劣等生のハイランカー

双葉 鳴

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最弱種族の下剋上

総力戦 1

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 悪魔の軍勢は、周王学園生をものともせずに進軍する。
 思っていた通り、ソウルグレードによるゴリ押しが向こうの持ち味だろう。しかし、それに抗って見せたのが凛華や寧々、久遠等の俺の契約者だった。

「みんな、相手に直接攻撃の類は聞きにくいわ。前のめりに攻撃せず、ヒットアンドアウェイを心掛けてちょうだい!」

「分かった!」

「怪我をした方はこちらにお越しください! お腹がすいた方もこちらへ、補給物資をご用意してます!」

「助かる!」

「こっから先はうちが突撃かけるよ! ものども続けェええええ!」

「「うぉおおおおおおお!!」」

 寧々が敵の戦力を分析し、凛華が視野を広く持ち負傷兵を少なくすることを心がけた。そして久遠が攻撃できないことで不満を挙げる生徒を率い、一点突破の活躍を見せる。

「状況は?」

「劣勢という他無いな。今まで戦ったことのない相手だ。プロが相手する敵だろ、ああいうのは」

 小腹を満たしにきた秋庭君が愚痴るようにこぼした。

「久遠は敵の守りを抜けてるみたいだけど?」

「Aクラスの上位三人に追いつけってか? まぁできないと言ってる場合じゃねぇもんな。おっしゃ。敵に直接敵わなくとも、体制を崩すなりなんなりして三姫のアシストでもすっか。いくぞ、木下君、関谷さん、奈緒ちゃん」

「まぁ、僕らができるのはそれぐらいかなぁ」

「相手に毒が効くんなら、あたしでも手は打てるんだけど……」

「キャッチなら任せて!」

 かつてFクラスで共に行動した生徒達は、今ではこんなにも逞しくなっている。
 それぞれが気後れすることなく、前向きに対処しようと息巻いた。

「じゃあ、俺はここで防衛でもしてるよ」

「六濃君が前に行けばサクッと終わるんじゃないの?」

「俺意外にここの防衛を任せられる人物が思い当たらないんだ」

「それはそう」

「というわけで、飯の支度は任せてくれ。こっちにちょっかい出す敵がいた時は、いい加減動くからさ」

「俺たちの帰る場所を頼むな。フォーメーションBだ!」

 秋庭君があるかもわからないフォーメーションを高らかに掲げ、他三人が元気よく返事する。

「死ぬなよ!」

「逃げるのは得意なんだ、俺たち!」

「それは褒められたもんじゃないな」

「言ってろ! どでかい土産持って帰ってくるからな!」

 俺の言葉を受け、片手を上げて戦場に向かう。
 ほとんどの生徒が悪魔の攻撃に為す術もなく負傷して帰ってくる中、教師陣はといえば。

「ここで敵を通せば拠点がめちゃくちゃだ! 絶対に死守しますよ!」

 教頭、足柄山公雄が先頭に立ち、どちらかといえば自分たちが助かるために学園中の結界の強度をあげていた。

「早くおうちに帰りたい~~!」

「ふひひ。俺、家に帰ったらプロポーズするんだ!」

「イマジナリー彼女に傾倒するのはやめろ! 全て終わるまで諦めるな!」

 ほとんどの教師達は、自暴自棄になりつつも、元の世界への帰還をエネルギーに変えて頑張る。
 しかし、それをあざ笑うかのように悪魔は簡単にバリアを砕いて砕いて侵入してきてしまった。

「ぐわぁああああ!」

「佐々木先生!」

 一人目の犠牲者は、イマジナリー彼女を頭の中に住まわせる、座学教師の佐々木だった。
 しかし学園の敷地内には至る所にユグドラシルが植えてある。
 放っておけば復活するので、特にこちらから動くことはしなくても良さそうだ。

 一度復活するときに、前後の記憶があやふやになる性質を用いて、さっき負けたような気がしたけど、夢だった。を全校生徒が体験してるのもあり、今死んだとしても「気のせい」で済ませるくらいには被害は出ていた。

 ここがダンジョンの中だからこそ、俺の【才能】が発揮できるのだが、まぁあまり褒められた防衛ン方力ではないことだけは確かである。

「うわぁあああ! 悪魔が攻め入ってきたぞぉお!」

 悪魔の一部侵入を許してしまう。

『ククク、ここが我が主人に逆らうクズどもが屯する拠点であるか。随分ともろい。これではせっかく私が出張ってきた甲斐がありませんね』

 一般悪魔から遅れて現れたのは、頭に巻き角を生やした紳士服を纏う狡猾そうな男だった。

「脆弱な防衛で悪かったな。で、お前はここになんの要件で訪れたって?」

 俺が悪魔の紳士の前に現れると、途端に目の色を変える。そんなに気絶しないことが驚きだったのだろうか?
 大勢の内政とはバタバタ気絶していくから、簡単に悪魔に捕まってるんだよな。

 俺がこの学園にユグドラシルを植えてる理由は、何かの拍子で相手側に操られた場合を想定してのことだった。
 中には生徒を爆弾に変えて自爆特攻させる奴もいないとも限らないし、一応は念のため……という名目で学園内の景観に紛れて植え替えた。

『ほう、私のオーラに触れて怖気付かないクズがいるなんて驚きです。名を聞きましょうか?』

「あいにくと、自分から名乗らない相手には名乗らないことにしてるもんでな」

『この私相手にどこまでも不遜な態度。いいでしょう、格の違いというものを見せてあげますよ。やれ!』

 悪魔の紳士が片手をあげて号令をかける。
 すると悪魔兵士が生徒を連れてきて。その場で一人づつ命を奪っていった。

『どうしました? 道端の草を踏みつけにしただけで、そんなに怒ることはないでしょう。それとも、大切な存在が混ざっていましたか?』

 俺の驚きの表情をそう受け取ったのか。
 無駄だからやめとけって、そう言おうと思ってたんだが、まぁそう思いたいんならそう思っておけばいいか。

「権限せよ、ユグドラシル」

 ゴォッ!
 一陣の風が学園内に吹き荒れる。
 つい先ほど失われた命が、瞬く間に復元し、何事もなかったように退避行動をとった。

 今その場で自分が殺されたことなど記憶になく、少し遅れをとったぐらいの認識だろう。

「お前ら下がってろ、こいつは俺がやる!」

 全員にアピールするように凛華のいる場所を指し示す。そこには重数本のユグドラシルが植えられているので、一本燃やしたところで、即座の復活が可能なエリアだ。

「手強いぞ。サポートの要請はいつでも受け付ける。無理はするな!」

「ありがとうございます、先輩」

 凛華の元へ走り去る先輩を見送り、校庭には俺と悪魔の兵士、悪魔の紳士だけが残った。

『これは……一体なんのトリックですか?』

 理解に苦しむとばかりに震える悪魔紳士に、俺はどうかしたのかと問いかける。

「誰が教えてやるかよ。お前にとってはただの雑草だ。雑草がまた生えてきた時も、同じように疑問に持つのか?」

『戯言を! どうやら惨たらしく殺されたいようですねぇ! いいでしょう、お望みを叶えて差し上げますよ!』

 悪魔の紳士の体高が大きく膨れ上がる。

「巨大化なんて、まとが大きくなるだけだぞ?」

『ほざけ!』

 手元に圧縮させた闇のエネルギーをグミ撃ちで発射させる悪魔紳士。
 しかし……

「悪いな。その攻撃の耐性を持ってるんだ」

 俺には通用しない。
 遠距離が通用しないとわかるなり、肉弾戦に切り替える紳士。

「ははは、こんなにも簡単に引っかかってくれるなんてありがたい──いただきます」

 突き出した拳を掴み、引き寄せ、ガラ空きになった首へと噛みつく。
 そのまま暴食による吸血。
 全身に活力がみなぎる。

 これは、ソウルグレードが更新されたかな?

 今見たら案の定上がってた。
 ソウルグレードは3+。
 ナーガラージャからレッサーデーモンになっていた。
 蛇の王から悪魔の兵士とは、なんとも微妙な進化だが、嬉しいのはそれだけではない。

 ブラッドの上限が50000→80000になっていたこと!
 これで新しく契約を結べる上限が上がった。
 無理を押して、本体を学園に大輝させててよかった。

 凛華達がだいぶ心配をしてたのは、これが大きな理由か。俺は賭けに勝った。

『凛華達に通達。俺のソウルグレードは3+に上昇。パッシブに飛行が追加された』

『道理で、攻撃が通るようになった気がするわけだよ!』

 早速返事をくれたのは久遠だった。
 一番てきと戦闘してるからこそわかる実感というものだろう。

『助かるわ、敵からの攻撃がシビアになってきたから、これで防衛の方も抜かりなく耐えられると思う。あなたの能力って、周り回って私たちもパワーアップするから抜け目ないのよね』

 寧々の結界の防御力も上昇したようだ。

『まだ他に、見通す目というものが備わっているように思います。これは相手の思っていることをわずかながら判断できるようなものですわね。格上相手には抵抗されるようですが、同等価格下のソウルグレードに特効だと思います』

 凛華は、直接広範囲を見通しているからこそ、俺に新しく備わった能力にいち早く気づけたらしい。
 よく見たら、確かについてた。
 俺が見落としたものすら、上手に使うのだから、痒い所に手が届くというか。
 まぁ、助かってるよ。

「さて、お前らの隊長は俺が倒した。次に相手になりたいものはいるか!?」

 口元を拭い、高らかに宣言する。
 こういうのは性に合わないが、寧々曰く勝鬨は士気を上昇させるのに必要不可欠なんだとか。

 結果、悪魔は逃げ出さずに俺に立ち向かってきたが、返り討ちにして鍋の具材になった。

 生徒達は悪魔の肉を食うのは躊躇したが、腹ペコで帰ってきた一番槍の久遠が真っ先に口にして美味しそうに食べたのを見てから見境なく食べるようになった。

 案の定、久遠は俺と同じ耐性があるから腹を下さなかったが、食べた連中が立て続けに集団食中毒を起こした。

 ユグドラシルがあるから即座に完治したが、それから好んで食べる勇者はついぞ現れなかった。
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