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暴食の力

運命共同体

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「も、もう。お兄ったらマジな顔して何をいうかと思ったら~」


 俺の言葉に、妹は理解を示さず。
 反応からしてジョークか何かと受け入れられてしまった。
 そして貝塚さん、アロンダイトのギルド長も俺に対する見識を変えて見てくる。


「六王君、君は……」

「この事はまだあまり周囲には話してませんが、俺の手に入れた能力の経緯をお話しします。しかしこれを聞けば後戻りできません。明海、引き返すなら今だぞ?」

「お兄、本当に本当なの? 世界を賭ける戦いに参加してるって」


 影を落とした顔で、何処か遠い場所を見つめる明海。
 無理もないか、妹はそういった超常現象とは遠く離れて育ってきた。


「本当に本当だ。俺が三重のダンジョンを攻略した際、契約を交わした存在を明海は覚えてないか? 外国の子供のナリをしたモンスターだ」

「あ、うん。シャスラちゃんだっけ? 一時期お兄の不貞を疑った」

「そのシャスラ曰くこの世界……いや複数ある世界において、王が率いる軍勢と『序列』をつけて競い合う団体がいる。俺はシャスラを討伐して、その王の力を継承してしまった。そしてもう一人、この世界には俺以外の王が居る」

「それが魔石病の発端を作った?」

「私の父様ですね」

「ふむふむ、話が繋がってきたよ。つまり凛華お姉ちゃんのお父さんが世界を救うための戦力として、私達が作られた。って言うか魔石病自体がなんなのか未だによくわかってないけど」


 妹が読み耽った小説やアニメに当て嵌めて見事な推理をするが、魔石病の仕組みがいまいちわかってない見たいに呟く。
 それも仕方ないか。才能が開花するまでは本当にただの病気だし、治療費がダンジョン産のドロップアイテムだ。時価且つ値段の上がり幅もその希少性から爆上がりしていた。


「それはボクから説明するよ」

「お願いします」


 貝塚さんが妹の疑問を解明すべく名乗りをあげる。
 最初こそその身なりの不審さから不審者扱いを受けた彼女だったが、自分と同じ誰かの思想に巻き込まれた存在と知って心を許す明海。
 そして語られた実験の内側。
 強制的に眠る才能を刺激し、“寿命”を対価に能力を大幅に増加させる実験としての成功者を彼らは被験体と呼んだ。


「なにそれ酷い! 失敗したら廃棄!? 私達はモノじゃないんだよ! いくら世界の存亡がかかってるからって、人の命をなんだと思ってるの?」


 そんな妹の頭に優しく手を触れる。


「俺たちはさ、そんな非道な実験に反旗を翻して対立してる独立組織なんだよ。最初は凛華とそのお兄さんが親父さんに反旗を翻した、家庭内の諍いみたいなモノだった。凛華は、親父さんの実験の成功体。しかし家庭内の扱いはまるで人形のようで、結果だけが全て。外部との交流も無駄と切り捨てられて生きていてきたんだ」

「それを見てられなくて凛華お姉ちゃんのお兄さん……」

「勝也さんな?」

「勝也義兄ちゃん?」

「ああ、その勝也さんが見てられないと設立したのが、ギルド『ロンギヌス』兄ちゃんもそこに所属してるんだ」

「お兄はその諍いに巻き込まれた?」

「どうかな? 正直お前と同じ病気で苦しんでる子を見て見ぬふりできなかっただけだよ。気がついたら勝手に首を突っ込んでた。だから巻き込まれたのとは違うよ」

「……あたしったら、ずっとお兄頼りだったから。いっぱい心配させちゃったよね? 全部苦労を押し付けちゃってごめんなさい。でも、今からはあたしも協力するから……だから思い悩まなくてもいいよ?」

「無理はしなくていいんだぞ? 俺はお前を失ったらすぐに暴走しそうだ。お前が無事でいてくれるだけで心を保ってられるんだからな?」

「……流石にそれは依存しすぎだと思います」


 マジなトーンで返された。
 それ以上踏み込んだら縁を切ると言いかねない顔である。
 やめろ、その顔は俺に効く。
 ショックを受けながら後退りすると、くすくすと笑いかけながら凛華が提案する。


「でしたら、明海さんと契約してしまえば良いのではないですか?」


 そんな俺たちのやり取りに落ちる影。
 凛華の提案に、俺は正気を疑った。


「お兄、契約ってなに?」

「俺が死んだら明海も死ぬ。でも俺が死なない限り、明海は死なない。不死者になることを意味する運命共同体になるんだ。ダンジョンチルドレンの被験者は、その特性から寿命が著しく削られている。凛華はあと二年しか生きられない。せっかく恋人同士になったのに、それはあんまりだと彼女からお願いされて俺は彼女と契約した」

「……えっちなやつ?」

「お前、普通の死に方が出来なくなるってのに、気にするところはそこか?」

「だって、恋人同士だから出来ることって、そっちの方が逆に気になるじゃん?」


 照れながら言うな。俺たちはまだ清い関係だ。


「そう言うのじゃないよ。ただ、親父さんの事をあまり強く否定できない能力である事は確かだ」


 吸血、だなんて言えばドン引きされる事は確定だもんな。
 凛華の親父さんはまだ人のまま死ぬことができる。
 恋人を作ったり、結婚したりといった時間的余裕を逼迫させるが人間のままでいられる。
 けど俺のは……やはりこんな力多用するべきじゃない!


「あまり一人で背負い込まないでください。私は望んで契約されました。海斗さん一人だけで背負わず、私にも背負わせてください」

「凛華……」

「ひゅー、見せつけてくれるね!」


 明海が野次馬の如く囃し立てる。
 どこで覚えてくるんだか、そんなセリフ。


「そう言うことですので、もし良ければ皆さんも海斗さんと契約を結びませんか? 今までの不安が嘘みたいに吹っ飛びますよ。まるで全知全能に触れたような安心感が……」

「そこだけ切り取って聞くとたちまち胡散臭くなるわね」


 凛華が頬を染めながら何かを口走ると、案の定寧々がツッコミを入れた。半眼で心底呆れてるような表情だ。

 そんなわけで、凛華主導の元俺たちは契約を契った。
 最初は妹の明海から。一番最後に巻き込んだにも関わらず、真摯に受け止めて受け入れてくれた。
 一瞬の意識の混濁の後、目覚めた妹は今まで以上に溌剌さを身体中から発していた。


「ふぉおお、これが、全・能・感!?」


 無意味に力瘤を作り、どこかで覚えてきたポーズで決める妹。
 その行為の真相に周囲からドン引きされたが、元気な姿を見たことで久遠、寧々の承諾も受け取った。
 そして最後に貝塚さん。


「ボクは辞めておこうかな?」

「その方が賢明です。あなたの命は、あなたの為に使ってください」

「そう言われると照れくさいけど、ありがと。ボクは、やっぱりアロンダイトが居心地が良いんだ。不器用な奴ばかりだけど、死ぬんならあの場所がいい」


 そりゃそうだ。昨日今日あった人間より、数年間一緒に暮らした家族の元で生きた方がいいのは確かだ。
 でも逆に……残された人達は彼女こそが希望。
 烏合の衆にならないように訓練だって積み重ねてきたが、それがどこまで通じるか。
 そんな時、寧々が念話で割って入ってくる。


『私から突きつけましょうか?』


 頼む、と返答して寧々が話し出した。


「それは美談だわ、真琴。あなたは自分の死ぬ場所を決めらたのかもしれないけど、あなたが死んだ後、残された人達のことは考えた事ある? そしてあなたはまだ真の姿をギルドメンバーに見せてない。いわば偽っている状態。そこで死んであなたが出てきたらどう思うの? モンスターがギルド長に化けてたって死体蹴りされかねないわよ?」

「う゛っ……それは……」


 先ほどまでの平穏が、たった一つの言葉によって瓦解した。
 そう、彼女は自らを偽っている。
 年齢を偽り、出生を偽り、性別だって偽って。
 残った遺体がどのように扱われるかまで考えが及んでない。
 寧々の言うとおりの美談なのだ。


「そう言う意味では一番死ねないのはあなたよ、真琴。それよりもギルドメンバーの成長していく姿を、特等席で見守っていたいでしょう? あなたはそう言う人だわ」

「ぐ、ぐぬぬ……言うようになったね、寧々? 流石に今の言葉はボクに効いたよ」

「お陰様で。私の周りには言葉足らずの子ばかりが多いから。おかげで余計な顰蹙まで被るようになってるけどね?」


 久遠が申し訳なさそうな顔で寧々に懺悔する。
 彼女も主語を語らない子だからなぁ。


「と、言うことで契約しなさいよ。好きな人もいるんでしょ?」

「ば、なな……!」

「バナナ?」


 慌てる貝塚さんに、言葉狩りをする妹。
 辞めなさいとチョップを入れておとなしくさせる。
 女子は恋バナ好きだって言うのに、うちの妹ときたら色気より食い気で困る。


「……どこでバレた?」

「顔見てりゃわかるわよ。その人物の話出すたび、乙女の顔してたわよ? 私の周りも脳みそまでピンク色に染まったやつが多いからわかるのよ。あ、この子恋してるなって」

「ぐぬぬ……腕を上げたね、寧々」

「お陰様で。で、どうするの? その想いを秘めたまま墓場まで持ってく? 骨くらい拾ってやるわよ?」


 そんなこんなで観念した貝塚さんの首元をカプリ。
 チューチュー吸ってる時に変顔(劇画調)されたのだけは困った。
 途中で何度か吹き出しそうになったのは内緒である。

 復活するまでのほんのひととき。
 お疲れ様、と冷蔵庫から持ってきたジュースを頬にピタリと当てられた。
 吸血後の俺は、どこか熱にうなされるように呆けていたらしい。
 こう言う気遣いができる子は寧々くらいしかいない。


「さんきゅ」

「ん」


 返事は短く。プルトップを開けてパッケージも見ずに一気に内容物を飲み込んで後悔した。


「お汁粉じゃん、これ。口の中、あっま!」

「ふふふ、頭脳を使った後は糖分が欲しくなると思って買い込んでおいたの。父さんもよく飲んでるわ」

「蓮司さんがなぁ。でもそうだな、ちょっと冷静に考えられるようになってきたよ。さんきゅな?」

「良いのよ、上司を労うのも部下の勤めだし。私もあなたに隠し事してたしね? だからこれでチャラにしてくれたら嬉しいわ」

「被験体の事か?」

「そうね、どこから話せば良いかしら……」


 どこか物憂げに語り出す彼女を見ながら、俺は甘ったるい缶ジュースを喉に流し込んだ。
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