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一章
限定SS 食べ歩き
しおりを挟むドラゴン討伐の報を受けて王国は勇者の偉業を大々的に発表し、パレードを催した。
それによって俺たちは加害者でもあるアリエルを引き連れてそのパレードに参加することにする。
子供の扱いはまだまだ分からないので保険として杜若さんについてきてもらった。
もし街の様子を見て自暴自棄になっても彼女のスキルならそれを抑え込めると思ったからだ。
「アリエル、何か食べたいものはありますか? お金ぐらい出してあげますよ。ね、阿久津さん?」
「お、おう。こう見えて俺たち稼いでいる方だからな?」
少しばかり見栄を張る。確かにランクの低い冒険者としては稼いでる方だ。
単純に宿代と食費を稼ぐ必要がないのも大きいが。
「じゃあソフトクリーム」
「お前、それはいつでも食べれるだろ。もっと別の、ほらそこで売ってる串焼きとかどうだ? おっちゃーん、串焼き二本ね」
「へいらっしゃい。熱いから気を付けてくんな」
「ほら、アリエル。お金払うから一本持ってくれ」
「何よ、だったら先に払ってから受け取ればいいでしょ、行動が見え見えなのよ!」
アリエルは不機嫌な様子を隠すことなく食ってかかる。
かと言って暴れ出すというわけでもなく、杜若さんもスキルを扱うほどではないようだ。
少しして素直に串焼きを手に持つと、ハフハフと口に運びながら「美味しくないわ」と口にしていた。
けどその表情が全てを物語っている。
口下手なのだ。それでいて天邪鬼。
要は素直になれないだけの子供と一緒。
「もう一本食うか?」
「そうね、食べてあげなくもないわ」
気に入ったようだ。杜若さんと一緒に素直じゃないアリエルを微笑ましく見守った。
食事をして満足したのか今度はパレードにはしゃぐ親子連れを眺めていた。親に肩車をされて、高い景色から見下ろす風景を楽しんでる、そんな光景。もうアリエルはそんな景色すら望むことはできないとか思ってるんだろうな。
「なんだ、アリエル。あの親子が気になるか?」
「別に」
「俺が肩車してやってもいいぞ?」
「別に羨ましくなんてないんだからね!」
ならどうしてそんな悲しそうな顔で親子の背中を見つめているんだろうな。
もっと素直に打ち明けてくれたら、いくらでも俺たちが甘やかしてやるのに。
でも彼女はそれができない、もう後戻りできないところにまできてしまったと思い込んでしまっているのだ。
全然、いつでも引き返せるところにいるのにそれに気付こうとしない。
だったら俺が無理矢理にでも気づかせてやる。
「よし、じゃあ今日から俺がアリエルの兄ちゃんだ!」
「は、何言って……ちょ、話を聞きなさいよ!」
無理矢理肩車をして、アリエルに高い景色を見せた。
別に高い場所の景色なんてドラゴンの背中に乗って見慣れてると分かっていても、俺は居てもたっても居られずに行動を起こしていた。
アリエルからの反応は乏しい。
しかし暴れるのは諦めたのか、大人しく俺の頭に手を置いて景色を眺めていた。
「なんだかんだすっかり意気投合しちゃって。羨ましいわ」
そんな出来事を結局出番のなかった杜若さんが眺めながらぼやく。
正直、出番あるなし関係なく、一緒にこういう祭りに誘い出せて御の字だったのは言うまでもない。
邪念が漏れたか、アリエルに頭を叩かれた。
「雄介、次はあっちに行って」
「へいへい」
「見た目は全然違うのに、すっかり仲の良い兄妹ね」
そう見えるかな? まぁ見えてればラッキーくらいで。
アリエルと接しながら俺はあの時抱いたもやもやを拭い去る様に駆け出した。
当時迷子の子供を見て見ぬ振りしようとしていた己の情けなさを。
そして、何もできないからこそ気持ちで応えてやることだってできるんだと自分に言い聞かせる様に。
こんな事で少しでも過去を忘れられるのなら、多少は役に立てたかな? スキル意外で誰かの役に立ちたい。そう思う様になったのはつい最近だ。
それでもスキルはついて回る。今更手放す気もない。
でも、それでも。こうやって誰かの喜ぶ顔が見れたのなら、使う事に一切の躊躇いはなかった。
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