145 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き
126.お爺ちゃんは天空人の生活を支えたい
しおりを挟む「さて、今回はみんなに空に登ってみた訳だけど……みんなは空に住む彼らをどう思った?」
「彼らというのは天空人の事ですか?」
「うん。残念ながら個体名までは教えてくれなくてね。だから呼び名が種族名になってしまうのが悲しいかな」
「ああ、それは確かに。うん、今後付き合っていくなら個体名を知っておきたいな」
探偵さんがウンウンと唸っている。
そのすぐ横で妻が挙手をした。
「私としてはあの劣悪な環境をもう少し改善したいと思うのだけど」
「アタシも同意見だねぇ。年若い娘が肌を露出するもんじゃないよ」
妻の言葉にランダさんも乗っかってくる。
そう言えば200年以上生きてるって伝えてなかったな。
それ以前に今のあなた達も結構露出激しめですよ、とは敢えて言わない。
女性の見た目について言及するのは古来からのタブーなのだ。
流行も知らないのに余計な口出ししないでと怒られるのが目に見えてしまう。
なのでここは何も言わずに従っておくのが吉だろう。
「それは私も同意見だ。しかし彼らは長命種。私が開拓する前は外交すら一切なくここで歴史が止まっていたんだ。だから今後人目につく前に、打てる手段は全て打っていきたいと思ってる。これを次の企画として考えてるんだけどどうかな?」
私の提案は彼らの暮らしを根本から変えてしまうものだ。
街というよりは、ただあの場に配置されただけのNPC。
それでは非常にもったいない。
せめて衣類や食事くらいは改善したいところである。
建築に関しては移動の際の風圧に耐えられるかどうかわからないので保留。
さて、ウチのクランメンバーはどんな答えを出すだろう?
そこでジキンさんがみんなより先に挙手をした。
「それってつまり情報の独占ですか?」
「何故そう思うんです?」
「何故って、普通はそう思うでしょう。マスターの事だからこの場所に根付いた文化を残しつつ、それ以外を隠して地上人の知識で埋め尽くす腹積りだ。その意図がわからない限り、こちらが手助けするのは早計かと思います」
ふむ、いかにもジキンさんらしい頭でっかちな質問だ。
もっとシンプルで良いのに。
「残念ながらこの鯨の背中に得るべき文化は何もないよ。私が調べた結果、ここに立ち並ぶオブジェクトは彼らの歴史でしかない。浮かぶ古代文字も他のフィールドがどういうものか指し示すものだけだ。先んじて発表してしまえばわざわざ解明する意味はなくなる」
「だからそれが勝手な行為なんですって。僕たちがどうしたいかより、まず向こうの気持ちを考えてます?」
最もな意見だ。
「無論。だから今回彼女を招いて食事会をしている」
そこでまだシチューの余韻から戻ってこれない天使さんをみんなが見た。
一斉に見られた事により、少しだけ気恥ずかしそうにする天使さん。こう見えて天空人のお偉いさんなんだよね、彼女。
「なんだ、私にまだ何か用があったか?」
それよりもうおかわりは無いのか? と少しだけ物足りなそうな表情を浮かべる天使さんを見て、全員が微笑ましい笑顔を浮かべた。
殆どが子育てを終えた経験があるからこそ、甘えたい年頃の子供を思い出してしまったようだ。
若干一名子育て前の人も居るけど、彼女は一番近い場所で子供と接してきたスペシャリストだ。
この中で一番庇護欲を掻き立てられたのはもしかしたらスズキさんかもしれない。
「私の言いたい事は言わずとも分かってもらえたでしょう?」
「確かにこれは放って置けませんね。少しだけ手を貸してあげたくなりました。良いでしょう、ここで新たに文化を築くというのなら僕は協力するよ、少年」
「探偵さんならそう言ってくれると思ってました」
「なんだかもの凄く納得できました。つまりハヤテさんは彼女達の手助けがしたいんですね? 僕、そういうの得意ですよ! どんどん頼ってください! あ、でも。僕の姿気味悪がられないかなぁ?」
スズキさんは発言した直後にシュンとした。
頭を下に下げただけなのだが、その落ち込みっぷりときたらだいぶ激しく見えるのだから不思議だ。
「今回一緒にお料理してどうでしたか?」
「なんとも言われませんでした! あっ あっ そういう事ですか? 気味が悪いという認識すらない。そうですね?」
「うん、スズキさんはスズキさんのまま接してあげてください。それが一番ですよ」
「分かりました!」
スズキさんは背筋をピン、と伸ばして挙手をする。
さっきの今ですごい態度の変化だ。
殆どが体だからそのまま転びそうになってて面白い。
そこで満を辞してジキンさんが前に出てきた。
「僕は娘を育てたことがないので詳しくは分かりませんが、少しだけマスターの言いたいことが分かりました。確かにこれは見過ごせない」
「そうでしょうとも。親であれば彼女達の環境は見過ごせない筈です。もし娘が一人暮らしする環境がこんな場所だったらと思うと気が気じゃない。そう思いません? 親世代ならあれこれ言いたくなるはずです」
「確かにこの子は放って置けないねぇ。世界はもっと広くて美味しい料理は沢山あるってことを教えてあげたくなる。あんた、こういう時こそ貢ぎ時だよ?」
ランダさんも会話に加わり、ジキンさんを焚きつけた。
もはや今のジキンさんは目に炎を宿す熱血漢に成り果てた。あとは勝手に働いてくれるだろう。
「あなた……今回の選別はこういう意図があったのね」
「うん。特にうちは年配の方が多いクランだからね。若い子達だったらこうはならない気がしたのであえて孫達は入れなかった。攻略はあの子達に任せて、私たちはここでの生活を支えていけたら良いなって思ったんだ。それが彼女達の為にもなるし」
「そして後続の冒険者達の援護にもなると? 変わらないわね。昔からこうだと決めたら一直線に走っていく。ついていく方は大変だわ」
「もし君が無理だというのなら……」
「誰も嫌だなんて言ってないでしょう? そうやって話を先読みするのはあなたの悪い癖よ? まずは衣類の調整から。いろいろ布を当てて彼女達の過ごしやすい服を作るわ。それが私の役目かしら?」
「良いのかい? 私としては調理に着手して欲しかったのだけど」
「あなたが私を買ってくれてるのはわかるんだけど、ランダさんには到底勝てそうにも無いわ。だから唯一勝てるこっちで勝負するの。よく娘の服のほつれを縫い止めたものよ。破けたら買い与えてたランダさんにはできない芸当だわ。これはその差ね」
そうやって楽しそうに笑う妻を私はとても誇りに思う。
私が働きに出ていた頃、彼女が一人家に残されて何をやっていたかまでは知らずにいた。子供達の情報は入ってくれども彼女は自分のことをあまり私に教えてくれる人ではなかったから。
だからこうして自分の歴史を語ってくれた彼女に感謝している。
「うん、私たちの手でもう少し空の生活を豊かにしてあげよう」
「ええ」
この日より私達のクラン内での次の企画は決まり、登っては降りてを繰り返すうちに掲示板で【今、木登りをボートで登るのが熱い!】などと大々的に取り上げられる事になったのだが、それはまた別の話。
ただ、そうだね。馬鹿正直に木登りをしようとする人は少なくなったのは事実だ。そのおかげで空への参入者はうなぎ上りになり、同時に重力無視を得られずにそのまま落ちる死亡者が続出した。
そんな簡単に雲の上を歩けたら私の苦労が水の泡だ。
だからね、一時的にボートの貸し出しを始めたんだ。
私達は赤の禁忌改革に忙しかったから販売はオクトくんに任せている。彼は連盟したクラン員からの素材の買い取りのほか、それらを用いたアイテムの開発着手に携わっていた。
販売もしているらしいが、用途が不明すぎて売れ行きがさっぱりだという。
ついでに空の情報も売ったらどうかと打診したら「それだと価値が下がるのでダメです」と言われた。彼なりに何か考えがあるのだろう。私はそれ以上の追及はしなかった。
そして雲の上を渡れるボートは飛行部の考案だ。
かろうじて雲の上を浮かせる事はできたが、上空で移動させるには燃料が持たないと頭を悩ませた未開発品がこちらのボートであった。
浮くという概念のお陰で雲の上を渡る上での必需品になっている。用途に対して不満たらたらの山本氏に対して、他のクランから用途があるだけ良いじゃないですかと慰められている。
本音を言えばもっと小型化して個人使い用があれば良いと打診してるが、本人の作りたいものと一致しないからそれらが作られるのは難航しそうだった。
燃料関係もダグラスさんと相談したら良いんじゃないだろうか? あの人そっちの知識もすごいし。
それをあらかじめ伝えておいたらうまいこと生きそうだったので、あとは時間を待つのみか。
時の流れは待ってるだけならあっという間に過ぎ去っていく。
プレイヤーが安定して赤の禁忌に渡り始めたのはそれからリアル時間で3週間も後のことだった。
11
お気に入りに追加
1,991
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる