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五章
05_龍果の魅力を伝えよう④
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「おやおや、おやおやおやぁ? 見慣れない人たちがいますね。これは入村料を取らなくてはいけませんねぇ」
シュライフさんに連れられて、村の案内をしているところに、場違いな装いの一団が現れた。
こいつらが例の教会か。
煌びやかな装飾の杖を持ち、どこか不遜な態度で周囲を舐めまわしてさも当然の如く手持ちの作物を徴収しようと見回した。
世の中が平和になっても悪知恵を働かせて甘い蜜を吸おうって輩は何処にでもいるんだな。
「藪から棒に何をいうかと思えば。この村はいつから取り立ての対象になったのですか?」
「おやおや、こちらは善意で食料の提供をしているというのに、そっちから頭を下げてお願いしてきたのをお忘れですか?」
何がおかしいのか、小太りの男は笑みを貼り付けたままポーズをとった。
その無駄な動作はとにかく人を疲れさせる。
その才能を見出されてこの役職に就いたのだろう。
無駄な努力ご苦労さん。
「そうか、じゃあこの村の食料問題はカタついた。以後来なくても良いぞ。この村はもう自立できる」
シュライフさんが威圧を強めて手を払う。
小太りの男は顔を耳まで赤くしてキーキー喚き立てた。
「どこの誰かわかりませんが、この村と教会のやりとりに横から口を出さないで貰えますか?」
「私はこの村の相談役だ」
「この村は私達勇者教会の管轄だ! 勝手に離反するなど許されない!」
「確かに勇者はこの世界を救ったさ。だが、この地で生きていくのにいつまでも縋るべき存在ではない。自立しようというなら応援するのが勇者だろう?」
おっと、きな臭くなってきたぞ?
なんだ勇者教会って。目の前の相手がムーンスレイの勇者であると知っての狼藉か?
俺たちは蚊帳の外でほとぼりが落ち着くまで待った。
その間龍果料理を村人に配り歩いている。
「そもそも貴方!」
「え、俺?」
新たに木造で作り直した屋台にズカズカ歩み寄り、俺の前でビシィイと指を突きつけた小太りの男。
「私達が談義中だというのにさっきからモクモクと煙を立てて何をしてるのですか!?」
「あ、ごめん。煙そっち行った?」
「なんて美味そうな匂い、じゃなくって! どこでその食材を仕入れてきたんですか! それらは我らが勇者教の教祖ユースキー・アークスの定める禁制の品々ではありませんか!」
ほう、そいつか悪者の元締めは。
「何って言われても、これは俺の天性で……」
あ、バカという顔をするシュライフさん。
小太りの男は勝ち誇ったように笑みを貼り付ける。
「ほう、天性ですか? おかしいですねぇ。それは勇者しか持ちえない能力のはず。勇者様が去ってはや160年。未だ勇者を騙る偽物が後を経たない! 我々は正しい勇者様の歴史を綴るれっきとした教会なのだ、それを偽物が幅を効かせるなど……ぶべらぁ!」
うるさいので殴って黙らせた。この手に限る!
ついでに取り巻きが騒ぎ出すのを止めたのは杜若さんの『精神安定』だ。うちのメンツは荒事にも余裕で対応出来るのだ。
しかし160年か。
こっちは一週間しか向こうで過ごしてないのに、エルフの拠点の亜空間以外はそんなに経ってるのか。
アリエルやシュライフさんが変わらないからすっかり油断してたぜ。
「で、これ何?」
ダウンしたおっさんを眺め、村人達に事情調査。
串焼きを頬張りながら舌鼓を打つ村人は、聞いてもないことまで答えてくれた。
「なんだか昔この世界を救った救世主様を崇拝してる邪教の集団かな? 特産品を安値で買い叩いて、方々でも同じことをしてるよ」
「ふーん」
「それよりこの食材うまいな? なんの素材を使ってるんだ?」
「ここから南の方に山を二つ超えた場所にあるアリエル農園てところで売ってる龍果って奴だよ」
「え、あれ食えるのか?」
「俺も最初諦めてたんだけどさぁ、手を尽くしたら意外や意外。美味いだろ? 最初だからサービスでいっぱい売ってくれてさ。勝手に育つが、飼育するのはそれなりに大変らしいから手を出すのはやめたほうがいいぜ? っと、龍果と芋の煮っ転がしだ。トロトロになるまで煮込んだから美味いぜ?」
「もう匂いだけで腹減っちまうよ」
「慌てなくたっておかわりはあるからさ、他にどんな作物あるか教えてくれよ。俺はあちこちの村の作物で飯を作るのを趣味にしてるからさ」
「っとと。そうだなぁ、ウチの村じゃ茶っ葉が特産品だが、他にはこんな細い芋とかあるぞ」
食事を終えた男が家まで戻ってそれを持ってきた。
どう見ても長芋です。ただ量が少ないな。
「これって量産は可能か?」
「食えるなら誰でも手をつけるが、口が痒くなるから好んでは食べてないな」
「そりゃそのまんま食えばな。どうれ、ちょっとしたテクニックを見せちゃる」
俺は長芋をすりおろし、片栗粉と合わせて鉄板で焼いた。
すると液状だったすりおろした山芋が餅のような粘度を持った。
それに醤油を刷毛で塗り、裏返してもう一度。
醤油の焼けこげる音が空腹を誘う。
串を刺して男に持たせる。
「食ってみてくれ」
「お、おう。ハフッハフッ熱っ、でもこれがこの細い芋だってーのは驚きだ。全く想像できないものにかわっちまった!」
「冷めた方が案外食いやすいが、作り方は簡単だから量が確保したらまた作ってやるよ」
「そりゃありがたい。量産はまだわからんが、もう一度食べてみたくなる味だった。茶っ葉以外のやり甲斐が増えたのは大きいよ」
「喜んでくれたなら何より」
「勇者教ってのよりこっちの方がありがたいよ。連中は口が大きいだけで、何かにつけて胡散臭いからな」
「その勇者って言うのはそんなに悪いイメージが蔓延してるのかい?」
「実際に救ってもらったじーさんばーさんは感謝してたけど、俺たち世代はなぁ。みたことも聞いたこともない存在を信じろって方がどうかしてるよ」
この世界を救った勇者も時の人ってわけか。
が、その噂を悪用してる奴がいる。
ユースキー・アークス。
そいつが勇者教会の教祖として君臨してる以上、世界に平和は戻らないってことか。
一人決意を胸に抱いてると、俺を遠巻きに委員長、杜若さん、薫、節黒がヒソヒソ話をしていた。
「なんだよ? 俺を除け者にして」
「いやぁ、その教団のボス。雄介じゃないって」
「いやいやいや、俺はこんなにみんなのためを考えて行動してるのによ? なんで結びつけるのかなー?」
「その教祖とやらが阿久津君を謳っていつのじゃないかという話よ」
「俺がぁ? ないでしょ。勇者なんて俺以外たくさんいるぜ?」
「でも食料で種族間を繋いだ人物って聞かれたら一人しか思い浮かばないし?」
「阿久津さんの真似をして、人々の意思を掌握したかったのでしょうか? それは少し残念です」
「まぁなんにせよ、見つけたら殴るで良いんじゃね? 名乗りではしねーけど」
「それが正解だろう。名乗りでたらでたで色々面倒だぞ? こちらは村が安定するまでしばらく滞在するつもりだ。あの手の輩はしつこいからな。それとこいつがいつ酒がなくて暴れるか落ち落ち目を離せん」
完全にお荷物なんだよなぁ、この人。
「坊主、そう言うわけで今日から世話になるわ」
「え、嫌です」
「そう言うなよぉ、俺とお前の仲だろ?」
「はぁ、飯の世話くらいはしますけど。酒に関しては自分で調達してくださいよ?」
「おっしゃ! これからよろしくな!」
鬱陶しい付き人が俺たちの屋台の一員となった。
なお、宿泊先はエルフの亜空間を使ったので、旅の再開は地味に一週間後となった。
これがもし地球に帰ったら十数年一気に経つと言うのだから怖い。
エルフが引きこもるわけである。
会うたびに人々の記憶から忘れられちゃな、自分がエルフになった気分だった。
これ……アリエルはこっちで農園作ったから全部枯らしたんじゃね?
一瞬脳裏によぎったが、すぐに振り払った。
ロギンの全てを諦めた顔でなんとなく理解する。
きっとダメだったんだろうなと。
最後の寄る辺が龍果だったのはきっと運命なんだろうな。
なんとなくそんな気がした。
シュライフさんに連れられて、村の案内をしているところに、場違いな装いの一団が現れた。
こいつらが例の教会か。
煌びやかな装飾の杖を持ち、どこか不遜な態度で周囲を舐めまわしてさも当然の如く手持ちの作物を徴収しようと見回した。
世の中が平和になっても悪知恵を働かせて甘い蜜を吸おうって輩は何処にでもいるんだな。
「藪から棒に何をいうかと思えば。この村はいつから取り立ての対象になったのですか?」
「おやおや、こちらは善意で食料の提供をしているというのに、そっちから頭を下げてお願いしてきたのをお忘れですか?」
何がおかしいのか、小太りの男は笑みを貼り付けたままポーズをとった。
その無駄な動作はとにかく人を疲れさせる。
その才能を見出されてこの役職に就いたのだろう。
無駄な努力ご苦労さん。
「そうか、じゃあこの村の食料問題はカタついた。以後来なくても良いぞ。この村はもう自立できる」
シュライフさんが威圧を強めて手を払う。
小太りの男は顔を耳まで赤くしてキーキー喚き立てた。
「どこの誰かわかりませんが、この村と教会のやりとりに横から口を出さないで貰えますか?」
「私はこの村の相談役だ」
「この村は私達勇者教会の管轄だ! 勝手に離反するなど許されない!」
「確かに勇者はこの世界を救ったさ。だが、この地で生きていくのにいつまでも縋るべき存在ではない。自立しようというなら応援するのが勇者だろう?」
おっと、きな臭くなってきたぞ?
なんだ勇者教会って。目の前の相手がムーンスレイの勇者であると知っての狼藉か?
俺たちは蚊帳の外でほとぼりが落ち着くまで待った。
その間龍果料理を村人に配り歩いている。
「そもそも貴方!」
「え、俺?」
新たに木造で作り直した屋台にズカズカ歩み寄り、俺の前でビシィイと指を突きつけた小太りの男。
「私達が談義中だというのにさっきからモクモクと煙を立てて何をしてるのですか!?」
「あ、ごめん。煙そっち行った?」
「なんて美味そうな匂い、じゃなくって! どこでその食材を仕入れてきたんですか! それらは我らが勇者教の教祖ユースキー・アークスの定める禁制の品々ではありませんか!」
ほう、そいつか悪者の元締めは。
「何って言われても、これは俺の天性で……」
あ、バカという顔をするシュライフさん。
小太りの男は勝ち誇ったように笑みを貼り付ける。
「ほう、天性ですか? おかしいですねぇ。それは勇者しか持ちえない能力のはず。勇者様が去ってはや160年。未だ勇者を騙る偽物が後を経たない! 我々は正しい勇者様の歴史を綴るれっきとした教会なのだ、それを偽物が幅を効かせるなど……ぶべらぁ!」
うるさいので殴って黙らせた。この手に限る!
ついでに取り巻きが騒ぎ出すのを止めたのは杜若さんの『精神安定』だ。うちのメンツは荒事にも余裕で対応出来るのだ。
しかし160年か。
こっちは一週間しか向こうで過ごしてないのに、エルフの拠点の亜空間以外はそんなに経ってるのか。
アリエルやシュライフさんが変わらないからすっかり油断してたぜ。
「で、これ何?」
ダウンしたおっさんを眺め、村人達に事情調査。
串焼きを頬張りながら舌鼓を打つ村人は、聞いてもないことまで答えてくれた。
「なんだか昔この世界を救った救世主様を崇拝してる邪教の集団かな? 特産品を安値で買い叩いて、方々でも同じことをしてるよ」
「ふーん」
「それよりこの食材うまいな? なんの素材を使ってるんだ?」
「ここから南の方に山を二つ超えた場所にあるアリエル農園てところで売ってる龍果って奴だよ」
「え、あれ食えるのか?」
「俺も最初諦めてたんだけどさぁ、手を尽くしたら意外や意外。美味いだろ? 最初だからサービスでいっぱい売ってくれてさ。勝手に育つが、飼育するのはそれなりに大変らしいから手を出すのはやめたほうがいいぜ? っと、龍果と芋の煮っ転がしだ。トロトロになるまで煮込んだから美味いぜ?」
「もう匂いだけで腹減っちまうよ」
「慌てなくたっておかわりはあるからさ、他にどんな作物あるか教えてくれよ。俺はあちこちの村の作物で飯を作るのを趣味にしてるからさ」
「っとと。そうだなぁ、ウチの村じゃ茶っ葉が特産品だが、他にはこんな細い芋とかあるぞ」
食事を終えた男が家まで戻ってそれを持ってきた。
どう見ても長芋です。ただ量が少ないな。
「これって量産は可能か?」
「食えるなら誰でも手をつけるが、口が痒くなるから好んでは食べてないな」
「そりゃそのまんま食えばな。どうれ、ちょっとしたテクニックを見せちゃる」
俺は長芋をすりおろし、片栗粉と合わせて鉄板で焼いた。
すると液状だったすりおろした山芋が餅のような粘度を持った。
それに醤油を刷毛で塗り、裏返してもう一度。
醤油の焼けこげる音が空腹を誘う。
串を刺して男に持たせる。
「食ってみてくれ」
「お、おう。ハフッハフッ熱っ、でもこれがこの細い芋だってーのは驚きだ。全く想像できないものにかわっちまった!」
「冷めた方が案外食いやすいが、作り方は簡単だから量が確保したらまた作ってやるよ」
「そりゃありがたい。量産はまだわからんが、もう一度食べてみたくなる味だった。茶っ葉以外のやり甲斐が増えたのは大きいよ」
「喜んでくれたなら何より」
「勇者教ってのよりこっちの方がありがたいよ。連中は口が大きいだけで、何かにつけて胡散臭いからな」
「その勇者って言うのはそんなに悪いイメージが蔓延してるのかい?」
「実際に救ってもらったじーさんばーさんは感謝してたけど、俺たち世代はなぁ。みたことも聞いたこともない存在を信じろって方がどうかしてるよ」
この世界を救った勇者も時の人ってわけか。
が、その噂を悪用してる奴がいる。
ユースキー・アークス。
そいつが勇者教会の教祖として君臨してる以上、世界に平和は戻らないってことか。
一人決意を胸に抱いてると、俺を遠巻きに委員長、杜若さん、薫、節黒がヒソヒソ話をしていた。
「なんだよ? 俺を除け者にして」
「いやぁ、その教団のボス。雄介じゃないって」
「いやいやいや、俺はこんなにみんなのためを考えて行動してるのによ? なんで結びつけるのかなー?」
「その教祖とやらが阿久津君を謳っていつのじゃないかという話よ」
「俺がぁ? ないでしょ。勇者なんて俺以外たくさんいるぜ?」
「でも食料で種族間を繋いだ人物って聞かれたら一人しか思い浮かばないし?」
「阿久津さんの真似をして、人々の意思を掌握したかったのでしょうか? それは少し残念です」
「まぁなんにせよ、見つけたら殴るで良いんじゃね? 名乗りではしねーけど」
「それが正解だろう。名乗りでたらでたで色々面倒だぞ? こちらは村が安定するまでしばらく滞在するつもりだ。あの手の輩はしつこいからな。それとこいつがいつ酒がなくて暴れるか落ち落ち目を離せん」
完全にお荷物なんだよなぁ、この人。
「坊主、そう言うわけで今日から世話になるわ」
「え、嫌です」
「そう言うなよぉ、俺とお前の仲だろ?」
「はぁ、飯の世話くらいはしますけど。酒に関しては自分で調達してくださいよ?」
「おっしゃ! これからよろしくな!」
鬱陶しい付き人が俺たちの屋台の一員となった。
なお、宿泊先はエルフの亜空間を使ったので、旅の再開は地味に一週間後となった。
これがもし地球に帰ったら十数年一気に経つと言うのだから怖い。
エルフが引きこもるわけである。
会うたびに人々の記憶から忘れられちゃな、自分がエルフになった気分だった。
これ……アリエルはこっちで農園作ったから全部枯らしたんじゃね?
一瞬脳裏によぎったが、すぐに振り払った。
ロギンの全てを諦めた顔でなんとなく理解する。
きっとダメだったんだろうなと。
最後の寄る辺が龍果だったのはきっと運命なんだろうな。
なんとなくそんな気がした。
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