上 下
72 / 497
2章 お爺ちゃんとクラン

060.お爺ちゃんはイベントを開催したい

しおりを挟む

 と、言うことで神保さんを誘って三人で何かやることにした。
 何をするのかは会ってから決める。正直な話、会って見ないことには決めようがないのだ。
 そもそもスキルから何から何まで違うであろう私達。
 やれることはあまり多くないと思うのだ。


「おはようございますジキンさん。先ほどぶり」

「やぁハヤテさん。先ほどぶり。神保さんはまだ?」

「移動に時間がかかるんじゃないですか? ログインスポットはサードウィルと聞いていますし」

「なるほど」

「あ、そう言えば。前回四男のロウガ君に新しい人脈を築いてもらったんだ。代わりにお礼を言っておいてもらえませんか?」

「へぇ、あの子がね。分かった、引き受けましょう。とは言えウチでは過剰に褒めないようにしてるのでハヤテさんがよろしくしてた程度の報告ですが」

「もっと褒めてあげてくださいよ」

「ダメダメ。男兄弟は褒めたってつけ上がるだけです。ハヤテさんのご家族を見てれば褒めすぎるのも問題だなと再確認した程ですよ。僕のやり方は何も間違ってない」


 ジキンさんはいつになく強気で力強い目をしてる。
 はいはい、そう言うことにしておきますよ。
 彼と二人で雑談に花を咲かせていると「もし」と声をかけられた。
 私とジキンさんは揃って声のした方を振り向く。
 するとそこには見るからにドワーフと思しき見た目の男性が人間違いかとバツの悪そうな顔をしていた。


「ああ、すまない。実はワシはこう言うものなんだが、今日はここで待ち合わせをしとるんだが、心当たりはないか?」


 一枚の名刺を受け取り、ようやくお目当ての人物がやってきたと得心する。名刺には『金属加工のことならお任せ。精錬技師ダグラス[サードウィル中央区24-2]と店の特徴と住所が記されていた。
 

「ようこそお越し下さいましたダグラスさん。私はアキカゼ・ハヤテ。リアルでは桜町三丁目の笹井さんちのお爺ちゃんをやらせていただいてます」

「おお、笹井君だったか。するとこちらが?」

「寺井です。ああ、こちらではジキンという名もありますが」

「これはこれはご丁寧に。しかしジキンさんはともかくアキカゼ・ハヤテとは……そういえば好きじゃったもんなぁ」

「図書室に寄贈したコミックを読むことだけが生きがいになってますからね。近所の子にもぜひ知って欲しいと寄贈したのに誰も見てくれないんですよ」

「だからって暇を見つけては読みにきてるんですよ、この人」

「ワッハッハ。まぁ時代の流れには逆らえんわな。我々第一世代とは違い、第二、第三世代は思考速度の加速化に重点を置いた世代。世代が変わる度に進化しとる分、趣旨も変わってきとるしの。ワシらのように体力特化は今時はやらなくなってしまったんじゃ。ちと寂しくわあるがの」


 ダグラスさんの口調はリアルとは違って随分と年季を感じさせる老人言葉だ。
 しかしその口調のおかげで随分と貫禄が出ている。
 暦年の技術がその腕に宿っているかのような気になるあたり、キャラ付けには成功しているようですね。


「分かってはいるんですけどね、なかなか心のほうが納得してくれないんです」

「気持ちはわかる。さて、こうして三人で集まった訳じゃが、如何する?」

「それを今から考えるんですよ」

「ちょっとハヤテさん。目的もなく呼び寄せたんですか?」


 信じられない、と言う目でジキンさんが見てくる。
 その横ではダグラスさんが変わらんなぁと昔を懐かしむように遠い目をしていた。

 御近所さんとはいえ、仕事をし始めてからすれ違う日々ばかり続いていたからね。
 子供の年が近いからPTAなどで一緒になったりはしたけど、子供が大きくなったらそれまでの関係だ。
 職種も違うし、町内会の集まりくらいでしか顔を見なかったものなぁ。
 ふむ、町内会か……いいね。丁度この集まりの趣旨が欲しかったんだ。
 どうせならこの繋がりはご近所さんから集まってもらうためのものにしたい。
 じゃあ、どうするか?
 それを今から考えようか。丁度ここにはそれなりに人脈の広い人たちが来てるし。


「取り敢えずこの度の集まりを桜町町内会AWO部とします」

「ふむ、今回で終わらせずに今後につなげる訳か」

「また無計画でそういうことを始める」

「ジキンさん、こいつは昔っからこういう男だ。我慢せい。
 じゃがその我慢の先には見たことのない景色があるのも確かじゃわい。その景色見たさによく門限を破って拳骨を落とされたが、それもいい思い出になっとるしの」

「懐かしいですねぇ。子供の頃は何を見るのも新鮮でよく駆け回ったものです。今じゃ気持ちばかり若くて体がついてこない。でも、ここなら」

「じゃの。自由が効く」


 ダグラスさんは私と似たような体験をしてますもんね。
 山にこそ登らなかったが、若い時のように思いものを持ち上げようとして腰をやった。そこからいろんなところを痛めて引退した経緯がある。だからこそこのゲームで救われたのだとその目が語っていた。


「それで、何を目的とするんです?」


 ジキンさんのジトりとした視線が私を射抜く。
 全く堪え性のない。答えを急かすのはあなたの悪い癖ですよ?
 でもしかし、いつまでも答えを出さないままでは不安でしょうからひとつ提案を出して見ますか。


「そうですねぇ、いっそ私達で何かイベントでも起こしませんか? バザーとかそういったものをしたいです。ここではプレイヤーが主催者になれるイベントが作れるらしいじゃないですか」

「またこの人は突拍子もないこと言うんですから。でも同時に面白そうだと乗っかりたい僕もいる。ダグラスさんはどうします?」

「そうじゃなぁ、何でもかんでもまずは初めてみることに意義がある。しかしハヤテ君。確かイベントを起こすにはクランに参加している必要があるんじゃなかったか?」

「じゃあいっそ作りますか、クラン。資金面は任せてくださいよ。何故か知らないけど3億くらいは持ってますんで」

「確かお金だけじゃなく実績作りも必要だったはずですよ」

「待て。どこからそんな大金が出てきた? 課金ではゲーム内マネーに換金できない仕組みの筈じゃが?」


 ダグラスさんの疑問はごもっとも。
 そこで頼んでもないのにジキンさんは我がことのように詳しく説明してくれる。
 まったくこの人は。私の悪口を言う時になると生き生きし出すんですから。


「実はこの人うっかりで大型レイドボス討伐イベントを踏み抜いたんですよ。我々や家族を巻き込んでおいて素知らぬ顔ですよ?
 そのくせ重要なイベントはきっちり踏んで行くんでトータルMVPで誰よりも目立って賞金をかっさらっていったんです。
 その上で自分は何もしてないとか言うんですよ、信じられます?」

「ガハハハハ、ハヤテ君、それはあんまりにもあんまりじゃ。今更ながら君の荒唐無稽さが怖くなってくる。
 じゃが、変わらんのぉ、昔からそうじゃったな君は。あれだけ散々引っ張り回しておいて、みんなのおかげだと謙遜する。
 言われた側は多分ジキンさんと同じことを思っとるじゃろうよ」


 腹を抱えて笑うダグラスさん。
 敵はもう一人いたか。
 しかしようやく理解者ができたかとジキンさんは嬉しそうにしている。


「はいはい、どうせ私が悪うございますよ。それで異論は?」

「あってもつっぱねるでしょう? だったらするだけ無駄です」

「ワシも賛成じゃ。これは今から発足するのが楽しみになってきたわい。しかしどんなイベントを起こすのか決まっておるのか?」

「概ねは自分の得意ジャンルを伸ばしていければいいなと思ってます」

「ふむ、ワシなら鉱石関連じゃな。火を入れて叩いて伸ばして加工してなんかが得意じゃわい」

「僕は採掘なんてできませんよ?」

「じゃあ私はダグラスさんの集めた鉱石を写真に収めます。そうですねぇ、イベント第1号は鉱石の見分け方や精錬のコツ、どの用途に使えるかの冊子を作って即売会形式にでもしますか。ジキンさん、文章とかそれっぽく書けます?」

「会報ぐらいしかかじった事ありませんよ?」

「別に完璧にこなす必要なんてないんですよ。今の三人にできることをやるだけですから。そのかわり人が増えた時の参考用に用いられると思うので恥ずかしくない程度にまとめてくださいね?」

「これ僕貧乏クジじゃないですか?」

「今回はそうでしょうが、もし写真の出番がない時は私がそう言う役割をするんですよ? 順番です」

「それよりも先にクラン発足の準備じゃがな」

「それは既にクランを作った身内に聞きますよ。ダグラスさんは鉱石を集める準備をお願いします」

「あいわかった」

「じゃあ僕も息子に連絡を入れるとしますかね」

「お願いします」


 さて、行き当たりばったりの招集だったけど思いの外忙しくなってきたぞ。
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...