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1章 お爺ちゃんとVR
023.お爺ちゃん、獲得スキルを自慢する
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ログアウトし、キッチンへと向かうとそこには娘の由香里だけじゃなく孫の美咲の姿まであった。二人一緒に仲良く雑談をしているところに割って入る。
「おかえりなさい、お父さん」
「お爺ちゃんおかえりー」
「ただいま。あれ、今日の授業は午前中だけだったのかい?」
「うんこれから春休みだから。今日は休み中の諸注意と宿題だけもらって来たの」
なるほど。それで今日は朝練がなかったんだな。
会社を定年退職してからだいぶ経つが、すっかり社会復帰するのが難しいレベルで月日が希薄になっている。
これはまずいぞ。下手すると曜日感覚すら危うい。
「お爺ちゃんはゲーム?」
「うん。お友達と一緒にスキル取得のための検証をしてたんだ」
「お友達って犬の人?」
犬の人って……ああジキンさんか。
確かにあの人は垂れ耳で薄茶の毛皮に覆われた二足歩行する犬だな。
「いや、つい最近一緒に行動するようになったサハギンという種類の魚人でね。ゴミ拾いの他にやれるクエストなんて一つしかないだろう? そこで知り合ったんだ」
「へー。でも魚人かぁ。男の人か女の人かどうかも曖昧だし、うん、まだ大丈夫」
そこで美咲は何やら考え込んでしまった。
色恋に目覚めたのはいいが、何やら私に近づこうとする女性プレイヤーにやたらと手厳しいが気のせいだろうか?
確かに今は妻と別れて暮らしているが、だからと言ってゲームの中で浮気でもすると思われている?
まさか、まさか。私は妻一筋だよ。こんな私に今まで付き合ってくれたんだもの。裏切ったモノなら逆に出ていかれてしまうよ。そうなったら困るのは私だ。ここはなんとしても孫に勘違いを解いてもらわねば。
「美咲が心配してくれるのは嬉しいけど、お爺ちゃんは純粋にゲームで遊んでいるだけだよ。それとも何か他に気がかりなことでもあるのかい?」
「ううん、なんでもないよ。それで、検証の方はうまくいったの?」
「ああ、無事に二つほど手に入れたよ。お昼にそのスキルを持って彼が絶賛する最高の景色を見せてもらいにいくんだ。どうもこのスキルの有無でたどり着く可能性がグッと広がるらしくてね。頑張って手に入れたんだよ」
「へー。でもパッシヴでしょ?」
孫の残念そうな声。
よもやパッシヴにはなんの期待もしてませんと言われた気がしてショックを受ける。
一緒に遊ぶ事ができなくて悪いとは思っているが、そこまでひどく言わなくてもいいじゃないか。お爺ちゃん泣いてしまうよ?
「パッシヴと言っても単純に行ける範囲が広がるのは魅力的だと私は思うがね。例えば今までずっと水の中にいられなかった私が、『水中呼吸』のおかげで何分でも水中で活動できるようになったし『古代泳法』のおかげで魚人のお友達と同じ速度で泳げるようになったんだ。これって素晴らしいことだと思わないかい?」
「え、普通にすごい。パッシヴってそんなこともできるんだ。知らなかった!」
孫から想像以上に称賛の言葉を受ける。
大人気なく張り合ってしまったが、パッシヴの凄さを認めてもらって気を良くした。
しかしそのすぐ横で娘が怪訝そうな顔で私を見ていた。
「ちょっと待ってお父さん。今なんて?」
聞き捨てならないと孫との会話に入ってくる。
なんだい騒々しいね。
「水中呼吸と古代泳法のことかな?」
「それそれ、聞いたことないわよ。どこから出て来たのよそんなスキル」
目を見張りながらブツブツ言いはじめる。
また始まったか。
どうも彼女を始め、一部のプレイヤーは珍しいスキルを過剰に持ち上げる気がする。
どこの誰とは言わないが、ブログでスキルのかけらを手に入れたファン然り、自分の知らないスキルに親でも殺されたのかと思うほどの執着を見せるのだ。
みんながみんな違うスキルを持つゲームだからといって、そういう輩はどこにでも一定数いるので仕方ないのだが、他人のプレイスタイルにまで口出ししてくるのだから溜まった物じゃない。
娘もたまたまそのうちの一人だったというわけだ。それって非常に狭い考え方だよ。
私はそう思うがね。
「水中呼吸は低酸素内活動で、古代泳法は水泳補正からだね。そんなに珍しいものなのかい?」
「初めて聞いたわ。あーでもよく考えなくても元のスキル自体が出回ってないから詳しく解明はされてないのか。ただでさえパッシヴをここまでメインに置く人って居ないし、でも水中呼吸って欲しい人いっぱい居そう!」
私と孫を置き去りにして一人盛り上がる由香里。楽しそうだね。
「そりゃ水の中に生活圏のない人間にとっては憧れの存在だろう? だからこそ私も手に入れたのだし」
「そこでお願いなんだけどお父さん、もし欲しい人たちが一定数出て来たら協力してくれる?」
胸の前で掌を合わせて縋るように懇願してくる由香里。そんなお願い攻撃を受けるも、私は首を横に降ることしかできなかった。
「私は構わないが君が最後まで責任を取れないならやめた方がいい」
「え、どうして?」
「考えてもみなさい。まずそれは一回で済むことなのか? そして今後私がスキルを発見する度に同じことを言う可能性は?」
私の指摘に娘は瞳を泳がせた。
つまりはそういう事なのだ。彼女のお願い攻撃は際限がない。一度引き受けてしまったらあれよあれよと最後まで付き合わせられるのだ。
今までだったらまだいい。が、今は大切なフレンドもいる。
その時に彼女からの攻撃を受けたら私はどちらを優先するだろうか?
愛する家族か、ゲーム内のフレンドか?
考えるまでもなく前者をとってしまうだろう。
それも今後続くとなっては私はフレンドに合わせる顔がなくなってしまう。
だから私は彼女のお願いを安請け合いしないようにしている。秋人君との約束もあるが、これは彼女の為にも言っている事だ。
「私はね、身内やフレンドに教える分なら構わないんだ。でもここに、会った事もないどこかの誰かが出てくるんなら話は大きく変わってくる。
由香里にとってはゲーム内の知り合いでも、私にとっては赤の他人だ」
「それはそうだけど、でもどうしてそこまで嫌そうなの? ただ取得方法を教えてくれるだけでいいのよ?」
「由香里、これは一度引き受けてしまえば引き返せなくなってしまうものだよ。よく考えてから話を持ちかけてくれないか?」
「お父さんがなにに対して慎重になってるかはわからないけど、未発見のスキルは発表すれば喜ばれる物なのよ」
あ、これはわかっていないな。
取引に第三者を巻き込む危険性が。
例えばだ、もしも私が安易にこれを引き受けてしまった場合、彼女が斡旋業者になり、私は講師として契約を結ぶ事になる。
そして第三者が客になり、講師がスキル獲得のコツを教えるんだ。
これはまだいい。それぞれの役割が確立しているから。
だがこの取引は口約束なのでそこに賃金は発生しない。斡旋業者と講師は親子だからそれでもいい。
けど第三者は違う。タダの商品に対して客が取る行動なんて火をみるより明らかだ。
つまりは講師の元に殺到する。なにせタダだから、軽い気持ちで予約するだろう。
彼女は斡旋するだけ。だからどんどんと安請け合いをしていく。それがチリと積もって大きくなった時、きっと目に見えない責任に押し潰されてしまうだろう。
対して私はその人達に付き合う関係上ログインする時間を失い続ける事になる。
もちろん、本来の目的さえも見失ってね。
私はそうなってしまう未来が怖い。だからこそ娘に自分が持ちかけた話がどう言う意味を持つのか分かって欲しかった。
「別に由香里が他人にいい顔したいのは構わないけどね、私を巻き込むんだ。きちんとしたルールの下でそういう事をしなさい。私としても教えるのは吝かではないんだが、それが何度も続けば辟易としてしまうよ。ゲームだって辞めてしまうかもしれない」
「お爺ちゃんゲーム辞めちゃうの?」
そこで今まで聞きに徹していた孫が涙声で問うてくる。
あと少しで泣く表情で。だから私は腫れ物にでも触るように慎重に言葉を選んだ。
「もしお母さんが私のスキルをどうこういうのなら辞めてしまうだろうね」
「辞めちゃヤダー!」
突如泣き出した孫が私の胸に飛び込んできた。おっとっと。
力強い体当たりに思わず体が持っていかれそうになる。
「ああ、まだ辞めないよ。でもね、お爺ちゃんの時間が特に親しくもない、その他多勢の誰かのために使われた場合、美咲と一緒に過ごすことも厳しくなるんだ。それは嫌だろう? お爺ちゃんだって嫌だ。私は私のためにその時間を使いたい。美咲もそう思うだろう?」
「うん!」
目尻いっぱいに涙を溜めて縋る孫娘の頭を撫でてあやす。
撫でていくうちに少し落ち着いて来たのか、頭を擦り付けるようにして甘えてきた。
まるでさっきまでの涙が引っ込んだかのような身の代わりようである。
これは嘘泣きしていたなと思ったが、本人が泣き止んだのならそれでいい。
藪を突けば蛇が出かねないからね。
特に美咲くらいの年齢は一番難しい年頃だ。過去に私はそれはもうたくさん失敗した物だ。二の徹は踏まないよ。
「ごめんなさい、私ったら好奇心で無責任なことにお父さんを巻き込むところだったわ」
娘もわかってくれたのだろう。
仰々しく平謝りしてきた。
情報公開の有無に躍起になりすぎて周りが見えなくなっていたんだ。
だからと言って彼女ばかり責めることはできない。このゲーム特有の民度がそういう物なのかもしれないから。
「いいよ。君も周りからそう言われて義務感を感じていたのだろうね。ゲームなんだからもっと広い心を持って遊びなさい。気ばかり疲れて視野を狭めてしまうばかりだぞ? それに今はイベントでそれどころじゃないのだろう? 君のクランが前を引っ張っていってるんだ。焦る気持ちはわかるが、もう少し落ち着きなさい」
「反省してます」
ゲームに夢中になるのは構わないが、それに引っ張られすぎるのも良くないなと思うんだ。
いつか私もそんな人間になってしまうのだろうか?
そう思うと身が震える思いだ。
昼食を頂き、休憩を挟んでから再びゲームにログインする。
美咲は一足早くログインしたようだ。ユーノ君と遊ぶ約束をしているようだ。学校が終わってすぐにゲーム三昧とは、先が思いやられるな。
さて、午後からはスズキさんとのクエストだ。
ひとまずスキルの報告云々は端に置いて、まずはブログのトップを飾る風景のところまで頑張るとしますかね。
「おかえりなさい、お父さん」
「お爺ちゃんおかえりー」
「ただいま。あれ、今日の授業は午前中だけだったのかい?」
「うんこれから春休みだから。今日は休み中の諸注意と宿題だけもらって来たの」
なるほど。それで今日は朝練がなかったんだな。
会社を定年退職してからだいぶ経つが、すっかり社会復帰するのが難しいレベルで月日が希薄になっている。
これはまずいぞ。下手すると曜日感覚すら危うい。
「お爺ちゃんはゲーム?」
「うん。お友達と一緒にスキル取得のための検証をしてたんだ」
「お友達って犬の人?」
犬の人って……ああジキンさんか。
確かにあの人は垂れ耳で薄茶の毛皮に覆われた二足歩行する犬だな。
「いや、つい最近一緒に行動するようになったサハギンという種類の魚人でね。ゴミ拾いの他にやれるクエストなんて一つしかないだろう? そこで知り合ったんだ」
「へー。でも魚人かぁ。男の人か女の人かどうかも曖昧だし、うん、まだ大丈夫」
そこで美咲は何やら考え込んでしまった。
色恋に目覚めたのはいいが、何やら私に近づこうとする女性プレイヤーにやたらと手厳しいが気のせいだろうか?
確かに今は妻と別れて暮らしているが、だからと言ってゲームの中で浮気でもすると思われている?
まさか、まさか。私は妻一筋だよ。こんな私に今まで付き合ってくれたんだもの。裏切ったモノなら逆に出ていかれてしまうよ。そうなったら困るのは私だ。ここはなんとしても孫に勘違いを解いてもらわねば。
「美咲が心配してくれるのは嬉しいけど、お爺ちゃんは純粋にゲームで遊んでいるだけだよ。それとも何か他に気がかりなことでもあるのかい?」
「ううん、なんでもないよ。それで、検証の方はうまくいったの?」
「ああ、無事に二つほど手に入れたよ。お昼にそのスキルを持って彼が絶賛する最高の景色を見せてもらいにいくんだ。どうもこのスキルの有無でたどり着く可能性がグッと広がるらしくてね。頑張って手に入れたんだよ」
「へー。でもパッシヴでしょ?」
孫の残念そうな声。
よもやパッシヴにはなんの期待もしてませんと言われた気がしてショックを受ける。
一緒に遊ぶ事ができなくて悪いとは思っているが、そこまでひどく言わなくてもいいじゃないか。お爺ちゃん泣いてしまうよ?
「パッシヴと言っても単純に行ける範囲が広がるのは魅力的だと私は思うがね。例えば今までずっと水の中にいられなかった私が、『水中呼吸』のおかげで何分でも水中で活動できるようになったし『古代泳法』のおかげで魚人のお友達と同じ速度で泳げるようになったんだ。これって素晴らしいことだと思わないかい?」
「え、普通にすごい。パッシヴってそんなこともできるんだ。知らなかった!」
孫から想像以上に称賛の言葉を受ける。
大人気なく張り合ってしまったが、パッシヴの凄さを認めてもらって気を良くした。
しかしそのすぐ横で娘が怪訝そうな顔で私を見ていた。
「ちょっと待ってお父さん。今なんて?」
聞き捨てならないと孫との会話に入ってくる。
なんだい騒々しいね。
「水中呼吸と古代泳法のことかな?」
「それそれ、聞いたことないわよ。どこから出て来たのよそんなスキル」
目を見張りながらブツブツ言いはじめる。
また始まったか。
どうも彼女を始め、一部のプレイヤーは珍しいスキルを過剰に持ち上げる気がする。
どこの誰とは言わないが、ブログでスキルのかけらを手に入れたファン然り、自分の知らないスキルに親でも殺されたのかと思うほどの執着を見せるのだ。
みんながみんな違うスキルを持つゲームだからといって、そういう輩はどこにでも一定数いるので仕方ないのだが、他人のプレイスタイルにまで口出ししてくるのだから溜まった物じゃない。
娘もたまたまそのうちの一人だったというわけだ。それって非常に狭い考え方だよ。
私はそう思うがね。
「水中呼吸は低酸素内活動で、古代泳法は水泳補正からだね。そんなに珍しいものなのかい?」
「初めて聞いたわ。あーでもよく考えなくても元のスキル自体が出回ってないから詳しく解明はされてないのか。ただでさえパッシヴをここまでメインに置く人って居ないし、でも水中呼吸って欲しい人いっぱい居そう!」
私と孫を置き去りにして一人盛り上がる由香里。楽しそうだね。
「そりゃ水の中に生活圏のない人間にとっては憧れの存在だろう? だからこそ私も手に入れたのだし」
「そこでお願いなんだけどお父さん、もし欲しい人たちが一定数出て来たら協力してくれる?」
胸の前で掌を合わせて縋るように懇願してくる由香里。そんなお願い攻撃を受けるも、私は首を横に降ることしかできなかった。
「私は構わないが君が最後まで責任を取れないならやめた方がいい」
「え、どうして?」
「考えてもみなさい。まずそれは一回で済むことなのか? そして今後私がスキルを発見する度に同じことを言う可能性は?」
私の指摘に娘は瞳を泳がせた。
つまりはそういう事なのだ。彼女のお願い攻撃は際限がない。一度引き受けてしまったらあれよあれよと最後まで付き合わせられるのだ。
今までだったらまだいい。が、今は大切なフレンドもいる。
その時に彼女からの攻撃を受けたら私はどちらを優先するだろうか?
愛する家族か、ゲーム内のフレンドか?
考えるまでもなく前者をとってしまうだろう。
それも今後続くとなっては私はフレンドに合わせる顔がなくなってしまう。
だから私は彼女のお願いを安請け合いしないようにしている。秋人君との約束もあるが、これは彼女の為にも言っている事だ。
「私はね、身内やフレンドに教える分なら構わないんだ。でもここに、会った事もないどこかの誰かが出てくるんなら話は大きく変わってくる。
由香里にとってはゲーム内の知り合いでも、私にとっては赤の他人だ」
「それはそうだけど、でもどうしてそこまで嫌そうなの? ただ取得方法を教えてくれるだけでいいのよ?」
「由香里、これは一度引き受けてしまえば引き返せなくなってしまうものだよ。よく考えてから話を持ちかけてくれないか?」
「お父さんがなにに対して慎重になってるかはわからないけど、未発見のスキルは発表すれば喜ばれる物なのよ」
あ、これはわかっていないな。
取引に第三者を巻き込む危険性が。
例えばだ、もしも私が安易にこれを引き受けてしまった場合、彼女が斡旋業者になり、私は講師として契約を結ぶ事になる。
そして第三者が客になり、講師がスキル獲得のコツを教えるんだ。
これはまだいい。それぞれの役割が確立しているから。
だがこの取引は口約束なのでそこに賃金は発生しない。斡旋業者と講師は親子だからそれでもいい。
けど第三者は違う。タダの商品に対して客が取る行動なんて火をみるより明らかだ。
つまりは講師の元に殺到する。なにせタダだから、軽い気持ちで予約するだろう。
彼女は斡旋するだけ。だからどんどんと安請け合いをしていく。それがチリと積もって大きくなった時、きっと目に見えない責任に押し潰されてしまうだろう。
対して私はその人達に付き合う関係上ログインする時間を失い続ける事になる。
もちろん、本来の目的さえも見失ってね。
私はそうなってしまう未来が怖い。だからこそ娘に自分が持ちかけた話がどう言う意味を持つのか分かって欲しかった。
「別に由香里が他人にいい顔したいのは構わないけどね、私を巻き込むんだ。きちんとしたルールの下でそういう事をしなさい。私としても教えるのは吝かではないんだが、それが何度も続けば辟易としてしまうよ。ゲームだって辞めてしまうかもしれない」
「お爺ちゃんゲーム辞めちゃうの?」
そこで今まで聞きに徹していた孫が涙声で問うてくる。
あと少しで泣く表情で。だから私は腫れ物にでも触るように慎重に言葉を選んだ。
「もしお母さんが私のスキルをどうこういうのなら辞めてしまうだろうね」
「辞めちゃヤダー!」
突如泣き出した孫が私の胸に飛び込んできた。おっとっと。
力強い体当たりに思わず体が持っていかれそうになる。
「ああ、まだ辞めないよ。でもね、お爺ちゃんの時間が特に親しくもない、その他多勢の誰かのために使われた場合、美咲と一緒に過ごすことも厳しくなるんだ。それは嫌だろう? お爺ちゃんだって嫌だ。私は私のためにその時間を使いたい。美咲もそう思うだろう?」
「うん!」
目尻いっぱいに涙を溜めて縋る孫娘の頭を撫でてあやす。
撫でていくうちに少し落ち着いて来たのか、頭を擦り付けるようにして甘えてきた。
まるでさっきまでの涙が引っ込んだかのような身の代わりようである。
これは嘘泣きしていたなと思ったが、本人が泣き止んだのならそれでいい。
藪を突けば蛇が出かねないからね。
特に美咲くらいの年齢は一番難しい年頃だ。過去に私はそれはもうたくさん失敗した物だ。二の徹は踏まないよ。
「ごめんなさい、私ったら好奇心で無責任なことにお父さんを巻き込むところだったわ」
娘もわかってくれたのだろう。
仰々しく平謝りしてきた。
情報公開の有無に躍起になりすぎて周りが見えなくなっていたんだ。
だからと言って彼女ばかり責めることはできない。このゲーム特有の民度がそういう物なのかもしれないから。
「いいよ。君も周りからそう言われて義務感を感じていたのだろうね。ゲームなんだからもっと広い心を持って遊びなさい。気ばかり疲れて視野を狭めてしまうばかりだぞ? それに今はイベントでそれどころじゃないのだろう? 君のクランが前を引っ張っていってるんだ。焦る気持ちはわかるが、もう少し落ち着きなさい」
「反省してます」
ゲームに夢中になるのは構わないが、それに引っ張られすぎるのも良くないなと思うんだ。
いつか私もそんな人間になってしまうのだろうか?
そう思うと身が震える思いだ。
昼食を頂き、休憩を挟んでから再びゲームにログインする。
美咲は一足早くログインしたようだ。ユーノ君と遊ぶ約束をしているようだ。学校が終わってすぐにゲーム三昧とは、先が思いやられるな。
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