69 / 497
2章 お爺ちゃんとクラン
057.お爺ちゃん、約束を取り付ける
しおりを挟むどざえもんさんと一緒になってから私達のペースで程なくして。
「おや、また彼らを引き離してしまいましたか」
「仕方ない。呼吸を持ってるかどうかでだいぶ違う」
「ですね」
それだけ価値のあるスキルなのだと今になって実感する。
「しかし登れるところまで登っては見ましたが……」
道はここで途切れていた。
山脈の一部とはいえ、頂上まで地続きということでもないのだと知る。
「アキカゼさんは頂上狙いか?」
「ですねぇ、男なら頂上まで行ってなんぼでしょう。そこから取れる風景にこそ価値がある。だって雲の上でしょう? 私の目的はまさしくそこなのですから」
「ふむ。これは憶測なんだが、空の妖精達は雲の上にいたのか?」
憶測と言いながらも確信した上で聞いてきますね、この人。
流石そこにまで至った到達者。見る目が違うし頭も切れるのでしょう。ぶっきらぼうな口調は素であるけれど、そこまで悪い気がしない。不思議な人物ですね。
「はい。では地下の方達は?」
「マグマの底だ。現状では熱耐性がなさすぎてても足も出ない状態でな。そこで火の呼吸の足がかりはできたんだが、その前に肉体の方が持たなくて目下捜索中だ」
「あぁー、それはまた厄介ですねぇ。私も発見したのはいいんですが、体重が雲の上を歩くのには重すぎて向こう岸まで渡れないというのがありましてね?」
「やっぱりそういった通行不可ペナルティがあるか」
「ただ同時に重力無視なんてスキルが生えましてね」
「ほぅ? それはまたいいことを聞いた。ならば俺にもチャンスがある訳だ」
「はい、お互い踏ん張り時ですね。あ、うちの家族が生産クランをやってるので熱に耐性のある装備か薬品が有れば用立ててもらえるように頼んでみましょうか?」
「いいのか? こちらとしては非常に助かるが」
「なに、言うだけならタダです。もし代金がかかるようでしたら私も少し出しますし、なんだったら検証にお供したいですね」
「そういう魂胆か。呼吸持ちは出来るだけ種類を多く揃えたいものだからな」
やはりバレてしまいましたね。
でも、この人と一緒ならば自分のとってないスキルも生えてくれるかもしれないという願望があるのは本当です。
だってマグマの中に望んで入ろうという人が今のプレイヤーの中にどれくらいいるでしょう?
こういうチャレンジ精神溢れる人好きなんですよね、昔から。
スポンサーになってあげたいくらいですよ。
「呆れるくらいに欲望に忠実で、それでいてそこへ至るまでの躊躇いが一切ない。でもだからこそあんなイベントを引き起こして解決して見せた。素直に俺はあんたを尊敬してるよ、アキカゼさん」
「照れますね。ですが何度も言ってますが最後のアレは私一人の手柄ではなく……」
どざえもんさんは言葉を途中で遮り、分かってると言いたげに首をよくに振った。あ、この人絶対私が謙遜してると思ってるでしょう?
違いますよ? 本当に私は……
いえ、良しましょう。この人はある種私と同じ人種です。
一度こうと決めたらなにがなんでも揺るがない圧倒的頑固さが見え隠れします。
「分かるよ。俺もそうだった。俺一人の手柄じゃないのに俺の手柄として処理された時は申し訳なさすぎて合わせる顔がなかったものだ。でもだからこそ、受け取ったものとしてそれを全うする義務が俺にもあったはずだ。でも俺はあんた程活動的じゃなかった。だから──」
──サードウィルは壊滅した。
今自分はなにを聞かされたのか?
そして目の前の人物の覚悟がどれほどのものなのかをようやく知ることが出来た。
彼がなにに対して人目を避け、そして怯えてきたのか上手く掴めていなかった。本人はフリだと言ったのを鵜呑みにしていたのもある。
だがその言葉を彼の口から聞いてようやく確信する。
「──そうでしたか、あなたが発見者だったのですね?」
「ああ。功績は俺ということになってるが……山登り同好会一丸となって捜索した結果がソレだ。ナガレから話を聞いていると思うが、俺たちの活動にはスポンサーがいる。もちろん発見した情報はスポンサーに渡るんだ。以降の介入に俺たちは関われなかった」
「お辛い事でしょう」
「どうかな? 重荷を好き好んで背負ってくれる物好きの出現に手放しで喜んでいたのは確かだ。当時の俺は本当に山登り以外に興味がなく、妖精とも出会う前だった」
「私も偶然ですよ。たまたまブログのネタを探してた。あとはイベントっぽいネタとして撮影した。まさかそれを閲覧した途端にイベントが発動するなんて知らないままに。
それも身内に向けてフレンドのみで発覚したから大騒ぎ。以降娘達が喜び勇んで請け負ってくれましたが、やっぱりそれだけで終わりということもなくてですね」
「知っている。俺がそのイベントに参加したのは半分以上罪滅ぼしみたいなものだった。あの大型レイドボスが産声を上げた時、サードウィルの光景が脳裏にチラついたが、そうはならなかった」
それが私の功績なんだと彼から直接聞いた時、娘達から伝え聞いたものとは大きく違う感動のようなものを味わうこととなった。
彼が発動させ、解決できなかった問題を自分とその仲間達が解決した瞬間を見た彼は、自分があの時行動していればという気持ちに何度も悩まされることになったのだという。
「俺も、責任を持ってちゃんと後を追うべきだった。けど、昼夜問わずにログイン出来るほどリアルに余裕なんてなく……」
「なにを仰います。あのイベントは偶然で発覚し、偶然の連続で解決したんです。解決できなかったからと言って、貴方だけが悪いということもないでしょう?
それに娘から聞いた話ですが、イベントとして他のクランが立ち上げなかったとも聞いています。だからどざえもんさんばかりが責任を負う必要はないですよ」
「そうか……でも俺はずっと負い目に感じている。あんた程豪胆にはなれないよ」
「そうですねぇ、私の真似なんてしなくとも結構。なんと言っても私は周囲を振り回しながら好き勝手生きてますから」
「強いな」
「よく言われます」
話を逸らすようにパシャパシャと風景画を取り込んでいく。
特に何が目立つという訳じゃないけど、ここから先のルート開拓が命題でしょうか?
あとは反対方向に降りてまた登る必要があるんですが、ある程度下るとモンスターに襲われるらしいんですよねぇ。アレは水中でも襲ってきますし、戦う手段のない私たちには非常に厄介な相手です。
それはさておき、
「さて、ここから先に進むには反対側に下山して川を渡るルートがありますがどうします?」
「生憎とドワーフは水中活動に不利な生態をしていてな?
体が重くて沈むからすぐ呼吸困難に陥るんだ」
どざえもんさんは肩を竦めて首を横に振った。
何度も試したが高確率で死に戻りすると。
「だったら水中呼吸必須じゃないですか。水の呼吸さえ体得すれば問題ないですよ。泳げなくても底まで沈むんだし、普通に歩けると思います。なんだったら今からお付き合いしますよ? まずは浅瀬から行きましょうか」
「どうして、どうしてそこまでしてくれるんだ?」
先ほどまでの自信が揺らぎ、信じられないものでも見るように狼狽られた。
「何言ってるんです? さっき言ったばかりでしょう、お互いに協力し合いましょうって」
「あー……それって情報の受け渡しだけじゃなく?」
「これが私のやり方です。先ほども言いましたが、私は周囲を振り回すんです。その責任は一切負いません。さぁ、私の気が変わらないうちにレッスンに付き合うなら今をおいて他にありませんよ?」
「本当に、ワガママな人だな……分かった、よろしく頼むよ」
「ええ、引き受けました」
私のレッスンはログイン制限時間いっぱいまで行われ、何度もモンスター達に追われ、本当にどざえもんさんの名が体を表してしまうのではないかと思われた先、
「やっと派生先に出てきた……ドワーフでも、諦めずに挑戦すれば取れるもんなんだな」
「まずはおめでとうと言わせて頂きます」
「ありがとう、本当に助かる。俺なんかのためにここまで……」
「なぁに、次は私が教えてもらう番ですからね。今更無かったことにされても困るんです保険をかけておいたまでですよ」
「まったく、どこまで計算して動いてるんだかわからんな。先が思いやられるよ」
そう言いつつもどざえもんさんは笑顔を浮かべていた。
ようやく山頂に登ってきた二人がそんな私たちを見下ろし、不思議そうな顔をしていた。
なんせ川に浮かんで肩を叩き合っているのですから。よほど奇妙に映ったでしょうね。
2
お気に入りに追加
1,990
あなたにおすすめの小説

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる