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3章 お爺ちゃんと古代の導き
134.お爺ちゃんの巻き込みアタック!
しおりを挟む降り立った街はどこか都会的で建造物が立ち並ぶ姿はリアルの世界を思わせた。しかし道ゆく住民はまばらで、プレイヤーと思われる人達がヒソヒソと噂話をしている。
どのタイミングで声をかけようか見かねているのだろう。
そこで私の方から打って出ることにした。
ある程度名が売れていると認識しての自己紹介だ。
「やぁやぁみなさんこんにちわ。私はアキカゼ・ハヤテと申します。現在空のルートを探索中だったんですが、ドジをふんでしまいましてこのザマです。つきましてはここが何処か教えてくれたプレイヤーに先着三名様まで現在掴んでいる情報をいくつか公開する場を設けようと思います」
こんな時に一番良い手段は相手を巻き込むことに限る。
一気に興味が私から空ルートに移り、こちらへの興味は情報提供に早変わりした。奇異の目で見られてることには変わりないけど、メンバーへの負担は減ったと思う。
「あーあー。専用スレ建てられちゃってますよ。どうすんですか、もー」
「良い宣伝になるじゃないですか。もっと空に人を上げますよ」
「それも視野に入れての情報開示か。少年も食えないねぇ」
「せっかく注目を浴びたんです。それを使わない手はないでしょう?」
「ハヤテさんらしいですけどね。いつもの事です」
「そう、スズキさんの言う通りだ。いつもの事だよ探偵さん」
「そんな風に開き直られるとは思わなかった」
早速掲示板を流し読みした探偵さんの詰りに、スズキさんが横槍を入れる。私はそれを肯定しつつ話をまとめた。何事も諦めが肝心である。こればかりは治らないものだと理解しているからね。
「それで、情報開示はどこまでするんです?」
「そりゃ一番に食いつく所にだよ。サブマスター、記念コインの追加発注はいつ頃完了しそうかな?」
「今はダグラスさんも忙しいですからね。長く見積もっても一ヶ月は先でしょう」
「ではその頃にあわせて企画を進行します」
「また勝手に企画を始めてー。一度僕に相談してから発表してって言ってるじゃないですか」
「今言ったでしょ?」
「この人は……いつか刺されますよ?」
「それは怖い。用心に備えておくとしよう」
パーティメンバーと雑談をしながら誰かが名乗り出てくるのを待っていると、少しして三人のプレイヤーが現れた。
「アタシはアンリ。『春爛散華』のマスターをしている者だ。今日はよろしく頼むよ」
ちょっと強気そうな女性が前に出る。
黒い髪を短めに切り揃え、それでも女性的な柔らかさを前面に押し出した衣装に身を包んでいる。
ドレスとは違うけど革を鞣したコートが彼女の可憐さをカッコイイに昇華していた。クラン名から女性が多そうなグループなのだろう。ツンツンとした表情はウチの妻に通ずるものがある。
彼女が欲しがったら私はなんでも話してしまいそうで怖いな。
「俺はガーライル。クランに所属こそしてないが、独自に情報を集めてる。あくまで個人的に攻略する前提でな。今日は面白い話を聞けるとみみにした。色々と参考にさせて貰おう」
こっちはこっちで極度の検証マニアか。
探偵さんが興味津々になりながら彼の話に頷いていた。
これはきっと良いライバルになってくれつだろう。私は肩の荷が降りた思いだ。あの人は何かと私に突っかかって来ますからね。ずっとお相手してると疲れるんです。
「最後にオレはヒュウガだ。この中じゃ最年少だがランクAでクラン持ち。今回はより高みに登れると聞いてやってきた。よろしくな!」
最後は威勢の良い男の子がやってきた。
年はマリンかケンタ君よりも一つ、二つ上だろうか?
まだワンパクな感じが抜けきってない少年を見て、なぜかジキンさんとスズキさんが同時に微笑む。
息子を持つ父親と、教師特有の保護欲のような物で身働いたのだろうか?
なんだかんだと集まったメンバーはこの街でもそれなりに名前が売れているプレイヤーだとかで、私が知らないと言うとガックリとうなだれていた。私は街を隅々まで見て回るタイプだから、武器の更新とか、エネミーの強弱とかに興味を向けないんだよねぇ。ごめんねと謝ったら変に畏まられた。
工場都市ファイベリオン。それがこの街の名前。
ファストリアから数えて五番目の街。
鍛治のメッカでプレイヤーメイドの最大手『朱の明星』が本拠地を置く街だ。
彼らからの情報を纏めるとそんな何処かで聞いたことのある名前が出てきた。
ウチのクラメンの子供達だからねぇ。
ウチの御近所さんで娘と同い年も子も今ではサブマスターだと言うんだから大したものだ。ヒュウガ君はまだこの街にきたばかりで認めてもらってないのだとかで、いつかそこで自分専用の武器を作ってもらうにだと意気込んでいた。
「でもアキカゼさんには特に興味ない情報だったかな?」
「そんな事はないさ。こっちは持ってる情報が偏りすぎて一般常識が欠如してるのさ。だから助かったよ、ありがとうね」
ヒュウガ君は少し落ち込みながら話を切り出した。
ビクビクしながらこちらを窺ってるのが気になるけど、私ってそんな怖い存在だっけ? なるべく怖くないよーと気持ちを優しく持ちながら接してあげた。するとそれに便乗する声が上がる。
「あー、ハヤテさん。ヒュウガ君を泣かせてる。いけないんだー」
「全く、これだからマスターは」
「ベ、別にオレは泣いてなんかねーし!?」
ジキンさんとスズキさんである。
それに対して本人はご立腹のように頬を膨らませている。素直になれない年頃なのかもしれないねぇ。
「それでこちらに開示してくれる情報だが……」
ガーライル氏が重い沈黙を破った後に本題に入った。
「ふむ、そうだね。もし君たちが空に上がるのに、飛行船のような旅客機が個人で持てるレベルまで開発されていると知ったらどう思う?」
「!?」
「!!」
「???」
上から順番にアンリさん、ガーライル氏、そしてヒュウガ君。
アンリさんはその言葉に食いつくように視線を強め、そしてガーライル氏は自分の知らない情報に恐れ慄く。
ヒュウガ君は何を言われているのかちんぷんかんぷんな顔だ。
彼くらいの年代に回りくどく言っても伝わらないのはマリンで把握済みである。少し悪いことをしたかな?
「つまりアタシ達はまだ空にのぼれるチャンスがあると?」
「そう言うことだよ、アンリさん。ちなみにソースは私だ。私がとあるクランと提携し、開発を急がせている。そして現在ここまで完成している。こちらとしては君たちにそのクランへの口利きくらいはしてやっても良いとは思ってる。どうかな?」
そう言いながら開発中の極秘画像をメール添付で三人に送る。
受け取ったアンリさんはその事実に二度唾を飲み込んだ。
「そりゃウチにとっては願ってもない話だけど……話はそんな単純な物じゃないんだろ?」
「うん。開発資金については向こうのクランと応相談。ただ向こうも技術者だから何人乗りにするかは話を合わせられると思う。私たちのクランは人数が少ないから小型船と言うだけだし」
「至れり尽くせりときた。これは今のうちに滑り込んでおく必要があるね。とても参考になったよ」
「それはよかった」
アンリさんは大満足でこの話を喜んでくれた。
しかしガーライル氏はどこか思い悩んだ末に口を開く。
「残念だが個人使いをするには宝の持ち腐れになる物を持とうとは思えないな」
「ふむ、君はソロだったね?」
「ああ」
「ならば君が求めるスタイルの提示をしてみたらどうだろうか?」
「そんな事が可能なのか?」
「逆に不可能だと思うかい?」
「質問に質問をぶつけないでくれ」
「悪かったよ」
苦笑し、話を一旦打ち切る。
「私から思うに、あの人達は空さえ飛べるんなら基本的になんでも作ってくれる人達だよ。よく言えば情熱的で悪く言えば馬鹿なんだ。それ以外に興味を持たず、だからこそ偏った専門知識を生かせる場所を欲している。頼むだけ頼んでみないか? もちろん私も一緒に立ち会うよ」
「それが可能ならば、是非頼みたい。そしてそれが出来上がるのなら、空の攻略にも改めて着手したいと思う。今回は非常に興味惹かれる話を聞けた。久しぶりに気分が高揚した思いだ」
「それならばよかったよ。さて、ヒュウガ君にとっては今回の話題に甘みはなかったかな?」
最後に話題に置いていかれた少年を慰めるように問いかける。
話のスケールが大きすぎてついて行けてない。
「いや? 情報としてはそれなりに大きいと思ってるぜ」
「その割には浮かない顔だ」
「そりゃ大きすぎてウチのクランじゃ扱えなかったからな。ウチらは地上特化で出来上がっちまってる。あっちこっちに目を向けすぎて目的を見失なっっちまったらマスター失格だ。だから情報は生かせそうにない。それこそ宝の持ち腐れというものだ」
「じゃあ君に活かせる情報を送ろう。朱の明星への口利き。これでどうだ?」
「そんな事が可能なのか!? それならば是非頼みたい! マスターのオレがそれを扱えるなら、メンバーもみんなそれを目標に頑張れると思うから」
「よしきた。取り敢えずすぐに話に決着がつく問題じゃないのでフレンド登録しておこうか」
「アタシ達まで良いのかい?」
「どっち道連絡を取り合うんだ。遅かれ早かれ交換することになる」
「そうだな。こっちもあれこれと注文を重ねるかもしれないか是非頼む」
「はいはい、順番にね」
こうして私に新しいフレンドさんが出来ました。
互いに利用し合う間柄だけど、できれば仲良くやっていきたいよね。
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