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一章
限定SS 異世界食材
しおりを挟むまずいことになった。
理由は不明だが、昨日の食事を境に全員が腹痛を訴えて寝込んでしまった。
何故か俺や薫、杜若さんは平気だったが肝心の委員長が寝込んでしまっている。
俺たちは何とかして素材を集め、万能薬を作ることになった。
軽い腹痛程度だったらポーションでも治るらしいが、今回ばかりは通用せず、万事休すという形だった。
「ごめんなさい、私があんな料理を出したりなんてしたから」
後悔の念に駆られてか、調理担当の坂下さんが病床でうなされながら最後にそう言い残す。
昨日の夕飯、確かに変わった味がした。
悪くなった味噌でも使ったのかと思ったが、どうも違ったらしい。
「いいや、坂下さんはここで寝てて。俺たちが何とかしてくるから」
「ごめんなさい、私は休ませてもらうわね」
そう言って坂下さんは布団の中に潜っていった。
これで捜査は振り出しだ。
いったいなにを料理したのか全く判明せぬまま、俺たちは冒険者ギルドに赴くことに。
「いらっしゃいカオル君。今日も採取?」
「ええ、それで相談なんですが。お姉さんは万能薬についてどこまで知ってますか?」
「知っているわよ、ただ滅多に表に出回ってこないと言う意味でね」
「それは実際には見たことは無いと?」
「そうとも言えるわね」
役立たずじゃないか!
「実は僕の仲間の一人が昨晩から寝込んでまして」
「あら、そういえば一人見かけないわね。そう、その子の為に万能薬を手に入れようと言うのね」
「はい」
「でもそれは難しいわね。そもそも万能薬は幻の薬とされてるの」
「幻の薬、ですか?」
「ええ、素材そのものは割と簡単に手に入るのだけど、問題は難易度がすごく高くてね。数多くの調薬師が挑戦してそれでもいまだに満足いくものができないそうなの」
「でしたらその素材だけでもいいので」
もう藁にもすがる気持ちで泣きつく薫に、受付嬢のお姉さんも困り顔で何とかしてあげたいけど、と言葉に窮していると、偶然居合わせた人物が「素材さえ持ってくれば作ってやるよ」と声をかけてくる。
「貴方は?」
「通りすがりの調薬師だ。今日は久方ぶりに街に降りてきたんだが、完全に目的を見失ってしまってな」
そう言って現れたおじさんはいかにも怪しい格好で、信用するに値しない人物像。
「えっと、ありがたいお話ですけど」
「あら、シュゲイールさん! 良かったわね、貴方達。シュゲイールさんなら腕は確かよ」
ギルドではこの不審者の腕を随分と買ってるようだ。
「えっと、じゃあ?」
「シュゲイールだ。実は弟子が買い出しに行った先で迷子になってな。見つかるまででよければ付き合うぜ」
そんなちょっとの時間で調合できるのだろうか?
まぁギルドでの信用は高いようだし、あとは素材の品質を高めれば……高めれば?
って、品質のチェックってどうすればいいんだ?
いつもは委員長がチェックしてくれてたからあまり気にしたことがなかったが、今回はまともに採取出来るかも怪しいぞ?
「どうした? お前たちは素材採取のプロと聞くぞ? ウチもよく指定依頼を出してるんだ。いつも通りでいいんだぞ?」
そのいつものことが出来ないんだよー!
「取り敢えず、やれる限りのことをしませんか?」
「仕方ないか」
「そうだね。委員長がいないだけでこんな窮地に陥るとは思わなかった」
結局品質チェックを満足に出来ない結果、品質の悪い万能薬しか出来なかった。それを手に俺たちは王宮へと帰還する。
しかしそこにはすっかり回復した坂下さんが出迎えてくれた。
「何だか寝たらすっかり治ったみたい」
「心配して損したぜ。で、結局何の素材を使ってあんな惨事に?」
「マタンゴを使ったのよ」
「………」
それって……
「あのキノコに手足が生えて二足歩行してるモンスターの?」
「ええ、オークも食べられたならイケると思って」
「結果食中毒出してたんじゃダメじゃん」
「そうね、今度は間違えないわ」
あ、これまたやらかす奴だ。
結局その日から再度坂下さんの異世界料理が火を吹くのであった。
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