劣等生のハイランカー

双葉 鳴

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最弱種族の下剋上

一筋の光明

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 貝塚さんの働きにより、俺の前に再び凛華や寧々、久遠が集結した。
 水中の中、という特殊な環境。

 相手の意表をつくという意味では、ここは適した場所だった。
 とはいえ、種族によっては意表もクソもない。

 前回の相手が蛇だったように、意表をついたつもりでも相手の得意なフィールドの可能性もあるからだ。

 と、いう相手の意識を完全に逆手に取った手段を用いた上で、今回俺はここを作戦会議の場とした。

 それはどこかに潜むスパイの目を断つ為でもあった。
 学園の中にスパイ、もしくわ嫉妬の放った人形の生き残りがいる。
 俺はそんなことを想定しているとみんなに伝える。

「その話、憶測にしては的を射てるわね。何故そう思ったの?」

 寧々も薄々勘づいていたのだろう。
 ただ、確信を得ていなかったとばかりに質問を重ねた。

「単純な話だ。まるでこっちの状況が見えているかのようなタイミングでの転移。監視がいると見ていいだろう」

「で、居るとしたらどこだと思う? もし自分が監視をするなら、どこに潜伏する?」

 少し意地悪な質問だったか?
 寧々や凛華に比べて久遠は考え込んでしまった。
 貝塚さんに至っては、頭脳労働は求めないでくれと言わんばかりである。

「私なら、そうね……屋上いえ、視聴覚室かしら? あそこならクラスや工程、ダンジョン前の情報が一挙に集まるわ」

「そうだな、俺も潜むならそこだ。だが、もし違う場合も想定してほしい。凛華はどうだ?」

「わたくしでしたら……結界そのものに潜む、でしょうか?」

 面白い回答だ。自分だったら? と聞いたのに、見当違いな答えを導いた。

「うん、どうしてそう思った?」

「以前討伐した手先が次元の裂け目に潜伏していましたので。もしそれが常套手段なら、人の目の届かないところで見守るのは得意かな、と」

「そういえばそうだったよ! うちが見つけたんだよ!」

 当時のことを思い出したのか、久遠が褒めて欲しそうに頭を擦り寄せた。俺、今までそんなことしてこなかったのに、急にどうした?

「久遠、やめなさい。いまの海斗は例の海斗じゃないのよ?」

「あ! ごめんムックン。うち、調子に乗りすぎちゃってたよ」

 申し訳なさそうな顔で、頭を引っ込める久遠。
 ここに残してたジェネティックスライムは、そんなことをしてたのか。
 
「ああ、いや。それくらいでよければいくらでもするさ。よくやったな、久遠。これからも頼むぞ?」

 頭を撫でてやると、まるで尻尾を幻視するくらいにふりふりして喜んでるのがわかった。
 何というか、こう。小動物的な可愛さがある。

「海斗、話の続きよ?」

「おっと」

 寧々の射殺さんばかりの視線を受けて、俺は正気に戻る。
 久遠は逃げるように俺の背中に隠れてしまった。
 そんなに怒ることでもないだろうに。

「さて、みんなの意見を聞いてわかったように。今回の敵は人類とは異なる存在なのがわかったと思う。そこで俺が今回このような場所を設けた理由を話そう。それが霊体の可能性だ」

「うん? 霊体? どこでそんな話が出てきたのよー?」

 俺の背中にくっついたまま、久遠が首を傾げた。

「ああ、そういうことね。今回の敵は霊体。だから学校の中は覗き放題。生徒からも目撃されないというわけね?」

「寧々、正解」

 相変わらずの賢さに、俺がいなくてもいいんじゃないかと思うほどだ。
 久遠と同じように頭を撫でたら、ちょっと照れたようにしながら頭を預けてきた。なんだ? 自分もされたかったからさっきあんな怖い目で見てきたのか?

「海斗さん?」

 寧々の頭を堪能してたら、今度は凛華の恐ろしい声が聞こえてきた。
 しかも背後から。
 ヒエッ。
 彼女は怒らせないようにしないと。

 ほんの少し、お義父さんからの圧もかかってる気がする。
 この中でもアウェーなのに、娘は可愛いらしい。
 その娘から相当嫌われてるのにも関わらずである。
 
「ゴホンッ、とまぁ敵のスタイルはあらかた想像できたと思う。その上で、俺たちはどう対処するかを考えて動かなければならないんだ」

「そうね。でも敵が霊体であることと、水中で作戦会議をすることにどこが結びつくわけ?」

「うむ、いい指摘だ寧々。今回は霊体であることを主軸として話したが、当然霊体にも格付けがなされている。下級霊をゴースト、ゾンビで例えたらわかるように、普通霊体はあちこち動き回ることができない。中でもゴーストなんかは地縛霊。ダンジョンに縛り付けられてるものだ」

「んん? それじゃあうち達の様子を見守るのには不向きだよね?」

 久遠でも理解できる答えに、全員が思案顔。

「ああ、だから海斗はこう考えるわけね? 敵は一人じゃないと」

「! まだ取りこぼした敵が潜んでいるということですか?」

 寧々が気付き、凛華が察する。
 まだこの学園は敵の手中に収められていると。

「完全に気配を消してる、または全く別の場所から監視してるだけの個体がいるのは確かだ。こちらが集団で動くように、敵もまた集団。だが、ここで勘違いしてはいけないのは、相手側は監視以上のことができないことだ」

「? どういうこと。相手に監視されてるのも不快だけだというのに」

 寧々が初めて戸惑いの表情を浮かべる。

「それって、敵の動ける部隊はもういなくて、監視する存在だけ残っちゃったってこと?」

 しかし、そんな時に久遠の閃きが冴え渡る。

「久遠、正解。だから俺はあえてこの場所で会議を開いている」

「久遠に回答権を奪われるなんて……ショック」

「ふふーん、うちもやる時はやるんだよー」

 彼女は決して馬鹿ではない。
 こうやってピースを用意してやれば、そこから回答を導くことだってできる。
 いつもは全部俺が考えて、指示だししてしまうから彼女の活躍する場所が奪われてしまうだけだ。

 そう思うと、俺って彼女たちの仕事を無識のうちに奪っていたんだなと思う。何
 でも自分でできるからって考えは、持ちすぎると危ういのかもな。

「ですが、相手は霊体。水の中でも油断はできないのでは?」

「そうだな。で、そこでさっきの話が出てくるんだ」

「霊にも格があるという話ですね?」

「うん、今日の凛華は冴えてるな」

 頭を撫でてやる。
 気のせいか、撫でてやらないといけない気がしたので。
 本人も嬉しそうにしていたので、これが正解だったのだろう。

「さっき下級霊の話をしたよな? だがここで出てくるのが中級霊だとしよう。みんなは何を思い浮かべる?」

「霊体で、中位の存在となりますと……」

「妖精や精霊かしら? 肉体を持たず、意思を持つ魔法的存在がそれにあたるらしいわね」

「あ、うち知ってるよ! フェアリーとかスプライトとかっていうんだよね? あいつら魔法ばっかり使ってきて面倒くさいんだー」

「それが主武装なのでしょう。久遠さんだって、物理攻撃を使うなと言われたら困ってしまうでしょう?」

「むむぅ……それは無理だよー。殴る蹴るがうちの武器なのにー」

 凛華がまるで妹にでも教えるように久遠を宥める。

「そうだ。でもその理由は肉体を持たないからだぞ?」

「あ、そうか! 体がないから、魔法なのか!」

「正解。でも、自由に動き回れるのは大概妖精だ。精霊は地縛霊と同じでフィールド依存型が多いからな」

「じゃあ、敵は妖精?」

「そういうことになる。さてここで質問だ。妖精がなるべく相手にしたくない存在とは何でしょうか?」

「自分と同じ特性を持つ上位存在だから……精霊?」

「その通り。俺が使役したアクアマリンは精霊。妖精の上位存在となる」

「本来なら、使役するなど烏滸がましい存在。だが、彼はそれができてしまう」

 ここで、満をじしてお義父さんが現れる。
 凛華や寧々たちは警戒心を露わにするが、瞬時にお義父さんの発言意図に気がついた。

「待って、じゃあダンジョンテイマーって……」

「ああ、多分だけど。俺の才能は、ことダンジョン内において万能。しかし、100%操れるというわけではない」

「けど、不可能ではないのよね?」

 寧々の瞳が輝く。
 手の届かない、勝ち筋の見えない戦いではないと理解できたから。

「ああ。だからこその、モンスター使役能力なんだろう。本来はここまで見越しての権能。俺以外の誰かは、そこを見落とした。随分と落胆したと思う。万能な力ではなかったからな」

 これを授かった当時を思い出す。
 こんなものでも、無いよりはマシ。
 そう思って、どうにかできないか探した。

 知恵を絞り、相手の特性をメモに書き留め。
 習性を知った。習慣を知った。
 どんなことが得意で、どんなことが苦手か。
 つぶさに観測し、その知識を糧にした。

 表に出たら消えてしまう才能。
 だが、蓄えた知識は俺に希望を与えてくれた。

 そして今、この絶望的なダンジョン攻略の糸口が見えた。
 ソウルグレード、上位存在。
 その抗えぬ差をひっくり返す才能。

 それこそがダンジョンテイマーの本質なのだと理解する。
 何度投げ出してしまおうかと思ってた。
 その度に病院に縛り付けられてる妹を思い出して奮起した。

「ああ、勝てるぞ、この戦い。勝率は0ではない」

「それならば私たちのやることは決まったわね」

「敵を倒し、全てを取り戻す!」

 みんなの顔に希望が満ち溢れる。

「だが、敵も一筋縄では行かないぞ?」

 お義父さんの声かけ。
 全員の表情が一気に引き締まる。

 ただでさえ、現状攻略が一切進んで無いのもあるからだ。
 接敵できれば勝てる見込みがあっても、姿を現さない敵を相手に手をこまねくだけでは足踏みをしてるのと変わらないのである。

「それでも、私たちの為すべきことを為すまでです」

 凛華がまっすぐとお義父さんを見据え、宣言する。
 寧々も、久遠も、貝塚さんも同じ気持ちで視線を向けた。

「まずは、敵の隠れ家を見つけ出す。できるか?」

 弱体化してる今、俺の感知は役に立たない。
 そのことを含めて、みんなに頼ることを願い出る。

「できる、というよりやるほかないのよね」

「そうですね。相手もこちらの情報が筒抜け、ならばやられて困ることは阻止してくるでしょうし」

「でも、別働隊が全滅しちゃってるなら助けは来ないかもよ?」

「来るのを祈るしかないわ」

「来なかったら?」

「来たくなるような状況にしてやるまでよ」

 久遠の指摘に、寧々が悪い顔をする。
 こういう時の彼女は非常に諦めが悪い。

 Fクラスの頃から、彼女の諦めの悪さは俺も買っていた。
 それで上位クラスまで上がった実力も含めて認めている。
 
 その彼女がやる気になっているのだ。
 一体何をやらかしてくれるか、俺もわからない。

 ちょっとだけ不安な気持ちを抱きつつ、俺たちの攻略は始まった。



 一方その頃明海達は……

「なんかスキルがパワーアップして1000人は収容できるようになった!」

 唐突なパワーアップに喜び勇んでいた。
 魔法少女の姿に身を包み、己の才能の長に恐れ慄く。

「似合っているぞ、ライトニング。我と同じだな」

「シャドウのそれもめちゃ似合ってる。お兄に見せびらかしたいよね!」

「ふむ、そうであるな。だがしかし、ここから脱出するのが先であるぞ?」

「勿論。助けられてるだけが妹じゃないってのよ。自力で脱出してお兄を助ける。それでいいよね、みんな?」

 白と黒の鴉天狗を模した装い。
 そう、妖怪の力を得てパワーアップを果たしていた明海である。

 元【嫉妬】陣営のイエローバイオレンス左近寺紗江、パープルディザスター五味初理両名は「勝手にすればぁ?」と言いたげな視線で二人盛り上がる女子高生達を見守った。

 どちらにせよ、このクソみたいな世界から脱出できれば御の字であるからだ。
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