって」


 物々しい雰囲気は一転。私が名乗りあげると以降、砕けた雰囲気でのやり取りとなる。
 本来であれば別ルートの入場は固く禁止されているのだが、ここで小型機の認識章をいただくクエストをこなせば以降乗り降り自由だと許可されるようだ。

 こちらの難易度は非常にゆるく、地上の物資を一定量持ち運んでくる事が条件になっている。すっかり地上の食にどハマりしてしまったのだろうね。大体はランダさんのせいか。あの人はそれで食べてないから研究と称して気軽に物を作りすぎる。その上採算をぶっちぎる職人気質なので素材がいくらあっても足りないのだ。故に物資の調達してくれたら出入りしてもいいぞとお許しをいただく。

 今回は私とジキンさんの顔に免じて特別に許可してくれたらしい。と、言うよりは奥さんの功績なのだけどね?
 最も近しい存在として、そこそこ認識されてるらしかった。
 口の中の格納庫からは昇降口を通じて移動する。
 一見してただの風景に見えた岩戸が左右にスライドし、そこが出口となった。


「こんな所に出るんだね。いや、驚いた」

「俺も乗り込むのは初めてだ。ムササビはこんな風景を見ていたのだな」

「ムササビさんと言うのが?」

「おう、うちの偵察隊のメンバーだ。野生のムササビなのに飛行機が大好きなやつでな、自力で飛べるだろうに変わった奴だよ」

「いやいや、拘りがある事はいい事ですよ。是非仲良くしたいですね」

「そうか。あいつもそう言ってもらえりゃ、喜ぶと思うぜ?」


 山本氏はくつくつと肩を揺らして笑う。
 その苦笑は誰に向けたものか?
 どうも山本氏とムササビさんとの関係性が見えてこない。
 偵察隊と言っておきながら、もっと身近な関係のように思えて仕方がなかった。


「で、マスター。これからのことですけど」


 ジキンさんが、どうします? と目で訴えてくる。
 どうしますも何も妻達のところへ帰るよ。
 そう言いかけた所で思い出す。
 私達が三の試練で何もなし得ていなかったことを。
 なんならドジって墜落したのだ。無事帰還できたとは言え、ミスはミスである。そのあとの光景がありありと思い浮かぶ。
 私の方はともかく、ジキンさんの方はあまりにも居た堪れない。


「あ、あー……うん。ジキンさんの言いたい事は理解した。流石に手ぶらで帰宅ってわけにもいかないよね。少しはお土産を摘んでいこう」

「つー事は、ここで一時解散か」

「その様です。取り敢えず山本氏、このまま進めていただいて結構」

「つまり融資は打ち切られると?」

「何をおっしゃいます。未だ攻略がされてない天空ルート。ただの移動であなたの野望は潰えると自らが認めてしまうのですか?」

「クソジジイめ。まだ俺達を働かせるつもりか」

「はっはっは! なんとでも言ってください。要は受け取り方次第ですよ。その時その時で着想は変わるものです。今後も期待してますよ。では、私達はこれで。あ、そうそうダグラスさんはそっちに居残りでお手伝いしてあげてください」

「そいつは構わんが、いいのか?」

「店でぼんやりしてるより良いでしょう。その代わり技術を盗んできて今後に生かしてくださいね」

「おい、本人の目の前で技術パクるとか太え野郎だ」

「事前に一言いってくだされば、いつでもダグラスさんを撤退させる事はできますが、山本氏はそれでも良いのですか?」

「痛ぇ所を突いてきやがる。確かに俺らだけじゃやってけねぇのも事実。仕方ねぇ、今回は目を瞑ってやる」


 観念したのか山本氏は肩を竦ませて片頬を持ち上げた。


「お互い仲良くしていきましょうよ。こっちだって大手と喧嘩したくありませんし」

「よくも抜け抜けとそんな事が言えるな」

「マスター、堂々と喧嘩しといて自分のことは棚上げとか流石に擁護出来ませんよ?」

「いやはやサブマスターにお叱りの声を頂いてしまいました」

「ジキンさん、あんた結構苦労してるだろう?」

「そうなんですよ。この人、放っておくとあらゆるトラブル持ってきて僕達を困らせるんです。ほんと、ほんっとうに苦労の連続で」

「わかるぜぇ、上司が自由すぎると部下が苦労する。俺もそうだからよ」


 わかってくれますか! とジキンさんと山本氏は一気に距離を縮めて盛り上がっている。
 はいはい、どうせ私は自由人ですよー。
 

「嫌われてしまったねぇ、少年」

「なかなか理解してもらえないものですね、お互い」

「はっはっは。なんのことかな?」


 探偵さんは僕は嫌われてませんけど? と笑ってごまかしている。そう言えばスズキさんはどこ行ったんだろうか?
 こういう時に同調出来る相手だけに、視線を泳がせて相手を探すが、どこにも見当たらない。

 居心地の悪い場所を抜け出して格納庫へ。


「ここに居たんですか。探しましたよ」

「ああ、ハヤテさん。ごめんなさい、ぼーっとしてまして」


 いつになく傷心気味な彼女の態度にどこか落ち着かない。


「どうしたんですか? 貴女らしくもない」

「ああ、いえ。まさか要望がすんなり通るとは思わなかったもので。僕、嫌われてなかったんだなって」



 ああ、彼女なりに私との距離感が開きすぎてたことを気にして居たんですか。何を馬鹿なことを言ってるんだろうね。この人は。フレンドになった人を嫌いになるなんてあるわけないじゃないの。


「嫌うはず無いじゃないですか。私が貴女にフレンド申請した頃を覚えてますか?」

「はい……見てくれの悪い僕についてきてくれて、そして一緒に行動してくれて。あの時は本当に変わった人がいるんだなと強い戸惑いを感じて居たのを覚えてます」

「ならば私が貴女を嫌う理由なんてないと分かる筈だ」

「ですね。僕は何を思い違いしてたんでしょうか。お恥ずかしい限りです」

「貴女はもっと自信を持って良い。それが素の貴女だとしても、無理してキャラを作る必要はないと思いますよ? もちろん、今のままでも十分に魅力たっぷりですが」

「な、ななな……何を。僕を揶揄ってるんですか?」

「いいえ。ただスズキさんが辛い時は本音で語ってください。うちのクラメンは私含む全員が曲者揃いですが、他人を蹴落とす事だけは絶対にしない人達です。全員が前向きに懸命に頑張れる人たちだ。そこは唯一誇れる所だよ。当然、貴女もそれが出来ると信じている」

「うぅう、ハヤテさんはそうやってすぐに僕を惑わすんだ。でも、恋愛感情を抜きにしてそう言ってくれる人は僕の周りには居ませんでした」

「少しセリフ回しが臭かったかな? 私は本心を伝えているだけなんだけどね」

「臭すぎですよー」

「今度から気をつけるよ。それで、これからまた[三の試練]で素材集めをしようと思うんだけど手伝って貰えるかな?」

「良いですよ。荷物持ちでも何でもします」

「それは心強い。これからもよろしく頼むよ?」

「ドンと任せてくださいよ」

「うん、任せた」


 スズキさんはどうも落ち込みやすい性格をしている様だ。
 だから普段はあんなに必死にキャラを作っているんだろうな。
 私と一緒にいた時の知的な彼女は普段見せないのが気になって居たんだ。
 でもそれは杞憂だった。
 彼女の素を私が見てなかっただけなのかもしれない。
 それだけなんだ。


「あ、マスター。どこ行ってたんですか? ほら、早くいきますよ」

「ちょっとスズキさんを探しに」

「すみません、迷子になっちゃって」

「まぁまぁジキンさん、そう目くじら建てずに。これから僕たちはあなたのための尻拭いをする人材だ。不用意にヘイト買ってどうするんですか」

「言 い 方。そういえばこの人もハヤテさんと同類だった」

「褒め言葉と受け取っておきましょう。さぁ、少年。一応リーダーは君だ。先導を頼むよ」

「はいはい。全くみんなわがままなんだから」


 ジキンさん以外が含み笑いを浮かべてる中、私達のパーティは素材採取にのみ特化して探索し、新素材までは見つからないものの……渡された画像通りの素材を手に入れ妻達と無事に合流した。


「ずいぶん遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ?」

「いやぁ、少し大冒険をしていてね。その詫びと言っては何だが、数は確保してきたよ」

「まぁ、それでも十分ありがたいんだけどね。新作の試食ができてるから食べてきな」

「へぇ、今度はどんな味だろう」


 奥様とのやり取りに一喜一憂するジキンさん。
 終始尻尾を振ってる様は見てて面白かったです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...