上 下
11 / 497
1章 お爺ちゃんとVR

011.お爺ちゃん、娘をクエストに誘う

しおりを挟む
 勢い良く扉を開けた先、店内に見知った顔があった。
 こんな偶然もあるのかと嬉しくなりながら声を上げる。


「ジキンさん」

「おお、ハヤテさん。奇遇ですね」

「ええ。そちらは以前話してくださった息子さんですか?」

「はい。ではそちらは?」

「娘です。今日は彼女に付き合う約束をしてまして」


 そう言ったところでうちの娘とジキンさんの息子さんが目を合わせずにそっぽを向いていることに気がついた。
 彼に寄り添って話しかける。


「もしかしなくても?」

「どうやら顔見知りのようですな」


 狭い世の中だと思う。ただそれだけに残念だ。
 親同士はこんなにも仲良しだと言うのに、子供同士が反発しあってるのを見て悲しくなった。
 ただ自分よりも先にこのゲームに来て、その上で仲違いしてしまっている過程についてあれこれ私が言うものでもないだろうし、ここで立ち話してても店に迷惑だろう。その場で会釈だけしてジキンさんとは一度別れた。

 少し奥まった場所に空席を発見し、そこに座る。
 この前はウェイトレスさんが聞きに来てくれたが、娘はそんなことしなくても注文はできるとシステムパネルを開いて何やら打ち込んでいた。程なくしてドリンクが運ばれてくる。
 さすがゲーム。目の前にあるものがデータだと頭の中でわかっていても飲めば喉が潤うしちゃんと味もすると言うのだから不思議だ。


「びっくりした。まさかここで因縁のクランの幹部に出会うなんて」


 注文したドリンクを受け取りながら娘がそんなことを言い出す。


「何をそんなに揉めているのか知らないけど、ジキンさんは私と気が合う。できれば今後の付き合いを維持していく為にもその息子さんとも仲良くしてくれれば嬉しいのだけど」

「私もそうしたいのよ? けど向こうのクランリーダーがとんでもなく陰険な奴なの。だからこっちが譲歩しても混ぜっ返されて終わるだけ」


 相当苛立たしいのか、娘のドリンクを飲むペースが早い。
 テーブルに置かれた時は既に中身はなく、おかわりを注文していた。
 声を出したかったのか、店員さんを呼ぶ。
 先程見せてくれた裏技も良いが、こうしてスキンシップを取る方が私は好きだな。


「しかし何をそんなに争っているんだい? 君はそこまで争い事に加担する性格ではないと思ったのだけど」


 由香里はどちらかと言えばインドア派の女の子だった。
 妻が昔バレエをしていた伝である程度習いごとをさせたが一番最初に根をあげたのが彼女。とことん競争社会で生きていけない人間だとばかり思っていた。だが今の彼女は好戦的だ。何か理由があるのかもしれない。それとなく聞いて見ることにした。


「──と言うわけなの」

「呆れた」


 彼女の言う理由とは、同じエリアマップの素材を奪い合う関係だと聞かされた。強さも同じくらいで、力も認めている。
 けれど思想が違えばプレイスタイルも違うので、彼らはこうしてクランを違えていがみ合っているのだと聞いた。
 だから呆れたと返したら彼女は不満そうな顔で返してくる。


「父さんは冒険に加担してないからそういうことが言えるんだよ。装備の新調には素材が必要だし、新しい装備が入ればクランだってもっと前に行けるの。だから同じエリアマップで素材の奪い合いが起こるのよ。それにこの手の問題はうちに限った話ではないわ」

「だからって喧嘩することもないだろう。もう少し協調性を持って接しなさい。ゲームとはいえ、相手は同じ血の通う人間だぞ?」

「そうだけど……」


 意気消沈しだす娘を困ったように見守り、こんな時妻が横にいてくれればなと思う。こういう時、同じ女性の方がアドバイスをしやすい。
 私は子育ても妻に頼りすぎていたのだとここにきて気づく。
 ここで何か挽回できるものはないかとシステムをいじっていると、昨日入手したアイテムが目の前に表示された。
 そういえばこのアイテムがなんなのかも良くわかってないな。
 こんなので機嫌を直してくれるかはわからないが、聞くだけ聞いてみよう。


「そういえば昨日、こんなのを見つけてね。パープルはこれが何かわかる?」


 話を逸らすように、アイテムバッグから古代の鍵・西門を取り出す。


「なにそれ……どこで拾ったの?」


 最初こそ興味なさそうにしていた彼女だったが、不思議な光沢を放つそのアイテムを見て目の色を変えた。興味を示したのだろう、食い気味にそのアイテムを注視する。


「クエストの報酬だよ。君はシークレットクエストを知ってる?」

「聞いたことはある、けど出会ったことはないの。ほら、私って主婦業の合間にやってるだけだから。でもこれ、なんの素材だろう?」

「素材か……そういうのは考えてもなかったな」


 確かにその素材は未知と言っても過言じゃない。
 掌に載せた限りでは鉄のような重み。しかし鋼を思わせる光沢と、時折宝石のように七色の光が内部から漏れ出る。不思議な素材だ。
 

「こんな素材見たことない。他にも何かある?」

「少し元気が出たかな?」

「うん。ありがとう、お父さん。それとごめんなさい」

「何をそんなに謝まることがある。私は自分の価値観を君に押し付けただけだよ。このゲームにはこのゲームのルールがあるのだろう? 新参の私に言われたくらいで変えるものではないだろうに」


 諭すように言ってやる。
 親だからと娘に偉そうにする資格はない。ここでは娘の方が先輩だ。
 人生と違い、ゲームにはゲームのマナーがある。


「うん。でも視野の狭い考え方に陥ってたのは確かだもん。だからありがとうだよ」

「ならば素直に受け取っておこう」


 娘はすっかり機嫌をとりなおし、私は昨日の成果を彼女に見せるようにしてテーブルの上に置いていく。
 そのどれもがトレード不可のフレーバーアイテムの類。
 なんの意味があるのかもわからないままアイテム欄の肥やしになっている。娘はちょっと待ってねと言いながら何やら操作をしだす。
 目の前には青白いボードが浮き上がり、下から上に文字が流れていく。それを目の中だけで操作しているのだから凄い。


「ん。だいぶ分かった」

「何がだい?」

「その素材、どこにも出回ってないレアものだよ」

「ふぅん」


 私は特にレアだのなんだのと言われても何も感じない。妻はスーパーなどのタイムセールなど、ここだけ今だけ価格に弱いが、私はなんとも思わない。男と女は違う生き物であると強く感じた瞬間だ。


「ふぅんて、父さんはこれの凄さが分かってないの?」

「そうだね。私はこんなものよりも違う目的で動いている。生憎と興味は惹かれないね」

「これだから頭の固い人間は」


 失礼な。でもここでは彼女のいう通り。
 私は古い人間だ。今のご時世に逆らうような生活を送っている。


「頭が固くて結構。私の生き方は自分で決めさせてもらうよ」

「今更性格は変えられないし、しょうがないけどね」


 その通りだとも。彼女もなんだかんだと私という人間をわかっている。理解はしてくれているけど、相容れない存在だという認識だ。
 それでいい。私は私の考え方を誰かに押し付けるつもりはない。
 私には私の、彼女には彼女の人生がある。


「さて、興味を惹けたところで時間はあるかな?」

「お昼前までには終わらせたいけど、何するの?」

「もう一度シークレットクエストを出そうかと思って。良かったらそれに協力してくれれば……」

「行く!」


 いつになく乗り気で娘に同意をもらえた。
 会計の際、私が払うよと言ったら無理しなくていいのよと心配される。なんだったらマリンと一緒にきたときの方が嵩んだくらいだと言ったら恥ずかしそうにしながら頭を下げられた。
 別にそれくらい好きでしてるからいいのに。

 そこでギルドでクエストを受け取ろうとした際、


「おや」

「おお」

「あっ!」

「むっ」


 またもや因縁の相手にかち合ってしまった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...