102 / 147
暗躍する嫉妬
打ち明けられた秘密
しおりを挟む
やはり一緒に強敵に立ち向かったのが良かったのだろう、凛華達が不審を拭えなかった麒麟字さんと左近時さんは、ようやく戦力として認められた。
腐ってもAランク。ただ、冷静沈着さは持ち合わせてないので、どっちかと言えば久遠枠としての扱いだ。
「本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございました。レッドオーガさん、イエローヴァイオレンスさん。俺たちの訓練はいつも予想だにしない難敵を前にして、いかに知恵を巡らせるかと言うものだったりします。基本的にこんな訓練、探索者向けではありません。普通に探索者になるのなら、こんな秘密訓練致しません」
「そりゃそうよね、どいつもこいつも規格外の化け物ばかり。アフターフォローが整ってなければ誰だって文句の一つや二つ言うわよ?」
「耳が痛いですね。でも来る決戦、一般訓練で満足してたらそれこそお荷物。俺たちは第三勢力として認めてもらう為に訓練しています」
左近時さんの返答に苦笑する。
「来る決戦か。御堂グループが悪事に手を染めてまで備える脅威。私達の王は何も言ってくれないのよね」
麒麟字さんがここで自分たちの秘密を打ち明ける。
王と契約者。自分たちは俺たちとは違う陣営に与している事を明かした。
「海斗、教えてちょうだい。この人達は……」
「寧々の察している通り、俺たちとは異なる王の従者だよ。色々とコミュニケーション不足なところはあるが、秘密裏に御堂の悪事を水際で阻止しているんだそうだ」
「そうだったんですね。ですが貴女たちのような存在を私は把握していません。お父様だってそうでしょう」
「これは言っていいのかな?」
俺は麒麟字さんさんをチラリと気にして、本名さえ名乗らなければ大丈夫と頷いた。
「なになにー、なんのお話~?」
久遠が興味本位で聞いてくる。
俺はやたらボディタッチを繰り返す久遠を押し除けて説明した。
ジェネティックスライム戦以降、思い切りが良すぎる。
もはや心を打ち明けたからとくっつきすぎだ。
「この人達は、今の姿とは別の姿を持っている。【嫉妬】陣営は契約者の見た目を保たせ、全盛期の自分をいつでも呼び覚ますのだそうだ。ちなみに本来の年齢は、俺たちの倍くらい上だぞ」
「【嫉妬】! 序列は何位くらいかしら?」
「それがごめんなさい、我が王は自身のことをあまり語ってくれないの。私達契約者に【嫉妬パワー】を集めさせて、それ以降はノータッチよ」
「俺としては本人は誰かの使役者なんじゃないかと思ってる。アーケイド・シャリオさん同様に、その相手も上位ランカーの手の者だろう」
「じゃあ敵にもなりうるって事?」
「それこそ王次第だろう。俺は仲良くしたいと思っても、向こうはそうじゃないかも知れない。しかしダンジョンチルドレン計画を水際で処理し続けてきた実績を買って、こうして顔合わせを頼んだんだ」
「そう、だったんですね。お疲れ様でした。あとは私たちにお任せください、お役目ご苦労様です」
凛華が微笑みながら、あとはもう私たちがやるから帰っていいぞと促した。問答無用といった感じか。
敵となるならこれ以上情報を与えるのは不利と受け取ったようだ。
「あら、結構な言い草ね。ケツの青いガキが」
「若作りのおばさまに言われたくありませんわ」
「は? 喧嘩売ってんの?」
「どのように取っていただいても構わない。そうおっしゃっています。先ほどの戦闘、確かに光るものがありました。しかし状況判断は未熟。いくら戦闘力があろうと、あのような体たらくでしたらいないほうがマシです」
「ステイステイ、凛華。あまり敵対心を促すな。こう見えてお二人ともお偉いさんだから。この二人の協力があって、俺は探索者ライセンスを手に入れたんだぞ? あまり嫌わないでやってくれ」
「海斗さんがそう言うのでしたら……」
俺の呼びかけでようやく止まる凛華。日に日に番犬ぶりが板についてきたな。
「実際、今日見るまで貴女たちの戦力を侮っていたのは本当よ。学生に何ができるんだ。ここから先は大人にまかせろって、そう思ってた」
麒麟字さんさんが今回の合同訓練への胸の内を打ち明けた。
「ま、私達の身分じゃそう思われたって仕方ないわね。でも体験を通して気が変わった?」
寧々の返しに頷く麒麟字さん。
その態度に得意そうにする寧々。
どうして女子ってこう、マウントを取りたがるんだろう。
「ええ、海斗君の鍛えた精鋭を侮っていたわ。もし貴女たちが探索者として表に出るなら、私達の地位は脅かされそうよ」
「安心なさってください。私達が表舞台で活躍することはありませんわ。私達従者は、海斗さんの側でのみその力を振るう」
「ええ」
「そうよー、流石にこのまま探索者になってもレベルが低すぎて欠伸が出ちゃうよ」
「でしょうね。一学年でこの実力。なぜ学園に固執しているのかしら? 貴女たちはすでに超越者の領域に至っている」
麒麟字さんが不思議そうに問う。
確かにこの実力なら学園を退学したって上位に行ける。
『海斗さん、妹さんの事は……』
『言わなくていい』
『畏まりました』
念話で明海の事を明かすかどうかを聞かれ、俺は即座に返答する。
俺たちに取っての明らかな弱点。下手に突き入る隙を与えるのは不安だ。あいつはまだ裏の世界のことを何も知らないからな。
「学園に用があるからですわ、おばさま」
「この姿の時におばさまはやめて欲しいわね」
「ですがお名前を存じ上げません。レッドなんとかとやらが本名ではないのですよね?」
「そうね、いっそ偽名も決めましょうか。もう子供とか居てもおかしくない歳だし。そうしましょう」
どこか覚悟を決めた口ぶりで、麒麟字さんが手を叩く。
「そうね、娘としてだったら、構わないかしら?」
続く左近時さん。でもその口ぶりだと、実際に子供は居ないんですよね?
何やら共通の苗字で通すつもりらしい。
名前はいつ産むかわからぬ子供のを貰い受ける形で名乗るようだ。
いいのか、それで。
珍しい苗字だからすぐにバレるぞ?
「改めまして、三重の方で母がトップランカーをしている麒麟字紗江よ」
「麒麟字プロ!?」
ほらバレた。俺は探索者に詳しくないが、凛華は違う。
御堂からの英才教育でプロの界隈に精通している。
凛華を見返す為に探索者になると決めた寧々や、借金に追われて自分のこと以外どうでも良かった久遠はそこらへん詳しくないんだよな。
「母が、という事にしておいてくれるかしら? お嬢さん」
「私ったら、大変な失礼を。兄様が普段からお世話になっております」
正体が明かされた今、凛華は自分の態度が誰に向けられたものかはっきり自覚し、そして恐縮している。
いったじゃん、お偉いさんだって。
「この姿の時はそう畏まらなくても結構よ。紗江と呼んでちょうだい」
「レッドオーガは有名人だから良いわよね。私はお役所仕事だからあまり若い子からの覚えが良くないのよ。妬けるわ」
左近時さんは初めっから尊敬される事もないと諦めモードだ。
「そんな事ないですよ。実際に俺がこのライセンスを手に入れるための様々な試験を顔パスできたのは貴女のおかげですし」
「そう? まさかあんたからそこまで持ち上げられるとは思わなかったわ。左近時涼夏よ。涼夏と呼んでちょうだい、お嬢様方?」
「左近時って、探索者協会のお偉いさんじゃない! 嘘でしょう?」
「あら、私を知ってくれてるの? 若い子は知らないと思ってたわ」
「知ってるも何も、うちのギルドが一番世話になってる人よ! 探索者至上主義のこの時代、一般人でもありつけるワーカーに興味を示して席を残してくださった大恩人よ!?」
「あら、あなたのご両親はワーカーなのかしら? さぞご苦労された事でしょうね。この時代に風当たりが強かったでしょう? 興味をかけて存在は残せてもそれ以上口を出す事は許されなかったわ。所詮私は秘書でしかないもの」
何やら寧々の琴線に触れたようだ。
先ほどまでの疑念は一瞬で瓦解し、そして凛華と同様に自分の態度を悔いた。
「良かったじゃない、涼夏。知ってくれてる子がいて」
「慈善事業はしておくことに限るわね。そして興味本位で決定したワーカー業にとんでもない人材が紛れ込んだ」
麒麟字さんと左近時さんが同時に俺を見た。
探索者としての適正を持たず、しかしワーカーとしての能力は異端。
それが俺、六濃海斗としてのワーカーデビューだ。
ワーカーとしての道は勝也さんから。
恭弥さんを通じて麒麟字プロと接触し、俺はシャスラと出会った。
こう考えると全ての糸は一本に繋がっているのだなと思う。
「正直、貴方の能力を知った今、我々探索者協会は大きな岐路に立たされているのよ。それが一般人でもやり方次第でダンジョン内を工夫次第で歩けるという事実。貴方によってもたらされたノートにはその可能性があるの」
左近時さんが変質者の格好で真面目な顔をする。
さっきまでの煩さはすっかり形を顰めていた。
「ムックン、ノートって?」
「俺がモンスターをどうやって攻略したかを記した雑記帳だよ。スライムやゴブリンから始まり、ドロップ品の応用や、習性を利用したハメ技が記載されている。最初は俺が生き残るためのものだったが、恭弥さんに見せたらすごい驚かれたんだ。これ一本で食っていけるぜって。最初はそんな上手い話あるかって信じてなかったけど、左近時さんの興味がここに集約してる今、俺は挑戦してみても良いかと思ってる。六王塾はその先駆けだ。最終的には才能の当たり外れ問わずに訓練を行おうと思ってる。一般人でこっちの道に入る人って大体懐が寂しい人だからさ。そこら辺も配慮しての教えを授けたいなって思ってるぞ」
「海斗さんはそこまで考えて動いていたのですね?」
「伝えるのが遅くなってごめんな? まだ想像だけで全然形になってないから伝えるべきか悩んでいた。机上の空論と言われたらそれまでだからさ」
「海斗がやる事よ、私達はそれに付き従う。それ以外何も心配しなくて良いわよ」
こういう時、しっかり者の寧々が凛華を励ましてくれるので助かる。久遠はムードメイカーなので、清いままでいて欲しい限りだ。
ジェネティックスライム戦以降、若干距離感がバグってしまったが、妹のいる前でもやったら粛正だな。
彼女の気持ちは非常に嬉しいのだが、ここで久遠と仲良くしたら凛華のメンタルケアが大変なことになるので勘弁して欲しい限りだった。
「貴女たちはしっかり王に教育されてるのね、妬けちゃうわ。うちの王とは大違い」
左近時さんは力だけ渡して接触してこない王に不満を抱いてるようだった。
俺もそこらへん気をつけないとな。
「涼夏、そう言わないの。当時の私達はそれでも希望を抱けたわ」
「で、戦いに明け暮れて婚期を逃して今に至るのよね?」
「言わないで!」
麒麟字さんは頭を抱えてその場でしゃがんだ。
この姿は相当トラウマなようだ。
ま、何はともあれ偽りなしの自己紹介ができたのでよしとしよう。そう話をまとめようとしたところで、麒麟字さんが挙手をした。
「実は私達、この姿で来年から学園に潜入することにしたの」
「「「「は?」」」」
俺たちは何を言われてるのかさっぱりわからず開いた口が塞がらない。待て待て待て、表の仕事はどうするつもりだ?
「皆まで言わなくて結構。もちろん表も仕事と並行してやるわ。これからは年下としてよろしくね? お姉さん!」
やめろ、脳がバグる。
ほらー、凛華と寧々も信じられない言葉を聞いたと呆けちゃってるじゃんかー。
腐ってもAランク。ただ、冷静沈着さは持ち合わせてないので、どっちかと言えば久遠枠としての扱いだ。
「本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございました。レッドオーガさん、イエローヴァイオレンスさん。俺たちの訓練はいつも予想だにしない難敵を前にして、いかに知恵を巡らせるかと言うものだったりします。基本的にこんな訓練、探索者向けではありません。普通に探索者になるのなら、こんな秘密訓練致しません」
「そりゃそうよね、どいつもこいつも規格外の化け物ばかり。アフターフォローが整ってなければ誰だって文句の一つや二つ言うわよ?」
「耳が痛いですね。でも来る決戦、一般訓練で満足してたらそれこそお荷物。俺たちは第三勢力として認めてもらう為に訓練しています」
左近時さんの返答に苦笑する。
「来る決戦か。御堂グループが悪事に手を染めてまで備える脅威。私達の王は何も言ってくれないのよね」
麒麟字さんがここで自分たちの秘密を打ち明ける。
王と契約者。自分たちは俺たちとは違う陣営に与している事を明かした。
「海斗、教えてちょうだい。この人達は……」
「寧々の察している通り、俺たちとは異なる王の従者だよ。色々とコミュニケーション不足なところはあるが、秘密裏に御堂の悪事を水際で阻止しているんだそうだ」
「そうだったんですね。ですが貴女たちのような存在を私は把握していません。お父様だってそうでしょう」
「これは言っていいのかな?」
俺は麒麟字さんさんをチラリと気にして、本名さえ名乗らなければ大丈夫と頷いた。
「なになにー、なんのお話~?」
久遠が興味本位で聞いてくる。
俺はやたらボディタッチを繰り返す久遠を押し除けて説明した。
ジェネティックスライム戦以降、思い切りが良すぎる。
もはや心を打ち明けたからとくっつきすぎだ。
「この人達は、今の姿とは別の姿を持っている。【嫉妬】陣営は契約者の見た目を保たせ、全盛期の自分をいつでも呼び覚ますのだそうだ。ちなみに本来の年齢は、俺たちの倍くらい上だぞ」
「【嫉妬】! 序列は何位くらいかしら?」
「それがごめんなさい、我が王は自身のことをあまり語ってくれないの。私達契約者に【嫉妬パワー】を集めさせて、それ以降はノータッチよ」
「俺としては本人は誰かの使役者なんじゃないかと思ってる。アーケイド・シャリオさん同様に、その相手も上位ランカーの手の者だろう」
「じゃあ敵にもなりうるって事?」
「それこそ王次第だろう。俺は仲良くしたいと思っても、向こうはそうじゃないかも知れない。しかしダンジョンチルドレン計画を水際で処理し続けてきた実績を買って、こうして顔合わせを頼んだんだ」
「そう、だったんですね。お疲れ様でした。あとは私たちにお任せください、お役目ご苦労様です」
凛華が微笑みながら、あとはもう私たちがやるから帰っていいぞと促した。問答無用といった感じか。
敵となるならこれ以上情報を与えるのは不利と受け取ったようだ。
「あら、結構な言い草ね。ケツの青いガキが」
「若作りのおばさまに言われたくありませんわ」
「は? 喧嘩売ってんの?」
「どのように取っていただいても構わない。そうおっしゃっています。先ほどの戦闘、確かに光るものがありました。しかし状況判断は未熟。いくら戦闘力があろうと、あのような体たらくでしたらいないほうがマシです」
「ステイステイ、凛華。あまり敵対心を促すな。こう見えてお二人ともお偉いさんだから。この二人の協力があって、俺は探索者ライセンスを手に入れたんだぞ? あまり嫌わないでやってくれ」
「海斗さんがそう言うのでしたら……」
俺の呼びかけでようやく止まる凛華。日に日に番犬ぶりが板についてきたな。
「実際、今日見るまで貴女たちの戦力を侮っていたのは本当よ。学生に何ができるんだ。ここから先は大人にまかせろって、そう思ってた」
麒麟字さんさんが今回の合同訓練への胸の内を打ち明けた。
「ま、私達の身分じゃそう思われたって仕方ないわね。でも体験を通して気が変わった?」
寧々の返しに頷く麒麟字さん。
その態度に得意そうにする寧々。
どうして女子ってこう、マウントを取りたがるんだろう。
「ええ、海斗君の鍛えた精鋭を侮っていたわ。もし貴女たちが探索者として表に出るなら、私達の地位は脅かされそうよ」
「安心なさってください。私達が表舞台で活躍することはありませんわ。私達従者は、海斗さんの側でのみその力を振るう」
「ええ」
「そうよー、流石にこのまま探索者になってもレベルが低すぎて欠伸が出ちゃうよ」
「でしょうね。一学年でこの実力。なぜ学園に固執しているのかしら? 貴女たちはすでに超越者の領域に至っている」
麒麟字さんが不思議そうに問う。
確かにこの実力なら学園を退学したって上位に行ける。
『海斗さん、妹さんの事は……』
『言わなくていい』
『畏まりました』
念話で明海の事を明かすかどうかを聞かれ、俺は即座に返答する。
俺たちに取っての明らかな弱点。下手に突き入る隙を与えるのは不安だ。あいつはまだ裏の世界のことを何も知らないからな。
「学園に用があるからですわ、おばさま」
「この姿の時におばさまはやめて欲しいわね」
「ですがお名前を存じ上げません。レッドなんとかとやらが本名ではないのですよね?」
「そうね、いっそ偽名も決めましょうか。もう子供とか居てもおかしくない歳だし。そうしましょう」
どこか覚悟を決めた口ぶりで、麒麟字さんが手を叩く。
「そうね、娘としてだったら、構わないかしら?」
続く左近時さん。でもその口ぶりだと、実際に子供は居ないんですよね?
何やら共通の苗字で通すつもりらしい。
名前はいつ産むかわからぬ子供のを貰い受ける形で名乗るようだ。
いいのか、それで。
珍しい苗字だからすぐにバレるぞ?
「改めまして、三重の方で母がトップランカーをしている麒麟字紗江よ」
「麒麟字プロ!?」
ほらバレた。俺は探索者に詳しくないが、凛華は違う。
御堂からの英才教育でプロの界隈に精通している。
凛華を見返す為に探索者になると決めた寧々や、借金に追われて自分のこと以外どうでも良かった久遠はそこらへん詳しくないんだよな。
「母が、という事にしておいてくれるかしら? お嬢さん」
「私ったら、大変な失礼を。兄様が普段からお世話になっております」
正体が明かされた今、凛華は自分の態度が誰に向けられたものかはっきり自覚し、そして恐縮している。
いったじゃん、お偉いさんだって。
「この姿の時はそう畏まらなくても結構よ。紗江と呼んでちょうだい」
「レッドオーガは有名人だから良いわよね。私はお役所仕事だからあまり若い子からの覚えが良くないのよ。妬けるわ」
左近時さんは初めっから尊敬される事もないと諦めモードだ。
「そんな事ないですよ。実際に俺がこのライセンスを手に入れるための様々な試験を顔パスできたのは貴女のおかげですし」
「そう? まさかあんたからそこまで持ち上げられるとは思わなかったわ。左近時涼夏よ。涼夏と呼んでちょうだい、お嬢様方?」
「左近時って、探索者協会のお偉いさんじゃない! 嘘でしょう?」
「あら、私を知ってくれてるの? 若い子は知らないと思ってたわ」
「知ってるも何も、うちのギルドが一番世話になってる人よ! 探索者至上主義のこの時代、一般人でもありつけるワーカーに興味を示して席を残してくださった大恩人よ!?」
「あら、あなたのご両親はワーカーなのかしら? さぞご苦労された事でしょうね。この時代に風当たりが強かったでしょう? 興味をかけて存在は残せてもそれ以上口を出す事は許されなかったわ。所詮私は秘書でしかないもの」
何やら寧々の琴線に触れたようだ。
先ほどまでの疑念は一瞬で瓦解し、そして凛華と同様に自分の態度を悔いた。
「良かったじゃない、涼夏。知ってくれてる子がいて」
「慈善事業はしておくことに限るわね。そして興味本位で決定したワーカー業にとんでもない人材が紛れ込んだ」
麒麟字さんと左近時さんが同時に俺を見た。
探索者としての適正を持たず、しかしワーカーとしての能力は異端。
それが俺、六濃海斗としてのワーカーデビューだ。
ワーカーとしての道は勝也さんから。
恭弥さんを通じて麒麟字プロと接触し、俺はシャスラと出会った。
こう考えると全ての糸は一本に繋がっているのだなと思う。
「正直、貴方の能力を知った今、我々探索者協会は大きな岐路に立たされているのよ。それが一般人でもやり方次第でダンジョン内を工夫次第で歩けるという事実。貴方によってもたらされたノートにはその可能性があるの」
左近時さんが変質者の格好で真面目な顔をする。
さっきまでの煩さはすっかり形を顰めていた。
「ムックン、ノートって?」
「俺がモンスターをどうやって攻略したかを記した雑記帳だよ。スライムやゴブリンから始まり、ドロップ品の応用や、習性を利用したハメ技が記載されている。最初は俺が生き残るためのものだったが、恭弥さんに見せたらすごい驚かれたんだ。これ一本で食っていけるぜって。最初はそんな上手い話あるかって信じてなかったけど、左近時さんの興味がここに集約してる今、俺は挑戦してみても良いかと思ってる。六王塾はその先駆けだ。最終的には才能の当たり外れ問わずに訓練を行おうと思ってる。一般人でこっちの道に入る人って大体懐が寂しい人だからさ。そこら辺も配慮しての教えを授けたいなって思ってるぞ」
「海斗さんはそこまで考えて動いていたのですね?」
「伝えるのが遅くなってごめんな? まだ想像だけで全然形になってないから伝えるべきか悩んでいた。机上の空論と言われたらそれまでだからさ」
「海斗がやる事よ、私達はそれに付き従う。それ以外何も心配しなくて良いわよ」
こういう時、しっかり者の寧々が凛華を励ましてくれるので助かる。久遠はムードメイカーなので、清いままでいて欲しい限りだ。
ジェネティックスライム戦以降、若干距離感がバグってしまったが、妹のいる前でもやったら粛正だな。
彼女の気持ちは非常に嬉しいのだが、ここで久遠と仲良くしたら凛華のメンタルケアが大変なことになるので勘弁して欲しい限りだった。
「貴女たちはしっかり王に教育されてるのね、妬けちゃうわ。うちの王とは大違い」
左近時さんは力だけ渡して接触してこない王に不満を抱いてるようだった。
俺もそこらへん気をつけないとな。
「涼夏、そう言わないの。当時の私達はそれでも希望を抱けたわ」
「で、戦いに明け暮れて婚期を逃して今に至るのよね?」
「言わないで!」
麒麟字さんは頭を抱えてその場でしゃがんだ。
この姿は相当トラウマなようだ。
ま、何はともあれ偽りなしの自己紹介ができたのでよしとしよう。そう話をまとめようとしたところで、麒麟字さんが挙手をした。
「実は私達、この姿で来年から学園に潜入することにしたの」
「「「「は?」」」」
俺たちは何を言われてるのかさっぱりわからず開いた口が塞がらない。待て待て待て、表の仕事はどうするつもりだ?
「皆まで言わなくて結構。もちろん表も仕事と並行してやるわ。これからは年下としてよろしくね? お姉さん!」
やめろ、脳がバグる。
ほらー、凛華と寧々も信じられない言葉を聞いたと呆けちゃってるじゃんかー。
10
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。
赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。
そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。
変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。
魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。
すべては気まぐれに決めた神の気分
新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。
そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。
不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる