【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
3 / 497
1章 お爺ちゃんとVR

003.お爺ちゃんとスクリーンショット

しおりを挟む
 孫からの一言に、私は特に困った様子も見せずにそうだよと頷く。
 孫は、そんな私の様子にとても困り果てているようだった。
 どうやら彼女は私と一緒に肩を並べて冒険の旅に出たかったらしい。


「そう逸るモノではないよ。このゲームはなにも冒険だけを売りにしているわけでもないのだろう?」

「うぅ、そうだけどぉ」


 その表情から察するに、その冒険の果てに見せたい場所があったのだろう。言いたいけどここではいえない何かをその気持ちの奥に秘めていると言ったところか。
 さて、それよりも美咲はいつになったら隣に座る子を紹介してくれるのだろうか。一緒についてきた時点でお友達だとは思うのだけど、私から尋ねるのも違うし、こういう事は彼女から言って欲しいものだ。
 ちらりと視線を彼女に投げかけると、ただでさえ小さな体を萎縮させたように小さくさせてしまう。
 私の顔が怖かったのだろうか? あまり自覚した事はないが、気をつけよう。孫弄りも度が過ぎると疎遠されてしまうからな。


「マリンちゃん」

「えっとなに?」

「そろそろ紹介して。私、どのタイミングで話に入っていいか分かんないから」

「ああっとごめん、忘れてた」

「酷いよぉ」


 半泣きする少女に快活に笑う孫娘。
 これだけで普段の立場がわかってしまう。


「えっとね、お爺ちゃん。この子はユーノ。私の小学校時代からの友達なの。こっちでも続投してコンビ組んでるんだ」

「そうでしたか。ユーノさん、いつもうちの孫が世話をかけているようだ。これからも仲良くしてくれるかな?」

「はい」

「ちょっとお爺ちゃん!? それじゃあ私が迷惑かけるのが当たり前みたいになってる」

「違うのかね?」

「うぅ……違わないけど」

「冗談だよ。マリンはいい子だ。それにきちんと相手を思いやる気持ちも持っている。久しぶりにあって成長してるなと実感した」

「うん」


 少ししんみりとした表情の彼女の頭を撫でてやると、すっかりと機嫌を直したらしい。昔からこの子はお爺ちゃん子。
 つまり私に懐いていた。
 頭撫で撫では向こうからせがんでくるのだ。
 ちょうどいい場所に頭が迫ってくるから私はその場所へ手を置く。
 少しデレすぎてるのではないかと思ったが見なかったことにしよう。


「少し話を戻そうか。スキルについてだ」

「うん」

「はい」


 私の言葉に二人の少女が返事をする。


「まず私はこのゲームに闘いを求めていない。そこはいいかな?」

「納得いかないけど、とりあえずは」

「それならば何をしに?」


 孫娘は頬を膨らまし、お友達はその理由を追求してくる。
 相棒というだけあってまとまりがある。
 マリンが引っ張っているようで、ユーノにひっぱられてる風に見えなくもない。
 仲もいいし一先ずは安心だな。
 娘は心配性だが、この子がいる限り危険なことには首を突っ込まないだろう。
 そういう危険に対する察知能力が高そうだ。


「私は趣味で風景写真の撮影をしていてね。リアルでは体を壊して無理が利かず、ここでその続きをしようと思っていたんだ」

「あ、だから持久力UPなんですね!」


 聡いな。それだけでスキル構成の一つを言い当てた。


「どういう事、ユーノ? 持久力って要はスタミナのことでしょ? ああいうのは動き続けながら攻撃する人たちのものだと思ってた」


 その指摘も間違いではない。即ち休息を挟まずに体を酷使し続ける環境下に身を置くことだ。
 写真とはその一枚のために寒い気候の山頂に登ったり、何だったら危険な森の奥。秘境での動植物を撮影して感動を呼び覚ますものだ。
 私が写真に嵌ったのは旅行がきっかけだが、それが縁で世界の写真の魅力に取り憑かれた。
 だからこそ、ゲーム内でも今を逃したら普段見れない一枚を撮るために妥協を許さない構成なのである。


「そうだね、彼女の言う通り。私のスキル構成は全てベストショットを撮る為の構成だ。
 想像してご覧、切り立った崖の上、見下ろすのはそこにたどり着くまでに通った密林。
 踏み越えてきた障害物の数々。それを写真に納めるのも良いが、まだ見ぬ世界をそこから覗き込むことだってできる」

「うん、わかる。でも写真って言ってもスクリーンショットだよね? ゲーム内に保存はできるけど、現実には持っていけないよ」

「なに、そうなのか!?」


 孫娘からの一言に私は目を剥く。そして同時に納得した。
 そうだよなぁ、考えてみればそうだ。コールでリアルと連絡を取れると言ってもそれはゲーム側が承認しているからだ。
 ゲーム内の肖像権、ましてや映像はゲーム会社のものだ。私一人で取り扱う事はできない。残念だ。


「──あ、でも」


 そこで付け足したお友達の言葉が私を救ってくれる。
 要は情報を提供する場はゲーム内であれば作れるらしいとのこと。
 詳しくは冒険者ギルドで聞けるらしい。
 情報は整った。私は詳しいスクリーンショットの取り方を教えてもらい、フレンド登録を済ませる。

 奢ると言った手前、代金が足りませんでは立つ瀬がなかったが、ギリギリ間に合った。いや、ギリギリになるように抑えてくれたのだろう。みれば孫娘の前にしか皿は置かれてなかった。本当に助かる。


「今日はありがとう。ユーノさん、うちのマリンをよろしく頼む」

「ちょっとお爺ちゃん!?」

「マリンも、レディなんだからお淑やかにしろとは言わない。君はその明るさが魅力の一つだ。けれど引くべきところは引いたほうがいい。特にここはいろんな人の目があるからね」


 喫茶店の外。どこからか街に入ってきた者、何処かへ行く者達でごった返す。そんな通行人が孫娘達の様子を何となしに見ていた。
 すぐに興味を亡くして去っていくが、こう言った見たという記憶が物事を動かすきっかけになるのを私は知っている。
 あの時の子が実は……
 そんな眉唾で人は簡単に騙され、謂れのない罪を受ける事だってある。背中で孫達の姿を隠しながらいい含める。


「うん……」


 頭を撫でたら随分とおとなしくなったマリンに向けてスクリーンショットの構えをとる。


「ではここで会った記念に一枚いいかな?」

「私達がお爺ちゃんの被写体第一号?」

「そうだよ。後でブログに書き記しておこう。その際に乗せても大丈夫かな?」

「恥ずかしいですけど、はい」


 お友達の子にも確認を取り、許可してもらった。
 被写体を中心に収めるように親指と人差し指で「 」の字を作り、右瞼を瞑るとカシャッと音が鳴り画像が保存される。
 これらは網膜内のシステムからいつでも取り出して読み込むことができるとのことだ。ゲーム内とはいえ、技術の進歩に舌を巻く。


「うん、ベストショット。出来上がりを楽しみにしてくれたまえ」

「はーい! お爺ちゃんも困ったことがあったら私に連絡してね」

「ああ、もちろん頼らせてもらうよ」

「それでは私達はこれで」

「うん、いってらっしゃい」


 片手を上げてその場で別れる。
 私を置いて旅立っていく孫娘達の姿をパシャリ。
 そこには楽しそうに今後を語らう彼女達の姿が映り込んだ。


「これは流石に載せられないよなぁ」


 確認をとったのはあくまで最初の一枚のみだ。
 しかし個人的に楽しむ分には問題ないだろう。
 フォルダ名をお気に入りと銘打ってその画像をその場所へと保存した。
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

処理中です...