上 下
36 / 497
1章 お爺ちゃんとVR

029.お爺ちゃんとモンスターデータ

しおりを挟む
 今私は、スクリーンショットを撮っている。
 どうせ戦闘には参加しないので、戦闘中は邪魔にならないように孫とその友達の勇姿を写真に収めようとしていた。
 だが、モンスターの全身を綺麗に収めたとき、それは起こった。


[モンスター詳細:ボールのかけらを獲得しました]


 ふむ?
 まずモンスターの名前が出てきた。ボールというのか。確かに黒くて丸くてボールのようであるが、その流動性の動きからスライムの類と思っていたが違うようだ。


「お爺ちゃん、私の勇姿撮れたー?」

「バッチリだ。それと面白いのが偶然撮れてね」

「面白いものって?」

「これだ」

 私は獲得したばかりのフレーバーアイテムを孫に見せた。

「モンスターの、写真?」

「そうだ」


 マリンは明らかに頬を膨らませてご機嫌斜めになった。
 そのぷくっと膨らんだ頬を突いて空気を抜いてしまいたくなるが、それをしてしまえば三日は口を聞いてくれなくなるのでやらない。
 その表情から察するに「私写ってないじゃん」と言いたげだ。


「言ったろう? 偶然撮れてしまったと。マリンの勇姿を連射で撮っていたのだがね、そのうちの一枚がこれなんだ。そしてこれだけがフレーバーアイテムとして実績が浮かんだ」

「なるほどね。ユーノは何か知ってる?」


 やや納得しかねるも、確かにとった写真がフレーバーアイテム化したのが気になるとお友達に話を振る。
 これは次のブログは彼女の勇姿で飾らないと機嫌を直してくれない可能性もあるね。木登りは二の次だ。特集記事でも組んでやろうか。
 ユーノ君は突然話を振られて視線を上空へと向け、尖った顎を摩りながら思考をまとめる。


「私も詳しくは知らないなぁ。モンスター情報はだいたい掲示板に載ってるし。もしかしたら検証班の人はそうやって情報を集めてたのかも?」

「きっとそれだ!」


 ユーノ君の思いつきに、マリンは安易に飛びついた。
 確かに、これで情報をとっていたというのなら説明がつく。
 そこで私でも娘に貢献できることがあるのではと思いついた。
 それはモンスターの行動パターンを画像に落とし込むこと。
 簡単に倒せるからと、雑魚とは限らない。もしも油断していた時。どうやってプレイヤーをしに追い詰めるのかそれを知らなくてはいけない。対処法を知ってこそ、ようやくスタートライン。
 今はまだ個であるから良い。でもこれが群できたら? そういう考えにまでまだ至れてないのが油断を誘いそうだ。これはやって見る価値はありそうか? そうと決まれば孫たちに打診してみる。


「マリン、そしてユーノ君。少しお願いがあるんだが」

「何、お爺ちゃん?」

「はい」

「街に着くまででいいので、戦闘中はモンスターを撮影しててもいいだろうか?」


 二人は顔を見合わせ、仕方なさそうに頷いた。


「お爺ちゃんの凝り性が出ちゃったか。うん、いいよ。私は大丈夫!」

「私も平気です。写真を撮るためだけにこの場に長居するとかで無ければ」

「助かるよ。街に着いたら食事をご馳走しよう」

「やった。いっぱい注文しよ!」

「ちょっとマリンちゃん、アキカゼさんに甘えすぎだって」

「いいのいいの、お爺ちゃんは断るとかえって寂しそうな顔するから。だから私はそれに背かずに奢ってもらうんだよ。それがお爺ちゃん孝行になるんだから」


 よくわかってるじゃないか。そうだ遠慮せずに奢らせてくれ。
 年寄りは孫の元気な姿を見たいからね。
 自信満々で語る孫に、ユーノ君は、良いのかなぁと悩んだ末に同意した。この子みたいに調子に乗って頼みすぎなければ、全然奢っても構わないんだけどね。
 私は装備にお金を使わないし、風景写真さえ撮れてれば幸せだ。
 食事だってENを賄いすればそれで良い。
 孫や娘が喜ぶのならそれは散財ではないだろうし。むしろ貢献にもなるだろう。それに善意には善意で返さないとね。


「では、お願いするね」


 そう言って私は道中モンスターの撮影に集中した。孫達の勇姿を収めておくのも忘れない。それらはそれらで収納先をフォルダごとに分類しておけばいい。
 そして、街に着く頃には大量のモンスター情報が懐に入ってきた。これらは一度詳細を抜けば、その変化をステータスとして表示してくれるシステム。孫達はそれを知らずにここまできている。
 倒したかどうかはリザルト画面で確認できるからだ。それの有無で警戒を解くかどうかが彼女達の行動基準。


[ボールA型の情報を獲得しました]
 耐久:50/50
 攻撃手段:突進
 弱点:斬撃
 特効:??
 状態:??

[ボールB型の情報を獲得しました]
 耐久:80/80
 攻撃手段:突進、加速、LP吸収攻撃
 弱点:打撃
 特効:??
 状態:??

[ボールC型の情報を獲得しました]
 耐久:120/120
 攻撃手段:突進、分身、SP吸収攻撃
 弱点:魔法
 特効:??
 状態:??

[ボール強化型の情報を獲得しました]
 耐久:500/500
 戦闘行動:突撃、加速、触手ムチ
 弱点:聖水、??、??
 特効:??
 状態:??

[クリティカルヒット!]
[ボール強化型の情報を更新しました]
 耐久:500/500
 戦闘行動:突撃、加速、触手ムチ
 弱点:聖水、真水、水銀
 特効:水銀


 なるほどね、これがイベントモンスターと言うやつか。他のに比べて耐久が段違いだ。
 娘からもらった情報と一致するね。
 孫達は少し苦戦したようだけど、問題なく倒せるようだ。
 何か瓶を投げつけてから大将の動きが悪くなった気がするけど、事前に弱点になるものを持たされていたのかな?


「お疲れ様。もうすぐ街だ。約束通り食事を奢らせて頂くよう」

「いやった~、もうお腹ペコペコだよー」


 街に入った途端、孫はだらっとした姿を周囲に人がいるにもかかわらず見せつけてくる。気を抜きすぎでは?
 いや、街とはモンスターと遭遇しない安全圏。気を抜いてもいいのかもしれないね。でも周囲の視線は孫の気の抜けた姿に集中しすぎている気がする。


「マリンちゃん、恥じらい!」

「えー、ちょっとくらい良いじゃない」

「お爺ちゃんもさっきまでのかっこいいマリンがいいな」

「そ、そう? じゃあもう少し頑張る」


 すぐに立ち上がってシャキッとするマリン。
 その身代わりの早さを見て呆れつつ、ユーノ君は私に会釈した。
 私はそれを片手で制し、近場の喫茶を見つけてそこに入る。
 しばらく小休止といこうじゃないか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...