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2巻
2-3
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「なんだ!?」
大男は力が霧散したことによって、身体のコントロールが乱れてよろける。
そしてそのまま水野が大男の手を掴んで投げ技を決めていた。
意外とこいつも手癖が悪いんだよな。
「ナイス、杜若さん!」
「お主がこの力の発現者か? 悪いがその技、封じさせてもらうぞ」
いつの間にか背後にいた狐耳の少女が、俺と杜若さんに語る。
後ろ手を取られた杜若さんは、そのまま足を払われた。
その速度は目で追えるものではなかった。
「杜若さん!」
「大丈夫です! 少し体勢を崩されただけですから!」
すぐに立ち上がり、杜若さんはこの場を収めるために再び〈精神安定〉を施そうとするが、そのたびに狐耳の少女が足払いを仕掛けてくる。
これでは埒が明かない。
こちらが何か対策を立てようにも、相手はこちらに姿を掴ませない。
まるで影分身のようで、捉えても残像ばかり。
「まったく、何をやってるのよ?」
そんないざこざを見かねたアリエルが、呆れながらやって来た。
「隙あり!」
そこに今まで大男たちの争いを見ていただけの狼のフードを被ったちびっこが、アリエルに向けて拳を放つ。
同じ背格好だから、いい勝負ができると思ったのだろう。
「痛っ……あ!」
拳が当たったのは、アリエルの利き腕。そしてそこにあったカニクリームコロッケバーガー。
そして、その反動でバーガーが地面に落ちた。
そそくさと拾おうとアリエルが手を伸ばすが、それを目敏く視界に捉えたフードのちびっこが、コロッケを握って壁に投げつけた。
あからさまにアリエルへの嫌がらせだ。
「あはは! ぺちゃんこになった!」
どこか楽しげに飛び跳ねる狼フード少女。
そしてそれにキレるアリエル。
これほどまでに憎しみを露わにした彼女は、数週間前にドラゴンを率いて王国に攻め入ってきた時以来だろう。
「あんた……あたしがそれを貰うまでにどんなに苦労をしたか……」
アリエルの怒りがふつふつと湧いているのが見て取れた。
ちびっこはそんなアリエルを煽るように接する。
「大事なものだったら、両手でちゃんと持ってないとダメじゃん? そんなんだから落としちゃうんだよー?」
「絶対に泣かす!」
「上等! そうこなくっちゃ!」
狼のフードを被った少女の喧嘩を買ったアリエル。
大男にいまだ攻撃され続け、防戦一方の水野。
杜若さんの〈精神安定〉を邪魔する狐耳。
三者三様のバトルが繰り広げられている。
「ドラゴニックオーラ・Lv5!」
「グッ!? なに、このプレッシャーは!」
アリエルの圧に押されて、ちびっこが後退った。
「待て、シリス! その女はダメだ! ドラグネスの序列の……!」
狐耳がアリエルの正体に気付いたようだ。
聞く耳を持たずにアリエルに立ち向かうちびっこに、彼女の鞭が襲いかかった。
ドラゴンを使役する一方で、鞭術の心得があったみたいで、その力をいかんなく発揮している。
打撃を中心とした狼フード少女は、鞭のリーチの長さに防戦一方だ。
それにしてもアリエルの表情には鬼気迫るものがある。
いやー、食い物の恨みは怖いね。
そんな中、俺は猫耳職員に事情を尋ねる。
「で、何でこんな騒ぎに?」
発端はあの大男たちが急に勇者かどうか聞いてきて水野たちに戦闘を仕掛けて来たことだと、職員は教えてくれた。
相手は悪名高いムーンスレイ帝国の勇者だそうだ。
まぁ、その国名自体初めて聞いたんだけど……
「杜若さん、今だ!」
アリエルに視線が向いて、杜若さんへの警戒が薄れたところで、薫が声を上げた。
「ありがとう、冴島君。これでもう一度場を鎮めるわ! 〈精神安定〉!」
暴れ回っていた大男も、狐耳の少女も、アリエルと戦っていた狼フード少女も、その場に昏倒してしまう。
勝負は決したようだ。
「おっし、終わったな」
床に倒れている大男たちを尻目に、俺は水野たちと合流する。
「助かったよ、阿久津君。この人たちしつこくて」
「いや、俺はなんもしてないけどな」
この中でMVPといえば、杜若さんだろう。
彼女の能力は、対多数への抑止力として群を抜いている。
どれだけ暴徒が出ようとも、彼女が居るだけで鎮静化できるからな。
まぁ、その杜若さんも直接妨害されたら、〈精神安定〉が解けてしまうことがわかったわけだが……
次に仕掛けられたら対応できるようにしよう。
今アフターケアが必要なのは、アリエルだ。
彼女は床にペタンと座り、目を潤ませていた。
「まぁ、これ食って元気出せよな」
俺は新しくコロッケバーガーを出した。
「いいの? さっき貰ったばかりなのに、もう一個貰っても?」
「流石に食い過ぎは止めるが、今回のは事故だからな。誰も咎めねーって」
「じゃあ……ありがたくいただくわ! ふふ、儲けっ」
アリエルはどこか嬉しそうにカニクリームコロッケバーガーを頬張った。
そんなやり取りの裏で、水野が倒れていた三人をぐるぐる巻きにする。
手際いいよなぁ、こいつ。
「姫乃さんも災難だったね」
襲撃者の拘束も済んだところで、俺たちは一息ついた。
「本当よ。ここに来るなり勝負を吹っ掛けられたんだもの……ここじゃあ私の弓での支援は難しそうだったし」
姫乃さんは困った顔で言った。
「あー……そういう理由で不参加だったんだ?」
「そうよ。でも阿久津君だって観戦してたじゃない?」
「いや、俺の場合は戦えないからなぁ」
「どの口がそんなこと言うのよ」
姫乃さんの視線が急に鋭くなった。
ステータスだけならともかく、手練れと戦うだけの戦闘能力は身につけてないし、思ったままを言ったんだけど……何かおかしかったかな?
襲撃者たちを抱えて、俺はギルド職員に声をかけた。
「とりあえずここの不審者は城に持っていくんで!」
「その……他国の勇者様にゃから、あまり失礼のないようにお願いしたいにゃ~」
俺は職員を一瞥する。
「じゃあ、ギルドで責任取ってくれます?」
「ウチのギルドはそういう争いに極力関わらないことにしてるにゃ!」
「つまり?」
「謹んでお断りするのにゃ」
だめじゃん。だったらあんまり扱い云々に口を出さないでほしいなぁ。
その後もやたらと襲撃者側の肩を持つ発言を繰り返す職員をスルーして、俺たちは城に戻った。
王宮に到着するなり、兵士さんが俺たちが担いでいる物を見て呼び止めた。
「あまりよくわからない人物を連れてこないでほしいんだが……」
「いや、こいつら自称勇者らしくて、グルストン国の勇者を探してギルドで暴れてたんですよ。そこを捕まえたんですよ」
「そいつらが? よく平気だったな。わかった、団長に掛け合ってくるから、君たちはここで待っててくれ」
どうあっても許可なく城内に入れるのはダメって話だった。
まあ、見るからに怪しい見た目してるしな。
兵士が確認を取りに行っている間の待ち時間で、俺は麦飯を出して食べ始める。
それを見て、姫乃さんが怪訝な顔をする。
「なにもここで食べなくたっていいじゃないの?」
「いや、俺たちがここから離れたら襲撃者たちを見る人もいなくなるし……となったら、ここで食うしかないだろ」
「諦めた方がいいよ、姫乃さん。雄介は一度決めたら曲げないから」
「冴島君も止めなさいよ!」
薫に対して、姫乃さんは注意を促した。
「普通に美味いよなー、麦飯も」
「水野君まで交ざっちゃって!」
自分以外が座ってのんびりしている状況を見て、一人だけ怒っているのがバカらしくなった姫乃さんが、その場に座り込んだ。
そして場に流されるようにデザートに手をつけた。
それは俺が開発途中のあんみつだった。
「あ、これって……」
「うん、寒天を手に入れたから、ゼリーにしたんだよね。あんみつまではまだまだ遠いけど、ちょっとずつね」
「あんな要望、まだ覚えててくれたのね」
「そりゃあもちろん。クラスの願望を叶えるのが、俺のやるべきことでもあるからな?」
「ふふ、なによそれ」
姫乃さんが口元を押さえて笑う。
彼女がこんな風に表情を綻ばせること自体、珍しい。
いつもはどこか仏頂面だからな。
「痛っ……ここは?」
ここでようやく連れてきた大男が目覚めた。
「ようやくお目覚めかしら?」
「お前は……あの時の?」
「なぜここにドラグネスの十傑がいるのかは知らんが……まさか手を組んでおるのか?」
フードの少女と狐耳の少女も、それぞれ顔を上げて尋ねてきた。
「そんなところよ。あんたたちには関係ないけどね」
こちらの手の内を探ろうとする少女たちを見ながら、アリエルは質問を受け流した。
「くっそー、あんなの無効だ、無効! 次やればアタシが絶対勝つ!」
アリエルの相手をしていた狼フード少女は元気いっぱいに縛られた体をもぞもぞさせる。
ミノムシのような動きだ。
狐耳はその隣でブツブツ言っている。
彼女の縄は、いつの間にかほどかれていた。
「ったく、こうも厄介な能力持ちがいたとはな。これが発動してる限り、我らは無力じゃ。本戦では出禁にしてもらわねば困るの」
「いや、俺ら試合には出ないぞ? 補欠だし」
「なんと!? お主らの実力で補欠なのか?」
驚く襲撃者たち。
水野と姫乃さんも頷いている。
と、そこで城内の騎士を連れて、兵士が戻ってきた。
早速騎士は他国の勇者たちにきつく問い詰める。
「お前たちが襲撃者か?」
「妾たちは正式な手続きのもと、この地に来ている」
彼の問いかけに、狐耳がすぐに答えた。
じゃあなんでギルド前で暴れてたんだよ……
俺たちと騎士がジトッとした視線を向けると、狐耳が立ち上がる。
「嘘ではない! きちんと我が国の皇帝から書状をいただいて来ておるのだ。これが証拠だ!」
「では、それを預かってもよろしいな?」
「好きにせい! その代わり、書状が本物だと確認できたら、待遇の改善を求めるからな!?」
「はいはい、本物だったらな? 一応上に渡しておくから」
騎士さんはまともに取り合わずに王宮に戻った。
「で、こいつらは結局そのままにされたけど……?」
俺は委員長と話し合う。
「とりあえずこのままってわけにもいかないし、私たちで預かっておくしかないんじゃない?」
「やっぱそうなるよなー」
杜若さんがいるから暴走はいつでも抑えられるが、こっちの大男が何をしでかすか、わかったもんじゃねえ。
他のみんなも同じことを考えたようで、一同の視線は大男に注がれた。
「俺はもう別に暴れねーよ。その代わり、酒をくれねぇか!」
「こいつ……全く反省する気がないぞ?」
「捕虜の分際で、なんで交渉が通ると思ってんだか」
委員長は呆れていた。
「うるせぇ、こっちはなあ! 強い奴らがいるって聞いてワクワクして来たんだ。ところが蓋を開けたら無力化するのがうまい奴らが多いだけで、熱い戦いはできない……つまり消化不良なんだよ! 酒でも飲まなきゃやってらんねーよ!」
ただのやけ酒じゃねーか。
仕方がないので、委員長に相談した後、大量に仕入れた麦から作ったビールを出す。
お酒を見た瞬間、大男が目の色を変えて飛んできた。
「なんだよ、あるんじゃねーか。これだよこれ。かー、このために生きてるっ!」
急に酔っ払いが出来上がってしまった。
しばらくして大臣が、書状が本物であると伝えにきた。そして、大男たちは無事に城内に入れてもらうことができた。
一方、城に戻った俺は、予想した通り、宮廷の料理人たちに捕まってしこたまカニクリームコロッケを作らせられる羽目に。
そのまま一日が過ぎた。
翌日、早速襲撃者たちを引き連れて、謁見が始まった。
狐耳が代表して前に出て、皇帝からの伝言や書状の内容について説明する。
話の内容は、国同士で武を競い合って研鑽をしましょうという、合同訓練のお誘いだった。
本音は、こちらの手札を見たいのだろう。
誰がそんな話に乗るのやら、と俺が思っていると、国王は二つ返事で引き受けた。
「守るだけの采配は終わりだ。これからは打って出ることも大切だから」という意見らしい。
獣人たちを一度部屋から出すと、国王は俺たちに、ムーンスレイ国へ赴いてどれくらい力量差があるか調べてこいと命じた。
ドラグネスとの一件で、国王もなんだかんだ強かになってきたようだ。
俺は、ついでに向こうの国の色んな素材を回収して来ますよ、と息巻く。
「国交断絶なんてことにならないようにな……」
国王は苦い顔をしながら俺に釘を刺すと、再び彼らを部屋に招き入れた。
酔っ払いの大男は放っておいて、この三人の中で一番権力のある狐耳の少女と話す。
まずは互いに自己紹介した。
この狐耳は、大男とちびっこのお目付け役で、ノヴァ。酔っぱらいの大男はシグルドだと言った。
狼フード少女はシリスと名乗り、早くもアリエルと仲良くなり、喧嘩友達って感じでじゃれ合っている。
わがままばかりだったアリエルが、すっかりお姉さんっぽく振る舞うようになっている。
こうして俺たちは、一時協力体制をとり、案内役を頼むことにしたのだった。
3 グルストンを離れて
シグルドは、俺が出したビールに味を占めたようで、城から出てすぐに酒をくれとねだってきた。
すっかり虜になったようで、これなしの生活は考えられないとまで言う。
満足げに後方でビールを飲むシグルドを見ながら、委員長が話しかけてきた。
「ちなみに魔素の消費量はどれくらい?」
「一杯当たり五ってところかな?」
「お味噌よりは割安なのね」
「でもいくら安くても、ああもパカパカ飲まれちゃうのもな?」
委員長が俺の言葉に深く頷いた。
まあ、これ以上飲みたいなら、労働をしてもらうのが妥当かな?
シグルドの扱い方は後々考えないとな。
ちなみに今回のメンバーは、俺たちいつもの補欠組に加えて獣人の使者たちと他数名。
ノヴァたちが自国に着いた瞬間、急に牙を剝いてくるかもしれないという事態に備えて、国王が護衛役を同行させてくれた。
すっかり冒険者という職が板についている水野と姫乃さん、それから『全属性魔法使い』の天性を持つ木下という男だ。
木下に関しては、俺たちの謁見中に部屋のそばを通りかかって、獣人の国に行くという話を偶然聞いていたようで、国王に直訴したらしい。なかなかアグレッシブな奴だ。
旅先で火や水を使う場面があるだろうから、そういう時に頼ろうと考えている。
それに俺らの中だと魔法を使える奴はいなかったし、実際の魔法がどんなものか見たいという好奇心もあった。
「なんでここに木下君がいるの?」
メンバー追加を不思議に思ったのか、水野が尋ねると、木下は笑いながら答えた。
「王城内での訓練があまりに暇だったから、王様に頼んで入れてもらったんだ、楽しみだよなぁ、旅行」
「そんなふわっとした気持ちで来たの!? 遊びじゃないんだぞ?」
「いいから俺も交ぜてくれよ。きっと役に立つからさ!」
「いいけど、邪魔だけはすんなよ?」
「へいへい」
まぁ、緩い感じではあるが、強力な助っ人になるだろう。
「ったく、ガキの遠足じゃねーんだぞ?」
二人の様子を見たシグルドが、声を上げる。
「じゃが、お前は現状ガキたちに率いられてる大人じゃからな。恥ずかしいったらありゃせんの?」
「あーあーうっせーな。これだから年寄りは嫌いなんだ」
揶揄うように言うノヴァとシグルドがいがみ合っている。
かたや俺らの前では、アリエルとシリスが元気に話していた。
「うおー、アリエル、もう一戦やろうぜ!」
「もう船に乗る時間よ。戦ってもいいけど、沈没したら責任取れるの、アンタ?」
「……泳げばいいじゃん?」
「泳いで大陸を横断できる人間がどれくらい居るのよ? ほとんどのメンバーは場所すら知らないってのに」
「あ、えーと……」
「それに海の中には厄介なモンスターだっているのよ? なおのこと泳ぐなんて難しいわ」
「そうなのか! すげー!」
アリエルが説明する一言一句に感心するシリス。
帝国組は呑気だね。
若干シリスに適当なことを言っているような気もしたが、妹のように可愛がっている様子を見ると、それを指摘するのも無粋だ。
今までずっと大人に混ざって生きて来た分、同世代が恋しかったのだろう。
と、先に船着き場に行ってチケットを購入していた委員長と薫がこちらに手を振っていた。
「阿久津君、船のチケット買って来たわよ。全員乗れるって」
委員長のもとに集まり俺たちはそれぞれチケットを受け取った。
「サンキュー委員長。おら、お前ら。乗り込むぞー」
元気のいい者、やる気のない者、話に夢中で俺の言葉が届いてない者。
それぞれが俺の後に続く。
こんなまとまりのない連中を制御し切れるか自信ないな。
俺たちが乗り込んですぐ、船はゆっくりと動き出した。
欠伸が出そうなのんびり具合だったが、この世界に来て初めての気ままな旅。
各々が自由な時間を過ごす。
船に乗って一時間が経った頃、暇を持て余し始めたのか、みんなが甲板に出てきた。
キラキラした海面に視線を向けると、見たこともない魚のシルエットが映り込む。
サーバマグでも魚は色々とったが、素材の種類を増やすために俺たちは船上から魚の捕獲を始める。
そこで委員長が木下を呼び止める。
「これ、先に渡しておくわね」
そう言って、委員長が取り出したのは、夏目から預かっていた魔石を取り付けた杖だ。
「へぇ、これが噂に聞いていた夏目が作った新装備か。どれどれ? おっ、すげーな。知らない魔法のはずなのに、頭にスルスル入ってくるぞ」
杖を手にした途端、感嘆する木下に委員長が注意する。
「木下君には、自分の魔法じゃなくて、こっちの杖の魔法を使ってほしいの。特に電撃魔法だけは使わないでね?」
「フリか?」
「そんなわけないでしょ。木下君のは威力がわからないし、被害が出たら困るからよ」
「あぁ、そっか……で、この杖には何の魔法が入っているんだ?」
木下の問いで、委員長が説明が始めた。
入っている魔法は〝フラッシュペイン〟と呼ばれる、今までに一度受けたことのある痛みを呼び起こすというおっかない魔法だ。
本来は、杜若さんの〈精神安定〉が使えない場面で、代わりに相手を制圧するための手段である。
どこからか手に入れた『リッチ』なるモンスターの魔石を使っていて、魔法の使用回数は十回と制限されている。魔石を交換すれば、再度使用可能だ。
ただ実戦で使用したことがないうえに、効果は未知数。
不安があったので、冷静な委員長に持たせていたのだが、本人の魔法を止めるためとはいえ、それが木下の手に渡ってしまった。
結果、勝手に魔法を放ちまくる木下と、その魔法のダメージで海上にぷかぷか浮く夥しい数の魚群。
挙句の果てには、巨大な個体すらいて船が進行不可になってしまう始末だ。
フラッシュペインの威力を知れたのは収穫だが……こいつ、考えなしすぎるだろ。
薫が大きなため息を吐いた。
大男は力が霧散したことによって、身体のコントロールが乱れてよろける。
そしてそのまま水野が大男の手を掴んで投げ技を決めていた。
意外とこいつも手癖が悪いんだよな。
「ナイス、杜若さん!」
「お主がこの力の発現者か? 悪いがその技、封じさせてもらうぞ」
いつの間にか背後にいた狐耳の少女が、俺と杜若さんに語る。
後ろ手を取られた杜若さんは、そのまま足を払われた。
その速度は目で追えるものではなかった。
「杜若さん!」
「大丈夫です! 少し体勢を崩されただけですから!」
すぐに立ち上がり、杜若さんはこの場を収めるために再び〈精神安定〉を施そうとするが、そのたびに狐耳の少女が足払いを仕掛けてくる。
これでは埒が明かない。
こちらが何か対策を立てようにも、相手はこちらに姿を掴ませない。
まるで影分身のようで、捉えても残像ばかり。
「まったく、何をやってるのよ?」
そんないざこざを見かねたアリエルが、呆れながらやって来た。
「隙あり!」
そこに今まで大男たちの争いを見ていただけの狼のフードを被ったちびっこが、アリエルに向けて拳を放つ。
同じ背格好だから、いい勝負ができると思ったのだろう。
「痛っ……あ!」
拳が当たったのは、アリエルの利き腕。そしてそこにあったカニクリームコロッケバーガー。
そして、その反動でバーガーが地面に落ちた。
そそくさと拾おうとアリエルが手を伸ばすが、それを目敏く視界に捉えたフードのちびっこが、コロッケを握って壁に投げつけた。
あからさまにアリエルへの嫌がらせだ。
「あはは! ぺちゃんこになった!」
どこか楽しげに飛び跳ねる狼フード少女。
そしてそれにキレるアリエル。
これほどまでに憎しみを露わにした彼女は、数週間前にドラゴンを率いて王国に攻め入ってきた時以来だろう。
「あんた……あたしがそれを貰うまでにどんなに苦労をしたか……」
アリエルの怒りがふつふつと湧いているのが見て取れた。
ちびっこはそんなアリエルを煽るように接する。
「大事なものだったら、両手でちゃんと持ってないとダメじゃん? そんなんだから落としちゃうんだよー?」
「絶対に泣かす!」
「上等! そうこなくっちゃ!」
狼のフードを被った少女の喧嘩を買ったアリエル。
大男にいまだ攻撃され続け、防戦一方の水野。
杜若さんの〈精神安定〉を邪魔する狐耳。
三者三様のバトルが繰り広げられている。
「ドラゴニックオーラ・Lv5!」
「グッ!? なに、このプレッシャーは!」
アリエルの圧に押されて、ちびっこが後退った。
「待て、シリス! その女はダメだ! ドラグネスの序列の……!」
狐耳がアリエルの正体に気付いたようだ。
聞く耳を持たずにアリエルに立ち向かうちびっこに、彼女の鞭が襲いかかった。
ドラゴンを使役する一方で、鞭術の心得があったみたいで、その力をいかんなく発揮している。
打撃を中心とした狼フード少女は、鞭のリーチの長さに防戦一方だ。
それにしてもアリエルの表情には鬼気迫るものがある。
いやー、食い物の恨みは怖いね。
そんな中、俺は猫耳職員に事情を尋ねる。
「で、何でこんな騒ぎに?」
発端はあの大男たちが急に勇者かどうか聞いてきて水野たちに戦闘を仕掛けて来たことだと、職員は教えてくれた。
相手は悪名高いムーンスレイ帝国の勇者だそうだ。
まぁ、その国名自体初めて聞いたんだけど……
「杜若さん、今だ!」
アリエルに視線が向いて、杜若さんへの警戒が薄れたところで、薫が声を上げた。
「ありがとう、冴島君。これでもう一度場を鎮めるわ! 〈精神安定〉!」
暴れ回っていた大男も、狐耳の少女も、アリエルと戦っていた狼フード少女も、その場に昏倒してしまう。
勝負は決したようだ。
「おっし、終わったな」
床に倒れている大男たちを尻目に、俺は水野たちと合流する。
「助かったよ、阿久津君。この人たちしつこくて」
「いや、俺はなんもしてないけどな」
この中でMVPといえば、杜若さんだろう。
彼女の能力は、対多数への抑止力として群を抜いている。
どれだけ暴徒が出ようとも、彼女が居るだけで鎮静化できるからな。
まぁ、その杜若さんも直接妨害されたら、〈精神安定〉が解けてしまうことがわかったわけだが……
次に仕掛けられたら対応できるようにしよう。
今アフターケアが必要なのは、アリエルだ。
彼女は床にペタンと座り、目を潤ませていた。
「まぁ、これ食って元気出せよな」
俺は新しくコロッケバーガーを出した。
「いいの? さっき貰ったばかりなのに、もう一個貰っても?」
「流石に食い過ぎは止めるが、今回のは事故だからな。誰も咎めねーって」
「じゃあ……ありがたくいただくわ! ふふ、儲けっ」
アリエルはどこか嬉しそうにカニクリームコロッケバーガーを頬張った。
そんなやり取りの裏で、水野が倒れていた三人をぐるぐる巻きにする。
手際いいよなぁ、こいつ。
「姫乃さんも災難だったね」
襲撃者の拘束も済んだところで、俺たちは一息ついた。
「本当よ。ここに来るなり勝負を吹っ掛けられたんだもの……ここじゃあ私の弓での支援は難しそうだったし」
姫乃さんは困った顔で言った。
「あー……そういう理由で不参加だったんだ?」
「そうよ。でも阿久津君だって観戦してたじゃない?」
「いや、俺の場合は戦えないからなぁ」
「どの口がそんなこと言うのよ」
姫乃さんの視線が急に鋭くなった。
ステータスだけならともかく、手練れと戦うだけの戦闘能力は身につけてないし、思ったままを言ったんだけど……何かおかしかったかな?
襲撃者たちを抱えて、俺はギルド職員に声をかけた。
「とりあえずここの不審者は城に持っていくんで!」
「その……他国の勇者様にゃから、あまり失礼のないようにお願いしたいにゃ~」
俺は職員を一瞥する。
「じゃあ、ギルドで責任取ってくれます?」
「ウチのギルドはそういう争いに極力関わらないことにしてるにゃ!」
「つまり?」
「謹んでお断りするのにゃ」
だめじゃん。だったらあんまり扱い云々に口を出さないでほしいなぁ。
その後もやたらと襲撃者側の肩を持つ発言を繰り返す職員をスルーして、俺たちは城に戻った。
王宮に到着するなり、兵士さんが俺たちが担いでいる物を見て呼び止めた。
「あまりよくわからない人物を連れてこないでほしいんだが……」
「いや、こいつら自称勇者らしくて、グルストン国の勇者を探してギルドで暴れてたんですよ。そこを捕まえたんですよ」
「そいつらが? よく平気だったな。わかった、団長に掛け合ってくるから、君たちはここで待っててくれ」
どうあっても許可なく城内に入れるのはダメって話だった。
まあ、見るからに怪しい見た目してるしな。
兵士が確認を取りに行っている間の待ち時間で、俺は麦飯を出して食べ始める。
それを見て、姫乃さんが怪訝な顔をする。
「なにもここで食べなくたっていいじゃないの?」
「いや、俺たちがここから離れたら襲撃者たちを見る人もいなくなるし……となったら、ここで食うしかないだろ」
「諦めた方がいいよ、姫乃さん。雄介は一度決めたら曲げないから」
「冴島君も止めなさいよ!」
薫に対して、姫乃さんは注意を促した。
「普通に美味いよなー、麦飯も」
「水野君まで交ざっちゃって!」
自分以外が座ってのんびりしている状況を見て、一人だけ怒っているのがバカらしくなった姫乃さんが、その場に座り込んだ。
そして場に流されるようにデザートに手をつけた。
それは俺が開発途中のあんみつだった。
「あ、これって……」
「うん、寒天を手に入れたから、ゼリーにしたんだよね。あんみつまではまだまだ遠いけど、ちょっとずつね」
「あんな要望、まだ覚えててくれたのね」
「そりゃあもちろん。クラスの願望を叶えるのが、俺のやるべきことでもあるからな?」
「ふふ、なによそれ」
姫乃さんが口元を押さえて笑う。
彼女がこんな風に表情を綻ばせること自体、珍しい。
いつもはどこか仏頂面だからな。
「痛っ……ここは?」
ここでようやく連れてきた大男が目覚めた。
「ようやくお目覚めかしら?」
「お前は……あの時の?」
「なぜここにドラグネスの十傑がいるのかは知らんが……まさか手を組んでおるのか?」
フードの少女と狐耳の少女も、それぞれ顔を上げて尋ねてきた。
「そんなところよ。あんたたちには関係ないけどね」
こちらの手の内を探ろうとする少女たちを見ながら、アリエルは質問を受け流した。
「くっそー、あんなの無効だ、無効! 次やればアタシが絶対勝つ!」
アリエルの相手をしていた狼フード少女は元気いっぱいに縛られた体をもぞもぞさせる。
ミノムシのような動きだ。
狐耳はその隣でブツブツ言っている。
彼女の縄は、いつの間にかほどかれていた。
「ったく、こうも厄介な能力持ちがいたとはな。これが発動してる限り、我らは無力じゃ。本戦では出禁にしてもらわねば困るの」
「いや、俺ら試合には出ないぞ? 補欠だし」
「なんと!? お主らの実力で補欠なのか?」
驚く襲撃者たち。
水野と姫乃さんも頷いている。
と、そこで城内の騎士を連れて、兵士が戻ってきた。
早速騎士は他国の勇者たちにきつく問い詰める。
「お前たちが襲撃者か?」
「妾たちは正式な手続きのもと、この地に来ている」
彼の問いかけに、狐耳がすぐに答えた。
じゃあなんでギルド前で暴れてたんだよ……
俺たちと騎士がジトッとした視線を向けると、狐耳が立ち上がる。
「嘘ではない! きちんと我が国の皇帝から書状をいただいて来ておるのだ。これが証拠だ!」
「では、それを預かってもよろしいな?」
「好きにせい! その代わり、書状が本物だと確認できたら、待遇の改善を求めるからな!?」
「はいはい、本物だったらな? 一応上に渡しておくから」
騎士さんはまともに取り合わずに王宮に戻った。
「で、こいつらは結局そのままにされたけど……?」
俺は委員長と話し合う。
「とりあえずこのままってわけにもいかないし、私たちで預かっておくしかないんじゃない?」
「やっぱそうなるよなー」
杜若さんがいるから暴走はいつでも抑えられるが、こっちの大男が何をしでかすか、わかったもんじゃねえ。
他のみんなも同じことを考えたようで、一同の視線は大男に注がれた。
「俺はもう別に暴れねーよ。その代わり、酒をくれねぇか!」
「こいつ……全く反省する気がないぞ?」
「捕虜の分際で、なんで交渉が通ると思ってんだか」
委員長は呆れていた。
「うるせぇ、こっちはなあ! 強い奴らがいるって聞いてワクワクして来たんだ。ところが蓋を開けたら無力化するのがうまい奴らが多いだけで、熱い戦いはできない……つまり消化不良なんだよ! 酒でも飲まなきゃやってらんねーよ!」
ただのやけ酒じゃねーか。
仕方がないので、委員長に相談した後、大量に仕入れた麦から作ったビールを出す。
お酒を見た瞬間、大男が目の色を変えて飛んできた。
「なんだよ、あるんじゃねーか。これだよこれ。かー、このために生きてるっ!」
急に酔っ払いが出来上がってしまった。
しばらくして大臣が、書状が本物であると伝えにきた。そして、大男たちは無事に城内に入れてもらうことができた。
一方、城に戻った俺は、予想した通り、宮廷の料理人たちに捕まってしこたまカニクリームコロッケを作らせられる羽目に。
そのまま一日が過ぎた。
翌日、早速襲撃者たちを引き連れて、謁見が始まった。
狐耳が代表して前に出て、皇帝からの伝言や書状の内容について説明する。
話の内容は、国同士で武を競い合って研鑽をしましょうという、合同訓練のお誘いだった。
本音は、こちらの手札を見たいのだろう。
誰がそんな話に乗るのやら、と俺が思っていると、国王は二つ返事で引き受けた。
「守るだけの采配は終わりだ。これからは打って出ることも大切だから」という意見らしい。
獣人たちを一度部屋から出すと、国王は俺たちに、ムーンスレイ国へ赴いてどれくらい力量差があるか調べてこいと命じた。
ドラグネスとの一件で、国王もなんだかんだ強かになってきたようだ。
俺は、ついでに向こうの国の色んな素材を回収して来ますよ、と息巻く。
「国交断絶なんてことにならないようにな……」
国王は苦い顔をしながら俺に釘を刺すと、再び彼らを部屋に招き入れた。
酔っ払いの大男は放っておいて、この三人の中で一番権力のある狐耳の少女と話す。
まずは互いに自己紹介した。
この狐耳は、大男とちびっこのお目付け役で、ノヴァ。酔っぱらいの大男はシグルドだと言った。
狼フード少女はシリスと名乗り、早くもアリエルと仲良くなり、喧嘩友達って感じでじゃれ合っている。
わがままばかりだったアリエルが、すっかりお姉さんっぽく振る舞うようになっている。
こうして俺たちは、一時協力体制をとり、案内役を頼むことにしたのだった。
3 グルストンを離れて
シグルドは、俺が出したビールに味を占めたようで、城から出てすぐに酒をくれとねだってきた。
すっかり虜になったようで、これなしの生活は考えられないとまで言う。
満足げに後方でビールを飲むシグルドを見ながら、委員長が話しかけてきた。
「ちなみに魔素の消費量はどれくらい?」
「一杯当たり五ってところかな?」
「お味噌よりは割安なのね」
「でもいくら安くても、ああもパカパカ飲まれちゃうのもな?」
委員長が俺の言葉に深く頷いた。
まあ、これ以上飲みたいなら、労働をしてもらうのが妥当かな?
シグルドの扱い方は後々考えないとな。
ちなみに今回のメンバーは、俺たちいつもの補欠組に加えて獣人の使者たちと他数名。
ノヴァたちが自国に着いた瞬間、急に牙を剝いてくるかもしれないという事態に備えて、国王が護衛役を同行させてくれた。
すっかり冒険者という職が板についている水野と姫乃さん、それから『全属性魔法使い』の天性を持つ木下という男だ。
木下に関しては、俺たちの謁見中に部屋のそばを通りかかって、獣人の国に行くという話を偶然聞いていたようで、国王に直訴したらしい。なかなかアグレッシブな奴だ。
旅先で火や水を使う場面があるだろうから、そういう時に頼ろうと考えている。
それに俺らの中だと魔法を使える奴はいなかったし、実際の魔法がどんなものか見たいという好奇心もあった。
「なんでここに木下君がいるの?」
メンバー追加を不思議に思ったのか、水野が尋ねると、木下は笑いながら答えた。
「王城内での訓練があまりに暇だったから、王様に頼んで入れてもらったんだ、楽しみだよなぁ、旅行」
「そんなふわっとした気持ちで来たの!? 遊びじゃないんだぞ?」
「いいから俺も交ぜてくれよ。きっと役に立つからさ!」
「いいけど、邪魔だけはすんなよ?」
「へいへい」
まぁ、緩い感じではあるが、強力な助っ人になるだろう。
「ったく、ガキの遠足じゃねーんだぞ?」
二人の様子を見たシグルドが、声を上げる。
「じゃが、お前は現状ガキたちに率いられてる大人じゃからな。恥ずかしいったらありゃせんの?」
「あーあーうっせーな。これだから年寄りは嫌いなんだ」
揶揄うように言うノヴァとシグルドがいがみ合っている。
かたや俺らの前では、アリエルとシリスが元気に話していた。
「うおー、アリエル、もう一戦やろうぜ!」
「もう船に乗る時間よ。戦ってもいいけど、沈没したら責任取れるの、アンタ?」
「……泳げばいいじゃん?」
「泳いで大陸を横断できる人間がどれくらい居るのよ? ほとんどのメンバーは場所すら知らないってのに」
「あ、えーと……」
「それに海の中には厄介なモンスターだっているのよ? なおのこと泳ぐなんて難しいわ」
「そうなのか! すげー!」
アリエルが説明する一言一句に感心するシリス。
帝国組は呑気だね。
若干シリスに適当なことを言っているような気もしたが、妹のように可愛がっている様子を見ると、それを指摘するのも無粋だ。
今までずっと大人に混ざって生きて来た分、同世代が恋しかったのだろう。
と、先に船着き場に行ってチケットを購入していた委員長と薫がこちらに手を振っていた。
「阿久津君、船のチケット買って来たわよ。全員乗れるって」
委員長のもとに集まり俺たちはそれぞれチケットを受け取った。
「サンキュー委員長。おら、お前ら。乗り込むぞー」
元気のいい者、やる気のない者、話に夢中で俺の言葉が届いてない者。
それぞれが俺の後に続く。
こんなまとまりのない連中を制御し切れるか自信ないな。
俺たちが乗り込んですぐ、船はゆっくりと動き出した。
欠伸が出そうなのんびり具合だったが、この世界に来て初めての気ままな旅。
各々が自由な時間を過ごす。
船に乗って一時間が経った頃、暇を持て余し始めたのか、みんなが甲板に出てきた。
キラキラした海面に視線を向けると、見たこともない魚のシルエットが映り込む。
サーバマグでも魚は色々とったが、素材の種類を増やすために俺たちは船上から魚の捕獲を始める。
そこで委員長が木下を呼び止める。
「これ、先に渡しておくわね」
そう言って、委員長が取り出したのは、夏目から預かっていた魔石を取り付けた杖だ。
「へぇ、これが噂に聞いていた夏目が作った新装備か。どれどれ? おっ、すげーな。知らない魔法のはずなのに、頭にスルスル入ってくるぞ」
杖を手にした途端、感嘆する木下に委員長が注意する。
「木下君には、自分の魔法じゃなくて、こっちの杖の魔法を使ってほしいの。特に電撃魔法だけは使わないでね?」
「フリか?」
「そんなわけないでしょ。木下君のは威力がわからないし、被害が出たら困るからよ」
「あぁ、そっか……で、この杖には何の魔法が入っているんだ?」
木下の問いで、委員長が説明が始めた。
入っている魔法は〝フラッシュペイン〟と呼ばれる、今までに一度受けたことのある痛みを呼び起こすというおっかない魔法だ。
本来は、杜若さんの〈精神安定〉が使えない場面で、代わりに相手を制圧するための手段である。
どこからか手に入れた『リッチ』なるモンスターの魔石を使っていて、魔法の使用回数は十回と制限されている。魔石を交換すれば、再度使用可能だ。
ただ実戦で使用したことがないうえに、効果は未知数。
不安があったので、冷静な委員長に持たせていたのだが、本人の魔法を止めるためとはいえ、それが木下の手に渡ってしまった。
結果、勝手に魔法を放ちまくる木下と、その魔法のダメージで海上にぷかぷか浮く夥しい数の魚群。
挙句の果てには、巨大な個体すらいて船が進行不可になってしまう始末だ。
フラッシュペインの威力を知れたのは収穫だが……こいつ、考えなしすぎるだろ。
薫が大きなため息を吐いた。
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