劣等生のハイランカー

双葉 鳴

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最弱種族の下剋上

全てを飲み込むもの

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 郷に残ってる全ての妖怪をあたしの傘下に付いた。
 傘下というのはちょっと大袈裟だけど、要はシェアハウスへの入居者の許可だね。もちろん快諾だよ!

 と、いうのもあたしの才能がパワーアップしてる気がするんだよね。
 鴉天狗のおじさんから譲り受けた不思議パワーで返信したのをきっかけに、あたしの中のシェアハウスの空間が拡大化してるのだ。
 つまりはこうである。

「これはあたしの時代きちゃったかな~?」

 ちょっと悦に入ってしまうのも仕方ないというものだろう。
 天狗のおじさんやカッパさんなんかはノリがいいのか一斉にお辞儀をしてあたしを褒め称えてる。

しかしその横では、特に褒め称えもしないいつものメンツがいた。

「こいつ、ようやく自分の才能がやばいことに気づき始めたぞ?」

「才能は使いようって昔の偉い人も言ってたけど、この子の頭でこの能力を任せる方がどうかしてたものね」

「ちょっと二人してひどくないー?」

 でも正直、嫉妬されちゃうのはわかってたんだよねー。
 だった今のあたしって無敵じゃん?
 何だったらお兄なんかより酢f=ぐれてる可能性もあったるするんじゃないの?

「絶賛、教官の存在に恋焦がれてる我らが言うとなんとも滑稽であるな」

「ちょ、シャドウ、心読まないで!」

「お前、心の声結構口に出てたぞ?」

「うそっ」

「あなた、心が尊大になりすぎて、心の声全部室内に広がってたわよ? なんだったら才能の効果で、館内アナウンスでもしてるのかと思ったほどよ」

 そんな、つまりこれからあたしの声はシェアハウスないのみんなにモロバレってこと!?
 だったらこんな能力いらないかなー。

 さっきまでの尊大な気持ちが急激に萎んでくる。
 力よりやっぱりプライベートの優先度だよねー。

「いや、その力を捨てるなんてもったいない。いらないならオレにくれよ」

「プライベートもへったくれもない心の声ダダ漏れになっても?」

「そんなん大した弊害でも何でもないだろ。むしろ、これから討ち入りするのに、一斉に声かけできて、オレは便利だと思うぜ? その能力」

「ほへー。じゃあ、案外悪いことばっかりじゃない?」

「お前に指揮官が務まるかどうかはわからんが、オレは十分羨ましいぜ?」

 いつも一言余計なんだよ、初理ちゃん。
 でもそうか、物は考えようだね。

「これは、あたしに指揮官としての素養が求められる時!」

「ライトニング殿はいつも突拍子でござるなぁ」

 シャドウ、うるさい。
 でも、同時にこの世界の攻略も見えてくる。

「でもシャドウ、悪いことばかりでもないよ?」

「と、いうと?」

「妖精の育てた土地ごと、このシェアハウスに持って来ちゃえば、食材には困らない!」

 ナイスアイディアだと思わない?
 最高にドヤ顔を晒すと、早速ツッコミが入る。

「それ、お前の兄貴が最も忌み嫌う窃盗と同じだぞ?」

「お世話はもちろんあたしたちもするよ?」

「収穫物盗んでおいて、世話は任せてとか農家は憤慨ものなんだが?」

「初理ちゃんは細かいこと気にするねー。じゃあだったら世話係の妖精さんごと誘致しちゃう!」

「そこまで行くと、お前も異世界拉致犯の一味になるが、その覚悟を持ってるか?」

「何でよー、妖怪は良くて何で妖精さんはダメなの?」

 納得できない! そう反論をすれば、

「妖精殿に同意をとってないからではござらぬか?」

「じゃあ、世界丸ごともらっちゃえば? それだったらこの世界は平穏でしょ!」

「まぁ、外の世界でどうなってるかわからんが、中の住人は普段と変わらんか。が、お前の気分次第でその平穏は脆く崩れ去る。その強欲なまでの独占欲、お前は維持できるのか?」

「わかんない! けど、できるだけのことはするつもりだよ! そのための協力をなん度もすると思う。だからどうかあたしにこの世界のことは任せてほしい」

「これは何を言っても聞かなそうな目だな。まぁ、俺たちとしても、この世界から出れたら万々歳だ。そのための協力もする。全てはあのクソマスターをぶちのめすためにな」

「同意。突然こんな場所に連れてこられて、放置とか意味わかんないもの。今までの年月は何だったのかってその顔にハンマーをぶち込んでやらなければ気が済まないわ!」

 妖精側の魔法少女は、大変ご立腹だ。
 妖精と妖怪。なぜこうも人間に対して考えが違うのか。

 同じ、人間の思想から生まれ出た存在なのに。

「その思想は間違いでござるぞ、ライトニング殿」

「また心読んでるー」

「もうプライベートなんてないと思って過ごした方がいいでござるな。むしろ、狙って我に伝えてるのかと思うほどでござるよ?」

「ほぼ、念話の類だよな、これ。テレパシーっつぅの? むしろわざとやってんじゃねぇかって疑ってるぐらいだ」

「そうであろうな。むしろ今回は我に向かって直接飛んできた。妖怪に詳しい、祖先に妖怪のいる我にだ。だからその思想は間違えていると先に断らせてもらった」

「そうなの?」

「うむ。多くの人間にとって、妖怪は悪しき存在であることに変わりない。たまたま我と、ライトニング殿に鏡堂の血が混じっているからこそ、成し得た契約なのだろう」

「えっ!?」

 何それ?
 もしかしてあたしとシャドウって親戚だったの!?

「親戚どころかもっと近い存在。従兄弟というのであろうな。我の母君と、ライトニングの母君は姉妹でござる。そして、御堂の鏡堂静香。合わせて鏡堂三姉妹」

「え、じゃあ凛華お姉ちゃんも?」

「あちらは獅童家の子だと聞いておる。静香殿には兄と妹の二人のお子がおった時く。しかし、妹はダンジョンチルドレンとして抜擢され、帰ってこなかったそうだ」

「そっか、そのお兄さんがあたしたちの従兄弟になるんだ」

「我も従兄弟なのであるぞ?」

「じゃあ、あたしも頑張れば影の中に潜れたり?」

「厳しい修練を積めば、あるいは……」

 できなくもない、ということ?
 つまりは、こうやってかくれなくても影の中に潜伏できるスーパー明海になることも可能と?
 ふっふっふ。これはあたしの時代が来たかな?

「またもや漏れているでござるぞ?」

「さっきの今だし、わざとじゃないの?」

「おい。やめてやれよ。どう見てもこの顔はわざとじゃないやつだぞ」

 ちょっと、そこ! うるさい!
 今一人で気持ちよくなってるところなんだから、そっとしといてよー。
 
「うえーん、お兄。みんなしてあたしのこといじめてくるよー」

「そうやって、ことあるごとにお兄さんに頼るから弱くなるのよ」

 ちょっと泣き真似をすれば、この有様。
 まぁ、少し自分でも甘えすぎてる気はしてたけどね。

「ぶー、少しぐらい泣き言言ってもいいじゃないのよ」

「あの、そろそろ身内話は終わった?」

「あ、秋乃さん。大体は終わった感じー。それで何かあたしに用かな? かな?」

「置いてきた務の回収と、この空間の拡張ができたんなら、一度学園生を接収して匿ったらどうかなって思うのだけど」

「それをするメリットがうちらにあるのか?」

 ついさっき不甲斐ない場面を見せたばかりだから、これ以上任せてられないとばかりに初理ちゃんが食ってかかる。
 基本、あたしに対してダメ出ししかしてこないけど、こういう局面ではしっかりサポートに回ってくれるんだよねー。

 この、ツンデレさんめ!
 あたしは心が広いので、そういうの全然許しちゃう。
 なんだかんだで世話焼きさんなところあるよねー?

「おい、クソバカ。お前のクソくだらねぇ妄想はバッチリオレにも聞こえてるからな?」

「ごめんなさい!」

「ふふ、二人は仲がいいのね」

 脊髄反射で謝り伏すあたしと初理ちゃんとのやり取りに、質問を提示した秋乃さんがクスリと笑った。

「そっちの関係は拗れに拗れてるってか?」

「少しだけ違うわね。あいつがあたしに惚れてるのを利用して、あたしが立ち回って維持されたパーティなだけよ」

「うげぇ」

「あんた、そんな状態でパーティが長続きすると思ってんの?」

 今にも吐き出しそうな顔の初理ちゃんに、紗江ちゃんまでもが嫌悪感をあらわにする。
 確かにそれは惚れてる相手が可哀想だと思う。
 けど、秋乃さんの言い分を聞かないことには、判断材料が少なすぎるんだよね。

「単純な話、色恋だけでお金が稼げるわけではないからね。今のご時世、稼ぐためには切り拓くアタッカーが必要不可欠。もちろん、攻撃するだけじゃダメ、ガーディアンも一人欲しい。そういう意味で、勉はちょうど良かったの。あたしの知り合いだから、率先して守ってくれるしね」

 そこにはほんの少しの優越感が浮かんでいる。
 モテる女性ならではの独占欲というべきか。
 あたしの周りにはいないタイプなので面食らった。
 凛華お姉ちゃんも、寧々お姉ちゃんも、久遠ちゃんもお兄一筋だからこんな卑屈な思考は持ってない。
 みんながそれぞれにできることをして、お兄を支えてる。

 恋人ってそういう関係だってずっと思ってた。
 ちょっと人数多くない? って思いもしたけど。
 本人たちが認めてるんだから、それでいいんだ。

 いずれあたしもそういう関係を保てる人物が現れるのを心待ちにしている。だからこそ、他者の行為を利用して意のままに操る行為に対し、反吐が出る思いになる。

「最低だね。恋心を利用して自分の思い通りに動かそうとしてたんだ?」

「そうね、認めるわ。でも、あたしのような才能に恵まれなかった人間は、強い力に恵まれた人間に謙ってでも縋り付かなきゃ生き残れないの! 生まれつき強い能力を授かったあなたにはわからないでしょうね!」

「もうよせ、そうやって純情なこいつまで染めようとすんじゃねぇ。あんたの事情はもうわかった。だからこそ、あんたの提案には乗れない」

 あたしの返事を待たずに、初理ちゃんは秋乃さんの言葉を待たずに切り伏せる。

「何で! どうして!? みんなを救える力を持ってるのに、それを行使しないなんて! そんなの横暴よ!」

「バカだなぁ、あんた。こんな理不尽な能力、なんの苦労もせず手に入ると思うのか? だったらあんたはこいつと同じ目にあってまでもそれを手に入れたいと願うか?」

「何を……何の話をしてるの?」

「こいつに残された時間の話だよ。こいつはな、この力を得るために寿命を削った。削りに削って、残された寿命は残り一年時てる。その力をお前の都合で使えと迫る。オレはお前が悪魔に見えるよ」

 あー、その話ね。
 お兄が救ってくれなきゃ、確かにあたしはそれくらいしか生きられなかったって聞くね。
 それは人間だった頃の話。

 今、お兄の契約者となってからの話はカウントされてない。
 でも、それを馬鹿正直に語る真似はしない初理ちゃん。

 秋乃さんへの反撃のために、あたしの病気のことを持ち出した。

「そんな……でも、ここで散る多くの命を救えるなら……」

「じゃあさ、お前にその力があったら、助けるか? 自分の命がもうそこまでなく、多種兄救いを求められたからという理由で、助けるのか? 他でもないお前にしかできない力で」

「それは……」

 考え込む秋乃さん。
 もし自分にその力があったとして。
 代わりに寿命を差し出していて、残りの人生をどう生きるか決めて……長い長い時間を妄想した。

「難しい問題だわ。その助けた人は、救出したあたしに感謝の言葉をあげると思う?」

「あげると思うか? むしろ誘拐されたことを憤り、むしろそんな力を有するお前を犯罪の片棒を担いでいた犯人扱いするのが目に見えていると追求するだろうな。オレたちは、そこら辺のデメリットも含めて行動してる。妖怪とは手を組んだ。妖精は、畑を作ってる都合上、嫌でも協力してもらうつもりだ。だが、人間たちはオレたちに何を提供してくれる? 同じ学園生だからって括りはなしだぜ? あいつらには何度も足を引っ張られてる。もちろん、その中にはあんたらも含まれてるんだぜ?」

 少し言い過ぎな気もするけど、事実だ。
 周王学園がダンジョンの攻略を担う探索者の卵を育成する場所であることを差し引いても、あまりにも問題行動を起こしすぎてる。

 みんながみんな、お兄みたいな優秀な人間ではないとはいえ、凛華お姉ちゃんや寧々お姉ちゃん、久遠ちゃんみたいに手と手を取り合うことすらしない人たちだとは思わなかった。

 だから、そんな現実を叩きつけられ、救うべきかどうかを決めかねている。

「だが、まぁここぞというときの戦力にはなるか。どうする明海? 扱うのはお前の才能なんだからよ、お前が決めろよ」

「うーん。場所の提供はするけど、食事の提供まではしないけど、それでいい? 助けた人たちは秋乃さんたちが責任を持って管理する。それだったら、あなたの提案に協力してあげてもいいよ?」

 場所の提供だけはする。あとは任せた。
 これも便宜上は救出だ。
 妖精と一方的に揉めないし、戦って無駄死にもしない。
 見慣れた近代な部屋が割り当てられる。
 ただし食事の類はその人たちに任せる方針だ。

「多少の食材の提供は認めてもらえない?」

「無償はダメだよ? 加工のお手伝い次第で手を打つかな?」

「サポート用の才能をうまく使いこなせってことね? それでいいわ」

「よし、これで一件落着かな?」

「まだ何も解決しておらぬでござるが……」

「でも方針は決まったぜ? 妖怪は助ける、欲しい野菜が見つかったら妖精を土地ごと攫う。見つけた人間たちの世話はそいつに任せる。あとは妖精の親玉がどんな手を打ってくるかだが……」

「元の世界に帰れる手段を知ってたらいいよね!」

「お前はほんと能天気なやつだな」

「でへへー、それが唯一の取り柄だからね!」

 ちょっと揉めたりもしたけど、あたしたちの道筋は決まった!
 全部ゴリ押し気味なのは、きっとあたしにそういう難しい立ち回りができないからだ!

 そういうのはほら、お兄の仕事だから。




 ◇◆◇



「ぶえっくし!」

 突然の鼻のむず痒さに堪えきれず、その場で最大にくしゃみをしてしまう。

「あらやだ、風邪?」

「まぁジェネティックスライムも風を引くのねー」

「凛華、そのギャグ寒いよ?」

「久遠さん、その言い方はないです。わたくしだって傷つくんですよ?」

「何だろうな。どこかで妹が俺の噂をしているんだろう」

「明海さん、無事でしょうか?」

「海斗の契約者なんだし、そこまで酷いことにはなってないと思うわ。それ以前に、たった一人で迷子になったわけではないのでしょう?」

「ええ。クラスメイトの五味さん、鏡堂さん、左近寺さんも一緒に見かけなくなったそうよ」

「なら、その三人の方が心配か」

「でも、二人は魔法少女だったよね?」

「もう一方は勝也さんの従兄弟だっていうし、なんだかんだ平気じゃないか? あのメンツだと、妹が足引っ張ってそうな気もするんだ」

「皆さん、そこはかとなく手練の気配がしますものねー」

「ああ」

 見た目年齢詐欺ってる30代後半魔法少女と、ある意味で従兄弟の魔法少女。
 そしてあの静香さんのお姉さんの娘さんだ。

 一度組み手をしてみた限りでは、とんでもない素質を持っていた。あれが妹と同じ世代にいるのかと驚愕したものだ。

 むしろ妹に接近するために仕込んでいた可能性もあるが……

「まぁ、なるようにしかならないか」

「海斗はあまり心配してないのね、意外だわ」

「心配は心配だよ。あいつ、世間知らずだし」

「そっちの心配なんですね」

「ムックン、鍋煮えたよ!」

「でかした久遠。特別に白味噌投入の権利を任せてやろう」

「やったー」

「火を弱める?」

「いや、味噌は温度が高い方が香りが出やすいんだ。このままでいく」

「勉強になるわ」

「凛華、料理ができたからみんなを呼んでくれ。寧々は食器の準備な」

「早速手配して参ります」

「わかったわ」

 こんなふうに穏やかな時間を過ごせるのはあと何日あるだろうか。
 ダンジョンの攻略を始めてからいつになく手間取っている。
 今までのように敵が出てきて、倒しておしまいではないため、本当に見落としがないか入念なチェックが行われている。

「あまり根を詰めすぎないようにな」

 お義父さんだけが、俺の焦りを正しく理解してくれた。もちろん、寧々や凛華も気づいてくれているが、あえて口にしないのは俺なら乗り越えられると思ってくれてるからだろう。

「もう少し、洗ってみます。今の俺にできることは脳を動かすことぐらいですからね」

 そう言って、意識を複数のジェネティックスライムへとダイブさせた。
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