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1章 お爺ちゃんとVR

026.お爺ちゃん、またもフラグを立てる

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 あれからいくつかシークレットクエストを受けた。
 その全てが清掃クエストで一貫しているそのクエストのご褒美は、その場所に誘うことの布石であるのだと途中で確信する。

 街の中心地点であるファストリアの用水路にどうしてあんなにヘドロが溜まっていたのか?
 それらは今の生活基盤を維持するために必要なものを使っているから。ただしそれらを処理する施設が稼働してないせいでゴミとして残り続けていたら?

 その問題に行き着いたのはクエストを受ける場所に関与していた。
 先にも言った通り、クエストは清掃で一貫している。
 用水路に始まり地下水路、エネルギー還元施設、収集場。
 その全てがゴミで溢れていた。
 ただ浮いているゴミならともかく、重要な機関や水路にへばりつく泥だったり、しつこい油汚れみたいなものもあった。
 それらは足元の砂を擦り付けてなんとか除去する事に成功したが随分と時間がかかった。
 クエストの難易度自体は確かに上がっているが、それに比例して制限時間も上がっている。
 しかしクリアした後には綺麗になったその空間が拝めるので、元々こんなに綺麗な場所だったのかと感心すると同時に、どうしてこんなになるまで放っておかれてしまったのだろうと思った。
 

「きっと街に住んでるみんなは地下にこう言うのがあるのを知らないんだろうなぁ」


 パシャパシャとスクリーンショットで記録を取りながら先に進む。


「そうでしょうね。ハヤテさんも実際に来てみるまで考えもしなかったでしょう?」

「これは痛いところを突かれました」


 スズキさんの一言で腑に落ちる。
 単純に知らないからで納得させられてしまったのだ。
 このゲームを作った制作会社やそれを運営している会社は意図してこれを作っていた?
 このゲームの根幹にあるものが今だに掴めないが、序盤に入れている時点できっと大切な事なのだろうと思う。
 娘達や他のプレイヤーは常に前を見ているが、足元が疎かになって疑心暗鬼に陥ってしまっているように思えた。それが情報開示の義務という形で他者に強要する形で出ている?
 もしそれが私の発見で満たされたら──いや、出過ぎた真似はやめよう。
 私は一介のプレイヤーとしてここにいる。誰かのために身を投げ打ってプレイしているわけではない。発表する場こそあるが、そういうのは現場の人達が判断する物だからね。協力するのはそこまでだ。
 私は私の楽しみ方でやっていこう。家族にもそう言っておいたしね。


「ハヤテさん?」

「ん、ああ。少し考え事をしていました」

「いえ。どちらかと言えば僕は地下に住まう存在です。地上に住む貴方にこれを知ってもらった。その事について考えてくれてたのでしょう? すでにご承知だと思いますが、僕は表に出るのを怖がってしまうタチなので実は僕の代わりにやってくれる人を探していたんです」

「それが私だと?」


 スズキさんはコクリと頷こうとして体全体を揺らした。
 顎とかないのに無理するから。
 苦笑しながらも、彼のお眼鏡に叶ったことを誇るべきだろうね。


「さて、次のクエストがラストです。準備はよろしいですか?」

「いつでも」


 私にあるのはパッシヴスキルのみ。それらは何の準備も強いられず、己の肉体でできる範囲を拡大させるもの。装備だっていまだに初心者装備ですしね。


「それではクエストを始めましょうか」


 今まで以上に気持ちを込めるスズキさん。
 きっとこれまで以上にその場所は難関なのでしょうね。
 彼の意気込みと最後という言葉からも正念場であることは間違いないでしょう。


 私達は[シークレットクエスト:忘れ去られた宮殿内清掃]に取りかかった。


 そこはなんというか、クエストタイトルから察せられるように宮殿でした。範囲としては今までの場所よりこじんまりとしているのですが、ただゴミのへばりつき具合が尋常じゃないんですよ。
 今までで一番苦労した場所がそこです。

 制限時間も二時間と多めですが、ここまで来れた猛者にのみ許されたクエストと思えばその難易度もお察しでしょう。
 スズキさんはこれをずっと一人でコツコツやってきたんでしょうね。
 大変だと言いながらもその表情はどこか楽しそうにされていました。
 私が難儀してるヘドロの回収中も駆けつけてコツを教えてくれたりと大活躍。
 そして私の方も知識をフル活用して困っているスズキさんを手伝ったりした。

 お互いに尊重し合うプレイスタイルで、時間ギリギリでクエストを達成する。本当に疲れた。
 でも、元の形に復元されたその場所を見れたことが一番の報酬かもしれませんね。
 だからスズキさんは私にむかってありがとうございますと微笑んでくれていた気がした。魚フェイスは表情が読みにくいけど、彼は感情を声に込めることで心情を伝えてくる人物だ。

 そして、クエスト達成アナウンスが頭の中に入り込んでくる。


[シークレットクエスト:忘れ去られた宮殿内清掃を達成しました。これ以降関連クエストは撤廃され、用水路よりこの宮殿へ直接ワープできるようになりました]
 
[書物庫の鍵・宮殿を入手しました]

[宝物庫の鍵・宮殿を入手しました]


「おお、なんというか一気にきましたね」

「僕もです。クリアしたのは初めてですので感慨深いですね」


 おや、彼は最高の眺めがあると私をここに連れてきたはずですが?


「もしかして私、担がれてました?」

「結果的にはクリア出来たじゃないですか。それに、これ以上先に進める通路は見当たらなかったですし、実際ラストだったでしょう?」


 スズキさんは開き直ったように話しかけてきます。
 でも彼の手腕でここまでこれたのも事実ですし、嘘をついてでもこのクエストをクリアしたかったのでしょうね。


「やっぱり、僕の思った通りの光景でした」

「そうですね。私もこういうのが見たかったんです」


 綺麗になった海中宮殿は黄金で出来ていた。
 清掃した事によってその完成された姿が現れ、背景の深海と魚群をバックにきらびやかに輝いています。
 宮殿単品で見たら成金趣味のゴテついたもので終わりでしたが、背景がある事でより一層輝く、一枚の絵画に当てはめる事で評価を得るような景色がそこにはあった。


「きっとここに古代人はいたのでしょうね」

「そうかもしれませんね」


 静かな空気が流れる。深海には魚群のみがゆらゆら遠くから手前に流れていき、また違う種類の魚群が流れていく。色取り取りのサンゴや海藻などがその場所を彩っている。


「でもどうして滅んでしまったのでしょうか?」

「さぁ、そればかりは僕にもわかりませんよ。製作者のみぞ知るってやつですね」

「はい。考察は専門家に任せましょう」


 パシャリとスクリーンショットに収める。
 さて帰ろうとした時に、スズキさんは私の袖を掴んでいた。


「もう少し、ここに一緒にいてくれませんか?」


 いつでも来れるこの場所、けれど感慨深い気持ちにはまったくもって同意です。なんせ清掃直後のこの風景は今だけですからね。
 無駄に輝く黄金が、目に染みるけれども、私とスズキさんはその光景を何十分も飽きずに眺めていました。

 
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