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2章 お爺ちゃんとクラン

084.お爺ちゃんと少年探偵②

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「それにしても探偵さんは独特な戦い方をするねぇ」

「まぁね。初見の敵に対しては油断は大敵。動きを見る為に敢えて隙を作って攻撃させ、頭の中でその対処法を練るといったスタイルだ。今の若い子たちから見たら無駄の集大成のように思えるだろうけど、ダメージの少ない内から心がけていくのが大事だと私は思うよ?」


 永井君の戦闘スタイルはマリンのようにスピードで翻弄するでもなく、ジキンさんのようにパワーで圧倒するでもなく、スズキさんのように技術で立ち回るものでもない。

 どちらかと言えば動かず、手を出させてそれの対処法を考えるというスタイルだ。それはまるで検証のようで、モンスターの性能を見極める確認のように思えた。
 最初手間取っていた動きは、あるタイミングを境にどんどんと簡略化されていく。
 もう全てのデータを取り終えて用が無くなったばかりにとどめを刺した。
 フィニッシュは華麗に。そういうところはアキカゼを模倣して。実にこだわり抜いた技法であるように思う。
 さっきまでの泥仕合いも永井君の努力を感じさせる技法が積み上げられていたように思った。


「なるほど。因みにスクリーンショットで撮影すればエネミーの攻撃方法や耐久、弱点まで看破できるけど?」

「そうかもしれないけど、動き出しから突進にかかるモーションに何秒かかるか、どこまでの距離を出せるか、突進力に何処までのダメージをつけられるかまでそのデータじゃ判別できないよね?」

「それは確かに」

「私の戦闘はパターンを理詰めで制していくいわゆる情報収集のようなものだ。ただの雑魚と片付けていてはそのうち取り返しのつかないことになりかねない。そういうところは息子から伺ってるよ」

「余計なことでしたかね?」

「いいや、良い情報を聞いた。今度からはそれも取り入れよう」


 素直に情報の価値を整理し、メモ帳に書き込んでいく。
 物忘れ防止というよりは手癖の様な感じだろうか?


「探偵さんとしては出遅れた感じです?」

「どうかな? 専門分野が違うんだ。それに探偵業は依頼を受けてからが本番だしね?」

「確かに。では情報などはどうやって仕入れるんです?」

「こういうのは手癖みたいなものでね。誰かに頼らずとも勝手に集めてしまうんだ。今後はブログ閲覧などに時間のほとんどを費やすことになるだろうね。ま、少年ほどのお宝がザクザク出てくるケースは当てにしてないさ」

「やはりそうなんですか?」

「そうだよ。ご家族からはなにも言われたりしないの?」

「めちゃくちゃ言われますね」

「自覚あるんじゃない。でもそうだね、少年はそのやり方をそのまま真っ直ぐ伸ばした方がきっといい結果につながるように思うよ。それが君の持ち味だし」

「そのセリフ妙にアキカゼっぽいです。コミックで見たこともないのに妙にしっくりきます」

「フフ、言うと思った。そう、これは私の独創だ。オリジナルを模倣し、独自解釈と独自設定を盛り込んだ創造だ。だから作中で使われていなくとも、この言葉に行き着くだろうと考えて行動している」

「私の想像以上にアキカゼハヤテでびっくりしました」

「それは何より。私もこの道四十年のベテランだからね。他のロールプレイヤーとは年季が違うよ」


 雑談を交わしながらフィールドをサクサクと進んでいく。
 永井君は一度理解したら対処がものすごく早くなる。
 一度検証を終えた後は談笑しながら対処してしまうんだもん。
 歩きながら、雑談中に不意打ちを受けても意に返さない。
 裏付けされた力強さがその体から溢れていた。

 まったく。一体どの口が『体を動かすのが得意じゃない』なんて言うのやら。この人はダグラスさんと一緒だ。
 リアルにゲーム事情をあまり持ち出さない。
 向こうで接する感じとこっちじゃ違いすぎる。
 逆に言えば私もそう思われてるんですかね?

 そう思うと急に恥ずかしくなりますね。
 心の中でそんなことを思っていると──


「そう言えば少年」

「はい」

「クランの話だが」

「ああ、別に無理しなくてもいいですよ? 私としても無理を言ってると分かってますし」

「うむ。けれど私はこの取引を無碍にするつもりはないと事前に断りを入れておこう」


 永井君は何を思ってそんな事を?
 夕方に誘った時は乗り気じゃなかったくせに。


「それは嬉しいですけどなんでまた?」

「そうだね。これは予測なんだけど、君のフレンドさんのうちの一人が私の知り合いだ。筆跡の癖から特定したのでまず間違いない」


 筆跡の癖から特定とかロールプレイにしたって本格的や過ぎませんか?
 しかしそれで割り出せちゃうあたり、その観察眼には目を見張るものがある。


「流石に個人情報を渡す気はありませんが、はい。一応いますね」

「ならば尚更一つ所に集まっていたほうがいいだろう。どうだろうか? これを機に歩み寄って見るのもいい機会だと思う。音頭取りは私がするけど?」

「話が理解できません。まずは私にもわかる様にお願いします」

「どこから話すべきかな。私の息子がAWOにハマっている事は以前話したよね?」

「はい」

「そして孫娘もそこに入れ込んでいると聞いていたんだ。その孫の癖が出てる文章を君のブログから発見した時、これはいいチャンスだと思った」

「ええと、つまり?」

「私の息子はAWO内で検証班なんかをやっていてね? 孫はそこの記者を兼任していると言えばわかるかな?」

「あー、つまりクランに参加する代わりに息子さん達も引っ張ってこようと?」

「その通りだよ。息子のクランも色々と立て込んでいるようだし、少年のブログに頭を悩まされてるみたいだ」

「家でそんな事語り合っているんですか?」


 まさか、ウチのようなゲーマー家族じゃあるまいし。


「まさかまさか。私と息子は別々の家に暮らしてるよ。年に一度挨拶しに訪問してくる事はあるけど、すぐにとんぼ返りするし、誰も連れてこない。何がそんなに忙しいのか知らないけどね。そういうわけで私と息子はなかなか折り合いがつかないんだ」

「ではどうして?」

「そうだね。孫に会うきっかけ作りが理由じゃダメかな?」

「いえ、十分ですよ。存分に顔を突き合わせて語り合ってください。そうか、永井君はシグレ君のお爺ちゃんだったか。しかし実の父親がリーダーだとは思いませんでした。そんなことまで聞いてなかったからねぇ」

「孫との間に何か失礼なやり取りでもありましたか?」


 割って入ってくる永井君の顔は、責任のある大人の顔をしていた。さっきまでのロールプレイが揺らぐあたり、孫のことになると優先順位が変わってしまうようですね。
 その気持ち、わかります。私もそうですから。


「いいえ、可愛いものですよ。うちの孫娘のクラスメイトだそうで。私の入手した情報にいち早く飛びついたそうです。観察眼は祖父譲りですかね?」

「どうでしょうか? 私はあまり孫に会わせてもらえないので分かりません」

「これからいつでも会えるじゃないですか?」

「そうだといいんですけどね。どうもうちの息子は私と会わせたくないようなんだ」

「だってねぇ、まさか自分の祖父が未だにロールプレイヤーやってるなんて知ってたら、会わせられませんよ。私だって同じ対応するかもしれませんし」


 肩を竦めて苦笑する。


「あー、そういうこと言うんだ?」

「少しは自覚なさってください探偵さん。貴方のロールプレイソウルは素晴らしいものですが、それを周囲に押し付けるのは戴けませんよ?」

「少年にだけは言われたくなかった」

「ははは、なんのことやら。あ、それでですね?」

「何?」


 ファストリアへの帰り道、私はクラン設立に向けて大きな戦力を得てその気持ちを大きくしていた。

 人数の問題も大まかクリアした。
 初めての出品内容も決まっている。
 クラン設立の際の紹介者も準備万端だ。

 でも、冒険者としてのランク上げがまだだと思い出し、急遽冒険者ギルド受付で永井君の登録を取り付けた。
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