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2章 お爺ちゃんとクラン
067.お爺ちゃんと山積みの問題
しおりを挟む「ただいま」
「おかえりなさい、お父さん。なんだか美咲が慌ててましたよ」
「おや、いったいなんのことだろう?」
「ごまかさないで。十中八九ブログのネタの事でしょう。何やら感想欄も大荒れだって聞いたわ」
今まで一度も書き込みされてなかった自分のブログがそこまで荒れるなんてことあるのかな?
「そうかい。それでも筆者としては相手に驚きと興奮が伝えられたことを嬉しく思うね」
「そう言って、検証班の子頭抱えてるって話よ?」
「情報を公開したのにどうして?」
「なんでも個人が持つには重すぎるらしいわ」
「ふぅん」
よくわからないね。情報を教えて欲しいと言うからブログを通じてならいいよと暗に教えてあげてるのに。
まだ夕飯には少し時間がかかるようだ。
美咲はこっちに帰ってきているみたいだし、ブログがどのように荒れたかは彼女の口から直接聞くとするか。
その前に風呂を浴びてしまおう。
「お風呂は湧いているかな?」
「オール電化だからスイッチひとつでいつでも入れるわよ」
「そりゃ便利だ。うっかり停電になった日には目も当てられないが」
「本当よね。当たり前になり過ぎてそこら辺の意識がどこかに行ってしまいそうよ」
娘の言葉を聞きながらも、やはりそう言った懸念もあるかと唸る。
汗を流し身体を洗って湯船から上がるとすでに家族は揃っていた。
席に座り、全員でいただきますをしてから食事を始めた。
食後は通例通りに近況報告会。
孫から聞いた限りでは荒れていると言っても雑談程度らしいが、フレンド限定にしたって結構な伸び率を見せたらしい。
今から見るのが楽しみな反面、少し怖いな。
なんでもスズキさんが相当荒ぶられてるらしいし。
と、盛り上がっていたところへ孫との会話に秋人君が参加してくる。
「お義父さん。ゲーム内で何か進展はありました?」
「あったと言えばあったけど、現状どうにもできない事がよくわかったよ」
「これはまた大事件の予感が……」
「でも事前に知れてよかった情報でもあるわね。なにせ今回はイベントを起こす側に回らなくていいもの。その上でガッツリ稼げる可能性まであるわ」
「今から聞くのが怖いなぁ」
「もしこのネタが明るみになったら事前に頼んでいた装備の納期が早まるかもしれないね」
「なるほど、お義父さん関連ですか。ですがその前に特殊合金のインゴット化が優先ですね」
「問題は山積みと言うわけか」
「はい。自分たちでなんとかできればよかったんですが」
「ない物ねだりをしても仕方ないだろう。ただでさえダグラスさんはジキンさんほど遭遇率が高くない。一応メールで伝えてはいるが、まだ既読がつかないんだ」
「そればかりはログイン権のタイミング次第ですよね。お義父さんのように平均的に使えていればいいんですが、日常的にリアルでお仕事してる人はログイン権を使いきれない人も多いですし」
「一応この後井戸端会議場にでも顔を出してみるよ。そこで会えたら話をしておく」
「急かすような真似をしてすいません」
「なに、変なものを見つけてしまった私にも責任はあるさ。それと無理強いをしてしまった責任もね」
それでも秋人君は頭を下げるのをやめず、私はそれを苦笑しながら見届けた。
さて、向こうではどれくらいの人数がログインしている事やら。
[接続人数:20人]
おっと、予想外に多いな。
流石に朝の接続は少ないと思ったが、やはり時間帯も関係してるか。
「こんばんは」
「おや、この時間には珍しい顔がいますね」
早速返してくれたのは寺井さんことジキンさん。
ゲーム内で見かけないと思ったらこっちに居たんですね。
どうりで向こうで出くわさないわけだ。
「やぁやぁ笹井さん。こっちに参加されたと聞いていつ来るだろうと首を長くして待っていましたよ」
「そんな、永井さんの持ちネタを披露させてしまうほどのことでしたか?」
「ははは、なんのことやら」
永井さんは幼馴染みと言うほど長い付き合いではないが、同じ中学に通う頃からの馴染みの顔である。
苗字を文字って人に待たされた時にお決まりの文句を言うことからいつの間にかそれが彼の持ちネタになっていたらしい。
私一人に言うんならともかく、出会う人全てに言われるほど言いまくってるらしく、なおもシラを切れてると思ってるあたり彼の茶目っ気が前面に出ている。
「それで寺井さんとなんのお話をされていたのですか?」
「いやなに、ちょっとした電化製品の買い替え相談に乗ってもらってたのですよ」
「へぇ、意外な特技ですね」
なんでもできる人なのだなぁと感心していると、永井さんが驚いた顔をした。
そのあと何かに思い至り、納得しながら言葉を続ける。
「あー笹井さんは彼がテライ電気の社長さんである事は知られてないのでしたっけ?」
「この人には仕事上のお話をしてませんからね」
「えー、あなたそんな立場でしたっけ? 聞いた話と違うんですけど」
「一応大手だって言ったじゃないですか。それで察して欲しいところですね」
だから秋人君が必要以上に恐れている訳だな。
なんでこの人犬の獣人にしたんでしょう、狸の獣人に今すぐキャラクリエイトし直すべきですよ。
「なんだか良からぬお考えを持たれてますよ?」
「なに、慣れたものです。彼とは偶然にも同じゲームで知り合いましてね。なのでお互いにそちらの立場での癖が抜け切らないんですよ」
「ははぁ、今更ゲームに打ち込めるなんて皆さんお若い。私なんてついていくのがやっとで触ってすら居ませんよ。せいぜいここに顔を出すのが精一杯ですね。ここでなら今まで通りやれますし」
永井さんは遠い目をしながら夕焼けに暮れる桜町を見据えた。
「そう言えば寺井さん、神保さん見かけました?」
「あの人はほとんどの時間をAWOに費やしてるみたいですよ?」
「その割にメール送ったのを受け取らないんですよね」
「単純に没入時間が長いからじゃないですか? 私も彼を詳しく知りませんが、そっちの界隈では有名なお話らしいじゃないですか」
おっとこの口ぶり、既に神保さんが何者か知ってる感じだ。
もしかしなくても永井さんが?
この人口が軽いんだよなぁ。
少し寺井さんからの威圧が増したので話を切り替えますか。
「そう言えば、彼集中力だけはピカイチでしたもんね。すると困ったな。相談したい事があるんですが、なかなかに出会わないんですよね」
「一応毎朝顔合わせする予定入れたじゃないですか。明日じゃダメなんですか?」
「そうですね、焦っても仕方がない案件ですしここは我慢しましょう」
「あ、この人ブログ以外の案件抱えてるって顔してますよ?」
目敏いですね。この人はいろんなものに首を突っ込みすぎでは?
「ほぉ、ブログですか。懐かしいですね、そんな前時代的な代物が未だに残ってるなんてどんなゲームです?」
「アトランティスワールドオンラインてゲームですよ」
「ああ、娘たちが夢中になってやってるやつだ。一部のコアゲーマーに人気だそうですね。なるほど、ブログなんてあるんだ。笹井さんがどんなブログ書いてるのか気になるなぁ」
「良ければ一緒に参加しませんか?」
「良いのですか? あまり期待されても私は体を動かすのがあまり得意ではありませんが」
「大丈夫ですよ。笹井さんなんて戦闘スキル一切なしで好き勝手生きてますから」
「へぇ、そういったプレイヤーも許されるのですか。いやはや流石にコアゲーマー向けと言うだけはある。そうですね、一応検討しておこうと思います。そこでなら笹井さんや寺井さん、神保さんにも会えるのですよね?」
何やら永井さんが前向きに検討し始めてくれたところでちょうど良い時間になった。
このVR空間は時間加速がないのでリアルと同じ時間速度で流れている。時刻は夜の顔が強くなってくる午後七時。
どざえもんさんと約束している時間になっていた。
「それでは来たばかりで恐縮ですが私はこれからAWOに山登りに行ってきます」
「おっ、頑張ってきてくださいね」
「忙しない人ですねぇ」
「一応約束してましたので、ログイン権を一枠そっちに回してるんですよ」
「ほぅほぅ、笹井さんがそこまでして時間を合わせる御仁って訳ですな?」
「単純にその人も私と一緒で山登りが趣味なんですよ。趣味人同士で話が合うので時間を合わせた感じですね」
「なるほど、同類ですか。その人も笹井さんと同じタイプだとしたら気をつけねばいけませんね」
「なんですか急に人を腫れ物扱いして」
「自覚がないとは恐ろしい事だ。ああ、永井さん、AWOを始めるならこの人結構自分勝手ですのでお気をつけくださいね。結構な被害者を出しておりますので」
「おやおや、笹井さんはお元気ですね」
「それだけ向こうの世界では体が動くって事ですよ。もしかしたら永井さんの持ち味も生かせるかも知れませんよ?」
「おぉ、それは今から楽しみですね」
「では私はこの辺で。寺井さん、くれぐれも誤解を周囲に広めるのはやめてくださいね?」
「精一杯努力いたしますよ」
そこは普通に了承して欲しいところですが、聞かなかったことにしてリアル空間へ戻りそのままAWOにログインし直した。
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