上 下
57 / 109
一章

限定SS 異世界食材

しおりを挟む

 まずいことになった。
 理由は不明だが、昨日の食事を境に全員が腹痛を訴えて寝込んでしまった。

 何故か俺や薫、杜若さんは平気だったが肝心の委員長が寝込んでしまっている。

 俺たちは何とかして素材を集め、万能薬を作ることになった。
 軽い腹痛程度だったらポーションでも治るらしいが、今回ばかりは通用せず、万事休すという形だった。

「ごめんなさい、私があんな料理を出したりなんてしたから」

 後悔の念に駆られてか、調理担当の坂下さんが病床でうなされながら最後にそう言い残す。
 昨日の夕飯、確かに変わった味がした。
 悪くなった味噌でも使ったのかと思ったが、どうも違ったらしい。

「いいや、坂下さんはここで寝てて。俺たちが何とかしてくるから」
「ごめんなさい、私は休ませてもらうわね」

 そう言って坂下さんは布団の中に潜っていった。
 これで捜査は振り出しだ。
 いったいなにを料理したのか全く判明せぬまま、俺たちは冒険者ギルドに赴くことに。

「いらっしゃいカオル君。今日も採取?」
「ええ、それで相談なんですが。お姉さんは万能薬についてどこまで知ってますか?」
「知っているわよ、ただ滅多に表に出回ってこないと言う意味でね」
「それは実際には見たことは無いと?」
「そうとも言えるわね」

 役立たずじゃないか!

「実は僕の仲間の一人が昨晩から寝込んでまして」
「あら、そういえば一人見かけないわね。そう、その子の為に万能薬を手に入れようと言うのね」
「はい」
「でもそれは難しいわね。そもそも万能薬は幻の薬とされてるの」
「幻の薬、ですか?」
「ええ、素材そのものは割と簡単に手に入るのだけど、問題は難易度がすごく高くてね。数多くの調薬師が挑戦してそれでもいまだに満足いくものができないそうなの」
「でしたらその素材だけでもいいので」

 もう藁にもすがる気持ちで泣きつく薫に、受付嬢のお姉さんも困り顔で何とかしてあげたいけど、と言葉に窮していると、偶然居合わせた人物が「素材さえ持ってくれば作ってやるよ」と声をかけてくる。

「貴方は?」
「通りすがりの調薬師だ。今日は久方ぶりに街に降りてきたんだが、完全に目的を見失ってしまってな」

 そう言って現れたおじさんはいかにも怪しい格好で、信用するに値しない人物像。

「えっと、ありがたいお話ですけど」
「あら、シュゲイールさん! 良かったわね、貴方達。シュゲイールさんなら腕は確かよ」

 ギルドではこの不審者の腕を随分と買ってるようだ。

「えっと、じゃあ?」
「シュゲイールだ。実は弟子が買い出しに行った先で迷子になってな。見つかるまででよければ付き合うぜ」

 そんなちょっとの時間で調合できるのだろうか?
 まぁギルドでの信用は高いようだし、あとは素材の品質を高めれば……高めれば?

 って、品質のチェックってどうすればいいんだ?
 いつもは委員長がチェックしてくれてたからあまり気にしたことがなかったが、今回はまともに採取出来るかも怪しいぞ?

「どうした? お前たちは素材採取のプロと聞くぞ? ウチもよく指定依頼を出してるんだ。いつも通りでいいんだぞ?」

 そのいつものことが出来ないんだよー!

「取り敢えず、やれる限りのことをしませんか?」
「仕方ないか」
「そうだね。委員長がいないだけでこんな窮地に陥るとは思わなかった」

 結局品質チェックを満足に出来ない結果、品質の悪い万能薬しか出来なかった。それを手に俺たちは王宮へと帰還する。
 しかしそこにはすっかり回復した坂下さんが出迎えてくれた。

「何だか寝たらすっかり治ったみたい」
「心配して損したぜ。で、結局何の素材を使ってあんな惨事に?」
「マタンゴを使ったのよ」
「………」

 それって……

「あのキノコに手足が生えて二足歩行してるモンスターの?」
「ええ、オークも食べられたならイケると思って」
「結果食中毒出してたんじゃダメじゃん」
「そうね、今度は間違えないわ」

 あ、これまたやらかす奴だ。
 結局その日から再度坂下さんの異世界料理が火を吹くのであった。
しおりを挟む
感想 325

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木
ファンタジー
 フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。  ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。  そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。    ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。  オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。  オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。  あげく魔王までもが復活すると言う。  そんな彼に幸せは訪れるのか?   これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。 ※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。 ※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。 ※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。