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10話 仮免探索者みう《探索》

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 装備を新調して、ご満悦のみう。
 俺は油断しまくりのみうのサポートに徹する。
 装備を新しくして、なんでも出来る気分になっているのだろう。


「おーい、そんなにスキップしてたら転ぶぞ」

「転んでも大丈夫だよー」


 言いながら、ぴょんぴょんと跳ねるみう。
 完全にバトルスーツを信頼し切ってるのだろう。
 傷ついても守ってくれるのは体だけだってのに。
 頭は自分で守るしかないんだぞ?


「お前はまだ病人なんだから。ベッドの上で転ぶのとは訳が違うんだぞ?」


 今までのダンジョンとの違い。
 それは足場の悪さにもつながっている。
 転んだら打ち付けるのは丈夫な部分だけとは限らないのだ。

 そんな状態の探索者を狙うモンスターがわさわさ潜んでいる。
 まだランクが低いからと、舐めたやつから命を落とすのがダンジョンという場所だった。


「わっ」


 言ってるそばから転んだ。


「テイム」


 俺はダンジョンに魔力を送り込み、ジャスト転んだ真下にスライムを生成した。
 一匹、二匹、三匹、四匹。
 全身を守るように設置されたスライムがクッションとなってみうがダメージを受けることなく受け止めた。
 その場で起き上がるみう。


「いてて」

「いてて、じゃないだろ。兄ちゃん見ててヒヤヒヤしたぞ」

「無事だったからいいじゃーん」

「無事なのは兄ちゃんのおかげだ」

「ピキッ」「ピキキ」

「スライム?」


 みうはようやく自分の体を無傷で助けた存在を認識した。


「さっき俺のスキルでテイムした。間一髪だったんだぞ?」

「スライム、ここら辺いたっけ?」


 さっき歩いてた感じでは存在を確認できなかったとみうが振り返る。
 こいつ、勘が鋭いな。


「あいつらは存在を隠匿する術に長けている。本当なら存在を見せつけてくるような行動はしないんだ」

「あたしにはあんなに存在をアピールしてくるのに?」

「お前は病人だから、すぐに倒せそうと思ったんだろ。ダンジョンのモンスターは弱いやつに狙いをつけるからな」

「え、あたしもう弱くないよ?」


 信じられない、という顔。
 スラッシュを覚えてからは、確かに狩り効率は良くなった。
 ついでにちょっと健康になった。
 そこまではいい。けどな。


「前までは弱かったのは事実じゃんか」

「うぐ、お兄たんキラーイ」

「ぐはっ!」


 俺は精神に9999のダメージ。
 心臓を押さえてその場に昏倒した。

 そこからの移動は、スライムに担がれての移動となった。


「お兄たんはあたしが守るね?」

「後のことは頼んだ!」


 迫真の大根演技である。
 俺が寝たきりになったのは完全に自業自得だが、これがみうの油断を抑えることにうまいこと機能した。

 俺が倒れたことにより、ダンジョンが、みうに狙いを定め始めた。
 ただ寝っ転がってるだけなのに、それでもダンジョン側には有利なんだろうな。
 よく知らんが。

 スライムが擬態を解いて存在をアピールしてきたのだ。


「ピキキ!」

「スライムにはもう負けないよ!」


 みうも対峙する。
 動き出しはスライムの方が早い。
 ただ、俺が操ってたスライムより随分と鈍く感じたのだろう。
 特に焦ることもなく、エストックを引き抜いて格好をつける余裕すらあった。


「えいっ! とぉ!」


 素早く横に振るう。
 突くのに特化した武器だと言うのにメチャクチャだ。
 しかしいつもより早く、スライムはその場で弾けた。


「あれ? もう死んじゃった」

「おー、お疲れ」

「お兄たん! あたしの活躍見てた?」

「おかげで兄ちゃんの出る幕なかったな」


 よっこいせ。
 涅槃のポーズからあぐらをかいた状態に座り直し、拍手を送る。


「ほら、もうスライムには負けなくなった! もっと奥進も?」

「バカだなぁ、みう」

「バカっていう方がバカなんだよ、お兄たん」

「今回は一匹だったから勝てたんだ。スライムっていうのはもっと集団で襲ってくるぞ。奥に行くのはその後だ。囲まれても対処できるようになってからだな。それに今回も運動がメインだ。体を動かすリハビリだってことを忘れちゃダメだぞ?」

「ぶー、せっかく違うダンジョンに来たんだから色々見て回りたいじゃん!」

「それはもうちょっと強くなってからだ。それに、ダンジョン探索はモンスターを倒すだけが醍醐味じゃないぞ? ここに鉱石が埋まってるのが見えるか?」


 よっと。
 俺は立ち上がり、壁まで歩いてマインゴーシュを逆手に持った。
 カツン、カツンと数度打ち付けるとコロコロと色のついた石が地面に転がり落ちる。


「何か出てきた!」

「青銅石だ。これだってお小遣い稼ぎになるんだ。駆け出し探索者はな、ダンジョンに採掘や採集をしにくる人もいるんだ」

「ほへー。前のダンジョンもそう言うのあった? 全然気づかなかった」

「前の場所はモンスター以外の要素が枯れてたからな。きっと廃棄されてたダンジョンだろう。モンスターも弱いスライムしか出なかったしな」

「でも、九頭竜プロがいた時はオーク? が出たよね」

「ダンジョンってのは不思議なもんでな。強い探索者が長居するとそれに応じたモンスターを生み出す傾向にあるんだ。俺やみうくらいだったらスライムしか生み出せないが、九頭竜プロクラスになると斥候にオークが出てくる。あのまま長居してたら危なかったんだぞ?」

「え、じゃあ廃棄されたダンジョンでも危ないじゃん!」

「だが、廃棄されたダンジョンにはダンジョンマスターがいない」

「ダンジョンマスターって?」

「ダンジョンを支配している存在のことだ。人類を敵視していて、入ってくる探索者を排除しようと動くんだ。その存在がいるダンジョンは高難易度の場合が多く、そういうダンジョンは入場制限がかけられてるんだよ。危険だから一般人は立ち入らないでくださいねーって」

「一定ランクの人しか入れないみたいな?」

「そうそう」

「ここのダンジョンは?」

「マスターはいなさそうだな。それでも枯渇してないのはダンジョンセンターが管理してるからだ」

「ダンジョンセンター?」

「さっき受付のおじちゃんいたろ?」

「クマおじちゃん!」

「そう、そのおじちゃんはな。ダンジョンセンターに雇われて、このダンジョンを管理してるんだ。入り口がダンジョンの中にあるのは、長い間滞在してダンジョンを活性させる狙いがあるんだ」

「じゃあ、いなくなったら?」

「ここも廃棄ダンジョンみたいにスライムしか出てこなくなるだろうな。こうやって鉱石を掘ったり、薬草を集めることもできなくなる」

「じゃあ、ダンジョンセンターって大事なお仕事じゃん!」

「そうだな、一見暇してそうでも、このダンジョンを管理する大事なお仕事だ」

「へぇ」

「帰ったら肩でも揉んでやろう。みうはどうする?」

「あたしは握力ないもん。それにまだつま先立ちもできないし」


 熊谷さんは椅子に座っても背が高い。
 みうが背伸びしたってその肩に届くことはない。
 なのでそこを気にしてるんだろう。


「じゃあ、今は兄ちゃんが代わりにやっておく。みうは大きくなったら、体がもっと健康になったらやってあげなさい」

「うん!」


 元気いっぱいな返事をもらった。
 守りたい、この笑顔。


「よしじゃあ採掘に話を戻すぞ」

「お兄たん、どれが鉱石? なのかわかりません!」

「いい質問だ、みう君。実はダンジョンには微量だが魔力が張り巡らされている。魔力を見るのはそれなりの技量が必要だ。今のみうには難しいだろう。そこで兄ちゃんはスライムを使う」

「スライムを?」

「スライムはダンジョンの掃除屋だからな。普段はモゾモゾしながらあてもなく彷徨っているんだが、魔力の波動が強いところに集まる習性があるんだ」

「初耳!」

「これは兄ちゃんが学園で培った技術だからな。みんなには秘密だぞ?」

「あい!」


 みうは元気よく返事をした。


「そーれ、行ってこーい」


 犬にフリスビーを取らせに行くように、スライムを放し飼いにする。
 すると最初こそはバラバラに動いていたスライム達が、最初の一匹につられて一斉にその場所に向かい始める。


「お兄たん、スライムたちが!」

「どうやら早速見つけてくれたようだな」


 集まってる中心地。
 そこには暗くてよく見えないが、懐中電灯を浴びてより強く光る結晶があった。


「綺麗~」

「これはルビーかな? こんな浅い階層に埋まってるのは初めてだ。誰も採掘してかなかったのか?」

「純粋に、お兄たんクラスのテイマーさんがいなかっただけじゃない?」


 みうに言われて、確かにその通りだと納得した。


「あー、その可能性も多いか。スライムって戦力という意味じゃ、大して役に立たないしな。テイムできても枠を埋める人は少なさそうだ」

「枠?」

「テイマーってのはな、同時に使役できる上限があるんだよ。こればかりはジョブレベルに依存するが、大抵の場合は駆け出しの頃に一匹が限界だな」


 その一匹に強いモンスターを選択するか、弱くても便利なスライムを選択するかで稼ぎが違ってくる。
 倒しても経験値が手に入らない、ドロップを落とさない代わりに採掘や採集で稼ぐ手段があるのだが、自身が一切戦えないテイマーは、パーティに入るために戦力となるモンスターを選ぶ傾向にある。
 なのでそれを間違いだとは指摘できずにいた。
 勿体無いなって感じる俺は学園では相当浮いていたしな。


「ピキキ!」


 俺の気持ちを代弁するように、テイムしたスライムが呼びかける。
 早く掘り起こせと言ってるんだろう。
 俺は逆手に握ったマインゴーシュで小粒ながらも赤く光るルビーを掘り起こしてみうにプレゼントしてやった。


「いいの? お兄たんが見つけたやつなのに」

「俺がプレゼントしてやりたいんだ。ダメか?」

「ううん、嬉しい。ありがとうね、お兄たん!」


 赤い魔石が大好きなみうにとって、これは何の慰めにもならないが、俺からのプレゼントには感謝を示す。
 いい子なのだ。
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