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1章 お爺ちゃんとVR
013.お爺ちゃん、フラグを立てる
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「なんだか随分と仲良くなったよね、君達?」
「そ、そうか? 俺達最初からこんな感じだったよな?」
「うん、そうよ。お父さんたら変なこと言わないでよ」
あれから突発的に発生したシークレットクエストをこなしていき、私達の団結力は随分と高まった気がした。
壁の中に入った時はガッツポーズをしたものだが、最上階にたどり着く事はなく、ルートが悪かったかと諦める事になった。
やはり街の防衛機関の要を担う壁の攻略がそんなに簡単に終わって良いわけではないと言われた気がして愕然とする。
着手したのは昨日だが、その多くをこのクエストにかけてる私達だからこそ思う。このクエストの終わりが見えないと。
と、いけないいけない。娘に偉そうに言った手前、いつのまにか視野が狭くなっていたようだ。
もしかしたらこれはただの手がかりであり、手に入れたこれらで別のアプローチをする必要があるのではないかと思い至る。
ちょうどその時、娘から断りの声が放たれた。
「ごめん、お父さん。私もう時間だから」
「おっと、この時間まで付き合わせてしまって悪かったね」
「いいのいいの。こっちは過分に情報もらっちゃったし、なんだったら貰いすぎちゃったくらいよ?」
「そう言えば付き合わせてしまってなんだが、こっちにきて何かやることがあったのではないのかね?」
「うん、それね。どうでも良くなっちゃった」
「そうか。何やら新しい道が開けたのなら何よりだ。誘った甲斐があったよ」
「うん、またね。お父さん」
「また」
憑きものが落ちたような晴れ晴れとした表情で、娘はログアウトした。
すぐその横ではジキンさんの家族のやりとりが繰り広げられている。
「じゃあ親父、俺もここいらで落ちるわ」
「もう少しゆっくりしていってもいいんだぞ?」
「それも良いけど、今はこの情報をみんなで分かち合いたいんだ」
「そうかい。まぁ良いさ。ハヤテさんの娘さん達とは仲良くやってくれよ?」
「あーそれな、ウチと向こうで同盟組む事になった」
「ふむ。そこまで変わるほどのものがあの中にあったとは思えないが、お前がそこまで言うんだ。信じてみようじゃないか」
「親父……」
「なにしみったれたツラをしてるんだ。男だろう?」
「そりゃ初めて親父に信じてもらえたからな。嬉し涙くらい流したってバチはあたんねーだろ?」
「そうだったか?」
「そうだよ」
男の別れは顔を見れば分かり合えると言うが、随分と涙もろい息子さんなようだ。旅立つ息子を見送ったジキンさんがこちらに気づき、片手を上げる。私もそれに倣って手を挙げて並んで街の大通りをぶらりと歩く。
「申し訳ない、身内の恥を晒してしまいまして」
娘のことだ。ゲーム内で敵対しているとは言え、それを隠す事なく表情に出すなんて、親の教育を疑われてしまうだろう。あれで30代だと言うのだから親としては気が気じゃない。とは言えジキンさんも似たようなものだったようで、その事を気にしている様子はなかった。
「結果オーライじゃないですか? 終わり良ければ全てよしと言うやつです」
「そう言ってもらえれば何より。さてこれからどうします?」
「クエストの方は戦力がいなくなってしまったのでこれ以上は進めませんね」
「ですね。彼らは彼らで有能でした。親としては喜んで良いやら複雑な心境ですよ」
「気持ちはわかります。親にとって子供はいくつになっても子供ですからね。あいつはもう二児の父親だと言うのにいつまで経っても子供っぽい理屈をこねる奴なんです。同じ父親として情けなく思ってしまってシャキッとしろて言ってやってるんですがね。これが聞く耳を持ってくれなくて」
「ウチもですよ」
子供を信じていない訳じゃないが、どうも親っていうのは過剰に心配してしまう生き物なのだろう。孫も可愛いが、娘も可愛い。
特にうちは三人とも娘だったのだから尚更だ。
太陽は真上から少し西側に傾きかけた頃。
そういえば今頃ジキンさんと出会ったよなと思い出す。
あれはゴミ拾いのクエストを終えた頃だったか……懐かしさに暮れながら、うっかりと言葉にして漏らしてしまう。
「昨日のことなのに随分と昔な気がしますね」
「なにがです?」
「ああいえ、ジキンさんと出会ったのは今頃の時間帯だったなと」
「そうでしたっけ?」
「はい。いくつかクエストをこなして途方に暮れていた時、声をかけてくれたんですよ」
「ああ、そうでしたそうでした。そういえば昨日会ったばかりなんですよね。なにやら十年来の親友のような気がして」
「そう言って貰えたら嬉しいですね。では」
「はい」
市場でお決まりのつまみとドリンクを買い付け、当たり前のように門番さんに顔を見せにいく。昨日と今日でなにが変わったと言うわけでもないが、私達の間には何か目に見えない絆のようなものがすっかり出来上がっていた気がした。
「こんにちは。ここいらで休憩を挟みませんか?」
「これはこれはハヤテ殿にジキン殿。今日もいらしてくださったのですね。少々お待ちを」
何やら門番さんの態度が軟化しているような気がする。
一度扉の奥に引っ込むと、交代要員を持ち出して中の休憩室に誘ってくれた。昨日までは頑なにそんな気配は見せなかったと言うのに、不思議なものだとジキンさんと顔を見合わせる。
彼もよくわからないと言う顔をしていた。
はて? 昨日別れてから今に至るまで何かあっただろうかと思い出す。しかしすぐには出てこない。
あれからやったことといえば、ゴミ拾いのクエストと、それから派生したシークレットクエストぐらいだ。
「もしかしたらあのクエストの報酬を持って再度接触するのがフラグ発生の条件だったり?」
「その可能性もありますね」
ジキンさんの憶測に頷きながら、私達は門番の兵士さんに案内された休憩室で重要な話を聞く事になった。
「そ、そうか? 俺達最初からこんな感じだったよな?」
「うん、そうよ。お父さんたら変なこと言わないでよ」
あれから突発的に発生したシークレットクエストをこなしていき、私達の団結力は随分と高まった気がした。
壁の中に入った時はガッツポーズをしたものだが、最上階にたどり着く事はなく、ルートが悪かったかと諦める事になった。
やはり街の防衛機関の要を担う壁の攻略がそんなに簡単に終わって良いわけではないと言われた気がして愕然とする。
着手したのは昨日だが、その多くをこのクエストにかけてる私達だからこそ思う。このクエストの終わりが見えないと。
と、いけないいけない。娘に偉そうに言った手前、いつのまにか視野が狭くなっていたようだ。
もしかしたらこれはただの手がかりであり、手に入れたこれらで別のアプローチをする必要があるのではないかと思い至る。
ちょうどその時、娘から断りの声が放たれた。
「ごめん、お父さん。私もう時間だから」
「おっと、この時間まで付き合わせてしまって悪かったね」
「いいのいいの。こっちは過分に情報もらっちゃったし、なんだったら貰いすぎちゃったくらいよ?」
「そう言えば付き合わせてしまってなんだが、こっちにきて何かやることがあったのではないのかね?」
「うん、それね。どうでも良くなっちゃった」
「そうか。何やら新しい道が開けたのなら何よりだ。誘った甲斐があったよ」
「うん、またね。お父さん」
「また」
憑きものが落ちたような晴れ晴れとした表情で、娘はログアウトした。
すぐその横ではジキンさんの家族のやりとりが繰り広げられている。
「じゃあ親父、俺もここいらで落ちるわ」
「もう少しゆっくりしていってもいいんだぞ?」
「それも良いけど、今はこの情報をみんなで分かち合いたいんだ」
「そうかい。まぁ良いさ。ハヤテさんの娘さん達とは仲良くやってくれよ?」
「あーそれな、ウチと向こうで同盟組む事になった」
「ふむ。そこまで変わるほどのものがあの中にあったとは思えないが、お前がそこまで言うんだ。信じてみようじゃないか」
「親父……」
「なにしみったれたツラをしてるんだ。男だろう?」
「そりゃ初めて親父に信じてもらえたからな。嬉し涙くらい流したってバチはあたんねーだろ?」
「そうだったか?」
「そうだよ」
男の別れは顔を見れば分かり合えると言うが、随分と涙もろい息子さんなようだ。旅立つ息子を見送ったジキンさんがこちらに気づき、片手を上げる。私もそれに倣って手を挙げて並んで街の大通りをぶらりと歩く。
「申し訳ない、身内の恥を晒してしまいまして」
娘のことだ。ゲーム内で敵対しているとは言え、それを隠す事なく表情に出すなんて、親の教育を疑われてしまうだろう。あれで30代だと言うのだから親としては気が気じゃない。とは言えジキンさんも似たようなものだったようで、その事を気にしている様子はなかった。
「結果オーライじゃないですか? 終わり良ければ全てよしと言うやつです」
「そう言ってもらえれば何より。さてこれからどうします?」
「クエストの方は戦力がいなくなってしまったのでこれ以上は進めませんね」
「ですね。彼らは彼らで有能でした。親としては喜んで良いやら複雑な心境ですよ」
「気持ちはわかります。親にとって子供はいくつになっても子供ですからね。あいつはもう二児の父親だと言うのにいつまで経っても子供っぽい理屈をこねる奴なんです。同じ父親として情けなく思ってしまってシャキッとしろて言ってやってるんですがね。これが聞く耳を持ってくれなくて」
「ウチもですよ」
子供を信じていない訳じゃないが、どうも親っていうのは過剰に心配してしまう生き物なのだろう。孫も可愛いが、娘も可愛い。
特にうちは三人とも娘だったのだから尚更だ。
太陽は真上から少し西側に傾きかけた頃。
そういえば今頃ジキンさんと出会ったよなと思い出す。
あれはゴミ拾いのクエストを終えた頃だったか……懐かしさに暮れながら、うっかりと言葉にして漏らしてしまう。
「昨日のことなのに随分と昔な気がしますね」
「なにがです?」
「ああいえ、ジキンさんと出会ったのは今頃の時間帯だったなと」
「そうでしたっけ?」
「はい。いくつかクエストをこなして途方に暮れていた時、声をかけてくれたんですよ」
「ああ、そうでしたそうでした。そういえば昨日会ったばかりなんですよね。なにやら十年来の親友のような気がして」
「そう言って貰えたら嬉しいですね。では」
「はい」
市場でお決まりのつまみとドリンクを買い付け、当たり前のように門番さんに顔を見せにいく。昨日と今日でなにが変わったと言うわけでもないが、私達の間には何か目に見えない絆のようなものがすっかり出来上がっていた気がした。
「こんにちは。ここいらで休憩を挟みませんか?」
「これはこれはハヤテ殿にジキン殿。今日もいらしてくださったのですね。少々お待ちを」
何やら門番さんの態度が軟化しているような気がする。
一度扉の奥に引っ込むと、交代要員を持ち出して中の休憩室に誘ってくれた。昨日までは頑なにそんな気配は見せなかったと言うのに、不思議なものだとジキンさんと顔を見合わせる。
彼もよくわからないと言う顔をしていた。
はて? 昨日別れてから今に至るまで何かあっただろうかと思い出す。しかしすぐには出てこない。
あれからやったことといえば、ゴミ拾いのクエストと、それから派生したシークレットクエストぐらいだ。
「もしかしたらあのクエストの報酬を持って再度接触するのがフラグ発生の条件だったり?」
「その可能性もありますね」
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