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奇妙な共闘
異世界脱出組①妖精の国
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妖精の男との生活を共にする中、明海達は身の隠し方と別の方法で情報を探れないかと方法を模索する。
その中で発案したのが明海のディメンジョンゲートを用いた“簡易アジト”と美影の依代を使った使役人形の組み合わせだった。
人間が視界からいなくなるだけで随分と気をよくした妖精の男。
あとは妖精言語さえマスターすれば外を出歩いても大丈夫だろうと許可をくれた。
★★がはい。
★☆☆がいいえ。
★☆★が頼む、お願いします。
☆☆☆がありがとう。
これくらい覚えておけばいいらしい。
実に簡単だが、イントネーションが問題だ。
そこは妖精の男、グランツが翻訳してくれると申し出た。
引き取った責任とやらを感じてくれているらしい。
ただ、人間のままだったらこうはいかない。
明海のディメンジョンゲートと美影の使役人形があるからこその提案だ。
明海達はまだ生まれたばかりで、憑依体の操作も甘く、会話もままならない。
それでもずっと引きこもってばかりもいられないので連れてきた、で通すつもりだ。
実際に魔法の力を通して操るのは難しいのですごく助かる提案だ。
ただ、街に行くための定期便が来るまで時間がある。
それまでは麦畑の収穫などの手伝いをした。
ディメンジョンゲートの中の簡易アジトは4LDK並みの広さと設備が充実している。
たまにいなくなったと思ったら、その中で寝こけていたなんて事もあるくらい、明海にとって馴染みの場所だった。
ある意味で自分専用の部屋だった。
凛華と一緒の部屋では自由に行動できないこともあり、この部屋は明海が自堕落に過ごすための全てが揃えられていた。
有り体に言えば子供部屋である。
「ライトニング殿、これは普通に生活できるのでは?」
「出来るよ? まぁダンジョンで汗かいた時の簡易シャワー室とかも用意したからね。備え付けはお兄協力のもと色々手を回したからねー。でも料理はできないんだー、あたし。全部お兄が用意してくれてたから」
顔の前で人差し指をつついていじける明海。
完全に兄に依存していたことを打ち明ける姿は、少しだけ控えめだった。
「料理なら我が出来るでござるよ?」
「え、シャドウ料理できるの!? 意外!」
誰よりも驚く明海。美影は自分をなんだと思ってるんだと、脳筋振りを発揮していた過去を思い出し、口を噤んだ。
女子力など見せた覚えがないので、そう思われるのも仕方ないと思ったのだ。
「酷いでござるな。しかし我の里での一般的な料理が都会暮らしのライトニングの口に合うかわからぬが」
「食べられるだけで全然いいよ。お兄クラスのまでは流石に求めてないから!」
「教官殿クラスは流石に我では敵わぬよ。しかしここにあるのは調味料ばかりでござるな? 素材の一つもないのは流石に調理のしようがないが」
「ならおっさんのところの麦でも貰えばいいんじゃね?」
明海と美影の会話に、初理が割り込んだ。
「盗むのはダメよ?」
「あ? 誰も盗むなんて言ってねーだろ。今まで手伝ってやったんだ。お礼だよ、お礼。流石に妖精と違って霞を食って生きてけねぇって言えば分けてくれんだろ」
食ってかかる紗江に真っ当な反論をした初理。
紗江は割と周囲が見えているなと評価を改めた。
今までの態度からは想像できない様子に、明海も御影も成長したなと後方で腕を組んで頷いていた。ワシが育てたと言わんばかりである。
「でもさ、この麦って誰が食べるんだろうね? 妖精さんは食べなくても生きていけるんだよね?」
「あん? まぁそうだよな」
ふと気がついた様に明海が呟く。
初理も同意し、そのことも含めて聞く必要があるなと四人で頷いた。
「なに、麦を分けて欲しいだって?」
「そうだ。俺たちは今でこそこの姿だが、メインが別にあるからな。見た目こそ寄せてるが、俺たちはマナを食えない。空腹で死んじまうぜ」
「ああ、すっかり忘れていたが君たちは人間だったか。しかしここにある分は全て妖精王様に収める分だ。定期便だって、麦を納めに行く時に利用するくらいで私達は基本的に食事を必要としないからな」
「妖精王様?」
交渉役を請け負った初理が怪訝な表情を浮かべる。
人形を通すので声だけだが、もし個体によって格差があるなら少し面倒だと頭を掻いた。
「我々妖精でも身分の格差はあるさ。我々妖精は位階の高さがマナを溜め込める上限に関わる。私のように下位妖精はその日のうちに浴びられるマナに限りがあるんだ」
「そのマナの量によって育成できる畑の規模も変わるのか?」
「そうだよ。私の麦畑の規模を見たらわかるだろう?」
水平線にまで続く麦畑。
この規模ですら下位なのか、と初理は舌を打つ。
マナとは妖精にとっての魔力。つまりは探索者にとってはスキルの使用回数になる。
この規模の畑を育成できるのにどれくらいの期間を要しているかはわからないが、戦力としてみたら自分のスキルが通用しなかったのだ。
再入学した時点でAクラスの20位。
上位に20名しか居ないのとはちがい、妖精の世界は雑魚ですら格上。それが一体どれくらいいるのかわからない事実を突きつけられ、目眩がしたのだ。
「でも妖精なら基本マナを摂取してれば生きていけるんだよね? 妖精王様はなんで下位妖精に年貢を設けているんだろう?」
「それは我々妖精にとっての命、マナを分配する為さ。妖精王様はマナを生み出す世界樹の管理をされている。我々の納める作物は、世界樹の肥料として用いられるのさ」
ますます意味がわからない。
わざわざ育てた作物を肥料にする?
肥料を作って持って行くのではダメなのか?
そもそもこの麦を育てる肥料はどこから出ているのだ?
よしんば麦用の肥料と世界樹用の肥料とでは別格だというのはわかる。
が、下位精霊にわざわざ競わせるように作らせる意味がわからないのだ。
「それって、麦じゃなくて肥料を直接持ってくのはダメなんですか?」
「それなら確実だけど、作り方は秘匿されてるよ。どこで知ったのか厳しく尋問されることになりかねない。自分の身を危険に晒す行為はあまり推奨しないな。私だけでは庇いきれないよ」
「じゃあ麦畑の肥料は何をつかんてるんですか?」
「ふむ? うちの畑に肥料なんて必要ないよ? 籾殻を並べ、マナを注ぐと成長するんだ」
まさかのマナゴリ押しだった。
「それじゃ世界樹もマナゴリ押しでもいけるんじゃないか?」
「それがそうもいかないんだ。この世界全体の妖精のマナを抱えているんだよ? いかに莫大なマナをお持ちになる妖精王ですら、マナ生産を促すにはマナが足りなすぎる。そのために我々が分けていただいたマナを用いて肥料の元となる作物を収めているんだ」
つまりその作物から肥料を作り出す場所があるというわけだ。
下位妖精に作物を作らせて、肥料に加工するだけで上前を跳ねるような役割を持つ奴がいる。初理はそんな考えを思い浮かべた。
過去に自身の父親がやっていた生業。
それがこのピュアな国にも受け継がれていると知って辟易とした。
「じゃあ、領主様との間に年貢を納める箇所があるって事?」
「よくわかったね。中位妖精様が私達の納めた素材を選別して、出来のいい作物に評価をつけてくれるんだ。この評価は受ける事によって、作物が輝くんだ。我々下位妖精はそれを誇りに生きてるよ」
完全にその中位妖精が利益を独り占めしてると、話半分に聞いていた初理でさえ理解する。
それはそれとして、街で買い物はできるかと紗江が提案した。
「買い物かい? 基本我々は物々交換だよ。評価の高い作物は価値が高いんだ。農具とかとの交換もそれで行うね」
「つまり麦は納める年貢であると同時にお金にもなる?」
「そうだね。評価された作物は輝きが違うんだ。うちの麦はまばゆいくらいに光っているだろう? 下位妖精の中では私の麦はちょっとした物なんだよ? 今年度の納期もまた素晴らしい評価を下さることだろう」
妖精の男グランツは恍惚とした口調で完全に心ここに在らずの様だった。
まるで飼い慣らされた家畜の様である。
口には出さないが、初理や紗江はそう思ったに違いない。
「ならば買い物は可能なんですね?」
「君たち用の畑を作るためにと言えば買い付けは可能だろう。最初こそ道具は必要だからね。でも植え付ける作物はできるだけ限定しなさい。あれもこれもと選ぶのは交換してくれる側にも失礼だからね」
意外に面倒だな、と妖精の国の暗黙のルールに辟易とする。
それと同時に証拠さえなければかい放題だと思った。
明海のディメンジョンゲートに取り込みさえすれば、荷物にならないのである。
最初は小さな畑で自分の魔力に合ったものを選びたい。
その方向で行くことにした。
◇
麦畑の収穫が終わる頃、例の街に向かう定期便がやってきた。
なんと荷車を引いているのは河童だった。
あまりの事実に誰もが衝撃を受けている。
「ウォーターデーモンを見るのは初めてかい? こいつらは悪路でも立ち止まらずに進んでくれるからこの国ではこの様に利用されてるよ。人間と見た目が似てるからこのように扱き下ろして我々は溜飲を下しているんだ」
「こっちじゃ妖怪がモンスター扱いなのかよ」
「これ、我の親戚も迫害されてそうで嫌であるな」
初理がぼやき、美影がうわぁという顔で飼い慣らされてる河童に怪訝な表情を送る。
美影は明海に自分の正体を打ち明けており、朧げながらも理解を得られていた。
「そう言えばシャドウって半妖なんだっけ?」
「我というよりオババが半妖で我は随分と血が薄まっておるな」
「びっくり人間博覧会かよ、ここは」
「うるさいわよ、びっくり人間1号」
「うるせぇ2号」
「あまり人間というフレーズは使わないでくれ。下位でも数百年規模で恨み辛みを持っている個体もいるんだ」
「悪いな、まだ生まれたてってことで許してくれ」
生まれたてにしたって礼儀知らずもここまでくれば大した物だ。
御者が胡乱げにグランツへ目配せする。
『★★★★☆☆☆☆★☆★(見慣れない顔だが、また拾い物かい? あんたも好きだねぇ)』
『★☆★☆☆☆★☆★★☆☆★☆☆★(手伝わせるつもりで拾ったんだが、すっかり居つかれたよ。畑の世話までは面倒見てやるつもりさ)』
『★☆★☆★☆☆★☆☆☆★★★☆★★★☆★☆☆(あんたの麦は出来がいいからなぁ。弟子も同等に成長してくれたら領主様もお喜びだ)』
『★★☆★★☆☆★☆★★★☆☆☆★☆(そっちの世話まではしてやれんさ。私も自分の畑の心配で手一杯だからな)』
『★★☆☆(違いない)』
あまりにも流暢な会話にまるでついていけないが、グランツがうまく話を合わせてくれたことだけはわかった。
四人はグランツに倣って乗り込み、四つん這いの河童が鞭で打たれて走り出す。
河童に引かれる荷車は一切の振動なく、まるで空に浮いてるように軽かった。
布に綿を突っ込んだ人形ボディだ。
荷物だって魔法のバッグに入れている。街に行く妖精入り人形達は雑に詰め込まれても文句は言えないのだ。
なんだったら中身が浮き出てなにやらトークを弾ませている。
明海達は妖精達の暮らしに未だ慣れずにいた。
トークの場に出てこないのか? という問題もあるが、生まれたてということで許してもらった。
あまりこの場所に長居できないな、というのは四人の共通認識になっていた。
河童達は縦横無尽に陸や水路、荒野を走る。
正直に畑から徒歩で行ける距離に街はなかった。
そもそも土地のほとんどが農地で、この世界の下位精霊の多さが窺える。
しかもその下位妖精の殆どが自分の暮らしに疑問を持っていないのだ。
見る人が見れば奴隷制度のようだが、本人達はその暮らしに満足してるので声をあげても賛同を得られない。
ましてや人間というだけで妖精達から恨みの対象。
明海達は極力目立たずに帰る手段を探る方向で話を進めていた。
その中で発案したのが明海のディメンジョンゲートを用いた“簡易アジト”と美影の依代を使った使役人形の組み合わせだった。
人間が視界からいなくなるだけで随分と気をよくした妖精の男。
あとは妖精言語さえマスターすれば外を出歩いても大丈夫だろうと許可をくれた。
★★がはい。
★☆☆がいいえ。
★☆★が頼む、お願いします。
☆☆☆がありがとう。
これくらい覚えておけばいいらしい。
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引き取った責任とやらを感じてくれているらしい。
ただ、人間のままだったらこうはいかない。
明海のディメンジョンゲートと美影の使役人形があるからこその提案だ。
明海達はまだ生まれたばかりで、憑依体の操作も甘く、会話もままならない。
それでもずっと引きこもってばかりもいられないので連れてきた、で通すつもりだ。
実際に魔法の力を通して操るのは難しいのですごく助かる提案だ。
ただ、街に行くための定期便が来るまで時間がある。
それまでは麦畑の収穫などの手伝いをした。
ディメンジョンゲートの中の簡易アジトは4LDK並みの広さと設備が充実している。
たまにいなくなったと思ったら、その中で寝こけていたなんて事もあるくらい、明海にとって馴染みの場所だった。
ある意味で自分専用の部屋だった。
凛華と一緒の部屋では自由に行動できないこともあり、この部屋は明海が自堕落に過ごすための全てが揃えられていた。
有り体に言えば子供部屋である。
「ライトニング殿、これは普通に生活できるのでは?」
「出来るよ? まぁダンジョンで汗かいた時の簡易シャワー室とかも用意したからね。備え付けはお兄協力のもと色々手を回したからねー。でも料理はできないんだー、あたし。全部お兄が用意してくれてたから」
顔の前で人差し指をつついていじける明海。
完全に兄に依存していたことを打ち明ける姿は、少しだけ控えめだった。
「料理なら我が出来るでござるよ?」
「え、シャドウ料理できるの!? 意外!」
誰よりも驚く明海。美影は自分をなんだと思ってるんだと、脳筋振りを発揮していた過去を思い出し、口を噤んだ。
女子力など見せた覚えがないので、そう思われるのも仕方ないと思ったのだ。
「酷いでござるな。しかし我の里での一般的な料理が都会暮らしのライトニングの口に合うかわからぬが」
「食べられるだけで全然いいよ。お兄クラスのまでは流石に求めてないから!」
「教官殿クラスは流石に我では敵わぬよ。しかしここにあるのは調味料ばかりでござるな? 素材の一つもないのは流石に調理のしようがないが」
「ならおっさんのところの麦でも貰えばいいんじゃね?」
明海と美影の会話に、初理が割り込んだ。
「盗むのはダメよ?」
「あ? 誰も盗むなんて言ってねーだろ。今まで手伝ってやったんだ。お礼だよ、お礼。流石に妖精と違って霞を食って生きてけねぇって言えば分けてくれんだろ」
食ってかかる紗江に真っ当な反論をした初理。
紗江は割と周囲が見えているなと評価を改めた。
今までの態度からは想像できない様子に、明海も御影も成長したなと後方で腕を組んで頷いていた。ワシが育てたと言わんばかりである。
「でもさ、この麦って誰が食べるんだろうね? 妖精さんは食べなくても生きていけるんだよね?」
「あん? まぁそうだよな」
ふと気がついた様に明海が呟く。
初理も同意し、そのことも含めて聞く必要があるなと四人で頷いた。
「なに、麦を分けて欲しいだって?」
「そうだ。俺たちは今でこそこの姿だが、メインが別にあるからな。見た目こそ寄せてるが、俺たちはマナを食えない。空腹で死んじまうぜ」
「ああ、すっかり忘れていたが君たちは人間だったか。しかしここにある分は全て妖精王様に収める分だ。定期便だって、麦を納めに行く時に利用するくらいで私達は基本的に食事を必要としないからな」
「妖精王様?」
交渉役を請け負った初理が怪訝な表情を浮かべる。
人形を通すので声だけだが、もし個体によって格差があるなら少し面倒だと頭を掻いた。
「我々妖精でも身分の格差はあるさ。我々妖精は位階の高さがマナを溜め込める上限に関わる。私のように下位妖精はその日のうちに浴びられるマナに限りがあるんだ」
「そのマナの量によって育成できる畑の規模も変わるのか?」
「そうだよ。私の麦畑の規模を見たらわかるだろう?」
水平線にまで続く麦畑。
この規模ですら下位なのか、と初理は舌を打つ。
マナとは妖精にとっての魔力。つまりは探索者にとってはスキルの使用回数になる。
この規模の畑を育成できるのにどれくらいの期間を要しているかはわからないが、戦力としてみたら自分のスキルが通用しなかったのだ。
再入学した時点でAクラスの20位。
上位に20名しか居ないのとはちがい、妖精の世界は雑魚ですら格上。それが一体どれくらいいるのかわからない事実を突きつけられ、目眩がしたのだ。
「でも妖精なら基本マナを摂取してれば生きていけるんだよね? 妖精王様はなんで下位妖精に年貢を設けているんだろう?」
「それは我々妖精にとっての命、マナを分配する為さ。妖精王様はマナを生み出す世界樹の管理をされている。我々の納める作物は、世界樹の肥料として用いられるのさ」
ますます意味がわからない。
わざわざ育てた作物を肥料にする?
肥料を作って持って行くのではダメなのか?
そもそもこの麦を育てる肥料はどこから出ているのだ?
よしんば麦用の肥料と世界樹用の肥料とでは別格だというのはわかる。
が、下位精霊にわざわざ競わせるように作らせる意味がわからないのだ。
「それって、麦じゃなくて肥料を直接持ってくのはダメなんですか?」
「それなら確実だけど、作り方は秘匿されてるよ。どこで知ったのか厳しく尋問されることになりかねない。自分の身を危険に晒す行為はあまり推奨しないな。私だけでは庇いきれないよ」
「じゃあ麦畑の肥料は何をつかんてるんですか?」
「ふむ? うちの畑に肥料なんて必要ないよ? 籾殻を並べ、マナを注ぐと成長するんだ」
まさかのマナゴリ押しだった。
「それじゃ世界樹もマナゴリ押しでもいけるんじゃないか?」
「それがそうもいかないんだ。この世界全体の妖精のマナを抱えているんだよ? いかに莫大なマナをお持ちになる妖精王ですら、マナ生産を促すにはマナが足りなすぎる。そのために我々が分けていただいたマナを用いて肥料の元となる作物を収めているんだ」
つまりその作物から肥料を作り出す場所があるというわけだ。
下位妖精に作物を作らせて、肥料に加工するだけで上前を跳ねるような役割を持つ奴がいる。初理はそんな考えを思い浮かべた。
過去に自身の父親がやっていた生業。
それがこのピュアな国にも受け継がれていると知って辟易とした。
「じゃあ、領主様との間に年貢を納める箇所があるって事?」
「よくわかったね。中位妖精様が私達の納めた素材を選別して、出来のいい作物に評価をつけてくれるんだ。この評価は受ける事によって、作物が輝くんだ。我々下位妖精はそれを誇りに生きてるよ」
完全にその中位妖精が利益を独り占めしてると、話半分に聞いていた初理でさえ理解する。
それはそれとして、街で買い物はできるかと紗江が提案した。
「買い物かい? 基本我々は物々交換だよ。評価の高い作物は価値が高いんだ。農具とかとの交換もそれで行うね」
「つまり麦は納める年貢であると同時にお金にもなる?」
「そうだね。評価された作物は輝きが違うんだ。うちの麦はまばゆいくらいに光っているだろう? 下位妖精の中では私の麦はちょっとした物なんだよ? 今年度の納期もまた素晴らしい評価を下さることだろう」
妖精の男グランツは恍惚とした口調で完全に心ここに在らずの様だった。
まるで飼い慣らされた家畜の様である。
口には出さないが、初理や紗江はそう思ったに違いない。
「ならば買い物は可能なんですね?」
「君たち用の畑を作るためにと言えば買い付けは可能だろう。最初こそ道具は必要だからね。でも植え付ける作物はできるだけ限定しなさい。あれもこれもと選ぶのは交換してくれる側にも失礼だからね」
意外に面倒だな、と妖精の国の暗黙のルールに辟易とする。
それと同時に証拠さえなければかい放題だと思った。
明海のディメンジョンゲートに取り込みさえすれば、荷物にならないのである。
最初は小さな畑で自分の魔力に合ったものを選びたい。
その方向で行くことにした。
◇
麦畑の収穫が終わる頃、例の街に向かう定期便がやってきた。
なんと荷車を引いているのは河童だった。
あまりの事実に誰もが衝撃を受けている。
「ウォーターデーモンを見るのは初めてかい? こいつらは悪路でも立ち止まらずに進んでくれるからこの国ではこの様に利用されてるよ。人間と見た目が似てるからこのように扱き下ろして我々は溜飲を下しているんだ」
「こっちじゃ妖怪がモンスター扱いなのかよ」
「これ、我の親戚も迫害されてそうで嫌であるな」
初理がぼやき、美影がうわぁという顔で飼い慣らされてる河童に怪訝な表情を送る。
美影は明海に自分の正体を打ち明けており、朧げながらも理解を得られていた。
「そう言えばシャドウって半妖なんだっけ?」
「我というよりオババが半妖で我は随分と血が薄まっておるな」
「びっくり人間博覧会かよ、ここは」
「うるさいわよ、びっくり人間1号」
「うるせぇ2号」
「あまり人間というフレーズは使わないでくれ。下位でも数百年規模で恨み辛みを持っている個体もいるんだ」
「悪いな、まだ生まれたてってことで許してくれ」
生まれたてにしたって礼儀知らずもここまでくれば大した物だ。
御者が胡乱げにグランツへ目配せする。
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『★☆★☆★☆☆★☆☆☆★★★☆★★★☆★☆☆(あんたの麦は出来がいいからなぁ。弟子も同等に成長してくれたら領主様もお喜びだ)』
『★★☆★★☆☆★☆★★★☆☆☆★☆(そっちの世話まではしてやれんさ。私も自分の畑の心配で手一杯だからな)』
『★★☆☆(違いない)』
あまりにも流暢な会話にまるでついていけないが、グランツがうまく話を合わせてくれたことだけはわかった。
四人はグランツに倣って乗り込み、四つん這いの河童が鞭で打たれて走り出す。
河童に引かれる荷車は一切の振動なく、まるで空に浮いてるように軽かった。
布に綿を突っ込んだ人形ボディだ。
荷物だって魔法のバッグに入れている。街に行く妖精入り人形達は雑に詰め込まれても文句は言えないのだ。
なんだったら中身が浮き出てなにやらトークを弾ませている。
明海達は妖精達の暮らしに未だ慣れずにいた。
トークの場に出てこないのか? という問題もあるが、生まれたてということで許してもらった。
あまりこの場所に長居できないな、というのは四人の共通認識になっていた。
河童達は縦横無尽に陸や水路、荒野を走る。
正直に畑から徒歩で行ける距離に街はなかった。
そもそも土地のほとんどが農地で、この世界の下位精霊の多さが窺える。
しかもその下位妖精の殆どが自分の暮らしに疑問を持っていないのだ。
見る人が見れば奴隷制度のようだが、本人達はその暮らしに満足してるので声をあげても賛同を得られない。
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しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
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目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
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※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
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