上 下
66 / 497
2章 お爺ちゃんとクラン

054.お爺ちゃん、登山家を紹介される

しおりを挟む

 やはり山はいい。
 すぐ下から泣き言が聞こえてこなければ尚よかったのだが、やはり私の進行に孫とロウガ君はついてこれないようだった。
 だからと言って道中の戦闘も私一人じゃこなせないし、ここはジキンさんのような体力もあって戦闘もできる追加メンバーが欲しいところだ。
 とは言え率先てきに人脈作りをしてきてないからねぇ、どこかで出会いはないものか……
 それはさておき、


「どうした若者達。そんなザマじゃすぐに日が暮れてしまうぞ?」

「お爺ちゃんは常時スタミナが回復するからいいけど、私達は登ってる最中は減りまくりだから、いくらロープを登ると言っても、一度に登る距離がありすぎると、うわぁああ」


 そう言いながらマリンは落ち、下で待機していたロウガ君にキャッチされた。


「ありがと、狼のおじちゃん」

「無理すんなって。あとおじちゃん言うな、俺はまだ二十代だ」

「じゃあお兄ちゃん?」

「どうとでも呼べ」


 そう言いながらもどこか嬉しそうにマリンを下ろすロウガ君。
 それはツンデレってヤツかな?
 言葉こそぶっきらぼうだが、対応は悪くないのでマリンもどこか気を許したようだった。

 道中の抜け道ルートを記載し、街へと帰る。
 最寄りの喫茶店に入り、ロウガ君とマリンへ一杯奢ることにした。
 早速運び込まれてきたマンゴードリンクで喉を潤し、飲みきるや否やテーブルに頭から突っ伏す。


「今日は疲れたー。もうロープに捕まるのはいやー」

「はいはい、無理をさせて悪かったよ」

「ハヤテさんはいつもあんな無茶を?」

「無茶なのかねぇ? 私としては戦闘ができない代わりにスタミナに全振りしているから、まだまだ余力があるくらいなんだが? 今回なんかも君たちがついてきてくれないから途中で下山したようなもんだし?」

「マジかよ。それに付き合う親父も相当だけど」

「そうだねぇ、スピードもさることながらその嗅覚の高さが彼の魅力だと私は思うんだよ」

「確かに獣人は鼻が良くなるけど」

「そっちの嗅覚じゃなくて、なんというかね。物事を観察する本能みたいなものがすごく強い。そこに至るまでの経緯を読み取り、形作るのが上手いんだ」


 それを聞いてロウガ君は深く頷いていた。
 きっと仕事に取り組んでいる時のジキンさんを思い出しているのだろうね。私の話を聞きながら、うんうんと唸ってはそうなんだよなぁと相槌を打っている。


「だからか彼と話をした時、すぐにこの人は凄い人だと感じ取ったよ。それと同時にどこか無理をしてるってね。私のような年下に対して丁寧語を繰り出す彼は、苦虫を噛み潰したような息苦しさを感じたものさ。すぐにボロを出したけど、それからは随分と付き合いやすくなったよ。今では数十年来の友達のような付き合いさ。出会って一週間しか経ってないと言うのに、不思議なものだ」

「そういや親父が自分より年下にへーこらしてんの見たことねーわ。思えば大企業の社長だからって弱みは見せないように生きてきたからかもな」

「だろうね。彼はどこか同年代に対して距離を置く癖がある。でも私とこんなにも仲良しに慣れたのは何がきっかけだと思う?」

「親父から聞いた。一冊のコミックがきっかけだったって」

「うん、そうだ。私が学生の時にとある雑誌で始まった連載。私や彼はその作品が好きだった。たったそれだけの事で立場など忘れて当時を思い出して夢中になれた」

「そうだったんだな。納得した。あの頑固親父が会社を辞めてまで一緒に行動したがる人物と聞かされた時、一体どんなヤツなのかと気にしてたけど……」

「案外普通のおじさんだろう? あの人は大仰すぎるんだ。なんでもない事を大袈裟に言う。振り回される君たちは大変だろうね?」


 私の言葉に、ロウガ君は首を横に振った。


「いいや、十分化け物だよ。それを自覚出来てない時点で世間からズレまくってるって一緒に行動して気づいた」


 酷いなぁ。やはり彼はジキンさんの子供だね。悪口まで彼とそっくりで容赦ない。だが悪い気分はそれほどしない。そう言うところも似通っているものだなぁ。
 薄々は気がついていたよ。自分と周囲の感性が違うと言うことは。知っていて、知らないフリをし続けていた。知ってしまったらいまのように夢中になれなくなるかもしれないと思ったらね、敢えて気づかなくてもいいんじゃないかと思って、蓋をした。


「お爺ちゃんはそれが長所だから。本当だったら自慢できるようなことも全然しないの。でも自分がいいと思ったところはこっちが恥ずかしくなるくらいに自慢するのよ?」

「同時に短所にもなってないか、それ?」

「そうかな? 価値の受け取り方は人それぞれだよ。お爺ちゃんはそういうのが特に顕著なの」

「あー、納得した。自分にとって価値がなければとことんどうだっていいってタイプだな?」

「君たち、本人を前にして言いたい放題じゃないか。もう少し年配を敬う事を覚えたらどうだね?」


 私の言葉に二人は顔を見合わせ、くすりと笑う。


「だってー、お爺ちゃんは言わなきゃわかってくれないもん。私の心配なんてどこ吹く風でどんどん前に行っちゃうしさ」

「ああ、ウチの親父もそう言うとこあるわ。要は似たもの同士って事なんだな?」


 誰が似たもの同士ですか、失礼な!


「それよりも一緒に同行してくれる人が欲しいところです。マリンやロウガ君は口ばかり達者で体力ないし」

「いや、あの行動力についていける方がおかしいだろ? 戦闘でだってあそこまでスタミナ減少した覚えないぜ?」

「私もー。トップスピードに至ってからは、むしろ減速する方に余力を回すけど、お爺ちゃんみたいに止まったら死ぬのってくらいに動き回れないよ」


 みんなして酷いな。でもだからこそそれについてこれたジキンさんとスズキさんのスペックの高さに感謝しかない。
 ああ、どこかに自分と同じ目的を持つものはいないものか。

 せっかく登れるところまで来ても、本末転倒だよ、これじゃ。
 なんだかんだと私の悪いところを言い合う孫とロウガ君は息ぴったりで会話を弾ませる。

 私は視線を外してブログに目を落とし、そこで同好の志を見つけ出す。


「これだ!」

「どうしたの、お爺ちゃん」

「ブログの32ページ目、上から6番目の記事」

「ふんふん、ってあー、山登り同好会?」

「あー、あいつらか」

「知ってるのか?」

「知ってると言えば知ってるけど」

 マリンとロウガ君は顔を合わせたあと、大きなため息をつく。

「うむ。少し頭のおかしい連中でな」

「でもお爺ちゃんとなら波長があうかも?」

「確かに。山登りに命かけてる連中だからな。確かウチの会社にも何人か居たはずだ。連絡つけてみようか?」

「是非頼む」


 興奮し切りに頼むと、マリンが寂しそうな顔になる。


「またお爺ちゃん遠くに行っちゃった……」

「別に私はどこにも行かないよ? ただあの山を上り切るのに私一人じゃどうしても限界があるのさ。そのための同志が必要なだけじゃないか。ゴミ拾いの時のジキンさんや水路掃除の時のスズキさんのようにね?」

「そうだけど、そうじゃなくて」

「マリンとあまり一緒にいてやれなくて悪いなとは思ってる。だからこうやって難航してる時はなるべく一緒にいてやってるし」

「うん、それはありがたいんだけど、私全然お爺ちゃんの役に立てないなーって」

「立ってるよ。マリンはこれ以上ないくらい役に立ってる」

「そ、そうかな?」


 少し褒めれば簡単にコロッと行くのがこの先非常に心配だけど、居てくれるだけで私は十分に癒しになってるよ。
 彼女の魅力はすでにこの世界で確立されてしまっているけど、それを抜きにしても孫というのは可愛いものだからね。


「連絡がついたぜ。こっちにきてくれるそうだ」

「おお、わざわざ悪いね」

「なーに、こっちも親父から手を貸してやってくれって言われてたしさ。一緒に同行できないんじゃ代役を立てるしかねーし、と。来たようだ。おーい、こっちだ」

「ロウガさん!」


 そうやって現れたのは、平凡そうな顔の人間タイプの青年だった。
 しかし体に纏うフル装備で只者じゃないかとがわかる。


「紹介する、こいつはナガレ」

「ナガレです。この度はなんでも我らが山登り同好会に興味を持ってくれたそうで。あ、これパンフレットになります」


 流麗な動作で、懐から取り出されたパンフレットを受け取った。


「これはわざわざご丁寧にどうも。アキカゼ・ハヤテと申します」

「アキカゼ・ハヤテさんですね?」


 ナガレと名乗った青年は、まるで私の存在など聞いた事もないように接した。
 ああ、そこでようやく孫やロウガ君の言いたいことが分かった。
 彼らは世情に疎いんだ。
 頭の中は山のことばかり。それ以外はどうだってよく、そのためだけに全力を尽くす。

 なるほど、確かに変な人たちだ。
 でも彼らの気持ちが痛いほどわかる分、同じ穴の狢なのだろうなと思う私だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

処理中です...