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1章 お爺ちゃんとVR
030.お爺ちゃんとマナの大木
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「お爺ちゃん、こっちこっち」
私達は食事を終えて休息した後、ギルドでホームスポットの更新を終えて目的の場所へと歩いていた。
さっきまでお腹いっぱいで動けないと言っていた孫は、今では元気いっぱいに走り回っている。そんな孫を追いかけていくユーノ君。
私? 私は先ほどからその二人が駆け回る様をスクリーンショットに収めているよ。
こういった活動写真を撮るのも悪くない。いや、モンスターの動きを撮っていた時も、いつのまにかハマっていたな。
なんだかんだ好きなのだろうな、こういった手探りでコツコツ進めていくのが。
「もう少しゆっくり行こう。食べてすぐはお腹を痛めてしまうよ?」
「リアルじゃないから平気だもん!」
そういって孫はアクロバティックな動きをして前へ前へ行ってしまう。それ程までに目的地に連れて行きたいらしい。彼女の横顔を見ればわかる。
STポイントを確認しつつ、無理のない範囲で私も彼女たちの後を追った。
「もー、遅いよお爺ちゃん」
目的地に着いた私を歓迎してくれたのは若干お冠になった孫の姿だった。
「ごめんごめん。お爺ちゃんはスタミナに補正の入ってるビルドじゃないから休み休みじゃないとすぐに動けなくなってしまうんだよ」
「あ、そうか」
彼女にとって、私のようなビルドの人は近くにいなかったのだろうね。配慮が足りなかったとバツの悪そうな顔をする。
それも仕方のないことだろう。だから私は彼女をそれ以上責めず、話題を変えた。それが目の前に広がる樹海の入り口。
何年前からそこに存在するのか、立派な年輪を刻んだ樹木が天に向かって大きく枝を伸ばす姿だった。
ここでは空が木々に切り取られて小さくその姿を見ることしかできない。それぐらいに巨大な木々に小さな感動に震えていた。
「でもこれは凄いな。こんな大きな木は初めて見る。記念に撮影してもいいかな?」
「木を?」
「ああ。マリンが私の為に選んでくれた特別な木だ。記念に残しておきたいと思ったんだ。出来ればマリンと一緒に写したい。どうかな?」
「し、仕方ないな~。お爺ちゃんだけだよ? スクリーンショットを許すのは。いつもは遠慮してもらってるんだからね?」
マリンはチラチラと私の方を見ながら、胸を張ってこれ見よがしに自分はもっと特別な人間なのだと主張した。
そう言えば彼女は有名人だとユーノ君も言っていたっけ。だから私も最大限に褒めてやりながら彼女の姿を前にその木を写真に収めた。
[マナの大木の情報を獲得しました]
ふむ、何やら重要そうな名前をしているな。マナ……確かファンタジーの世界の重要な項目の一つだったと記憶している。
「ありがとう、マリン。君は私の自慢の孫だよ」
「えへへ~」
頭を撫でてやったらその表情をだらしなくさせた。
こらこら、女の子がそんな顔を見せちゃダメだろう?
ほら、ユーノ君も呆れた顔をしているじゃないか。
「では私は早速登ってくるよ。マリンはどうする?」
「一応警戒しとくー。ここもモンスター出てくるし」
「それはおっかない。木の上まで登ってこないよね?」
「どうだろう? そういう動きさせる前に倒しちゃうからわかんないや」
「期待してるよ」
孫は頭を傾けて考えた素振りを見せるが、すぐに首を振って考えを払った。あれこれ考えるのは自分らしくないと思い至ったのだろう。
だったら自分らしく行こうと思ったのだろう。思い切りの良さは秋人君に似たのかな? 由香里はこう言うところで前に出れないからね。
時間にして十数分。未だ頂上は見えず、節くれだった木の皮に手をかけて一つづつ登っていく。
孫が目をつけただけあって、今までの木がまるでお遊戯のような難易度に感じてしまうが、これも自分に課せられた試練だと思って前向きに腕を上げた。
ピコン、となにかを知らせる電子音。
スキルを見やれば『必中』が獲得されていた。
いつの間に? いや、覚えはあった
何かを掴んだような感覚。思えばそれはこの木登りにおいても重要な足がけになっていた。
ほぼ垂直のこの木を登るには、手や足をかける場所が必要になる。
たまたま手をかけた場所が、しっかりと力を込められる場所だった。思えばそういった場所がいくつかあった。
もしかしなくてもその何かが『必中』によってもたらされていたのかもしれない。
地面を置き去りにしながら上へ上へと手を伸ばす。
あれからどれだけの時間が立ったのかもわからない。
滲み出る汗が、焦りを誘う。
力を入れすぎた手が震えてきた。
スタミナは休み休み動いているお陰でそこまで減っていない。
もう少し、もう少し。せめて腰をかけられるところまで。
そこで休憩しよう。
気持ちを切り替えれば頑張れるものだ。
高さから察するにまだ中層くらいだろう。下を見ると足が震えてしまうのであえて見る必要はない。
高所恐怖症まではいかないが、息を飲むくらいの高さであることは間違い無いからだ。
最初の10分くらいはまだ下から孫達が戦闘している音が聞こえていたのにな。今や静寂のみがその場を支配している。
結構な高さであるはずなのに、空気が潤沢にあるのは単純に木々が呼吸して酸素を吐き出しているからだろうか?
スタミナはまだ余裕はあるが、エネルギーが減ってきた。
買い置きしておいた非常食を腰のバッグから取り出してお腹に入れる。非常食というだけあって味の方は粗雑だが、エネルギーはいい感じに回復する。
「ここまで到達したという記録を残しておきたいな」
普通ならナイフで切り傷を入れるなどで目印をつけるが、それはしてはいけない気がした。
名前から察するに重要な位置にいる木だろう。それにどことなくこの木は弱ってる気がした。
「もとより、私にできることなんて限られているか」
スクリーンショットをかざし、周囲の景色を撮る。
[妖精種の撮影に成功しました。以降、目視でその姿を認識することが可能になります]
ん? 何か出てきた。
改めて今撮った画像を確認してみるが、それらしきものはなにも写ってない。しかしログにはしっかりとその文字が残されていた。
「一人で考えていても仕方ないか。後でマリンに聞いてみよう」
こういう時こそ現役プレイヤーを頼ってみる。
どうも彼女はあれこれ聞いて欲しそうにこちらを見てくるからね。生憎と今までは聞く内容がなかったが、早速聞きたいことができた。
やはり外に出ないとそういった情報は入ってこないな。
一度その場で立ち上がって真上を見る。
天辺は未だその姿を見せず、か。
一人ごち、その日は降りることにした。
近くの木にロープを括り、腹に巻いた命綱に繋げて降りる。
登る時に比べて時間短縮できるのもありがたい。
「ただいま」
「お爺ちゃん、お帰りなさい! 上まで登れた?」
「残念ながら先に非常食の方が尽きてしまってね。今回は途中で諦めて降りてきたんだ」
「そっかー、じゃあしょうがないね。また明日かな?」
残念がる私にマリンは同情するように声をかけてくる。チラチラと目配りをユーノ君に送りながら。なんとも白々しいね。彼女的には木登りが今日で終わらなくてホッとしたという態度がにじみ出ている。
でもだからってユーノ君まで巻き込むつもりかな? それはいけないよ。彼女にだって都合はあるだろう。
「無理しなくてもいいんだよ。これは私のワガママなんだから。マリンが付き合ってくれるというなら私も嬉しいが……」
「私は大丈夫。あ、でもユーノはどうする?」
「あ、うん。私も特に急ぎの用事はないかな? それにアキカゼさんは思ってた以上にマリンちゃん思いだし、私もこんなお爺ちゃん欲しかったなーってちょっと嫉妬してる。マリンちゃんばっかりずるい!」
「あげないからね?」
「いーじゃない、ちょっとくらいー」
何やら私を取り合って取っ組み合いのケンカが始まってしまった。
少し前まで距離感を感じたユーノ君だったが、今ではその距離を身近に感じるようになっていた。いったいどこで彼女の気持ちを掴めたのかはさっぱりわからないが、ひとまずは良しとしておこう。
「こらこら、やめなさい。特に原因が私だとかお爺ちゃんは困ってしまうよ」
声を張り上げるわけでもなく、二つの頭の上に手を置いた。
娘達がまだ小さな時、これが仲直りの合図だった。
娘曰く、私の手は魔法の手らしい。頭の上に乗せられると、さっきまでのイライラとした気分がどこかに飛んでいってしまうそうだ。
そんな話を真に受けたのか孫もよく頭を突き出してくる。
「これで仲直りだ。いいね?」
「うん」
「はい」
彼女達のケンカはまるで演技だったのではないかと思うほどにピタリと止んだ。これは孫の演技に引っかかってしまったかな?
そう思いながらも私達はセカンドルナの街へと帰還した。
私達は食事を終えて休息した後、ギルドでホームスポットの更新を終えて目的の場所へと歩いていた。
さっきまでお腹いっぱいで動けないと言っていた孫は、今では元気いっぱいに走り回っている。そんな孫を追いかけていくユーノ君。
私? 私は先ほどからその二人が駆け回る様をスクリーンショットに収めているよ。
こういった活動写真を撮るのも悪くない。いや、モンスターの動きを撮っていた時も、いつのまにかハマっていたな。
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「あ、そうか」
彼女にとって、私のようなビルドの人は近くにいなかったのだろうね。配慮が足りなかったとバツの悪そうな顔をする。
それも仕方のないことだろう。だから私は彼女をそれ以上責めず、話題を変えた。それが目の前に広がる樹海の入り口。
何年前からそこに存在するのか、立派な年輪を刻んだ樹木が天に向かって大きく枝を伸ばす姿だった。
ここでは空が木々に切り取られて小さくその姿を見ることしかできない。それぐらいに巨大な木々に小さな感動に震えていた。
「でもこれは凄いな。こんな大きな木は初めて見る。記念に撮影してもいいかな?」
「木を?」
「ああ。マリンが私の為に選んでくれた特別な木だ。記念に残しておきたいと思ったんだ。出来ればマリンと一緒に写したい。どうかな?」
「し、仕方ないな~。お爺ちゃんだけだよ? スクリーンショットを許すのは。いつもは遠慮してもらってるんだからね?」
マリンはチラチラと私の方を見ながら、胸を張ってこれ見よがしに自分はもっと特別な人間なのだと主張した。
そう言えば彼女は有名人だとユーノ君も言っていたっけ。だから私も最大限に褒めてやりながら彼女の姿を前にその木を写真に収めた。
[マナの大木の情報を獲得しました]
ふむ、何やら重要そうな名前をしているな。マナ……確かファンタジーの世界の重要な項目の一つだったと記憶している。
「ありがとう、マリン。君は私の自慢の孫だよ」
「えへへ~」
頭を撫でてやったらその表情をだらしなくさせた。
こらこら、女の子がそんな顔を見せちゃダメだろう?
ほら、ユーノ君も呆れた顔をしているじゃないか。
「では私は早速登ってくるよ。マリンはどうする?」
「一応警戒しとくー。ここもモンスター出てくるし」
「それはおっかない。木の上まで登ってこないよね?」
「どうだろう? そういう動きさせる前に倒しちゃうからわかんないや」
「期待してるよ」
孫は頭を傾けて考えた素振りを見せるが、すぐに首を振って考えを払った。あれこれ考えるのは自分らしくないと思い至ったのだろう。
だったら自分らしく行こうと思ったのだろう。思い切りの良さは秋人君に似たのかな? 由香里はこう言うところで前に出れないからね。
時間にして十数分。未だ頂上は見えず、節くれだった木の皮に手をかけて一つづつ登っていく。
孫が目をつけただけあって、今までの木がまるでお遊戯のような難易度に感じてしまうが、これも自分に課せられた試練だと思って前向きに腕を上げた。
ピコン、となにかを知らせる電子音。
スキルを見やれば『必中』が獲得されていた。
いつの間に? いや、覚えはあった
何かを掴んだような感覚。思えばそれはこの木登りにおいても重要な足がけになっていた。
ほぼ垂直のこの木を登るには、手や足をかける場所が必要になる。
たまたま手をかけた場所が、しっかりと力を込められる場所だった。思えばそういった場所がいくつかあった。
もしかしなくてもその何かが『必中』によってもたらされていたのかもしれない。
地面を置き去りにしながら上へ上へと手を伸ばす。
あれからどれだけの時間が立ったのかもわからない。
滲み出る汗が、焦りを誘う。
力を入れすぎた手が震えてきた。
スタミナは休み休み動いているお陰でそこまで減っていない。
もう少し、もう少し。せめて腰をかけられるところまで。
そこで休憩しよう。
気持ちを切り替えれば頑張れるものだ。
高さから察するにまだ中層くらいだろう。下を見ると足が震えてしまうのであえて見る必要はない。
高所恐怖症まではいかないが、息を飲むくらいの高さであることは間違い無いからだ。
最初の10分くらいはまだ下から孫達が戦闘している音が聞こえていたのにな。今や静寂のみがその場を支配している。
結構な高さであるはずなのに、空気が潤沢にあるのは単純に木々が呼吸して酸素を吐き出しているからだろうか?
スタミナはまだ余裕はあるが、エネルギーが減ってきた。
買い置きしておいた非常食を腰のバッグから取り出してお腹に入れる。非常食というだけあって味の方は粗雑だが、エネルギーはいい感じに回復する。
「ここまで到達したという記録を残しておきたいな」
普通ならナイフで切り傷を入れるなどで目印をつけるが、それはしてはいけない気がした。
名前から察するに重要な位置にいる木だろう。それにどことなくこの木は弱ってる気がした。
「もとより、私にできることなんて限られているか」
スクリーンショットをかざし、周囲の景色を撮る。
[妖精種の撮影に成功しました。以降、目視でその姿を認識することが可能になります]
ん? 何か出てきた。
改めて今撮った画像を確認してみるが、それらしきものはなにも写ってない。しかしログにはしっかりとその文字が残されていた。
「一人で考えていても仕方ないか。後でマリンに聞いてみよう」
こういう時こそ現役プレイヤーを頼ってみる。
どうも彼女はあれこれ聞いて欲しそうにこちらを見てくるからね。生憎と今までは聞く内容がなかったが、早速聞きたいことができた。
やはり外に出ないとそういった情報は入ってこないな。
一度その場で立ち上がって真上を見る。
天辺は未だその姿を見せず、か。
一人ごち、その日は降りることにした。
近くの木にロープを括り、腹に巻いた命綱に繋げて降りる。
登る時に比べて時間短縮できるのもありがたい。
「ただいま」
「お爺ちゃん、お帰りなさい! 上まで登れた?」
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「そっかー、じゃあしょうがないね。また明日かな?」
残念がる私にマリンは同情するように声をかけてくる。チラチラと目配りをユーノ君に送りながら。なんとも白々しいね。彼女的には木登りが今日で終わらなくてホッとしたという態度がにじみ出ている。
でもだからってユーノ君まで巻き込むつもりかな? それはいけないよ。彼女にだって都合はあるだろう。
「無理しなくてもいいんだよ。これは私のワガママなんだから。マリンが付き合ってくれるというなら私も嬉しいが……」
「私は大丈夫。あ、でもユーノはどうする?」
「あ、うん。私も特に急ぎの用事はないかな? それにアキカゼさんは思ってた以上にマリンちゃん思いだし、私もこんなお爺ちゃん欲しかったなーってちょっと嫉妬してる。マリンちゃんばっかりずるい!」
「あげないからね?」
「いーじゃない、ちょっとくらいー」
何やら私を取り合って取っ組み合いのケンカが始まってしまった。
少し前まで距離感を感じたユーノ君だったが、今ではその距離を身近に感じるようになっていた。いったいどこで彼女の気持ちを掴めたのかはさっぱりわからないが、ひとまずは良しとしておこう。
「こらこら、やめなさい。特に原因が私だとかお爺ちゃんは困ってしまうよ」
声を張り上げるわけでもなく、二つの頭の上に手を置いた。
娘達がまだ小さな時、これが仲直りの合図だった。
娘曰く、私の手は魔法の手らしい。頭の上に乗せられると、さっきまでのイライラとした気分がどこかに飛んでいってしまうそうだ。
そんな話を真に受けたのか孫もよく頭を突き出してくる。
「これで仲直りだ。いいね?」
「うん」
「はい」
彼女達のケンカはまるで演技だったのではないかと思うほどにピタリと止んだ。これは孫の演技に引っかかってしまったかな?
そう思いながらも私達はセカンドルナの街へと帰還した。
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