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1章 お爺ちゃんとVR

008.お爺ちゃんと立体パズル?

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 壁内チェックⅠというタイトルからわかる通り、ただのゴミ拾いでは無いと言うことは分かっていました。
 しかし相も変わらずゴミとして認識して拾い上げる取得物を確認しつつそれを拾い上げると、通常であるならポイントがつくところ、それに名称が加算されるという仕組み。


[ピースA 21を獲得しました]


 こんな風に。
 ピースと言えば欠片。まるでパズルでもこの後待ち構えているんじゃないかと思えた矢先にジキンさんから声がかかった。


「ハヤテさん!」

「どうかしました?」


 その場に止まって手招きするので赴くと、そこに扉があり、次の場所へ行く為のもののように見えた。
 しかしジキンさん曰く押しても引いても開く様子はないのだとか。


「今回のクエストには関係ないのでは?」

「そう思ったんですけどどうにも引っかかるんですよね」


 そう言って取得したゴミを袋から取り出して見せる。
 扉は損傷が激しく、いくつか不自然な窪みがあったのだ。
 ジキンさんは拾ったゴミをその窪んだ場所に押し当てると、まるで最初からそこに合ったようにくっつくではないか。
 最初からそうするのが正解とのようにピタリと当て嵌まった。


「なるほど、今回のクエストはただのゴミ拾いではないと?」

「そう思います。クエストからしてゴミ拾いや清掃というワードではなかったですし、問題のゴミは粗方取り終えたのにクエストが終わる様子を見せません」


 確かにそうかもしれない。今回は高得点となる大型のゴミはほとんど見なかった。小物ハンターのジキンさんの能力が最大限発揮された形で決着がついていた。
 ある程度嵌め込んでみたが、パーツが足りないところがあるとのことで私を呼んだとの事だ。


「つまり足りない分はこっちの袋にあるということですね」

「それか見つけづらい場所にあるかです」

「そのパターンもありますね。でもまずはあるやつだけでやってしまいましょう」

「はい」


 こう言った記憶力を刺激するパズルなんかは苦手なのですが、ジキンさんは得意なようで、こっちの取得物をみて一目で「これはここですね」と言い当てていた。やはりこう言うのは役割分担した方が早いですね。

 ジキンさんが10分もかからずその扉を復元してみせると、ようやくクエスト達成の告知が出た。二人で顔を見合わせて、考えが当たっていたことに喜び合う。


[続シークレットクエスト:壁内チェックⅠをパーフェクトでクリアしました]

[古代の鍵・西門を取得しました]

[続シークレットクエスト:壁内チェックⅡが開始します]
 YES / NO


 おや、鍵ですか。西門というのは街の西にある門という事で間違いないですよね?


「何か鍵が手に入りましたが」


 ジキンさんの前に取り出してみせる。
 鍵というより細長い棒のようにも見えます。しかし情報としてはこれは鍵なのだと伝えてますね。
 クエスト達成の報酬は基本的にシステム内に振り込まれるんですよ。
 ギルドで受注したクエストと違ってシークレットの方は達成した時点で受け取れる仕組みです。


「僕は入場許可証です。またランダムですか」


 ジキンさんが取り出したのは一枚の紙切れ。中に書いてある字は読めませんでしたが、私に嘘を言うメリットはないので入場許可証というのは本当でしょう。しかしどこのというのが分からないので無用の長物ですが。


「確定でないのは痛いですが」

「ええ、クエストが何度も繰り返せるのなら出せるだけ出すだけです」


 早速次のクエストを開始。
 空腹度もまだ余裕があるし、ジキンさんとは出会ったばかりなのに息ぴったりでクエストをこなして行きました。

 クエスト自体は彼にとっては簡単だったんですが、やはり手数が足りなすぎて失敗に終わります。
 壁内チェックⅡまでは良かったんです。パズルを解く場所が2箇所に増えただけなので。ただしⅢからはピースを拾いに行く場所の難易度が急に上がって行きましてね。
 普段なら足元に落ちてたり、ちょっとした本棚の上に隠されてたりとそこそこの難易度なんですよ。
 でもマップ全体に奥行きが増え、天井も上がったところで嫌な予感はしてました。
 それはちょっと背伸びした程度では届かない垂直に切り立つ崖の上にあったり、明らかに落とし穴もかくやと言った穴の底にあったりとと明らかに今の状態では達成不可能という事で諦めることにしました。

 時間に余裕がある老人組といえど、引き際は大事ですからね。
 だったらと、クエストを受け直して貰えるだけ貰ってしまおうと壁内清掃~チェックのⅠ、Ⅱを網羅し尽くしました。
 その結果、懐は潤い外に出てないのに手元にアイテムがどっさり増えてしまいました。

 そしてお互いにログイン時間の制限が差し迫ってくる。

 急に別れるのが寂しくなり、しんみりとした時間が流れ始める。
 また会えると分かっていても、別れ際は寂しいものだ。


「今日は誘ってくれてありがとうございました。息子たちから誘われた手前、やってみたはいいものの、どうも肌に合わなくて辞めようかと思っていたんです」

「そうだったんですね。私も孫が一緒にやりたがってたんですが、彼女曰く、肩を並べて戦いたかったそうで」

「ウチもそうだったんです。けどね?」

「ええ。予想以上に頭がついていかない」


 お互いに顔を見合わせて笑い合う。


「そうです。気持ちは若いつもりだったんですけどね。これも時代の流れでしょうか?」

「お気持ちは理解できますよ。私もそうでしたから。正直、孫が何を言ってるのか少しも分かってません。ただ知ったかぶって頷くのがやっとです」

「僕もです。いやーお名前を拝見した時からこの人とは気が合うなと思ってつい話しかけてしまいましたが、話しかけて良かったです」

「こちらこそ、楽しい時間を過ごせました」


 握手をし、ログアウトするジキンさんを見送り、私もログアウトする事にした。
 
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