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五章

27_シャン族最強の戦士カブタック

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 新しい力を手にした俺たちは、もうどうにでもなれという気持ちで歩き出した。
 
 まさか料理そのものに更に抽選でステータス付与効果がつくなんて、俺の目をもってしても見抜くことは不可能だったぜ。

 とは言え、結構なランダム要素なので狙って育てるのは至難の業。どうにかなるさといつもの様に運を天に任せていると、


「イヤアアアアアアアアア!!!」

 今まさに宇宙エビに襲われる少女の助けを求める声が届いた。

「あれは、カブトムシ?」

「襲われてるのはノヴァさんの預かってる子じゃないかしら?」

「ああ、俺たちの子孫を自称してる子達か」

「それはさておき結構ピンチだよ?」

「厄介ごとはごめん被りたいが、ひとまず救出が優先か」

「結構強いわよ、気をつけてね?」

 委員長の言う結構の規模がわからんけど。
 ま、なんとかなるだろ。
 





 ──sideミライ


 その日、私はノヴァ様の命でグルストンの勇者、ユウスケ・アクツを探していた。
 郷の前にボロボロの姿で倒れていたライトリー様の命を救えるのはその勇者ユウスケ・アクツだけだと言う。

 私のお願いを聞き届けることなく逃げ出した腰抜けというイメージが強いアイツ。
 でも、ノヴァ様はすごく信頼を置いていた。
 あんなに弱そうなのに、ノヴァ様って実は見る目が無いのかな?

 私はあの男の顔を思い出すたびにムカムカとした気持ちになる。それはさておき、ライトリー様の容態が危ない。
 どんな魔法を使って治すのか問い詰めたいものだが、きっとハッタリだ。
 私はそのハッタリを見つけ出してノヴァ様の目を醒させてあげたい。そうすれば私のことを見直して極天のリーダーになってくださるかもしれない。

 そうなったらきっと楽しい未来が待ってる。

「ふふ♪ ちょっとやる気出てきた」

 楽しい気分になったと同時に、私の身体を覆う様に影が落ちたのは同時だった。


 「何、夜? まだお天道様は真上に登ったばかり……違う、敵!」

「GITHIAAAAAAAAA!!」

 見たこともないモンスターだった。獣型でも、龍型でもない。
 天然の鋼の鎧を見に纏う。黒い角を持つ虫のモンスター。
 ノヴァ様曰く、見上げるほどの大型虫モンスターはエルフの里から出てくることはないと言う。
 ではこれはなんだ?

「GURULUUUUUUAAAAA!!」

 前足を振るっただけで大地に亀裂が入った。
 あんな攻撃受けたら死んじゃう!
 受けたらダメだ、回避しないと!

「GURULUUUUUUAAAAALIIIIII!!?」

 あんな重そうな体でなんて身のこなしだ。
 回避にシフトしたミライの速度を軽々超えてきた謎の虫型モンスターは、ミライを餌を見て、その表情をニチャッと歪ませた。
 まるで虐める習慣でも持っているかの様に、嗜虐的な笑みを浮かべた。

 まるで私が恐れているのを楽しんでいるかの様だ。
 そんな知性、虫が持つか!?

「GHIHHYAHHYAHHYA!!」

 それからの攻撃は、私が死ぬか死なないかのぎりぎりを見定めるかの様な小手調べが続いた。
 殺すなら殺せ! 叫ぼうにも声が出ない。
 精一杯叫んだ言葉は言葉にならず、止めの一撃はいつまで経ってもやってこなかった。

「はい、ストップ。悪いけど、こいつ俺の知り合いなんだよね」

 知った声が聞こえた。
 軽薄な男の声だった。
 ただ、信じられないことに私を一方的になぶった悪魔の様なモンスターの腕を片手で掴んで止めている。

「ギチイ!?」

「と、来るのが遅れて悪かったな。あとは俺に任せとけ。と、そのままじゃきついだろ。ポーションだ。緊急で悪いけど勘弁な?」

 頭から何かをかけられた。
 不思議と身体中を蝕む痛みはどこかへと消えてしまった。
 何が起きたのかはわからない。
 ただ、明らかなのは私が見下していたあの男は、私なんかより全然すごいやつだと言うことだ。

 そこから先の記憶は曖昧だ。
 だってあまりにも荒唐無稽だったから。
 ノヴァ様の言う通り、ユウスケ・アクツはただものじゃなかった。すごく強くて、なんでも出来た。
 なんでも、と言うのは文字通りの意味だった。




 ──side阿久津雄介


 なんとか危機一髪で助けたはいいが、正直あと一歩遅れたら手遅れになるところだった。
 やべえやべえ。
 そして対峙するモンスターはあの時戦った蜘蛛よりも断然手強かった。


「雄介! 保護対象は?」

「ギリギリ助けた。薫と委員長は後方支援頼む、こいつはちょっと厄介だ」

「オッケー」

「敵のステータスはオール110万。物理は無効、魔法は反射。燃やしても効果はなく、凍らせても仮死状態になるだけの強敵よ」

「はい、無理ゲー。出てくる世界間違えてんでしょ」

「ステータスえげつな!」

「それでも、雄介さんは引かないのでしょう?」

「逃がしてくれそうもないからな」

 完全にヘイトを取っちまったからな。

「弱点は、見えにくいけど普通に考えて触覚、羽根だろうね。攻撃の通りやすいところはお腹かな?」

「ほぼ貫通してるんだよなぁ。見にくいとは一体?」

 自身なさげに言う薫だが、委員長のステータス閲覧に、薫の弱点看破は普通に強い。
 それとみゆりが常に“精神安定”を散布してくれてるので、気合注入によるパワーアップの系統は封印中だ。


「GURULUUUUUUAAAAA!!」

「早い、けど動きが単調だぜ?」

 振るわれる前足を一歩踏み込んで肩で胸を押し上げる様にして、持ち上げる。

「GHIHHYAHHYAHHYA!!?」

「当然、宙に浮けば飛ぶよな?」

 すでに上空で身構えてた俺が、拳を両手で固めて真下に叩きつけるところだった。

「ギチイ!?」

 渾身の力で叩きつけたが、甲羅が硬すぎてまるでダメージが通ってない。

「ので、引きちぎることにしまーす。ここで取り出したりますは、強酸。こいつを甲羅の内側に垂らしまーす」

 ジュッ!
 強酸が触れた場所から焼けこげる用な匂いと音がする。

「GURULUUUUUUAAAAA!!」

「ハッハッハ! 腕一本もーらい」

 甲羅から追い払おうと前足を懸命に振るうが、そんな力の籠ってないパンチ痛くも痒くもない。簡単に捕まえて引きちぎってやった。

 薫の言う通り、腹の内側は手足が集中している。
 引っ張れば簡単にちぎれた。
 根本からは夥しい体液を吐き出しているが、まだまだ元気いっぱいでこっちを伺っていた。
 はー、これだから虫ってやつはタフネスでいけない。

 と、そろそろ羽はちぎれたかな?
 最悪飛べなくなってくれれば御の字だ。
 案の定、持ち上げた甲羅の中の羽はズタズタに焼けこげていて、もはや空を飛ぶための機能はなかった。
 満身創痍、それでもまだ戦う意志を消せない戦士がそこにいる。
 そういうのは、別に求めてないので他でやってもらっていいですか?

「よーしこいつでとどめだ、おらぁ!」

 俺は勢いよく振りかぶって、夏目特製のモンスター捕獲ボールを投げつけた。
 それが何かわからぬモンスターは片手でそれを払って、見事取り込まれて夏目の研究施設に飛ばされた。
 よーし、これで一件落着だな!

 助けた少女、ミライには「なんだこいつ」って目で見られたけど、サポーターの俺にまともな戦闘を求める方がどうかしてるぜ。
 



「お助け頂きありがとうございます。あの、皆様お強いんですね?」

「いやぁ、俺たちは全然。勇者と言っても補欠だったからな。戦闘はからっきしなんだ」

「あれで?」

 信じられないと言う顔。
 そりゃ信じられんだろうな。

「あれでも、勇者の中じゃ底辺だぜ? 上には上がいる。三上とか三上とか」

 ついでに三上を売り込んでおいた。
 彼女の目的が三上に向けばいいなって期待しての誘導だ。

「それよりも、こんな場所で一人きり。最近は凶暴化したモンスターが歩いてて危険よ?」

「昔は一人でも全然平気だったんですが……」

「今はもう平和な時代は終わったと言う証拠ね。ここ最近、あの蟲型モンスターが世界各地で人々を襲ってるらしいわ。次は気をつけなさい」

「はい……と、皆さんにはお助けいただいた上にさらに頼み込むには恐縮ですが、実は助けて欲しい方がいるのです」

「助けて欲しい人?」

「ライトリーという方をご存知ですか?」

「ああ、あの鳥頭」

「鶏以下の将軍さんね、知ってる知ってる」

「その将軍さんがどうされたの?」

「はい、実は数日前にボロボロのお姿で郷の前で行き倒れて、今だに意識が回復しないのです。それでノヴァ様より人を与えられまして……」

「あ、もしかして君が探していたのって?」

「はい、勇者ユウスケ・アクツとその一行。あなた方様でございます。どこに行っても行方が知れず、当てもなく彷徨い歩いてようやく探し出しました」

 俺かぁ。
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