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最弱種族の下剋上
水の中にいる
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貝塚さん達『アロンダイト』の閉じ込められたダンジョンを後にし、俺たちは新たなダンジョンにジェネティックスライムを差し向ける。
貝塚さんはジェネティックスライムに同行し、俺の手足になってくれることになった。
「ただいま帰りました」
本体を地上に帰還。お義父さんに報告しに参る。
一度行った場所はワープですぐに迎えるので、ほんと便利な能力を眷属に置けたよなというのが俺の所感。
しかしこの能力、時と場合を選びすぎる。
大抵の場合は相手をびっくりさせてしまうので、事前に通達してから扱うのが一番だ。
お義父さんはもう気にしなくなったが、最初は驚き戸惑っていたからな。
「ご苦労。打つ手なしとはいえ、あまり消耗しすぎる真似はよしてくれないか? 娘を助けられても問い詰められそうで敵わん」
「はは、俺からしてみれば慣れっこですよ。本来なら扱えない力を取り込んだんです。コツも使ったので弱体化は多くて10日。それまでは実践を抑えて知識のみの貸し出しとなります」
「君の武器の9割は知識だものな。戦力までは求めてないから大丈夫だ。むしろ先ほどの戦闘で過剰戦力だと痛感した。だが、溜め込みすぎるなよ? 程よい発散場所を用意しておけ」
「今はそんなこと考えてる場合じゃ……」
「娘を持つ親として、あの状態の君を娘に合わせたくない」
「はい、善処します」
あの時の自分がどうなってたのか。
血まみれの自分と周囲の状況。
記憶の混濁。この時点で相当ヤバい人物だったのだろう。
お義父さんも貝塚さんもその時の様子を詳しく話してくれないし、俺もそうならないように反省しようと思う。
「では少し休みます」
「意識だけ借りるが、実際休めるのかね?」
「体は休めますし、弱体化するのはアクティブスキルだけですので。パッシブスキルの方は今まで通りですよ」
「もし君を敵に回してい続けていたら、僕たちは多大な犠牲を払っていたのかもしれないな」
「あの調子で契約者を増やし続けてたらですか?」
「君の学習塾の件も含めて、心の中では警戒度を上乗せしているところだよ」
「ははは、ご冗談を」
天下の御堂が。大陸の英雄が。最大アタックホルダー持ちが。俺如きを警戒するなんてあまりにも寝耳に水である。
軽く雑談を交えながら、寝床に向かって一休み。
意識を切り離し、ジェネティックスライムに乗り移った。
「掌握しました。行きましょう」
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、こっちの方が意識がクリアになるので本体が体調が不調でも操る分には問題ないんですよ。貝塚さんの分体も俺の支配下の中ですし、そこは安心してください」
「ん」
「さて、雑談はそのくらいにして次の場所に向かうぞ。少しは情報を集められればいいのだが」
「ゲート開きます」
「シュー!」
影からニョロゾウが現れる。
そういや本体の影に入れてたのまでは確認したが、持ち帰った記憶はないな。
、まさかそのままジェネティックスライムの影に潜んでいたとは。
俺の分体の首に巻きつき、道案内をするよと言わんばかりに鳴いた。
「結局こやつは情報喋らなんだな」
「相当プライドを優先する種族だったのだろう。上位種族あるあるだな」
「次に会う敵も上位種族なんだよね? ボク、やってけるかな?」
「いきなりソウルグレード4に会わなきゃ平気ですよ」
「僕が平気じゃないんだが?」
ああ、そういえば。
ソウルグレード3に耐性があるのは俺と、俺の契約者までか。
「まぁ、そのためのジェネティックスライムなところもありますし」
「なるべくなら戦闘は極力避けようじゃないか」
「いや、一つ良いアイディアがありますよ? 御堂さん向けのアイディアが」
「こういう時の君のアイディアって大概碌でもないよな?」
「俺なら持て余しますが、御堂さんなら平気ですよ」
そう言って計画を話してゴリ押しする。
簡単な話だ。お義父さんのストックを一体から100体に増やす。影にストックを隠して、影の中から運用できるジェネティックスライムを操作する。
楽しい楽しい人形劇の始まりだ。
俺の使役できる限界は15匹まで。
しかしお義父さんは数万人規模で操れる。
まさに傀儡師。
それを今回は活用してもらおうという話だ。
ゲートを抜けた先、お互いの安否を確認し、再度ゲートを通じて貝塚さんのダンジョンに帰れることを確認する。この確認は絶対に必要だ。
いざという時に帰れないのでは話にならないからな。
「そういえば君、ここから地上には繋げられるかね?」
「なんで俺が地上とダンジョンのゲートを喰ってる前提で話すんですか?」
「いや、自分で地上へのゲート出してたらそりゃ勘付くだろう」
「そうなの? 六王君!?」
「まぁ、その予測は当たりですよ。ついでだから眷属に入れちゃいましたね」
「君、もしかしてそれで余計に疲れてたりしない?」
「このゲートが35000で、地上へのゲートが20000でした」
「普通なら怒らなければならない立場だが、今は良しとしよう。これで私も直接介入できる」
「それをやったら地上がヤバいって話じゃなかったでしたっけ?」
「そこのアロンダイトのギルド長と同じよ。戦闘力以外はジェネティックスライムが代わりになる。君がそう言ったことを忘れたか?」
ああ、はい。俺ができるんならお義父さんもできるか。考えるまでもなかったな。
それとジェネティックスライムの補充も兼ねる上では都合がいいか。
「ちなみに僕もいつでも拠点に帰れるってことでいいんだよね?」
「通り抜けるのは今回で確認積みですので、帰れますね」
ゲートの取り込みは本体じゃない限り無理だが、一度使用可能になればジェネティックスライムでも模倣できる。
あれ、これ永久機関じゃね?
そう思ったけど、耐久度の問題があったな。
上位種が出てきたら普通に詰む。
なのでそうならないような立ち回りが必要だ。
さて、探索開始。
「なんか妙に移動が遅延されてる気がするね?」
確かに妙だ。普通に一歩進むのが億劫になるくらいに遅い。足取りが重いというか、スローだ。
こんなところを狙い撃ちにされたらたまらないな。
「君たち、まだ気が付いてないのかね? ここは水中だよ。ほんのりとした浮遊感を感じないかね?」
「ああ、そうか。さっきの戦闘で水中呼吸とってた。だからか、息苦しくないのは」
「ボクの息ができる理由はそれかー」
「僕達はジェネティックスライムだからそもそも呼吸してないか。早速このボディの特性が役に立つとはね」
理解したら徒歩はやめて泳いで進む。
無味無臭、全くの水圧も感じないのが不思議だったが、ここが水の中だというんなら歩くのは愚策。
泳いでみようということになるが……
若干恥ずかしげに挙手をするものが一名。
「あの、ボク泳げない……です」
僕とお義父さんは彼女に白い目を向けた。
仕方がないのでお義父さんの影の中に入ろうと試みるも……
「光源がないのでは影も作れないな」
「根本的な問題でしたか」
海面は高く、自分を中心にできる影もどこか薄い。
人を三人潜らせるには、より濃い影が必要とのこと。
眷属をストックするのとは別に、影使いとしての制限も色々あるのだそうだ。
「それじゃあさ、六王君のスキルで、何か光を生み出すのが得意そうなモンスターを生み出せないかい?」
「居たかなぁ?」
貝塚さんの手持ちにいないなら作り出せばいいの法則で、なんとか移動手段を獲得できないかとアレコレする。
「最終的に光ってるし、これでいいか」
「逆に敵から目立つんじゃないかな、これ」
「むしろ的になってくれていいんじゃないか? 僕達はその影に入るんだ」
「やたら狙われそうだけど……そこは気にしすぎても仕方ないか」
『シュー!』
ああ、こらダメだよニョロゾウ。それはお前の餌じゃない。
怒ったらシュンとしてしまった。
そういえば蛇が普段何を食べてるか気にしたこともないな。
ちょうどいい機会だ。
あれこれ食生も探ってみよう。雑食だとは思うけど、食べれないものがあるかの検証も必要だ。
それはそれとして全身を発光させたひよこを泳がせて、その影に潜って進軍する。
水の中にひよこが!? だなんて思ってはいけない。
ダンジョンの中では常識が一切通用しないんだ。
異世界ではこれが常識! 多分。
一方その頃凛華達は。
「ムックン、なんかあそこ光ってない?」
「んー? そんなに光ってる場所あるか?」
「ほら、あそこ!」
出先のキャンプ地で休憩中、湖の中で謎の光を発見したと久遠がジェネティックスライムが擬態した海斗を連れ出したところだった。
「ちょっと、久遠。料理中の海斗を勝手に連れ出さないでちょうだい。レシピの共有をしてないから、続きを誰も知らないのよ?」
テントの中から寧々が怒り心頭で久遠を責める。
しかし久遠は意に介せず。寧々にも話題に乗って欲しそうに声をかけた。
「寧々も見て見て! あそこ、怪しい光があるの! きっとこのダンジョンの出口だよ!」
「ダンジョンの出口がそんな簡単に見つかれば苦労しないわよ。でもそうね、あそこまで眩い光はかえって怪しいわね。攻撃してみる?」
寧々に遠距離攻撃手段はない。
この中で唯一持っているのは、久遠のみだ。
「うー……うっかり壊しちゃったらみんなから責められるから、よく調べて見てからでもいいかも」
もし全力で攻撃した場合、跡形もなく消え去る可能性がある。久遠は先ほどまでの気持ちを引っ込め、みんなの意見を聞くことにした。
「今はそれどころじゃありませんよ。一刻も早く海斗と合流しないといけません」
「ムックンならここにいるよ?」
久遠はすぐそばにいる偽海斗を手繰り寄せる。
「そんな偽物じゃなく、本物とです」
「ムックンはムックンだよ?」
「久遠は可愛いな。頭を撫でてやろう」
普段なら絶対言わないだろう言葉で、偽海斗白音の頭を撫でた。
「わーい、ムックンのなでなでは気持ちいいから好きよー」
そんな風景を、寧々と凛華は憐れむように眺める。
最初こそ、少しらしからぬ海斗との付き合いにドギマギしたものだ。
しかしそれがあまりに過剰に行われると、本物はこうじゃないと昔の思い出がフラッシュバックする。
所詮モンスター。姿形は似せられても、本質までは似せられないのだ。
それ以前に、偽物の海斗は凛華達以外にも同じようなことをする。
恋人をほっぽって、異性に甘い顔をするのだ。
凛華からしてみれば、それは到底許せることではなかった。
「早く海斗を見つけなければ……みんなからの好意が高まりすぎているわ」
「あんたも大変ねぇ」
どこか他人事のように述べる寧々に、凛華はムッとしたように言葉を被せる。
「寧々だって他人事ではいられないはずですよ?」
「公式恋人のあんたほどではないわよ。うちの家族に知られたら、いろいろ大変そうではあるけどね」
「くっ、これだから外堀を埋め切った家族を持つものは!」
凛華は気が気じゃないように焦燥感を募らせる。
「悪いな久遠、料理の途中だから俺は行くよ」
「うちもお手伝いするよ!」
「助かるよ、久遠はきっといいお嫁さんになるな。俺が保証する」
「えへへ~」
焦る二人を嘲笑うが如く、偽海斗と久遠は料理の続きをしに行った。
「それはさておき、調査は必要よね」
「光が逃げださないように結界でも張っておく?」
「そうですね、念のため。久遠さんの気まぐれかもしれないけど、今はどんな情報でもあるだけマシです」
「そうね……あれ、さっきの光が見当たらないわ?」
「え、ほんと? ほんの数瞬ですぐに消え去るものなの?」
「もしこれが本当にダンジョンの出口だった場合が問題ね」
「私たちは何も見なかった。そういうことにしませんか?」
「そういうことにしましょうか。いつもの久遠だった。これでいいんじゃない? 下手に生徒達を刺激しても仕方ないでしょうし」
「それじゃあ、そういうことで。生徒達に何か食べられるものでも持って帰りましょうか」
「この湖、魚とかはいないのよね?」
「ぱっと見みかけないのよね。居たとしても、泥の中に隠れてるタイプ。見つけても調理法を知らないわ。そういうのは専門の知識がいるんじゃないかしら?」
「お魚は全て同じわけではないんですね」
「当たり前じゃないの。それに、居ても鯉や鮒、ナマズぐらいよ? 観賞用にはいいけど、食べるのには向かないと思うわ?」
調味料も限られている状況で、食材の選り好みをしている状況ではない。
その上で、生徒のお腹をいっぱいにできるかと言われても難しいだろう。
「そうですか……確かにそういうのには不向きですね。やはりここはモンスター肉なんでしょうか?」
「状況が好転しない限りはそこに頼るしかありませんか」
二人は、楽な道はそうそう見つからないかとため息をつきモンスターを探す時間を作った。
しばらくして、大量のモンスター肉を持ち帰る凛華達。
偽海斗はそれを加工しながら、久遠にしたように頭ポンポンを二人にお見舞いした。
二人は不本意そうにしつつも、満更でもない顔で料理を口に運んだ。
貝塚さんはジェネティックスライムに同行し、俺の手足になってくれることになった。
「ただいま帰りました」
本体を地上に帰還。お義父さんに報告しに参る。
一度行った場所はワープですぐに迎えるので、ほんと便利な能力を眷属に置けたよなというのが俺の所感。
しかしこの能力、時と場合を選びすぎる。
大抵の場合は相手をびっくりさせてしまうので、事前に通達してから扱うのが一番だ。
お義父さんはもう気にしなくなったが、最初は驚き戸惑っていたからな。
「ご苦労。打つ手なしとはいえ、あまり消耗しすぎる真似はよしてくれないか? 娘を助けられても問い詰められそうで敵わん」
「はは、俺からしてみれば慣れっこですよ。本来なら扱えない力を取り込んだんです。コツも使ったので弱体化は多くて10日。それまでは実践を抑えて知識のみの貸し出しとなります」
「君の武器の9割は知識だものな。戦力までは求めてないから大丈夫だ。むしろ先ほどの戦闘で過剰戦力だと痛感した。だが、溜め込みすぎるなよ? 程よい発散場所を用意しておけ」
「今はそんなこと考えてる場合じゃ……」
「娘を持つ親として、あの状態の君を娘に合わせたくない」
「はい、善処します」
あの時の自分がどうなってたのか。
血まみれの自分と周囲の状況。
記憶の混濁。この時点で相当ヤバい人物だったのだろう。
お義父さんも貝塚さんもその時の様子を詳しく話してくれないし、俺もそうならないように反省しようと思う。
「では少し休みます」
「意識だけ借りるが、実際休めるのかね?」
「体は休めますし、弱体化するのはアクティブスキルだけですので。パッシブスキルの方は今まで通りですよ」
「もし君を敵に回してい続けていたら、僕たちは多大な犠牲を払っていたのかもしれないな」
「あの調子で契約者を増やし続けてたらですか?」
「君の学習塾の件も含めて、心の中では警戒度を上乗せしているところだよ」
「ははは、ご冗談を」
天下の御堂が。大陸の英雄が。最大アタックホルダー持ちが。俺如きを警戒するなんてあまりにも寝耳に水である。
軽く雑談を交えながら、寝床に向かって一休み。
意識を切り離し、ジェネティックスライムに乗り移った。
「掌握しました。行きましょう」
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、こっちの方が意識がクリアになるので本体が体調が不調でも操る分には問題ないんですよ。貝塚さんの分体も俺の支配下の中ですし、そこは安心してください」
「ん」
「さて、雑談はそのくらいにして次の場所に向かうぞ。少しは情報を集められればいいのだが」
「ゲート開きます」
「シュー!」
影からニョロゾウが現れる。
そういや本体の影に入れてたのまでは確認したが、持ち帰った記憶はないな。
、まさかそのままジェネティックスライムの影に潜んでいたとは。
俺の分体の首に巻きつき、道案内をするよと言わんばかりに鳴いた。
「結局こやつは情報喋らなんだな」
「相当プライドを優先する種族だったのだろう。上位種族あるあるだな」
「次に会う敵も上位種族なんだよね? ボク、やってけるかな?」
「いきなりソウルグレード4に会わなきゃ平気ですよ」
「僕が平気じゃないんだが?」
ああ、そういえば。
ソウルグレード3に耐性があるのは俺と、俺の契約者までか。
「まぁ、そのためのジェネティックスライムなところもありますし」
「なるべくなら戦闘は極力避けようじゃないか」
「いや、一つ良いアイディアがありますよ? 御堂さん向けのアイディアが」
「こういう時の君のアイディアって大概碌でもないよな?」
「俺なら持て余しますが、御堂さんなら平気ですよ」
そう言って計画を話してゴリ押しする。
簡単な話だ。お義父さんのストックを一体から100体に増やす。影にストックを隠して、影の中から運用できるジェネティックスライムを操作する。
楽しい楽しい人形劇の始まりだ。
俺の使役できる限界は15匹まで。
しかしお義父さんは数万人規模で操れる。
まさに傀儡師。
それを今回は活用してもらおうという話だ。
ゲートを抜けた先、お互いの安否を確認し、再度ゲートを通じて貝塚さんのダンジョンに帰れることを確認する。この確認は絶対に必要だ。
いざという時に帰れないのでは話にならないからな。
「そういえば君、ここから地上には繋げられるかね?」
「なんで俺が地上とダンジョンのゲートを喰ってる前提で話すんですか?」
「いや、自分で地上へのゲート出してたらそりゃ勘付くだろう」
「そうなの? 六王君!?」
「まぁ、その予測は当たりですよ。ついでだから眷属に入れちゃいましたね」
「君、もしかしてそれで余計に疲れてたりしない?」
「このゲートが35000で、地上へのゲートが20000でした」
「普通なら怒らなければならない立場だが、今は良しとしよう。これで私も直接介入できる」
「それをやったら地上がヤバいって話じゃなかったでしたっけ?」
「そこのアロンダイトのギルド長と同じよ。戦闘力以外はジェネティックスライムが代わりになる。君がそう言ったことを忘れたか?」
ああ、はい。俺ができるんならお義父さんもできるか。考えるまでもなかったな。
それとジェネティックスライムの補充も兼ねる上では都合がいいか。
「ちなみに僕もいつでも拠点に帰れるってことでいいんだよね?」
「通り抜けるのは今回で確認積みですので、帰れますね」
ゲートの取り込みは本体じゃない限り無理だが、一度使用可能になればジェネティックスライムでも模倣できる。
あれ、これ永久機関じゃね?
そう思ったけど、耐久度の問題があったな。
上位種が出てきたら普通に詰む。
なのでそうならないような立ち回りが必要だ。
さて、探索開始。
「なんか妙に移動が遅延されてる気がするね?」
確かに妙だ。普通に一歩進むのが億劫になるくらいに遅い。足取りが重いというか、スローだ。
こんなところを狙い撃ちにされたらたまらないな。
「君たち、まだ気が付いてないのかね? ここは水中だよ。ほんのりとした浮遊感を感じないかね?」
「ああ、そうか。さっきの戦闘で水中呼吸とってた。だからか、息苦しくないのは」
「ボクの息ができる理由はそれかー」
「僕達はジェネティックスライムだからそもそも呼吸してないか。早速このボディの特性が役に立つとはね」
理解したら徒歩はやめて泳いで進む。
無味無臭、全くの水圧も感じないのが不思議だったが、ここが水の中だというんなら歩くのは愚策。
泳いでみようということになるが……
若干恥ずかしげに挙手をするものが一名。
「あの、ボク泳げない……です」
僕とお義父さんは彼女に白い目を向けた。
仕方がないのでお義父さんの影の中に入ろうと試みるも……
「光源がないのでは影も作れないな」
「根本的な問題でしたか」
海面は高く、自分を中心にできる影もどこか薄い。
人を三人潜らせるには、より濃い影が必要とのこと。
眷属をストックするのとは別に、影使いとしての制限も色々あるのだそうだ。
「それじゃあさ、六王君のスキルで、何か光を生み出すのが得意そうなモンスターを生み出せないかい?」
「居たかなぁ?」
貝塚さんの手持ちにいないなら作り出せばいいの法則で、なんとか移動手段を獲得できないかとアレコレする。
「最終的に光ってるし、これでいいか」
「逆に敵から目立つんじゃないかな、これ」
「むしろ的になってくれていいんじゃないか? 僕達はその影に入るんだ」
「やたら狙われそうだけど……そこは気にしすぎても仕方ないか」
『シュー!』
ああ、こらダメだよニョロゾウ。それはお前の餌じゃない。
怒ったらシュンとしてしまった。
そういえば蛇が普段何を食べてるか気にしたこともないな。
ちょうどいい機会だ。
あれこれ食生も探ってみよう。雑食だとは思うけど、食べれないものがあるかの検証も必要だ。
それはそれとして全身を発光させたひよこを泳がせて、その影に潜って進軍する。
水の中にひよこが!? だなんて思ってはいけない。
ダンジョンの中では常識が一切通用しないんだ。
異世界ではこれが常識! 多分。
一方その頃凛華達は。
「ムックン、なんかあそこ光ってない?」
「んー? そんなに光ってる場所あるか?」
「ほら、あそこ!」
出先のキャンプ地で休憩中、湖の中で謎の光を発見したと久遠がジェネティックスライムが擬態した海斗を連れ出したところだった。
「ちょっと、久遠。料理中の海斗を勝手に連れ出さないでちょうだい。レシピの共有をしてないから、続きを誰も知らないのよ?」
テントの中から寧々が怒り心頭で久遠を責める。
しかし久遠は意に介せず。寧々にも話題に乗って欲しそうに声をかけた。
「寧々も見て見て! あそこ、怪しい光があるの! きっとこのダンジョンの出口だよ!」
「ダンジョンの出口がそんな簡単に見つかれば苦労しないわよ。でもそうね、あそこまで眩い光はかえって怪しいわね。攻撃してみる?」
寧々に遠距離攻撃手段はない。
この中で唯一持っているのは、久遠のみだ。
「うー……うっかり壊しちゃったらみんなから責められるから、よく調べて見てからでもいいかも」
もし全力で攻撃した場合、跡形もなく消え去る可能性がある。久遠は先ほどまでの気持ちを引っ込め、みんなの意見を聞くことにした。
「今はそれどころじゃありませんよ。一刻も早く海斗と合流しないといけません」
「ムックンならここにいるよ?」
久遠はすぐそばにいる偽海斗を手繰り寄せる。
「そんな偽物じゃなく、本物とです」
「ムックンはムックンだよ?」
「久遠は可愛いな。頭を撫でてやろう」
普段なら絶対言わないだろう言葉で、偽海斗白音の頭を撫でた。
「わーい、ムックンのなでなでは気持ちいいから好きよー」
そんな風景を、寧々と凛華は憐れむように眺める。
最初こそ、少しらしからぬ海斗との付き合いにドギマギしたものだ。
しかしそれがあまりに過剰に行われると、本物はこうじゃないと昔の思い出がフラッシュバックする。
所詮モンスター。姿形は似せられても、本質までは似せられないのだ。
それ以前に、偽物の海斗は凛華達以外にも同じようなことをする。
恋人をほっぽって、異性に甘い顔をするのだ。
凛華からしてみれば、それは到底許せることではなかった。
「早く海斗を見つけなければ……みんなからの好意が高まりすぎているわ」
「あんたも大変ねぇ」
どこか他人事のように述べる寧々に、凛華はムッとしたように言葉を被せる。
「寧々だって他人事ではいられないはずですよ?」
「公式恋人のあんたほどではないわよ。うちの家族に知られたら、いろいろ大変そうではあるけどね」
「くっ、これだから外堀を埋め切った家族を持つものは!」
凛華は気が気じゃないように焦燥感を募らせる。
「悪いな久遠、料理の途中だから俺は行くよ」
「うちもお手伝いするよ!」
「助かるよ、久遠はきっといいお嫁さんになるな。俺が保証する」
「えへへ~」
焦る二人を嘲笑うが如く、偽海斗と久遠は料理の続きをしに行った。
「それはさておき、調査は必要よね」
「光が逃げださないように結界でも張っておく?」
「そうですね、念のため。久遠さんの気まぐれかもしれないけど、今はどんな情報でもあるだけマシです」
「そうね……あれ、さっきの光が見当たらないわ?」
「え、ほんと? ほんの数瞬ですぐに消え去るものなの?」
「もしこれが本当にダンジョンの出口だった場合が問題ね」
「私たちは何も見なかった。そういうことにしませんか?」
「そういうことにしましょうか。いつもの久遠だった。これでいいんじゃない? 下手に生徒達を刺激しても仕方ないでしょうし」
「それじゃあ、そういうことで。生徒達に何か食べられるものでも持って帰りましょうか」
「この湖、魚とかはいないのよね?」
「ぱっと見みかけないのよね。居たとしても、泥の中に隠れてるタイプ。見つけても調理法を知らないわ。そういうのは専門の知識がいるんじゃないかしら?」
「お魚は全て同じわけではないんですね」
「当たり前じゃないの。それに、居ても鯉や鮒、ナマズぐらいよ? 観賞用にはいいけど、食べるのには向かないと思うわ?」
調味料も限られている状況で、食材の選り好みをしている状況ではない。
その上で、生徒のお腹をいっぱいにできるかと言われても難しいだろう。
「そうですか……確かにそういうのには不向きですね。やはりここはモンスター肉なんでしょうか?」
「状況が好転しない限りはそこに頼るしかありませんか」
二人は、楽な道はそうそう見つからないかとため息をつきモンスターを探す時間を作った。
しばらくして、大量のモンスター肉を持ち帰る凛華達。
偽海斗はそれを加工しながら、久遠にしたように頭ポンポンを二人にお見舞いした。
二人は不本意そうにしつつも、満更でもない顔で料理を口に運んだ。
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「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
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目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
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ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
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